スーパーに並ぶ米の種類は、ほとんどがコシヒカリの子孫だった
スーパーの米売り場に行くと、コシヒカリ、ゆめぴりか、つや姫、ななつぼしと、パッケージには聞き慣れたブランド名がずらりと並んでいます。産地も北海道から九州までさまざまで、値段も見た目もそれぞれ違うのに、実はこの米の種類たちの多くが、たった一つの品種を親や祖父母に持つ「親戚」だと知ったら驚くのではないでしょうか。今回は、日本の米の種類がどれくらいあり、どんな系譜でつながっているのか、そしてもち米や酒米、古代米といった見た目や用途が違う米との違いはどこにあるのかを、農業の記録に残るエピソードとともに掘り下げていきます。
日本の米の種類は実際どれくらいあるのか

農林水産省の農産物検査の記録によると、うるち米(普段私たちが白ごはんとして食べている米)だけで940銘柄、もち米は137銘柄、日本酒の原料になる酒造好適米は236銘柄が登録されています。品種登録の制度に基づいて正式に登録されている米の品種数は、これとは別の統計で約1,000品種にのぼるとされています。数字にばらつきがあるのは、農産物検査の対象になっていない品種も存在するためで、実際に日本のどこかで栽培されている米の種類は、この数字よりもさらに多いと考えられます。さらに、この数はいまも増え続けています。農林水産省の品種登録データベースによれば、近年は年平均で17品種ほどの新しい稲の品種が登録されており、2018年から2020年までの3年間だけでも52品種が新たに生まれました。用途は食用に限らず酒米や飼料用なども含まれますが、各都道府県が独自のブランド米を打ち出そうとしのぎを削っていることが、この登録数の多さからもうかがえます。
これだけの種類があると聞くと、それぞれの米がまったく別の系統から生まれたように思えますが、実際にはそうではありません。多くの品種が、特定の「有名な祖先」に行き着くという、意外な共通点を持っています。
コシヒカリという一つの品種にたどり着く家系図

日本の米の系譜を語るうえで欠かせないのが「コシヒカリ」です。コシヒカリは1956年、「農林1号」を父に、「農林22号」を母にして交配された品種で、命名したのは福井県でした。「越前(福井)と越後(新潟)に共通する『越の国』で光り輝く米に育ってほしい」という願いが込められた名前だといいます。
面白いのは、コシヒカリが生まれた当初の評価です。開発の目標は「いもち病に強く、品質のよいおいしい品種」を作ることでしたが、コシヒカリ自体はいもち病に弱く、茎も倒れやすいという弱点を抱えていました。品種改良の目的だけを見れば、いわば目標を達成できなかった品種だったわけです。それでも食味の良さが評価され、栽培技術の向上とともに全国に広がり、気づけば日本で最も作付面積の多い米になりました。
さらにさかのぼると、コシヒカリの祖先には「亀の尾」と「旭」という、明治時代に見つかった品種が関わっています。この2品種は当時「東の亀の尾、西の旭」と呼ばれるほど各地で栽培されており、これらの系統を掛け合わせていく中でコシヒカリが誕生しました。そして現在、生産量の多い人気品種の大半が、このコシヒカリの子や孫にあたるといわれています。
有名ブランド米はコシヒカリのどんな子孫なのか
代表的な例が「あきたこまち」です。あきたこまちは、コシヒカリを母に、寒さや病気に強い「奥羽292号」を父にして1975年に交配され、1984年に品種として世に出ました。コメの消費量が減少し始めた時代に、当時の二大ブランドだったコシヒカリとササニシキに並ぶ米を作ろうという狙いで開発が進められたという経緯があります。
「つや姫」や「ゆめぴりか」も、コシヒカリの血を引きながら、粘りや甘みの強さを追求する方向で改良が重ねられた品種です。特にゆめぴりかは、粘りのもとになるでんぷん成分「アミロース」の含有量をコシヒカリよりさらに抑える改良に11年をかけたとされ、もちのような強い粘りともちもちとした食感を両立させています。一方、北海道の「ななつぼし」はゆめぴりかに比べて粘りが控えめでさらっとしており、寿司や弁当のように米粒がほぐれてほしい料理に向いているという違いがあります。
| 品種名 | 系統・親 | 特徴 | 向いている料理 |
|---|---|---|---|
| コシヒカリ | 農林1号×農林22号 | 程よい粘りとつや、バランスの良い甘み | 白ごはん全般、和食 |
| あきたこまち | コシヒカリ×奥羽292号 | コシヒカリ譲りの粘りと、あっさりした後味 | 和食、お弁当 |
| つや姫 | コシヒカリの血を引く系統 | 粒がしっかりしてつやがあり、もっちり | 白ごはん、おにぎり |
| ゆめぴりか | コシヒカリの血を引く系統 | 低アミロースで強い粘り、もちのような食感 | カレー、丼もの |
| ななつぼし | コシヒカリの血を引く系統 | 粘り控えめでさらっとした食感 | 寿司、弁当 |
| ササニシキ | ハツニシキ×ササシグレ | あっさりとした食感、粘り控えめ | 寿司、和食 |
宮城県で生まれた「ササニシキ」は、コシヒカリ系統とは別に、麦と米の二毛作を進めるための遅植え用品種として1963年に交配されたもので、あっさりとした食感が寿司職人からも支持されてきました。ただし冷害への耐性はコシヒカリ系統の品種に比べて弱く、この弱点が後述する大きな出来事につながっていきます。
同じ品種なのに産地で味が変わるのはなぜか

