街で見かけるようになったCBDブームは現在どうなっているのか
コンビニのドリンクコーナーにCBD入りの飲料が並び、雑貨店にはCBDグミやCBDバスソルトが置かれるようになりました。美容室やカフェでも「CBD」の文字を見かける機会が増え、数年前まではごく一部の愛好者しか知らなかった成分が、いつの間にか生活のすぐそばにあるものになっています。
一方で、CBDは大麻草に由来する成分でもあります。「大麻」という響きに戸惑う人もいれば、法律が何度も改正されているらしいという断片的な情報だけを耳にして、結局よくわからないまま素通りしている人も少なくないはずです。ブームと呼ばれるようになったCBDは、今どのような状況にあるのでしょうか。広まった経緯と、直近で起きている規制の変化を追ってみます。
CBDが「合法な大麻成分」と呼ばれる仕組み

CBD(カンナビジオール)は、大麻草に含まれる成分の一つです。同じ大麻草にはTHC(テトラヒドロカンナビノール)という成分も含まれており、こちらは麻薬取締の対象になる向精神作用の強い成分です。CBDとTHCは同じ植物から採れる兄弟のような成分でありながら、体への働き方がまったく異なります。
人の体には、神経や免疫のバランスを保つ「エンドカンナビノイドシステム」という仕組みが備わっています。THCは脳の受容体に直接結合して強い精神作用を引き起こすのに対し、CBDはこのシステムに間接的に働きかけるだけで、多幸感や幻覚といった作用を持ちません。この違いが、CBDが日本で合法的に流通できる理由になっています。
つまりCBDが売られているのは「大麻の成分だから危険なのに見逃されている」からではなく、「同じ植物由来でも、法が規制する対象の成分をほとんど含まない別物だから」ということになります。この仕組みを知らずに名前だけで身構えてしまう人が多いことが、CBDという成分をめぐる誤解の大きな部分を占めています。
しめ縄やお札にも使われてきた大麻という植物

「大麻」という言葉に反射的に身構えてしまう背景には、日本での長い規制の歴史があります。しかし戦前の日本では、大麻草の栽培や利用そのものは特に禁じられたものではありませんでした。神社のしめ縄や、鈴を鳴らすための鈴緒には麻が使われ、伊勢神宮が頒布するお札は今も「神宮大麻」と呼ばれています。衣類の繊維としても古くから利用され、農家が大麻草を栽培する光景は珍しいものではありませんでした。
この状況が大きく変わったのが、戦後の1948年に施行された大麻取締法です。GHQの指示を受けて作られたこの法律によって、大麻草の栽培や所持は免許制のもとで厳しく制限されるようになりました。医学的な危険性の検証よりも、当時の国際的な麻薬政策に足並みをそろえる意味合いが強かったとする指摘もあります。
つまり、大麻草と日本人の関わり自体は決して新しいものでも異質なものでもなく、しめ縄の匂いや手触りという形で、多くの人が意識しないまま生活の中で触れてきたものでもあるのです。CBDという成分に対して漠然とした不安を覚えてしまうのは、成分そのものの危険性というより、戦後に作られた「大麻イコール危険」という強いイメージの記憶が先に立ってしまうからだと考えると、少し腑に落ちるところがあります。
原宿のカフェから始まった日本のCBD文化

CBD製品が日本に入ってきたのは2016年ごろとされています。当初は海外のブランドを個人輸入する形でオンライン販売が中心で、一部の美容室やセレクトショップが取り扱いを始める程度の、ごく小さな市場でした。
流れが変わったきっかけの一つが、2020年2月に東京・原宿にオープンした日本初とされるCBD専門カフェです。CBDを配合したコーヒーやドリンクをその場で味わえる店舗ができたことで、「よくわからない怪しいもの」から「カフェで試せる、味わいのあるもの」へと印象が変わっていきました。オイルを舌の下に垂らすだけだった摂取方法が、グミやドリンク、バスソルトといった形に広がったことも、生活に取り入れるハードルを下げました。
さらに2020年以降のいわゆる巣ごもり期間には、自宅で過ごす時間の質を上げたいという需要が急速に高まりました。CBDは「癒やし」や「ウェルビーイング」という当時のキーワードと相性がよく、就寝前のリラックス習慣やスキンケアの延長として、既存の生活動線に静かに入り込んでいきました。
巣ごもり需要でCBD市場は数年で3倍に拡大した

市場調査会社ユーロモニターインターナショナルの調べによると、2023年の国内CBD市場規模は前年比49%増の240億円に達し、国内の利用者数はおよそ58万8000人と推計されています。別の調査会社である矢野経済研究所の予測では、2024年の市場規模は648億円あまり、2025年には830億円近くまで拡大するとされました。
| 年 | 市場規模の目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 2022年 | 259億円(見込み) | WWDJAPAN |
| 2023年 | 240億円(前年比49%増) | ユーロモニターインターナショナル |
| 2024年 | 約648億円(予測) | 矢野経済研究所 |
| 2025年 | 約830億円(予測) | 矢野経済研究所 |
調査機関や集計方法によって数字にはばらつきがありますが、いずれの調査もこの数年でCBD市場が数倍規模に膨らんだという点では一致しています。スキンケア、サプリメント、バスソルト、フェムケア関連の商品にまで配合される成分として扱われるようになったことが、市場規模を押し上げる要因になりました。
「大麻グミ」が引き金になった規制強化のいきさつ

