かき氷からウイスキーの一杯まで、知っておきたい氷の種類と名前
グラスの中でカランと音を立てる氷も、かき氷にかかった真っ白な氷も、同じ水からできているのに見た目も溶け方もまったく違います。氷に詳しい人ほど、この透明さや硬さの差が偶然ではないことを知っています。製氷の技術や歴史をたどると、氷にはちゃんと種類と名前があり、それぞれに理由があることが見えてきます。
グラスの中の氷にも名前がある
居酒屋やバーで出てくる氷を漠然と「氷」と呼んでしまいがちですが、業界的にはいくつかの名前に分かれています。
立方体にカットされ、硬くて溶けにくく透明度も高いものは「キューブアイス」と呼ばれます。製氷機で角ばった形に整えられ、飲み物の温度をゆっくり下げたいときに向いています。
対照的に、1センチ角ほどに細かく砕かれた氷は「クラッシュアイス」、別名「チップアイス」です。表面積が大きいぶん溶けやすく、カクテルやかき氷のように冷たさを一気に行き渡らせたいときに使われます。
透明度が高く、溶けにくい氷として知られる「ロックアイス」は、実は千葉県八千代市の小久保製氷冷蔵株式会社が持つ登録商標です。ろ過した原水を時間をかけてじっくり凍らせ、空気や不純物を外側へ押し出しながら凍らせていく製法で作られています。
もっと粗い見た目の氷が「かち割り」です。大きな氷の塊をアイスピックで割っただけの、不揃いな形がそのまま特徴になっています。同じ「氷」という一文字の中に隠れているのは、用途ごとに作り分けられた複数の製品群。
バーの氷だけが透明に見える理由

家庭で作った氷は白く濁るのに、バーで出てくる氷はガラス細工のように透明なことがあります。この違いは、不純物の有無で説明がつきます。
水道水には塩素や溶け込んだ空気が含まれていて、これらが氷の内部に閉じ込められると、光が乱反射して白く濁って見えます。透明な氷を作るには、こうした不純物を氷の外に逃がしてやる必要があります。
鍵になるのは「方向性凍結」という凍らせ方です。水を上から下へ向かってゆっくり凍らせていくと、水分子が規則正しく並んで結晶が整然と育ち、溶け込んでいた空気や不純物は凍っていない部分へと押し出されていきます。最後に残った濁った部分だけを取り除けば、透明な氷の塊が手に入ります。
家庭でこれを再現する場合も理屈は同じです。沸騰させた水を使って溶存酸素を減らし、容器をタオルや発泡スチロールで包んで冷凍庫内の温度変化を緩やかにし、ゆっくり凍らせることで、バーに近い透明感のある氷に近づけられます。氷の見た目は、凍る速さがそのまま映し出された結果です。早いか遅いか、それだけの差です。
氷は一種類ではなく、結晶構造という世界が広がっている

日常で目にする氷はどれも同じ結晶構造だと思われがちですが、実際には氷にも結晶の「型」がいくつも存在します。
私たちが普段食べたり飲んだりしている氷は、水分子が六角形に並んだ「氷Ih」という構造です。生物圏にある氷のほとんどはこの氷Ihで占められています。実はもう一種類、ダイヤモンドと同じ立方晶の構造を持つ「氷Ic」という型も存在し、特殊な条件下で現れることが知られています。
さらに圧力をかけていくと、氷はまったく別の顔を見せます。氷VII、氷VIII、氷Xといった高圧下の氷は、いずれも分子が体心立方構造を取っていて、分子の向きの違いだけで区別される、密度の高い氷です。研究はいまも進んでいて、2021年には日本原子力研究開発機構が低温高圧の条件下で新しい氷の相「氷XIX」を発見したと発表しました。現在確認されている氷の相は20種類を超えています。岡山大学の研究グループも、高圧のもとで氷が融ける新しいしくみを解明するなど、氷の相転移はいまなお現役の研究テーマです。こうした高圧の氷は、太陽系の衛星など地球の外にある天体の内部構造を考えるうえでも手がかりになっています。コップの中の一片の氷の裏にあるのは、惑星科学にまでつながる構造の世界。
氷を売る仕事がうまれた時代