同じ「コシヒカリ」でも、産地によって評価や価格が変わることがあります。品種という設計図が同じでも、育つ土地の条件によって仕上がりが変わるためです。
美味しい米が育つ条件としてよく挙げられるのが、日照時間の長さ、昼と夜の寒暖差、そして土壌や水の栄養分です。稲は日中の光合成ででんぷんを作り、それを夜のあいだに穂へと蓄えていきます。夜の気温が高いままだと、せっかく蓄えたでんぷんを稲自身が消費してしまうため、昼夜の寒暖差が大きい土地のほうが、甘みや粘りの強い米に育ちやすいといわれています。標高の高い山間部で評価の高い米が生まれやすいのは、このためです。
水や土壌の質も見逃せません。山間部の雪解け水は、栽培に必要な水量を安定して供給するだけでなく、ミネラルを豊富に含んでいます。水田を潤す水にどれだけの養分が溶け込んでいるかによって、同じ品種でも味わいに差が出てくるのです。加えて、農家がどんな肥料を選び、どんな栽培方法や収穫時期を選ぶかによっても、最終的な食味は左右されます。品種という設計図が同じでも、育てる環境という条件が変われば出来上がりが変わる。米づくりも、その意味では土地の個性がそのまま味に表れる作物だといえます。
もち米・酒米・古代米は何が違うのか

普段の食卓に上る米(うるち米)と、お餅になる「もち米」の違いは、見た目だけでなく、でんぷんの成分比にあります。うるち米はでんぷんの大部分を「アミロペクチン」が占め、残り1〜2割ほどを「アミロース」が占めています。アミロースは水に溶けやすく、冷めると硬くなりやすい性質を持つでんぷんです。一方、もち米はほぼ100%がアミロペクチンで、アミロースをほとんど含みません。アミロペクチンは冷めても硬くなりにくいため、もち米は炊いても搗いても、あの強い粘りと柔らかさを保てるのです。同じ稲から採れる米なのに、でんぷんの配合が変わるだけでここまで食感が変わるというのは、素材の奥深さを感じさせます。
日本酒の原料になる「酒米」も、食用のうるち米とは別に改良されてきた系統です。代表格である「山田錦」は、粒の大きさが食用米よりも一回り大きく、稲の背丈も高くなるため、風で倒れやすいという栽培の難しさを抱えています。最大の特徴は、米粒の中心部にある「心白」と呼ばれる白く不透明な部分です。この心白のすき間に麹菌の菌糸が入り込みやすいことで、日本酒造りに欠かせない糖化がスムーズに進みます。同じ米でも、味わうための米と、発酵させるための米とでは、育種の方向性がまったく異なるわけです。
赤米や黒米といった「古代米」は、稲がまだ品種改良される前の原種の性質を色濃く残した米です。赤米は糠の部分にポリフェノールの一種であるタンニンを含み、焙煎したナッツのような香ばしさが感じられるといわれます。黒米はアントシアニンという色素を含み、炊くと白米に紫色が移っていくのが特徴です。品種改良が「食べやすさ」や「収量」を追求する歩みだったとすれば、古代米はその改良が始まる前の姿を今に伝えている存在ともいえます。
世界に目を向けると米の形そのものが違う

日本の米の話は、粘りの強弱や産地の違いが中心でしたが、世界に目を向けると、そもそも米粒の形自体が異なります。世界の米は大きく「ジャポニカ米」「インディカ米」「ジャバニカ米」の3つに分類されます。日本で栽培されている米はジャポニカ米で、丸みを帯びた楕円形をしており、炊くとふっくらとした弾力と粘りが出るのが特徴です。
対してインディカ米は細長い形をしており、炊き上げても粘りが少なくパラパラとした食感になります。ピラフやチャーハン、パエリアのように米粒をほぐして使う料理に向いているのはこのためです。世界的に有名な銘柄でいえば、タイ料理でおなじみの香り高い「ジャスミンライス」や、インド・パキスタン原産の細長い「バスマティ米」はいずれもインディカ米の一種です。逆に、スペインのパエリアに使われる米や、リゾットに使われるイタリアの米はジャポニカ米に近い性質を持ち、炊き上げたときにほどよい粘りが出ることを生かした料理に仕上げられています。世界全体で見ると、実は生産量の8割ほどをインディカ米が占めており、日本人にとって馴染み深いジャポニカ米は、世界規模で見ればむしろ少数派の米ということになります。ジャバニカ米はジャポニカ米の変異型ともいわれ、「熱帯ジャポニカ」と呼ばれることもあり、見た目はジャポニカ米に近いものの、食感はインディカ米に近いパラッとした仕上がりになります。
普段何気なく「お米」とひとくくりにしているものが、世界規模で見ると形も食感も大きく異なる作物だと考えると、食卓の見え方が少し変わってきます。
精米の度合いによっても米の呼び名は変わる

