酒の種類のほとんどが、たった3つの製法で説明できるという話

酒屋の棚に並ぶ瓶を眺めていると、ふと不思議に思うことがあります。ビールと日本酒とウイスキーと梅酒は、色も匂いも味もまったく違うのに、どれも同じ「お酒」という言葉でくくられています。原料をたどればさらに混乱します。米から生まれる酒もあれば、ブドウやサトウキビ、麦芽から生まれる酒もあり、共通点はアルコールを含んでいるということくらいにしか見えません。

ところが、造り方という一点に絞って整理し直すと、世界中の酒は驚くほどすっきりした型に収まっていきます。酒の種類のほとんどが、たった3つの製法で説明できるという話を、歴史や語源、酒にまつわる噂話の真相まで交えながら追っていきます。

見た目も味もバラバラな酒を、造り方だけで3つに分けてみる

酒の種類のほとんどが、たった3つの製法で説明できるという話

酒は原料によって分類されることが多いですが、実はもっとシンプルな軸があります。それが「製法」です。世の中の酒は基本的に、醸造酒、蒸留酒、混成酒という3つのタイプに分けられます。

分類 代表的な酒 アルコール度数の目安 製法のポイント
醸造酒 日本酒、ビール、ワイン 3〜20度程度 原料を発酵させるだけで完成する
蒸留酒 焼酎、ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ジン、ラム、テキーラ 25〜60度程度 醸造酒を加熱してアルコール分を濃縮する
混成酒 梅酒、各種リキュール、みりん 原料次第で幅が大きい 醸造酒や蒸留酒に果実や薬草、糖分を加える

この3分類は酒場の会話レベルのざっくりした整理ですが、日本の酒税法はもう一段細かく、酒類を発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類、混成酒類という4つの大分類に区分し、そこからさらに十七の品目に分けて税率を定めています。ビールや発泡酒だけ独立した区分が用意されているのは、炭酸を含む酒に対して固有の課税ルールが設けられているためです。

ちなみに国税庁の定義では、「酒類」と呼べるのはアルコール分が1度以上の飲料に限られます。ノンアルコールビールやノンアルコールワインの多くが清涼飲料水として売り場に並んでいるのは、アルコール分が1度未満に抑えられているからです。度数がわずか1度違うだけで、酒税法上の扱いも、製造や販売に免許が要るかどうかも変わってきます。たった1度の差が、酒と酒でないものを分ける境界線になっているわけです。

これほど細かく分類が整備されている背景には、酒税が長らく国の財政を支える大黒柱だったという歴史があります。明治25年には酒税による歳入が地租に次ぐ規模になり、明治32年にはついに地租を抜いて国税収入の第1位に躍り出ました。当時の酒税は、酒が売れたかどうかに関係なく、搾られた量そのものに課税する「造石税」という方式で、蔵元にとっては極めて厳しい制度でした。それでも国はこの財源を手放さず、大正7年に所得税へ首位を譲るまで、酒税は日本の近代化を資金面で支え続けた税目であり続けました。今も酒類が細かく品目分けされ、それぞれに税率が定められているのは、酒が単なる嗜好品ではなく、国家財政を左右してきた存在だったことの名残でもあります。

発酵だけで完成する「醸造酒」は、実は度数の上限が決まっている

酒の種類のほとんどが、たった3つの製法で説明できるという話

醸造酒とは、原料に含まれる糖分を酵母がアルコールに変える、発酵という現象だけで造られる酒です。蒸留のように熱を加えて濃縮する工程がないため、アルコール度数はおおむね20度以下にとどまります。これは技術的な制約というより、酵母自身の限界に近い数字です。酵母は自分が作り出したアルコールの濃度が高くなりすぎると、その環境に耐えられず死滅してしまいます。つまり醸造酒の度数の上限は、酵母が生きていられる限界とほぼ一致しているのです。

日本酒はこの醸造酒の代表格ですが、酒屋で「純米酒」「吟醸酒」という表示を見ても違いがよくわからないという人は少なくないはずです。原料で見ると、米と米麹と水だけで造られたものが純米酒にあたり、そこに醸造アルコールを加えたものが本醸造酒や吟醸酒になります。精米歩合、つまり米をどれだけ磨いたかという数値も名称を左右し、60パーセントを下回る精米歩合まで磨き上げると吟醸、50パーセントを下回ると大吟醸を名乗ることができます。低温でじっくり時間をかけて発酵させる吟醸造りという製法が、あのフルーティーな香りを生み出しています。

ビールも同じ醸造酒でありながら、エールとラガーという大きく異なる系統を持っています。違いを生んでいるのは使う酵母です。ラガーは5度から15度という低温でじっくり発酵が進み、発酵中に酵母がタンクの底に沈んでいく性質から下面発酵と呼ばれます。一方のエールは15度から20度とやや高い温度で発酵し、酵母が液面に浮き上がることから上面発酵と呼ばれます。発酵にかかる期間もエールの方が短く、そのぶん香りやコクが前面に出やすい造りになっています。

