知っているだけで一杯の味が変わる焼酎の種類の話
居酒屋のメニューを開くと、芋、麦、米、黒糖、そばと、焼酎の欄にはずらりと原料の名前が並んでいます。同じ焼酎という呼び名なのに、なぜこれほど味も香りも違うのでしょうか。実はその違いをたどっていくと、原料の個性だけでなく、蒸留という技術の仕組みや、九州各地の気候風土、さらには四百年以上前の落書きにまでつながっていきます。普段なんとなく頼んでいる一杯の背景を知ると、次の晩酌がちょっと面白くなります。
焼酎とはそもそもどんなお酒なのか

焼酎は、穀物やいもなどの原料を発酵させたもろみを蒸留してつくる蒸留酒です。米や麦を発酵させるところまでは日本酒と似ていますが、日本酒がその発酵液をそのまま搾って仕上げるのに対して、焼酎はもろみを加熱し、立ちのぼった蒸気を冷やして再び液体に戻す蒸留という工程を経ます。この蒸留があることで、焼酎はアルコール度数の高い透明な液体になり、原料由来の香りだけが凝縮されて残ります。
蒸留という技術そのものは古代メソポタミアで香料や薬をつくるために生まれたとされ、その後お酒をつくる手段として中国や東南アジアに伝わりました。日本には室町時代中期にあたる十五世紀ごろに伝来したと考えられており、そこから九州を中心に独自の発展を遂げていきます。日本酒が主に稲作地帯で育まれたのに対し、焼酎は南九州や琉球など、必ずしも米づくりに適さない土地でも仕込める点が広まった理由のひとつでした。
原料によってこんなに変わる焼酎の個性

焼酎の一番わかりやすい分類は、何を原料にしているかです。同じ製法でも原料が変われば香りも味わいもまったく別物になります。
芋焼酎
さつまいもを原料にした芋焼酎は、ふかし芋を思わせる甘い香りと、どっしりとした濃厚な風味が持ち味です。鹿児島県と宮崎県が代表的な産地で、好き嫌いがはっきり分かれるほど個性の強い香りを持つ銘柄も多く、ファンの多いジャンルです。
麦焼酎
大麦を原料にした麦焼酎は、香ばしく軽やかな味わいが特徴で、くせが少なく飲みやすい銘柄が多いことから、焼酎初心者にもすすめられることの多いタイプです。大分県が代表的な産地として知られています。
米焼酎
米を原料にした米焼酎は、日本酒に近い上品な甘みとまろやかさを持つのが特徴です。熊本県の人吉球磨地方が全国有数の産地で、米そのものの旨みを楽しめる仕上がりになります。
黒糖焼酎
さとうきびからつくる黒糖を原料にした黒糖焼酎は、法律上は鹿児島県の奄美群島だけで製造が認められている珍しいタイプです。黒糖由来のやさしい甘い香りがありながら、実際の味わいはすっきりとしています。
そば焼酎、栗焼酎など
このほかにも、そばを原料にしたそば焼酎や、栗を使った栗焼酎など、地域ごとに工夫を凝らした原料の焼酎が存在します。原料そのものの個性を引き出す技術が求められる、つくり手の腕が試されるジャンルでもあります。
| 種類 | 主な原料 | 主な産地 | 味わいの傾向 |
|---|---|---|
| 芋焼酎 | さつまいも | 鹿児島県、宮崎県 | 濃厚で香り高い |
| 麦焼酎 | 大麦 | 大分県 | 軽やかで香ばしい |
| 米焼酎 | 米 | 熊本県人吉球磨地方 | まろやかで上品 |
| 黒糖焼酎 | 黒糖 | 鹿児島県奄美群島 | 甘い香りとすっきりした味 |
| そば焼酎 | そば | 各地 | 香ばしく爽やか |
蒸留方法が生む甲類と乙類という分かれ道

焼酎はもうひとつ、原料とは別の軸でも分類されています。それが甲類と乙類という蒸留方法による分け方です。
甲類焼酎は連続式蒸留機と呼ばれる設備で、何度も蒸留を繰り返してつくられます。繰り返し蒸留することでアルコールの純度が高まり、原料由来の香りや個性はほとんど残らないため、無色透明でくせのない味わいになります。大量生産にも向いており、チューハイのベースなどに使われることが多いのはこのタイプです。
一方の乙類焼酎は、単式蒸留機で一度だけ蒸留してつくられます。蒸留の回数が少ない分、原料の風味や香りが色濃く残るのが特徴で、芋焼酎や麦焼酎など、ここまで紹介してきた個性豊かな焼酎の多くはこちらに分類されます。乙類焼酎は「本格焼酎」とも呼ばれ、原料の個性を味わうタイプのお酒として親しまれています。
泡盛と焼酎の関係

沖縄の泡盛も、実は焼酎の仲間です。原料にタイ米を使い、黒麹菌で発酵させるという独自の製法を持ち、単式蒸留でつくられる点は乙類焼酎と共通しています。泡盛は日本で最も古い蒸留酒のひとつとされ、東南アジアから伝わった蒸留技術がまず琉球に根づき、そこから九州本土へ広まっていったという伝来のルートを考えるうえでも欠かせない存在です。長期間熟成させた泡盛は古酒と呼ばれ、まろやかな風味に変化していくことでも知られています。
産地の気候と水が育てた地理的表示の焼酎

