ゲームもNISAも足踏みするなか、推し活だけが加速する20代の財布

SMBCコンシューマーファイナンスが2026年1月に発表した20代1,000人への意識調査では、注目のデータが示されています。推し活にお金をかけている20代は35.3%にのぼり、月平均の支出額は12,150円に達しました。これはゲーム課金の5,080円の2倍以上であり、自己投資(7,190円)や自分磨き(7,885円)をも上回り、全カテゴリの中で最多の支出項目となっています。

同調査における「生活費以外に使っている金額」の全体平均は、前回(2025年2月)より231円減の16,596円でした。相次ぐ物価高の中で家計の優先順位は「貯蓄」へと偏り、20代の可処分所得は実質的に縮小しています。そうした逆風の中でも、推し活支出だけは衰える気配を見せていません。

「推し活」の支出だけが増加し続ける20代の家計事情

「推し活」の支出だけが増加し続ける20代の家計事情

趣味娯楽費の平均額が16,596円へと減った内訳を分解すると、単純な節約志向だけでは語れない変化が見えてきます。減少しているのは主に「参加者数」です。

投資を行う人の割合は26.8%から25.5%へ微減した一方、投資を行っている人1人あたりの月間投資額は24,610円から29,678円へと約20.6%増加しました。ゲーム課金も同様の傾向を示しており、課金層の割合は21.6%から19.2%へと縮小したものの、課金者1人あたりの金額は4,247円から5,080円へ増えています。裾野が狭まる一方で、参加者が投入する金額が手厚くなっているのです。20代の消費行動は、広く浅く分散させるスタイルから、特定の対象へ絞り込んで集中投下するスタイルへと変化しています。

そして推し活は、この「参加者が絞られ単価が上がる」というパターンを超えた成長を見せています。参加率が落ちないまま単価が積み上がり続けている領域こそが、推し活なのです。

推し活が独自の強みを持つ背景には、支出が得られる体験の「手触り」にあります。投資の29,678円は口座内の数字として積載されますが、推し活の12,150円は、配信で声を聴く、グッズを手にする、ライブ会場の熱気を感じるといった、その場で得られるリアルな体験に直接結びついています。将来に向けた資産という抽象的な満足感と、今この瞬間に心が動く実感とでは、お金を支払う心理的ハードルに明らかな差が存在します。

推し活に使った12,150円は、翌月の銀行残高には残りません。しかし、投げ銭をした際の高揚感や会場全体の歓声、届いたグッズを開封する瞬間の感動は、思い出として胸に刻まれます。20代が毎月1万円以上の支出を惜しまないのは、数字上は消える支出であっても、確かな感情の体験として自分に残る価値を実感しているからでしょう。

裾野と熱量の双方が拡大する唯一の市場

裾野と熱量の双方が拡大する唯一の市場

ビデオリサーチ「ひと研究所」による2026年の調査を重ね合わせると、推し活の勢いはより際立ちます。20代で「推しがいる」と回答した人は前年から10.7ポイント増加し、全体の約6割に達しました。さらに、月10万円以上を推し活に充てる層も1.9%存在し、推計で約14万人規模にのぼります。

投資やゲーム課金が「参加者を絞って単価を上げる」構造であるのに対し、推し活は「参加者数も平均単価も同時に伸びる」という二重の拡大を遂げています。家計が引き締まる環境下で、推し活だけが顧客層の広さと深さの両方を同時に広げています。

「推しがいる」層が1年間で10.7ポイントも増えた動きは、単なる興味関心の高まりにとどまりません。新しく推しを持った層の一部は、やがて月10万円以上を費やすコアな層へと深化していきます。参入障壁が低いにもかかわらず支出の上限が維持されている点が、他カテゴリには見られない推し活特有の強みです。

将来不安を抱えながらも優先される「今」への消費

将来不安を抱えながらも優先される「今」への消費

このように「絞って注ぐ」行動は、決して資金的な余裕から生まれているわけではありません。同調査では、「現在の貯蓄状況に不安を感じている」20代が69.4%に達し、学生に限れば76.6%と高い水準を示しています。実際の貯蓄額の調整平均は74万円で前回より5万円増えたものの、「貯蓄0円」と回答した人も20.7%存在します。

NISAでの資産形成に見られる世代間の意識差

NISAでの資産形成に見られる世代間の意識差

一方、資産形成の現場では異なる動きが見られます。三井住友トラスト・資産のミライ研究所が2026年2月に実施した調査によると、NISAの「利用済み+利用意向あり」と答えた意向層の割合は、2024年から2026年にかけてほぼ全年代で堅調に伸びており、全年代平均でも30.8%→34.1%→35.8%と上昇傾向にあります。

しかし、18〜29歳に限っては、この前向きな意向層の割合がわずかに減少しています。他の年代がNISAへの意欲を高めるなかで、20代のみが足踏み状態にあるのです。20代の半数近くはNISA制度を認識しており、投資への関心が失われたわけではありません。すでに投資を始めている人の拠出額も増えています。それにもかかわらず、「新たに始めよう」とする層の意欲だけが弱含んでいるのが特徴です。

将来への備えであるNISAへの関心が20代で一巡感を見せる一方で、「今この瞬間」に向けた推し活の求心力は高まり続けています。同一の家計の中で、未来へ向かう意識と今へ向かう意識が、20代において対照的な動きを見せています。

資産形成と推し活の共通項に見る行動パターン

資産形成と推し活の共通項に見る行動パターン

将来のための資産形成と、現在の感動のための推し活は、一見すると対極に位置します。前者は資産として蓄積される「合理的な選択」とみなされ、後者は口座から離れていく「情熱的な消費」と見なされがちです。

ですが、お金の配分行動という点に注目すると、両者には明確な共通点があります。あちこちに少額を散りばめるのではなく、選択した対象に絞って資金を重点的に投下するというアプローチです。投資アプリで積立設定を行う操作と、配信画面で投げ銭を行う操作は、本質的に同じ意思決定のメカニズムに基づいているといえます。

20代は未来と現在のどちらか一方だけを選んでいるのではなく、限られた資金というリソースを、同じ「絞り込んで注ぐ」というルールに沿って配分しています。未来のために現在を犠牲にするのでもなく、現在のために未来を捨てるのでもありません。それでもなお、感情のベクトルがより力強く向かっているのは推し活の領域です。

リアルな感情の手触りを選ぶ20代の決断

リアルな感情の手触りを選ぶ20代の決断

20代の消費動向を「浪費を避けて賢くなった」あるいは「推し活に依存している」といった単純なラベルで括ることはできません。彼らが変えたのは消費の有無ではなく、資金の配分方法そのものです。

投資、ゲーム、推し活という従来は別々に分類されていた選択肢が、現在では「絞り込んで手厚く投入する」という共通の基準で選別されています。その過程で、将来への投資が静観される一方、推し活への投下は勢いを増しています。将来に向けた備えと、現在を楽しむための支出。この両方に等しく手厚い資金を投入し続けることは、限られた予算のなかでは現実的ではありません。

絞り込む対象が増え続けたとき、20代はどのような選択をするのでしょうか。さらに投入先を絞り込むのか、あるいは配分割合を見直すのかが問われます。

画面上に表示される口座残高の数字と、ライブ会場でペンライトを握りしめる手の感覚。確実性や合理性を求めるならば前者ですが、いま20代がより大きな価値を見出しているのは後者です。不確実な未来の数字よりも、確実に心が動く現在の体験を重視する選択は、一見不合理に思えても、彼らなりの生活防衛と自己実現のバランスを取った結果といえます。

PinTo Times ニュースレター登録

参考

PinTo Times

  • x

-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times