CBD自体は合法な成分ですが、その周辺では別の問題が起きていました。2023年11月、東京都内で「大麻グミ」と呼ばれる菓子を食べた人が相次いで体調不良を訴え、救急搬送される事案が発生しました。原因は、大麻草由来のTHCとは化学構造がわずかに異なる合成カンナビノイド「HHCH」でした。THCそのものではないため当時の法律では規制対象になっておらず、いわゆる法の網をすり抜ける形で流通していた成分です。
厚生労働省はこの事態を受けて2024年1月、HHCHを含む6物質を指定薬物に追加しました。さらに同時期、大麻取締法および麻薬及び向精神薬取締法の改正案が成立し、2024年12月12日に施行されています。この改正によって、CBD製品を含むカンナビノイド関連製品の規制は「大麻草のどの部位から採ったかで規制するかどうかを決める」部位規制の方式から、「含まれる成分そのものを規制する」成分規制の方式へと切り替わりました。具体的には、CBD製品に残留するTHCの量について、オイルや粉末は10ppm、水溶性の製品は0.1ppm、それ以外の形状は1ppmという明確な基準値が設けられました。
それまでの部位規制では、大麻草の茎や種子から採れた成分は扱いが緩く、そこに化学的な工夫を加えることで規制の隙間を突く合成品が次々と生まれるいたちごっこの構造がありました。成分そのものの残留量で線を引く方式に切り替わったことで、こうした抜け道は理屈のうえでは塞がれることになります。一つの事件をきっかけに、成分をめぐるルールの土台そのものが作り替えられたという意味で、この改正はCBD業界にとって大きな節目になりました。
大麻取締法改正でCBD業界の8割が撤退した

基準がはっきりしたことは、まじめに製品を作ってきた事業者にとっては歓迎すべき変化のはずでした。しかし実際には、業界紙WWDJAPANの報道によると、この法改正の影響で国内のCBD関連メーカーのうち約8割が市場から撤退したと伝えられています。
CBD業界には個人や小規模事業者が運営するインディペンデントブランドが多く、新しい残留基準に対応するための検査体制やロット管理の仕組みを整えるコストを負担しきれなかったことが背景にあるとみられます。逆に言えば、この規模の淘汰を乗り越えて生き残ったブランドは、第三者機関による分析証明書(COA)の取得や、ロットごとの品質管理といった体制を整えた事業者ということになります。ブームで急拡大した市場が、法改正という一つの出来事をきっかけに一気に絞り込まれるという展開は、新しい成分やジャンルが世の中に定着していく過程でしばしば見られる構造でもあります。
2026年6月、"仲間"だったCBNが市場から消えた日

CBDをめぐる状況は、2026年に入ってからも動き続けています。CBDと同じくカンナビノイドの一種であるCBN(カンナビノール)は、「夜用」「睡眠サポート」をうたう成分としてここ数年で存在感を強め、CBD市場全体の中でも一定の規模を占めるまでに成長していました。
ところがこのCBNが、2026年6月1日付けで指定薬物に追加され、原則として所持や使用ができなくなりました。これにより、CBNを主力にしていた製品やブランドの多くが事業の継続を断念する事態になっています。CBDそのものは規制対象になっていないため店頭から姿を消したわけではありませんが、「CBDの隣にある成分」がまた一つ規制の対象になったという事実は、この分野が今もなお法整備の途上にあることを示しています。
CBD、THC、CBN、そしてHHCHのような合成カンナビノイドは、名前も由来も似ているために生活者からは違いが見えにくい成分群です。しかし現状の扱いは次のように大きく分かれています。
| 成分 | 由来 | 精神作用 | 現在の扱い(2026年9月時点) |
|---|---|---|---|
| CBD | 大麻草由来 | なし | 合法(残留THC基準あり) |
| THC | 大麻草由来 | あり | 麻薬として規制 |
| CBN | 大麻草由来 | ごく弱い | 2026年6月から指定薬物 |
| HHCH | 合成 | あり | 2024年1月から指定薬物 |
似た名前の成分が一つずつ規制されていく様子を見ていると、CBDという成分が生き残っているのは「たまたま見逃されているから」ではなく、繰り返し法改正の対象として検証されながらも規制の外側にとどまり続けている成分だということが見えてきます。
美容ケアやスポーツ後のリカバリーにまで広がった使い道