氷を「商品」として扱うビジネスが生まれたのは、19世紀に入ってからのことです。
1805年、アメリカのフレデリック・テューダーという人物が、天然の氷を切り出して貯蔵し、各地へ運んで売るという事業を世界で初めて立ち上げました。ボストン近郊で採られた氷は船で世界中に運ばれ、日本にも横浜港を通じて持ち込まれていました。
幕末の日本で氷の確保に動いたのが中川嘉兵衛です。1864年に横浜元町に貯氷庫を作ったものの、安定した氷の調達には苦労していました。1869年、函館の五稜郭近郊で質の良い氷に出会ったことが転機になります。寒冷地で育った氷は硬く不純物が少なく、やがて「函館氷」として広く知られるようになりました。1872年以降は輸入氷を上回る存在感を持ち、明治20年代には天然氷ビジネスの最盛期を迎えます。
天然氷の時代は、そう長くは続きませんでした。1879年、イギリス人技師アルバート・ウォートルスが横浜に「ジャパン・アイス・カンパニー」を設立し、エーテル式の冷凍機を使って日本で初めて機械による製氷を行います。背景にあったのは世界的な冷凍技術の進歩です。1834年にアメリカのヤコブ・パーキンスがエーテルを冷媒とする圧縮式冷凍機を発明し、1873年にはドイツのカール・フォン・リンデがアンモニアを使った蒸気圧縮式冷凍サイクルを開発しました。明治30年代以降、天然氷は機械製氷に取って代わられ、次第に姿を消していきます。
清少納言も食べていた氷の記録

氷が庶民のものではなかった時代の記録は、思いがけず古い文学作品に残っています。
平安時代中期、清少納言が書いた『枕草子』の「あてなるもの」という段には、「削り氷に甘葛入れて、あたらしき鋺に入れたる」という一文があります。削った氷に甘葛という甘味料をかけ、真新しい金属製の器に盛るという、当時の贅沢な涼の楽しみ方です。これが、日本で確認されている最も古いかき氷の記述とされています。氷そのものが稀少で高価だったため、こうした涼味を楽しめたのは貴族だけでした。
「かき氷」という名前の由来も、この時代の食べ方に関係しています。大きな氷の塊をノミや刃物で小さく欠き取ったり砕いたりしていたことから、「欠いた氷」すなわち「欠き氷」と呼ばれるようになったというのが定説です。明治16年ごろに人工氷の技術が広がり始めると、かき氷は一気に庶民が楽しめる存在へと変わっていきました。平安貴族の特権だった涼味が、技術の進歩によって夏の風物詩へと開放された歴史がここにあります。
日光に天然氷の蔵元がいまも残っている理由

機械製氷が主流になったいまでも、天然氷だけを作り続けている蔵元が日本に残っています。古くからの天然氷の蔵元は全国でわずか5軒とされていて、そのうち3軒が栃木県日光市に集まっています。「松月氷室」「四代目徳次郎」「三ツ星氷室」の3軒です。
天然氷が人工氷と違うのは、溶ける温度にあります。天然氷は一般的な人工氷よりも溶け始める温度が高く、口の中でふわりと崩れるような柔らかい口当たりになります。急いで一気に食べても頭がキンとなりにくいのも、この溶け方の違いによるものです。
三ツ星氷室は1877年ごろの創業で、氷作りと卸売りに専念してきた蔵元です。東京・谷中にある行列のできるかき氷店「ひみつ堂」や、日光金谷ホテルにも氷を卸していることで知られています。山からの湧水を池に引き込み、冬の寒さだけで凍らせるという昔ながらの作り方を、今も変えずに続けているのが日光の蔵元たちです。大量生産される人工氷とは対照的です。季節と気候に依存する分だけ、天然氷はいまも「作れる量が決まっている」特別な商品のままです。
氷を袋に詰めるというアイデア