品種の違いとは別に、同じ品種の米でも、どれだけ精米するかによって呼び名が変わる仕組みがあります。稲から籾殻を取り除いただけの状態が「玄米」で、胚芽と糠層がそのまま残っているため、ビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれています。その玄米から糠層を少しずつ削っていくのが「分づき米」で、糠層を3割ほど削ったものを3分づき、5割削ったものを5分づき、7割削ったものを7分づきと呼びます。糠層と胚芽をすべて取り除いたものが、私たちが普段口にしている「白米」です。
少し特殊なのが「胚芽米」で、これは糠層だけを取り除き、栄養が詰まった胚芽をあえて残すように精米したものです。分づき米とは削り方の考え方が異なり、栄養面と食べやすさのバランスを取るための精米方法だといえます。同じ稲穂から生まれた米でも、どこまで削るかという工程の違いだけで、見た目も食感も栄養価もこれだけ変わるというのは、精米という工程そのものの奥深さを物語っています。
もう一つ、精米の仲間として近年広まったのが「無洗米」です。白米の表面には、通常の精米機では取り切れない「肌ぬか」と呼ばれる粘着性の強い糠が残っており、これを研ぎ洗いで落としてから炊くのがこれまでの常識でした。無洗米は、特殊な技術によってこの肌ぬかをあらかじめ取り除いてあるため、洗うべき糠自体が残っておらず、研がずに炊いても仕上がりが変わりません。とぎ洗いの手間が省けるだけでなく、洗米に使う水の量を減らせることや、研ぐ過程で流れ出てしまいがちな水溶性のビタミン・ミネラルを残せることもメリットとして知られています。1991年に誕生して以来、忙しい家庭や災害時の備蓄用として支持を広げてきた、比較的新しい米の姿だといえます。
品種改良は今も気候との戦いの中で続いている

米の品種改良は過去の出来事ではなく、今も進行中の課題に対応する形で続いています。象徴的なのが、近年の猛暑によって発生する「高温登熟障害」です。稲穂が実る時期に気温が高すぎると、米粒が白く濁る「白未熟粒」や、米粒に亀裂が入る「胴割粒」が発生しやすくなり、品質が低下してしまいます。この問題に対応するため、農研機構は2018年に「にじのきらめき」という品種を開発しました。高温に強いだけでなく、コシヒカリより15%ほど収穫量が多く、食味もコシヒカリに引けを取らないとされる品種で、温暖化が進む中でも安定して良質な米を届けるための研究が続けられていることがうかがえます。
品種改良が目指す方向は、気候への対応や食味の向上だけではありません。「春陽」という品種は、腎臓病などでたんぱく質やカリウムの摂取制限を受けている人でも、白いごはんを諦めずに楽しめるようにと開発された品種で、通常の米よりも「グルテリン」というたんぱく質の含有量を抑えているのが特徴です。制限のある食生活を送る人にとって、茶碗にごはんをよそって食べるという当たり前の楽しみを手放さずに済むようにという狙いから生まれた米で、品種改良が単なる収量や美味しさの追求にとどまらず、誰かの日常を支えるためにも重ねられてきたことがうかがえます。
こうした「気候との戦い」は今に始まったことではありません。1993年、フィリピンのピナツボ火山の噴火をきっかけとした記録的な冷夏によって、日本の稲作は大きな被害を受けました。収穫量は平年の7割程度まで落ち込み、店頭から米が消える事態となって、消費者がまとめ買いに走る騒動にまで発展しました。政府はタイやアメリカから米を緊急輸入する対応を取り、この出来事は「平成の米騒動」として記憶されています。翌1994年は一転して猛暑に恵まれ、全国的な豊作によって騒動は落ち着いていきましたが、冷害に弱い品種と強い品種の差が、社会全体を揺るがすほどのインパクトを持つことを示した出来事でした。
普段スーパーで何気なく選んでいる米の種類の背景には、寒さに強い品種を作ろうとした農業試験場の努力や、猛暑に耐えられる品種を追い求める今の研究まで、長い年月をかけた改良の積み重ねが隠れています。次に米を選ぶときは、パッケージの品種名の向こうにある系譜にも、少し思いを馳せてみると、いつもの一膳がより味わい深く感じられるかもしれません。
参考
- 驚きの家系図。「コシヒカリ」はお米界のディープインパクト【お米の魅力、ご飯の味力 vol.1】 - macaroni
- コシヒカリ誕生秘話 | ごはん彩々(全米販)
- 東北農業研究センター:お米のよくある質問集:品種改良で「あきたこまち」ができるまでを教えてください。 | 農研機構
- ササニシキ・つや姫・あきたこまち 東北のコメ三国志 - 日本経済新聞
- 日本で栽培されているお米の品種一覧表!特徴や食味を比較して自分好みのお米を見つけよう! | 産直プライム
- うるち米ともち米、アミロペクチンの吸水率が高い理由とは? - 株式会社みどりフーズ
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