ワインもまた、ひとまとめにするには惜しいほど幅を持っています。製法で分けると、炭酸ガスを含まず赤・白・ロゼに分かれるスティルワイン、3気圧以上の炭酸ガスを含むスパークリングワイン、ブランデーなどを加えてアルコール度数を高めたフォーティファイドワイン(シェリーやポートワインなど)、そしてハーブや果実の香りを加えたフレーバードワインという4種類に整理できます。同じブドウが原料でも、工程を一つ変えるだけでまったく違う飲み物になるところに、醸造酒の奥深さがあります。

ただし「醸造酒は20度が限界」という話にも抜け道があります。ドイツ発祥のアイスボックという製法では、ビールをゆっくり凍らせ、先に凍る水の部分だけを取り除く作業を繰り返します。水とアルコールでは凍る温度が違うことを利用した、いわば凍結による濃縮です。この製法を使うと、アルコール度数が20パーセントに達するビールまで造ることができます。もともとは冬に樽を外に置き忘れて凍らせてしまった職人が、氷を取り除いた後に残った液体の強さに気づいたのが始まりだったといわれています。失敗から生まれた発見が、醸造酒の常識を少しだけ裏切る一杯につながりました。

熱で生まれ変わる「蒸留酒」、その発明は思ったより古い

酒の種類のほとんどが、たった3つの製法で説明できるという話

蒸留酒は、醸造酒を加熱してアルコール分だけを気化させ、それを再び液体に戻すことで純度を高めた酒です。蒸留という技術そのものの起源は、古代ギリシャにまで遡るとされ、蒸留を最初に行ったのはアリストテレスだったという説があります。その後、ヘレニズム文化の中で発達した錬金術の道具として、アランビックと呼ばれる蒸留器が使われるようになりました。中世に入るとこの技術はアラビアの錬金術師たちの手でさらに磨かれ、そこから東洋にも伝わっていきます。日本に蒸留技術がいつ伝わったのかは正確にはわかっていませんが、少なくとも500年ほど前には南九州で焼酎が飲まれていたことを示す文書が見つかっています。

世界に目を向けると、蒸留酒には代表的な4つの銘柄があり、これを世界四大スピリッツと呼ぶことがあります。ジンは17世紀、オランダの医学教授が、利尿や解熱の作用を持つジュニパーベリーをアルコールに漬けて蒸留した薬として生み出しました。これが評判を呼んでオランダ国内に広まり、その後イギリスに渡って呼び名が短くなり「ジン」になったといわれています。ラムは17世紀のカリブ海で、砂糖を精製する際に出る糖蜜という副産物を無駄にしないために造られ始めました。ウォッカは起源がはっきりしないものの、12世紀ごろのロシアで蜂蜜酒が飲まれていた記録があり、15世紀に蒸留技術が伝わってからライ麦や蜂蜜を蒸留した酒として形を整えていきます。テキーラは1974年にメキシコ政府が定めた原産地呼称制度によって、ブルーアガベを51パーセント以上使い、指定された5つの州で造られたものだけがその名を名乗れる、意外と新しいルールを持つ酒です。

薬として生まれたもの、副産物から生まれたもの、国の法律によって名前が定義されたもの。同じ蒸留酒という型の中に、まったく違う生い立ちが同居しています。味わいの方向性も生い立ちをそのまま映しています。ジンは薬草として使われたジュニパーベリーの香りが今も主役で、カクテルのベースにすると清涼感が際立ちます。ラムは原料である糖蜜の甘さを引き継ぎ、樽で熟成させるほど焦げたような香ばしさが増していきます。ウォッカはくせのない味わいに仕上げられることが多く、素材そのものよりも口当たりの滑らかさで評価される酒です。テキーラだけは原料のブルーアガベに由来する青々しい香りと土っぽさを残しており、同じ蒸留という工程を経ていても、原料が違えば行き着く先はまったく別の酒になることがよくわかります。

世界中の蒸留酒の名前には、なぜ「命の水」が隠れているのか

酒の種類のほとんどが、たった3つの製法で説明できるという話

中世の錬金術師たちは、醸造酒を蒸留してできた度数の高い液体に驚き、ラテン語で「アクア・ヴィテ」、つまり「生命の水」と名付けました。この呼び名は各地の言葉に翻訳されながら広まっていきます。スコットランドやアイルランドに伝わるとゲール語で「ウシュク・ベーハー」となり、これがなまって「ウイスキー」という名前になりました。フランスではブランデーの原型となる蒸留酒を「オー・ド・ヴィー」と呼び、これも直訳すれば命の水です。北欧でも同じ発想から「アクアヴィット」という名の蒸留酒が生まれています。

ウォッカの語源は少し毛色が違います。スラブ語で「水」を意味する「ヴォダ」に、親しみや小ささを表す接尾辞がついたもので、直訳すると「お水ちゃん」に近いニュアンスになります。命の水と名付けるか、ただの水の愛称で呼ぶか。同じ蒸留酒でも、名付けた人々がその酒に何を見ていたかが、言葉の端々ににじみ出ています。