ワインのシャンパーニュやウイスキーのスコッチのように、焼酎にも産地を保護する地理的表示という制度があります。世界貿易機関の協定に基づいて認められているもので、日本の焼酎では壱岐焼酎、球磨焼酎、薩摩焼酎、そして琉球泡盛の四つがこの表示を受けています。
長崎県の壱岐焼酎は、麦由来のさわやかな香りと米こうじの甘みが特徴で、水のきれいさに由来するキレの良い飲み口を持ちます。熊本県の球磨焼酎は、球磨盆地特有の寒暖差や濃霧の多い気候、そして球磨川水系の軟水が、清涼感のある香味を育てています。鹿児島県の薩摩焼酎は、県産のさつまいもと県内で採れる水を原料に、県内で製造から瓶詰めまで行うことが定められた本格芋焼酎です。そして沖縄県の琉球泡盛は、1995年に地理的表示として認められ、県産の泡盛だけがこの名を名乗ることができます。それぞれの土地の気候や水質が、そのまま焼酎の個性として瓶に閉じ込められているのです。
焼酎の名が刻まれた日本最古の記録

焼酎という言葉が文字として初めて確認されたのは、鹿児島県伊佐市にある郡山八幡神社です。永禄二年、西暦でいう1559年に本殿が改築された際、大工が柱の中に一枚の木片を残していました。そこには「ここの住職は、大工に一度も焼酎を飲ませてくれなかった。本当にけちだ」という趣旨の落書きが墨で書かれていたのです。昭和29年の改築工事でこの木片が発見され、焼酎という文字が使われた記録としては日本最古のものであることがわかりました。お酒をふるまってもらえなかった大工の愚痴が、四百年以上の時を経て焼酎の歴史を語る貴重な史料になったというのは、なんとも人間らしいエピソードです。この木片は現在、鹿児島県の有形文化財に指定されています。
飲み方ひとつで表情を変える焼酎の楽しみ方

焼酎は原料や製法だけでなく、飲み方によっても味わいが大きく変化するお酒です。
ロックで飲む場合は、大きめの氷を使い、あらかじめグラスを冷やしておくと、氷が溶けすぎず味がぶれにくくなります。時間とともに少しずつ氷が溶けて、香りや味わいの変化を楽しめるのもロックならではの魅力です。
水割りは、焼酎と水の割合をおよそ6対4にするのが目安とされています。グラスには先に焼酎を注ぎ、後から水を加えることで、比重の違いから自然とよく混ざります。
お湯割りは、先にお湯をグラスに注いでから焼酎を加えるのが基本です。お湯の温度は70度から80度ほどが目安で、香りが立ちやすくなります。割合は焼酎とお湯を6対4程度から試すとバランスが取りやすいとされています。
ソーダ割りは、焼酎4対ソーダ6ほどの割合が目安です。炭酸が香りを持ち上げてくれるため、水割りよりもやや薄めの配分でも十分に風味を感じられます。
鹿児島や宮崎には、あらかじめ焼酎と水を割って数日から一週間ほど寝かせておく前割りという独自の文化もあります。時間をかけて水となじませることで、アルコールの刺激がやわらぎ、香りはそのままに、まろやかな口当たりに変化します。黒ぢょかと呼ばれる酒器で温めていただく飲み方は、沖縄から伝わったともいわれる、南九州らしい焼酎の楽しみ方です。
糖質ゼロ・プリン体ゼロという蒸留酒ならではの特性

焼酎が健康志向の食中酒として選ばれることが多いのには理由があります。焼酎は発酵させたもろみを蒸留してつくられるため、糖質やプリン体といった成分の多くはもろみの中に残り、蒸気とともに立ちのぼるアルコール分と香り成分だけが焼酎になります。この蒸留という工程があることで、焼酎は糖質ゼロ、プリン体ゼロという特性を持つお酒になるのです。同じ蒸留酒であるウイスキーやブランデーにもごくわずかなプリン体が含まれることがありますが、焼酎はほぼ検出されないレベルとされています。原料そのものに糖質やプリン体が含まれていても、蒸留という工程を経ることでそれらが取り除かれるという仕組みは、醸造酒との大きな違いのひとつです。
原料の土地、蒸留という技術、そしてそれぞれの地域で育まれてきた飲み方の作法まで、一杯の焼酎の中には想像以上に多くの背景が詰まっています。次に居酒屋で焼酎を選ぶときは、原料や産地に少し目を向けてみると、いつもの晩酌が少し違って見えてくるかもしれません。
参考
- 焼酎の種類と特徴|芋・麦・米・黒糖・そば・ごまを徹底解説
- 焼酎の甲類・乙類の違いとは?【図解】でわかる見分け方から、おすすめ銘柄まで紹介
- 故郷があるから美味しい。産地・地域色が豊かな日本の國酒、本格焼酎と泡盛
- 焼酎の「産地呼称(地理的表示・GI)」って? 個性の異なる4カ所の生産地域を知ろう
- 【焼酎の起源と歴史】知ればもっと焼酎がおいしくなる!
- 伊佐市大口・郡山八幡神社に残された日本最古の「焼酎」文字記載墨書木札
- 焼酎の飲み方完全ガイド|水割り・お湯割り・ソーダ割り・ロックの基本
- 焼酎がまろやかになる前割りって何だ?
- 焼酎はプリン体・糖質がゼロって本当?その秘密と飲むときに気をつけたいポイントを確認





