本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

「自分は睡眠が短くても平気なタイプだ」と感じたことがある人は少なくないはずです。実際、周囲を見渡せば毎日5時間程度の睡眠で元気に働いている人もいれば、9時間眠らないと調子が出ない人もいます。この個人差の正体を追いかけていくと、遺伝子レベルでの研究によって「本物のショートスリーパー」がどれほど稀な存在かが分かってきました。睡眠という誰もが毎日経験する行為の裏に、こんなにもはっきりした線引きがあるというのは、知れば知るほど興味深い話です。

睡眠時間が短くても平気だと感じる人はどれくらいいるのか

本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

自分のことを「ショートスリーパー」だと考えている人は、日本人全体のおよそ5〜8%程度にのぼるといわれています。決して珍しい存在ではなく、クラスや職場に数人はいてもおかしくない割合です。

ところが、睡眠研究者たちが遺伝子レベルで検証を進めた結果、この自己申告の数字と医学的に裏付けられた数字には大きな開きがあることが分かってきました。「短時間睡眠でも日中の眠気や体調不良を一切感じない」という条件を厳密に満たす、生まれつきの体質としてのショートスリーパーは、人口の1%にも満たないというのが現在の見立てです。さらに絞り込むと、その割合はおよそ0.004%、10万人に4人程度しかいないという推計も出ています。長時間の睡眠を必要とするロングスリーパー(9時間以上)も同程度の5〜10%ほど存在するとされ、短眠・長眠のどちらも一定数いる一方で、体質として本当に短時間睡眠で足りる人はごく限られているということです。

下の表は、自己申告に基づく割合と、遺伝子研究に基づく推計割合を並べたものです。同じ「ショートスリーパー」という言葉でも、指している対象の桁がまったく違うことが分かります。

分類 割合の目安 根拠
自分をショートスリーパーだと考えている人 全体の5〜8%程度 生活実感に基づく自己申告
遺伝子変異が確認された「本物」のショートスリーパー 全体の1%未満、うちADRB1変異は10万人に4人程度 家系のDNA配列解析
ロングスリーパー(9時間以上必要) 全体の5〜10%程度 生活実感に基づく自己申告

遺伝子で裏付けられた「本物」はわずか10万人に4人

本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

なぜここまで極端に少ない数字が出てくるのでしょうか。鍵になっているのが、アメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のイン・ホイ・フー教授らの研究グループが進めてきた、家族性自然短時間睡眠(FNSS)と呼ばれる体質の遺伝子研究です。

研究グループは、3世代にわたってショートスリーパーが続く家系のDNA配列を詳しく調べ、β1アドレナリン受容体をつくる遺伝子(ADRB1)にある特定の変異を発見しました。この変異を持つ家系では、1日4時間程度の睡眠でも日中の不調を訴えることがなかったといいます。ADRB1の変異を持つ人は10万人あたり4人程度と推定されており、これが「本物のショートスリーパーは10万人に4人」という数字の根拠になっています。

現在までに、DEC2、ADRB1、NPSR1などいくつかの遺伝子変異がFNSSに関わっていることが確認されています。いずれも生まれつき備わっているものであり、訓練や習慣づけによって後天的に獲得できるものではないというのが、研究者たちの一致した見解です。研究の歩みを年表にすると、次のようになります。

発見された遺伝子 分かったこと
2009年 DEC2 毎晩6時間程度の睡眠で健康な女性2人から特有の変異を発見
2019年 ADRB1 1日4時間程度の睡眠で足りる家系から変異を発見。マウス実験でも再現
以降 NPSR1など 複数の変異が組み合わさってFNSSが成立することが判明

きっかけは2009年、2人の女性の血液から見つかった変異

本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

この分野の研究が動き出したのは2009年のことです。フー教授らのチームは、毎晩6時間程度の睡眠で日中も元気に過ごしていた2人の女性を調査し、DEC2という遺伝子に特有の変異があることを突き止めました。DEC2は、覚醒を促すホルモンであるオレキシンなど、ほかの遺伝子の働きを調整する役割を持つ遺伝子です。この変異があると、短い睡眠時間でも脳と体の回復に必要な働きが効率よく進むと考えられています。

2019年には、今度は1日4時間程度の睡眠で足りるという家系からADRB1の変異が見つかりました。研究チームはこの変異をマウスに導入する実験も行い、実際にマウスの睡眠時間が短くなることを確認しています。人間の体質を遺伝子レベルで再現し、動物実験で裏付けるところまで進んでいるのが、この研究分野の特徴です。

