音象徴にはブーバ・キキ以外にも、音の響きが形や大きさを決めてしまう法則があった

「ブーバ」と「キキ」が示した、音と形の奇妙な結びつき

曲線でできた丸い図形と、ギザギザした尖った図形を並べて、片方に「ブーバ」、もう片方に「キキ」という名前をつけるとしたらどちらがどちらでしょうか。丸はブーバ、尖りはキキ。そう感じる人が大半です。この問いを英語話者とタミル語話者に試した実験があります。回答者の母語が英語でもタミル語でも、丸い図形には「ブーバ」、尖った図形には「キキ」という答えが集まりました。一致率はおよそ95から98パーセント。言葉も文化もまったく違う人たちが、同じ音を同じ形に結びつけてしまうわけです。筆者自身、この実験の話を初めて知ったとき、自分の名前や身近な言葉の響きをあらためて聞き直してみたくなりました。

この現象は心理学で「ブーバ/キキ効果」と呼ばれています。報告は1929年。ドイツの心理学者ヴォルフガング・ケーラーによるものでした。「ブーバ」「キキ」という名前自体は、のちに神経科学者ヴィラヤヌル・ラマチャンドランがつけたものです。日本経済新聞が報じた追跡研究では、言葉を持たないヒヨコにも同じ図形と鳴き声の組み合わせへの選好が見られたという結果が出ています。生まれてすぐの鳥でも示す反応だとすれば、言語を学ぶより前から備わっている感覚なのかもしれません。

この効果だけを「音と意味がつながる不思議」として紹介する記事は少なくありません。しかし研究はブーバとキキの一例で終わっていません。濁音が強さを表し、母音が大きさを表し、ラ行が高級感を演出する。音象徴と呼ばれるこの仕組みは、ポケモンの名前からお菓子のパッケージ、高級ブランドのロゴ、さらには画像生成AIの振る舞いまで、思いのほか広い範囲で働いています。

阻害音と共鳴音が生む「マルマ」と「タケテ」

ケーラーが1929年に行ったもともとの実験では、ブーバやキキという単語は使われていません。使われたのは「マルマ(maluma)」と「タケテ(takete)」という単語でした。丸い図形と角のある図形の組を見せ、どちらが「マルマ」でどちらが「タケテ」かを答えてもらうと、丸い図形には「マルマ」、角のある図形には「タケテ」という回答が優勢になります。

この違いを生んでいるのは、単語を構成する音の種類です。「マルマ」に含まれる[m]や[l]は、声帯の振動が持続し、空気の流れがなめらかに通る共鳴音にあたります。対して「タケテ」に含まれる[t]や[k]は、口の中で空気の流れが一度せき止められてから破裂する阻害音です。なめらかな音は丸い輪郭、途切れる音は角のある輪郭。この対立は、ケーラーの実験以降に重ねられた数多くの追実験でも繰り返し確認されており、日本語話者を対象にした実験でも同じ傾向が報告されています。

特定の文化が後から作った慣習ではなく、人間の知覚そのものに組み込まれた結びつきだと考えられている理由がここにあります。発音するときに喉や舌がどう動くかという身体的な感覚と、目で見た形の印象が、無意識のうちに結びついてしまう。これがブーバ/キキ効果とマルマ/タケテ効果に共通する土台です。

「あ」は大きく「い」は小さく聞こえるサイズ象徴と、動物の鳴き声

音が連想させるのは形だけではありません。大きさについても、よく似た実験があります。言語学者エドワード・サピアが1929年に行った調査では、英語話者に大小二つのテーブルを見せ、片方を「mal」、もう片方を「mil」と呼ぶとしたらどちらがどちらかを尋ねました。結果は、大きいテーブルには「mal」、小さいテーブルには「mil」という回答が多数を占めるというものでした。

この傾向はサイズ象徴と呼ばれています。背景にあるのは発音するときの舌の位置です。「い」は舌を上の前方に持ち上げて発音する母音で、「あ」は舌を下げて口を大きく開ける母音にあたります。口の開き方そのものが大きさの感覚と連動しているという説明がよく語られます。複数の言語をまたいだ比較でも同じ傾向が見られます。舌の位置が低く後ろにある母音ほど「大きい」というイメージを持たれやすい。濁音のような有声の阻害音も、同じく「大きい」イメージを引き出すことが報告されています。2025年に発表された計算言語学の研究では、13の言語系統にまたがる27の言語から810個の大小を表す形容詞を集め、音の構成だけから大きさの意味をどこまで予測できるかを検証しています。言語の系統を示す情報を取り除いても、大きさを予測する精度はチャンスレベルを大きく上回ったままでした。互いに祖先を共有しない言語の間でも、音と大きさの結びつきがすり抜けずに残っているということです。

名前の響きに表れる性別のイメージ

このサイズ象徴は、人の名前にも表れています。英語圏の名前を分析した研究では、男性名には「大きい」と感じさせる低めの母音が、女性名には「小さい」と感じさせる高めの母音が多く使われる傾向が報告されています。背景にあるのは、男女の体格差です。男の子には大きく頑丈な印象の名前を、女の子には小柄で繊細な印象の名前をつけたい。そうした親の無意識の選択が、名前全体の音の傾向に積み重なってきたと考えられています。日本語の名前についても、音の特徴から性別を推定する機械学習の研究が行われており、名前の響きに性別のイメージが刻まれるという現象は英語に限った話ではないようです。

