setlogはなぜ若者の間でここまで流行ったのか、盛らないSNSに惹かれる理由
スマートフォンを1時間に1回だけ取り出し、たった2秒のカメラを回す。それだけで1日が終わる頃には、加工もBGMも自分で選んでいないのに、なぜか愛おしい「その日の記録」が1本の動画として勝手に完成している。韓国発のアプリ「setlog(セットログ)」が、日本のティーンや大学生の間で急速に広がっています。
映えを競うのでも、映像編集のセンスを競うのでもない。むしろ「頑張って盛れない」ことこそが売りだというこのアプリに、なぜ今、多くの若者が惹きつけられているのでしょうか。その仕組みと、SNSの歴史の中での位置づけを追っていきます。
たかがひとつのアプリの流行と片付けるには、そこに表れている感覚の変化には根深いものがあります。写真も動画も、望めばいくらでも美しく加工できる時代になったにもかかわらず、あえて「盛れない」という制約を選ぶ人が増えているのはなぜなのか。その理由をたどっていくと、SNSの歴史の中で何度も繰り返されてきたある循環が見えてきます。
1時間に1回、2秒だけ撮る、という奇妙なルール

setlogの基本的な使い方は驚くほどシンプルです。アプリを開くと、1日のうちに何度か「今だ」という通知が届き、そのタイミングでインカメラかアウトカメラのどちらかを選んで2秒ほど撮影します。撮った動画は加工することも撮り直すこともできず、その場でそのまま記録されます。
setlogの1日は午前4時に始まり、翌午前4時に終わる設計になっており、その間に撮りためた複数の2秒動画を、ユーザーがワンタップするだけでアプリが自動的につなぎ合わせ、1本の短いVlog動画に仕上げてくれます。編集の知識も時間も不要で、気づけばその日の通学路や友人とのランチ、部活の休憩時間といった何気ない瞬間が、まとめて1本の映像になっているわけです。
当初は「1時間に1回しか撮影できない」という制限が大きな特徴として知られていましたが、2026年7月のアップデートで、1人で使う「ソロログ」についてはこの時間制限が撤廃されました。ただし友人と一緒にログを作る場合は、今も1時間に1回というリズムが基本の使い方として残っており、この「忘れたら取り返しがつかない」という緊張感が、逆に日常を丁寧に見つめるきっかけになっているといいます。
韓国発のスタートアップが仕掛けた「同時性」という発明

setlogを開発・運営しているのは、韓国のソウルとアメリカのニューヨークを拠点とするスタートアップ企業です。韓国国内向けにiOS版がリリースされたのは2025年12月25日で、その後2026年4月にAndroid版が公開されました。リリース当初は韓国語版のみで展開されていましたが、2026年5月ごろから日本語対応が進み、日本のユーザーの間でも本格的に使われ始めます。
調査会社Sensor Towerが公開したデータによると、2026年1月から5月までのsetlogの国別ダウンロードシェアは、開発元である韓国に次いで日本が2位となっており、日本では同年5月単月で100万件を超えるダウンロードを記録したと報じられています。App Storeの無料アプリランキングでも連日上位に入り、学生を対象にしたある調査では、回答した学生の多くがすでにsetlogを認知しているという結果も出ています。実際、2026年8月に発表された学生479人を対象にした調査では、setlogの認知率は91.4%に達しており、利用しているユーザーのおよそ9割が回答時点から遡って3か月以内にsetlogを使い始めたと答えています。このデータからも、setlogが一時的な話題にとどまらず、短期間のうちに学生生活の中に定着しつつある様子がうかがえます。
この急拡大の背景には、単に目新しいアプリというだけでなく、友人同士が「同じ時間帯に、同じように撮る」という同時性の体験を作り出した設計があると分析されています。1人が投稿をサボればグループ全体のログが寂しくなるため、程よい強制力を持ちながらも、義務感より「せっかくだから撮ろう」という軽い気持ちで続けられる仕組みになっている点が、若年層に支持されている理由のひとつです。
BeRealとどこが違うのか、似て非なる設計思想
setlogを語るうえで欠かせないのが、先行する「加工なしSNS」として世界的に広まったフランス発のBeRealとの関係です。両者はいずれも編集や加工を前提としない点で共通していますが、時間の設計思想には明確な違いがあります。
BeRealは1日1回、ランダムなタイミングで届く通知に応じて、その瞬間を切り取る「1日1枚のリアル」を撮るアプリです。一方のsetlogは、1日の中で複数回撮りためた断片をつなぎ合わせ、「1日の流れそのもの」を1本のVlogとして残す設計になっています。前者が点の記録だとすれば、後者は線の記録に近いといえます。
| 項目 | BeReal | setlog |
|---|---|---|
| 発祥 | フランス | 韓国 |
| 撮影頻度 | 1日1回(ランダム通知) | 1日に複数回(時間帯ごと) |
| 撮影時間 | 数秒(デュアルカメラ) | 2秒程度 |
| 完成物 | 1枚の写真投稿 | 1本の短いVlog動画 |
| 公開範囲の傾向 | フレンド全体に近い | 少人数のクローズドな友人グループ |
ある調査記事では、setlogが人気を集めている理由として「タイムリミットに追われない」クローズドな設計が挙げられており、BeRealのように「今すぐ撮らないと灰色の枠が残ってしまう」というプレッシャーが薄く、あとからでも自分のペースで撮り足せる緩さが、SNS疲れを感じていた層に受け入れられたと分析されています。
なぜ「盛らない」ことが心地よいのか