眠りの質そのものに違いがある、レム睡眠とノンレム睡眠の話

本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

本物のショートスリーパーの睡眠を観察すると、単に眠っている時間が短いだけでなく、眠りの中身そのものに違いがあることが分かっています。脳が深く休んでいるノンレム睡眠の時間は、一般的な睡眠時間の人とほとんど変わらない一方で、脳が浅く眠っているレム睡眠の時間が短いのが特徴です。つまり、必要な脳の休養はきちんと確保しつつ、それ以外の時間を削ることで全体の睡眠時間を短くしている、という見方ができます。

性格の面でも共通する傾向が報告されています。ADRB1変異を持つショートスリーパーには、楽観的で精力的、複数の作業を並行して進めるのが得意といった特徴がみられるとされ、失敗をしても引きずらずに次の行動に移れる傾向も指摘されています。悩みごとを抱え込みにくいために脳の疲労がたまりにくく、それが短い睡眠時間で足りることと関係しているのではないかという見方もあります。

自称ショートスリーパーの大半は寝不足に気づいていないだけ

本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

ここで注意したいのが、「自分はショートスリーパーだ」と思い込んでいる人の多くは、医学的な意味でのショートスリーパーではないという指摘です。睡眠を専門にする医師たちは、短い睡眠に体が慣れてしまい、寝不足の自覚がないまま日常生活を送っているケースが大半だと繰り返し警告しています。

見分け方として挙げられるのが、休日に普段より長く眠ってしまうかどうかという点です。本物のショートスリーパーは休日でも平日と同じ短い睡眠時間で目が覚め、寝だめをする必要を感じません。一方、平日にたまった睡眠不足を解消するために休日に長く眠ってしまう人は、単に睡眠不足が蓄積しているだけの可能性が高いといえます。日中に強い眠気を感じる、コーヒーなどの刺激物がないと集中力を保てない、といった状態も、体質ではなく寝不足のサインとして挙げられています。

こうした「隠れ寝不足」の状態を放置すると、肥満や高血圧、糖尿病、心疾患といった生活習慣病のリスクが高まることが複数の研究で示されています。日中の集中力低下や、事故やミスの増加につながる恐れもあります。短時間睡眠にあこがれて意図的に睡眠時間を削ることは、体質的な裏付けがない限り、体への負担になるだけだという点は覚えておきたいところです。

睡眠不足は借金のように積み重なっていく

本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

「平日は忙しいから短く寝て、週末にまとめて寝だめすればいい」と考えている人も多いかもしれません。しかし睡眠の専門家の間では、この考え方には注意が必要だとされています。睡眠不足は「睡眠負債」と呼ばれ、お金の借金のように少しずつ積み重なっていく性質を持っているためです。

やっかいなのは、お金の借金と違って、あらかじめ多めに眠って貯金しておいたり、休日に一気にまとめて返済したりすることができない点です。平日にたまった睡眠不足は、週末に2、3日たっぷり眠った程度では完全には解消されないことが分かっています。睡眠不足の状態が続くと、免疫力の低下や肥満、高血圧、心臓病といった生活習慣病のリスクが高まるだけでなく、脳の中で短期的な記憶を扱うワーキングメモリの働きも落ちてしまい、物忘れやケアレスミスが増えていきます。

本物のショートスリーパーであれば、そもそも睡眠負債という状態そのものが生じにくいと考えられています。短い睡眠時間でも脳と体が必要な休養を得られているため、平日と休日で睡眠時間が変わらず、蓄積するダメージもないというわけです。逆にいえば、平日と休日で睡眠時間に差がある人は、その差の分だけ睡眠負債を抱えている可能性が高いということになります。

そもそも理想の睡眠時間に絶対的な基準はない

本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

「8時間睡眠が理想」という言葉は広く知られていますが、これには明確な学問的根拠があるわけではありません。実際に行われた睡眠実験では、被験者ごとに最適な睡眠時間には7.3時間から9.3時間程度までの幅があることが示されており、一律に「何時間眠るべきか」を決められないことが分かっています。

睡眠に必要な時間は年齢によっても変わります。10代では8時間以上の睡眠が必要とされる一方、65歳を過ぎると平均で6時間程度まで下がっていく傾向があるとされています。年を重ねると眠りが浅くなり、必要な睡眠量そのものが減っていくためです。

こうした個人差の背景にあるのも、結局のところ遺伝的な要因です。意志の強さや生活習慣の工夫だけで大きく変えられる部分は限られており、専門家の間では「日中に眠気で困らなければ、睡眠時間の長さそのものにこだわりすぎる必要はない」という見方が一般的になっています。