いまではコンビニの冷凍ケースに当たり前のように並んでいるロックアイスも、商品化されたのは比較的最近のことです。
ロックアイスを製造する小久保製氷冷蔵は、1929年に石油プラント会社として創業し、1947年に製氷会社として再スタートしました。ところが昭和30年代に電気冷蔵庫が家庭に普及すると、氷を買う需要そのものが落ち込み、同社は低迷期を迎えます。
転機になったのは、3代目社長の小久保歓氏がハワイのスーパーマーケットを訪れたときの経験でした。氷が袋に詰められてそのまま売られている光景を見てヒントを得て、1973年10月、日本で初めて袋詰めの氷として「ロックアイス」を発売します。その後も商品展開は続き、1991年4月には板状の氷「ザ・板氷」が登場しました。現在ではコンビニ各社が「ロックアイスグラス」や「ロックアイスカップ」といったカップ入りの商品まで展開していて、買ってすぐ氷入りの飲み物を楽しめる仕組みが定着しています。氷を量り売りする時代から、パッケージ化された商品として売る時代への転換が、この半世紀で一気に進んだことになります。
氷という言葉が残してきた感覚

氷という現象は、言葉の中にも比喩として生き続けています。
「氷山の一角」は、海面の上に見えている氷山の部分が全体のおよそ7分の1に過ぎないことに由来する表現です。目に見える部分はごくわずかで、その下にはるかに大きな実体が隠れているという状況を言い表すときに使われます。
「薄氷を踏む」は、水面に張った薄い氷の上を歩くような、危険できわどい状況を指す言葉です。中国の古い詩集『詩経』の一節に、深い淵をおそるおそる覗き込むように、薄い氷を踏むように、という表現があり、これが由来になったとされています。
どちらの言葉も、実際に氷の上に立ったことがある人ならすぐに感覚としてわかるたとえです。グラスの中で氷がカランと音を立てる瞬間や、冬の朝に薄く張った氷を踏んで割ってしまった経験は、多くの人が共有している記憶です。氷の種類や名前を知ったあとにこうした言葉を見返すと、涼しさだけでなく、危うさやもろさまで、氷という一つの現象がいかに多くの意味を運んできたかがよくわかります。
参考
- 透明な氷の作り方を紹介|BARのお酒が美味しい秘密は氷にあった
- バーの氷——かち割り・丸氷・ロックアイス、なぜ溶けにくいか|金沢バー情報
- ロックアイス®ができるまで
- 50Years Anniversary ロックアイス - KOKUBO
- 透明な氷の作り方|自宅でできる簡単な方法と原理・おすすめ製氷器
- 低温高圧下で新しい氷の相(氷XIX)を発見|日本原子力研究開発機構:プレス発表
- 高圧で氷が融ける新しいしくみを発見 - 国立大学法人 岡山大学
- 氷はどこまで低密度になれるか?
- 氷にはたくさんの結晶構造がある|建文塾note
- 機械製氷の始まり
- 機械製氷発祥の地 - 発祥の地コレクション
- 大阪には本物の氷がある/氷の博物館/人と氷の関係史
- 製氷・冷凍・冷蔵庫の歴史
- 清少納言も食べていた!?夏の風物詩「かき氷」は平安時代は貴族たちの特権だった
- かつて氷は超贅沢品!清少納言も食べた、日本のかき氷の歴史を詳しく紹介|和樂web
- 昔は「かき氷」ではなく「欠き氷」だった!知られざる歴史と名前のひみつ
- 現在日本各地に7か所ある天然氷の蔵元をご紹介!
- 【日光】雪のような口どけ。三ツ星氷室の天然氷を使った かき氷
- 【氷山の一角】の意味と使い方や例文(語源由来)
- 【薄氷を踏む】の意味と使い方や例文(語源由来)