ウイスキーそのものの記録として現存する最古のものは、1494年のスコットランド王室財務記録です。そこには「修道士ジョン・コーに8ボルのモルトを与え、アクア・ヴィテを造らしむ」という一文が残されており、当時は修道院で薬として造られていたことがうかがえます。命の水という名前のとおり、蒸留酒はもともと嗜好品ではなく、薬だったのです。

果実や薬草を後から溶かし込む「混成酒」という第三の道

酒の種類のほとんどが、たった3つの製法で説明できるという話

混成酒は、すでに出来上がった醸造酒や蒸留酒に、果実や薬草、香料、砂糖などを加えて造られる酒です。日本人にとって身近な例が梅酒で、ホワイトリカーと呼ばれる蒸留酒に梅と砂糖を漬け込むことで生まれます。バーで見かけるリキュール類の多くもこの混成酒に含まれ、ハーブ、スパイス、果実、木の実、花など、原料の組み合わせ次第で味も色も無限に広がっていきます。

意外に思われるかもしれませんが、和食に欠かせないみりんも酒税法上は混成酒の一種として扱われています。本みりんにはアルコール分が含まれているため、酒類販売の免許を持たない店では本来扱うことができません。調味料売り場で当たり前のように並んでいるみりんが、法律上はれっきとした「お酒」だという事実は、覚えておくとちょっとした話のネタになります。

お正月に飲むお屠蘇も、混成酒の一種です。山椒や桂皮、桔梗など五から六種類ほどの生薬を配合した屠蘇散を、清酒やみりんに一晩浸して作られます。屠蘇という名前には、邪気を払い魂をよみがえらせるという意味が込められており、平安時代の貴族の間で始まった習慣が江戸時代に庶民へ広まったとされています。お猪口に少しだけ注がれるあの一杯は、日本酒でもみりんでもない、立派な混成酒だったわけです。

酒にまつわる言い伝えを、科学の目で確かめてみる

酒の種類のほとんどが、たった3つの製法で説明できるという話

飲み会の席で、種類の違う酒を次々に飲む「ちゃんぽん」が悪酔いの原因だとよく言われます。しかし、複数の種類の酒を飲み合わせること自体が悪酔いを引き起こすという医学的な根拠は、今のところ見つかっていません。

実際に悪酔いや二日酔いを招いている主な要因は、酒の種類を混ぜることではなく、飲むペースと総摂取量だと考えられています。ちゃんぽんをすると、一つの酒をちびちび飲み続けるときに比べて次から次へと杯が進みやすく、結果としてアルコールの摂取量が増えてしまいます。体感としては「混ぜたから悪酔いした」ように感じられても、実際には量とペースが主な要因だったというわけです。造り方の違う酒が体の中でぶつかり合っているわけではなく、単純に飲みすぎているだけ、というのが今のところの見立てです。

もう一つよく聞くのが、「飲む前に牛乳を飲んでおくと酔いにくい」という話です。こちらは完全な迷信ではありません。牛乳に含まれるたんぱく質や脂質によって胃の中に食べ物がとどまる時間が長くなり、アルコールが小腸へ移動するまでに時間がかかるようになります。ただし、よく言われる「牛乳が胃に膜を張る」という説明は正確ではありません。胃の中では飲んだものと食べたものが入り混じってしまうため、牛乳だけが粘膜をきれいにコーティングすることはできないからです。しかも、胃での吸収を遅らせても、アルコールは結局すべて腸で吸収されるため、体に入る総量そのものが減るわけではありません。空腹で飲むよりは多少ましという程度に捉えておくのが無難なようです。

人類が最初に酒を造ったのはいつ、どこでか

酒の種類のほとんどが、たった3つの製法で説明できるという話

ここまで見てきた分類は、すべて人類が酒という発明を長い時間をかけて磨き上げてきた結果です。では、その出発点はどこにあるのでしょうか。

現時点で確認されている最古のアルコール飲料の痕跡は、中国河南省にある賈湖遺跡から見つかっています。2004年、アメリカの分子考古学者が遺跡から出土した土器のかけらを化学分析したところ、米、蜂蜜、ブドウ、サンザシの成分を含む液体の痕跡が検出されました。年代はおよそ9000年前、新石器時代にまで遡ります。ワインともビールとも蜂蜜酒ともつかない、複数の原料を混ぜ合わせた発酵飲料だったと考えられています。

分類も製法も定まっていなかったその時代から数えて9000年。人類は発酵という自然現象を観察し、そこに蒸留という人工の工程を組み合わせ、さらに果実や薬草を加えるという工夫を重ねて、今の酒屋の棚に並ぶ膨大な種類を作り上げてきました。薬として生まれた蒸留酒があり、偶然の失敗から生まれた高濃度のビールがあり、正月にだけ口にする薬草酒があり、それぞれの土地の言葉で「命の水」と呼ばれてきた酒がある。バラバラに見えていた瓶の中身は、たどっていくとどれも発酵と蒸留という同じ二つの現象の組み合わせ方の違いに過ぎません。次に一杯を手に取るとき、その背景にある発酵か蒸留か、あるいはその両方を経た一滴かを思い出すと、いつもの酒が少し違って見えてくるかもしれません。

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参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times