研究者はどうやって「本物」を見分けているのか

本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

これだけ稀な体質だとすると、研究者はどのようにして本物のショートスリーパーを見つけ出しているのでしょうか。UCSFの研究グループが実際にとっている方法は、家系をたどっていくというやり方です。まず、自分の睡眠時間の短さに関心を持った本人(研究では「プロバンド」と呼ばれる最初の参加者)が研究チームに連絡を取ります。研究者はその人に家族の睡眠習慣について詳しく聞き取りを行い、そこで初めて「そういえば母も同じように短い睡眠時間で平気だった」といったことが本人自身も気づいていなかった形で明らかになるケースが多いといいます。

こうして睡眠時間が短い家系だと分かると、家族何世代分もの協力を得てDNA配列を解析し、家系の中で共通して見られる遺伝子変異を探し出します。1つの家系だけでなく、複数の家系を同じ方法で調べていくことで、DEC2やADRB1といった、短時間睡眠に共通して関わる変異が特定されてきました。一人の思いつきや自己申告だけでは終わらず、家系をまたいで同じ変異が繰り返し確認されて初めて「本物」だと認定される、という地道な積み重ねの先に、10万人に4人という数字があります。

経営者にショートスリーパーが多いというイメージの実際

本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

ナポレオンは1日3時間、イギリスの元首相マーガレット・サッチャーは4時間しか眠らなかったと伝えられており、こうした逸話から「成功者は睡眠時間が短い」というイメージを持つ人も多いはずです。実業界でも、ヤフーの元最高経営責任者だったマリッサ・メイヤー氏は深夜0時に就寝して午前4時から6時に起床する生活を送っていたとされ、リチャード・ブランソン氏も同様に0時就寝、5時から6時起床という短い睡眠時間で知られています。

一方で、すべての経営者が短眠というわけではありません。アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏は午後10時から午前5時までの7時間睡眠を確保しているといわれ、アップルのティム・クック氏も午後9時30分から午前4時30分までの7時間睡眠と、早寝早起きながらしっかり眠るタイプだと紹介されています。政治家やビジネスパーソンには短眠型が多く、学者や研究者には長眠型が多いという傾向を指摘する声もありますが、いずれにしても成功と睡眠時間の長短が単純に結びつくわけではなさそうです。むしろ、こうした著名人の多くが本物の遺伝的ショートスリーパーなのか、それとも睡眠時間を削って働いているだけなのかは、本人以外には判別のしようがないという点も見落とせません。

日本人の睡眠時間がOECD最下位という別の問題

本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

体質としてのショートスリーパーとは別に、日本社会全体が構造的に睡眠不足になっているという問題もあります。2024年のOECDの調査によると、日本人の平均睡眠時間は1日7時間42分で、調査対象になった33か国の中で最も短いという結果でした。OECD加盟国の平均は8時間28分ですから、実に46分もの差があることになります。

この背景として指摘されているのが労働時間の長さです。OECD加盟国の中では、労働時間が長い国ほど睡眠時間が短くなるという傾向がみられ、日本はメキシコに次いで労働時間が長く、同時に睡眠時間が最も短い国という位置づけになっています。つまり、日本で「睡眠時間が短い人」が多く見えるのは、遺伝的なショートスリーパーが多いからではなく、社会全体で睡眠時間を削らざるを得ない状況が続いているからだと考えられます。体質としての本物のショートスリーパーが10万人に4人という極めて稀な存在であることを踏まえると、この構造の違いはより際立って見えてきます。長時間労働の末に「自分はショートスリーパーだから大丈夫」と思い込んでしまうことこそ、もっとも避けたいパターンだといえるでしょう。

遺伝的ショートスリーパーは老化にも強いという報告

本物のショートスリーパーの割合はわずか10万人に4人しかいないと分かってきた理由

遺伝的なショートスリーパーについては、単に睡眠時間が短いというだけでなく、体質の面でも興味深い傾向が報告されています。UCSFの研究チームによれば、FNSSの体質を持つ人には楽観的で活動的な傾向に加えて、痛みを感じにくく、時差ぼけをあまり感じにくいという報告もあります。

さらに興味深いのは、老化との関係です。FNSSに関わる遺伝子変異をショウジョウバエに導入した実験では、同じ変異を持つ個体で老化の進み方が緩やかになり、寿命が延びる効果が確認されたという研究結果も出ています。人間にそのまま当てはまるかどうかはまだ研究段階ですが、短い睡眠時間で足りる体質が、単なる「効率のよさ」にとどまらず、体の老化プロセスそのものと関係している可能性を示唆する結果として注目されています。

睡眠は誰にとっても身近でありながら、その必要量には大きな個人差があり、しかもその差の大部分は遺伝子によって決まっています。「短い睡眠でも平気」という感覚を持ったとき、それが本当に体質によるものなのか、それとも寝不足に慣れてしまっているだけなのか、一度立ち止まって考えてみる価値はありそうです。

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参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times