インスタグラムのストーリーズやフィード投稿が「見せたい自分」を編集して届ける場だとすれば、setlogが提供しているのは真逆の体験です。フィルターもBGMの選曲も、被写体の角度すら選べない2秒間の映像は、良くも悪くも「盛りようがない」記録になります。
ある技術系メディアの体験記事では、setlogの魅力を「絶妙な適当さ」と表現しています。撮影のクオリティを求められない分、身構えずにカメラを向けられるという気軽さが、逆に息の長い習慣として定着しやすいというわけです。SNSが「不特定多数に向けて発信する場」から「限られた友人と気取らず楽しむ場」へと役割を変えつつある中で、setlogはその流れをかなり極端な形で体現したサービスだと位置づけられています。
自撮りを美肌に加工したり、脚を長く見せたりする機能が当たり前になったスマートフォンのカメラアプリに慣れた世代にとって、2秒間だけ、加工もやり直しもできない映像を撮るという行為は、むしろ新鮮な制約として映ります。うまく撮れているかどうかを気にする時間そのものが存在しないため、投稿へのハードルが下がり、結果として続けやすいSNSになっているという見方もできます。
ここで重要なのは、setlogの人気が単なる目新しさだけによるものではなく、常に「盛られた」情報にさらされ続けることへの疲労感の裏返しとして支持されている点です。誰かの完璧に編集された日常を眺め続ける側から、自分自身の不完全な瞬間をそのまま残す側に回ることで、SNSとの付き合い方そのものを軽くしたいという欲求が背景にあると考えられます。
写ルンですとプリクラが辿った道、これは初めての現象ではない

興味深いのは、「加工しない」「盛らない」ことが新しい価値として支持される現象が、setlogが初めてではないという点です。使い捨てカメラ「写ルンです」は2017年ごろから若い世代の間で再びブームになりましたが、その理由として挙げられていたのが、スマートフォンの高画質な写真とは対照的な、撮ってすぐには結果が見られない「ありのまま」の写真という特別感でした。
プリントシール機、いわゆるプリクラの世界でも似た揺り戻しが起きています。かつてのプリクラは「デカ目」や「小顔加工」で別人のように盛ることが主流でしたが、近年の若い世代は落書きも加工も控えめにし、その日の空気感ごと残す遊び方を選ぶ傾向があると指摘されています。盛りの目的が「理想の自分になること」から「今の自分たちをいい感じに保存すること」へと移り変わってきたという分析は、setlogが支持されている理由とも重なります。
つまりsetlogの流行は、SNSというデジタルな文脈の中で起きているようでいて、実は写真文化がこれまで何度も繰り返してきた「作り込みへの反動」というサイクルの、最新の現れだと捉えることができます。加工技術が進化するたびに、その反動として「盛れない」ことに価値を見出す動きが生まれるのは、今回が初めてではないわけです。
企業も動き出した、「飾らない日常」をマーケティングに取り入れる動き
setlogの流行は、個人のあいだだけでなく企業のマーケティング手法にも影響を及ぼし始めています。setlog上に公式アカウントを構えて発信する企業はまだ多くありませんが、setlogで撮影した動画やそのフォーマットを模した映像を、XやInstagram、TikTokといった既存のSNSに投稿する形で取り入れる事例が出てきています。
象徴的な例が、アイドルグループCUTIE STREETによる取り組みです。2026年5月31日に行われたライブの当日、メンバーが朝の起床から昼のリハーサル、夜の帰宅までの1日をsetlog形式で記録した動画を公式Xアカウントで公開したところ、この動画は約150万回再生を記録したと報じられています。作り込んだプロモーション映像ではなく、素の表情や移動中の何気ない会話までそのまま見せる構成が、ファンからの共感を集めた形です。
こうした動きの背景には、企業がこれまで理想としてきた「完成度の高い映像」から、setlog世代が求める「編集されていない飾らないコンテンツ」へと評価軸が移りつつあるという変化があります。ブランドの舞台裏や社員の日常、イベント準備の様子といった、これまでは表に出さなかった素材こそが、かえって共感を呼ぶコンテンツになり得る時代に差し掛かっているといえそうです。
急拡大の裏にあるリスク、先行するBeRealの教訓