CBDの使われ方は、飲む・吸うといった摂取方法だけにとどまりません。肌に塗るタイプのCBDクリームやオイルは、乾燥や肌荒れが気になる部分のスキンケアとして使われるようになり、基礎化粧品やヘアケア用品にも配合されるようになりました。運動後の筋肉疲労や肩こりをケアする目的でCBDクリームを取り入れる人もいて、スポーツ用品店やジム併設のショップで見かける機会も増えています。
このように「飲む」「塗る」「香りを楽しむ」といった複数の入り口ができたことで、CBDは特定の目的を持つ人だけのものではなく、日々のちょっとしたセルフケアの選択肢の一つとして生活の中に散らばっていきました。ブームという言葉から連想される一時的な流行というより、生活雑貨やコスメの棚の中に定着した成分という表現の方が、今のCBDの立ち位置には近いかもしれません。
アメリカの巨大市場と日本の慎重な規制の違い

CBDやその原料となる大麻草をめぐる状況は、国によって大きく異なります。アメリカでは2018年に成立した農業法(通称ファームビル)によってヘンプ由来のCBDが連邦法上で合法化され、2023年時点で38の州が医療目的の大麻を、23の州とワシントンD.C.では嗜好用の大麻までも合法化しています。CBD製品の種類や流通量も日本とは桁違いの規模で展開されており、CBDはすでに幅広い世代にとって身近な選択肢の一つになっています。
一方の日本は、大麻草そのものの栽培や所持に対して一貫して厳格な姿勢を取り続けてきた国です。CBDが合法的に流通しているのも、あくまで「THCをほとんど含まない部分・成分だから」という限定つきの話であり、2024年12月の法改正以降は残留THCの基準値や麻薬施用罪の対象範囲がより明確に定められました。アメリカのような大胆な合法化に向かうのではなく、成分ごとに一つずつ線引きを検証しながら市場を広げていくというのが、日本におけるCBDの独特な発展の仕方だと言えそうです。
お酒を飲まない選択とCBDドリンクの相性

CBDが広がった理由をもう一つ挙げるとすれば、あえてお酒を飲まないライフスタイルを指す「ソバーキュリアス」という考え方との相性の良さがあります。ノンアルコールビールやモクテルの人気に見られるように、酔うこと自体ではなく、社交の場の心地よい雰囲気やリラックス感を、翌日に何も残さない形で味わいたいという需要が広がっています。
欧米のバーやラウンジではすでにノンアルコールのカンナビノイド飲料が定着しつつあり、日本でもコンビニエンスストアの一部でCBDを配合したリラクゼーションドリンクが扱われるようになりました。お酒を飲んで酔う感覚とは違う、じんわりとした落ち着きをドリンクや香りから得るという体験は、CBDがカフェという場所とともに広まってきた経緯とも重なります。舌の上に垂らすオイルの独特な草の香りから、コーヒーやハーブティーに溶け込んだ穏やかな香りへと形を変えながら、CBDは少しずつ「試しやすいもの」になってきました。
「見える安心」を選ぶ生活者が増えている

一連の規制強化を経て、CBDをめぐる消費者の目線にも変化が生まれています。以前は「効果が強いかどうか」で製品が選ばれがちでしたが、法改正後の市場では、第三者機関の分析証明書やロットごとの品質管理といった「見える安心」を確認できるかどうかが、ブランドを選ぶ際の基準として重視されるようになりました。
ブームの初期にはよくわからないまま試されていた成分が、度重なる規制と淘汰を経て、根拠を確認しながら選ばれるものへと位置づけを変えつつあります。名前が似た成分が次々と規制対象になっていく状況は、CBDというジャンルがまだ発展途上にあることの裏返しでもあります。
しめ縄やお守りという形で大麻草にずっと触れてきた歴史を持ちながら、戦後の規制でその記憶をいったん切り離し、今また別の成分として生活の中に迎え入れつつある。コンビニやカフェで当たり前のように見かけるようになった今のCBDの姿は、ブームの完成形ではなく、歴史と法律と市場がせめぎ合いながら形を作っている途中の一場面だと捉えると、見え方が少し変わってくるのではないでしょうか。
参考
- 【2026年最新】大麻取締法改正まとめ|使用罪・医療大麻・CBN規制の3大変化
- CBN製品はいつから違法になるのか。2026年6月1日から所持で罰則
- CBD市場は次のステージへ 法改正後に約8割のメーカーは撤退
- CBD市場、240億円 23年ユーロモニター調べ
- 海外メディアで報道された日本CBD市場240億円達成に、純粋に喜べない課題とは
- 【CBD普及の流れ】いつから日本に浸透した?年表でわかる人気の理由と生活シーン別の使われ方
- 日本初のCBD専門店とカフェが東京・原宿にオープン
- 合成カンナビノイド「HHCH」は指定薬物です-「HHCH」が含まれていたグミ等を摂取して救急搬送-
- 大麻グミ、厚労省部会が指定薬物了承 流通禁止へ
- GHQの指示で作られた大麻取締法 70年以上前の法律で世界に取り残される日本
- 日本人が知らない「大麻」が違法薬物になった理由
- アメリカの大麻・CBDの合法化/法律/歴史/ビジネス【2025年最新版】
- お酒代わりにCBD?欧米で広がるカンナビノイド飲料トレンド
- CBDとTHCの違いは?相乗効果はある?そもそも日本で合法なの?