加工なしで日常をそのまま記録するSNSには、便利さと表裏一体のリスクも存在します。先行するBeRealは、2026年時点で日本国内の月間アクティブユーザー数が500万人を超えているとされ、企業の広告出稿も進むなど、すでに一定の市場規模を持つサービスへと成長しています。そのぶん利用者数が多いだけに、トラブルの事例も蓄積されてきました。先行するBeRealでは、職場や学校で撮影した写真に、社外秘の資料や個人情報が偶然写り込んでしまう情報漏洩トラブルが相次いで報告されています。ある報告では、2026年に入ってから大手企業や公共機関を巻き込む形でBeRealを経由した情報漏洩が相次いで発生し、その中には金融機関の社員が職場で撮影した投稿に、営業目標や顧客名が書かれたホワイトボードが写り込んでいた事例も含まれていました。
こうしたトラブルの多くは、投稿者に悪意があったわけではなく、日常を「そのまま」撮るという行為の性質上、写り込みへの注意が薄れてしまうことが原因だとされています。setlogも同様に加工前提でない撮影スタイルを取るため、専門家からは情報流出のリスクについて注意を呼びかける声が上がっています。撮影した動画ファイルには撮影時のGPS座標がメタデータとして記録される仕様になっており、設定を見直さない限り位置情報が外部に伝わってしまう可能性がある点にも注意が必要です。自宅の窓から見える景色や近所の電柱、駅の看板といった何気ない背景から、撮影場所が推測されてしまうこともあります。
さらに見過ごせないのが、1回ごとの投稿は他愛のない日常の一コマでも、それが毎日積み重なることで「平日はいつも同じ時間にこの駅を利用している」といった生活パターンが第三者に推測されてしまうリスクです。ランダムな通知にとっさに反応して撮影した結果、入浴中や着替え中の様子が友人グループ内に投稿されてしまったという事故も報告されており、海外の消費者保護団体からは、こうしたリアルタイム通知型アプリに特有のトラブルとして注意喚起がなされています。手軽さと引き換えに、何がフレームに入るかを毎回コントロールしきれないという弱点は、この種のアプリに共通する課題だといえます。
一過性のブームで終わるのか、それとも定着するのか

BeRealも登場当初は世界的なブームとなりましたが、その後は企業広告の流入や機能追加が進む一方で、爆発的な新規ユーザーの伸びは落ち着きを見せています。setlogがこの先、BeRealと同じように一定のユーザー層に定着していくのか、それとも次の「盛らないSNS」に主役の座を譲っていくのかは、まだ見通せません。
SNSの主役は、これまでも「盛る」文化と「盛らない」文化のあいだを行ったり来たりしながら移り変わってきました。setlogの流行は、その振り子が再び「盛らない」側へ大きく振れた瞬間を捉えたひとつの事例だと見ることができます。
ただし、写ルンですやプリクラの例が示すように、「作り込みへの反動」というモチベーション自体は、特定のアプリの寿命を超えて繰り返し現れてきた現象です。setlogというサービス名がいずれ聞かれなくなったとしても、そのときにはまた別の形で「盛らない記録」を求める新しいサービスが生まれてくる可能性は高いでしょう。1時間に1回、2秒だけカメラを向けるという小さな習慣が、多くの若者にとって、加工に疲れた心を一瞬だけ休ませる時間になっているのかもしれません。
参考
- BeRealの二番手「setlog」が大人気 止まらない「クローズドSNS」への流れ
- ポスト「BeReal」に10~20代が夢中 「setlog」が似て非なる3つの理由
- setlogの特徴「1時間に1回しか撮れない」とは
- BeRealが企業リスクになる理由-SNS炎上の必然性、BeReal炎上の偶然性
- レトロブームで再燃? コンデジやチェキ、写ルンですの消費者ニーズをデータで深掘り
- BeRealの次は韓国発のVlogアプリ「setlog」がブームに? Z世代の7割超が使う理由と「タイムリミットに追われない」クローズドな魅力
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