なぜ低い音が「大きい」と結びつくのか

言語学者ジョン・オハラが提唱した「周波数コード」という考え方が、この問いに手がかりを与えてくれます。カエルや鳥など多くの動物では、体の大きな個体ほど鳴き声の周波数が低くなります。低い鳴き声はオス同士の威嚇に、カエルの場合はメスへの魅力づけにも使われることが報告されています。鳥類の研究でも、体の大きさと鳴き声の音程の関係は種を超えてある程度共通するパターンとして知られています。人間の言語で低い母音や濁音が「大きい」「強い」と結びつくのも、動物界に広く見られるこの音と体の大きさの関係を土台にしていると考えられています。大型犬の低い唸り声と子犬の高い鳴き声の違いを、私たちは意識せずに聞き分けています。それと同じ感覚が、言葉の音にも流れ込んでいるというわけです。

パリパリとバリバリ、日本語の擬音語に刻まれた濁点のルール

この濁音と清音の対立を、もっとも身近に体験できるのが日本語のオノマトペです。「パリパリ」と「バリバリ」はどちらも何かが割れる音を表しますが、濁点がつくだけで硬さの印象が変わります。実験では、日本語話者のほぼ全員が「バリバリ」のほうを硬いと答えるという結果が出ています。同じ対立は「サクサク」と「ザクザク」、「カリカリ」と「ガリガリ」にも見られ、清音は軽く乾いた食感、濁音は重く硬い食感を表す傾向があります。

スナック菓子の食感を測定した研究でも、サクサク・カリカリ・パリパリ・ザクザクという言葉が、商品ごとの硬さや軽さを分ける食感のカテゴリーとして使われています。清音と濁音が、商品の硬さに応じて使い分けられている様子がうかがえます。日本語のオノマトペ全体を見ても、語頭の音はハ行がもっとも多く、全体の3割以上を占めるという調査結果があります。パリッとした軽さを表す言葉に、はじく息の音であるハ行が選ばれやすいことのあらわれかもしれません。

東京農工大学の篠原和子による研究では、この日本語の音象徴が外国語話者にどこまで伝わるかも調べられています。英語、中国語、韓国語を母語とする話者を対象にした実験で、日本語を知らない人でも、オノマトペの音から大きさの印象をある程度言語の壁を越えて感じ取れることが確認されました。擬音語という日本語特有の語彙の仕組みが、実は普遍的な音の感覚の上に成り立っていることを示す結果です。

ポケモンの名前が進化するたびに濁音が増えていく法則

サイズ象徴を実際のデータで検証した研究の中で、特に知られているのが慶應義塾大学の川原繁人と国立国語研究所の熊谷学而によるポケモンの名前分析です。二人は900種を超えるポケモンについて、名前に含まれる濁点の数や文字数と、身長・体重との関係を調べました。

鍵は濁点でした。身長や体重が大きいポケモンほど、名前の文字数が多く、濁点を含む割合も高い。進化後の姿にも同じ傾向が当てはまります。「ゴース」が進化すると「ゲンガー」になるように、濁点の数が増える例が多く見られます。姿が大きく強くなるのに合わせて、名前の響きまで変わっていくわけです。研究では、進化の段階が進むごとに名前に含まれる濁音の平均数が統計的に増えていくことも確かめられています。一匹ごとの個別の例というより、900種を超える名前全体に通底する傾向だというところに、この研究の説得力があります。日本語名だけでなく英語名のポケモンについても同様の傾向が確認されており、有声の阻害音が大きさの手がかりとして働くという法則は言語をまたいで成り立つようです。

この研究は国内の学会発表にとどまらず海外の言語学者にも取り上げられ、誰もが知っているコンテンツを通じて音象徴の実在を示した例として広く引用されています。その後の追跡研究では、機械学習の手法を使ってポケモンの名前から進化段階を推定する試みも行われ、濁音の有無や母音の種類が有力な手がかりになることが確かめられています。開発者が意図して設計したのか、日本語の語感に対する直感が自然と名前に表れたのか、そこまでは研究でも明言されていません。それでも、子供の頃から馴染んできたキャラクター名の響きに言語の普遍的な法則が隠れていたという話は、聞くだけで少し愉快です。東洋経済オンラインがこの研究を紹介した記事では、妖精のように小さく可憐な「ピィ」と、大陸を動かすほど巨大な伝説のポケモン「グラードン」の名前が並べて取り上げられていました。前者は高い母音だけで構成された軽い響き、後者は口を大きく開く母音と濁音を含む重い響きで、名前を聞いた瞬間にどちらが強そうかを判断できてしまいます。文字を読む前に、音だけで強さの見当がついてしまう感覚は、子供の頃にゲームの画面で初めて見るポケモンの名前を読んだときの記憶と重なります。

ラ行の高級感とお菓子の擬音語が教えるネーミングの技術

音象徴は研究室の中だけの話ではありません。商品名やブランド名の世界では、以前から経験的に使われてきました。よく指摘されるのが「ラ行」の響きです。ロールスロイス、ロレックス、ルイ・ヴィトン、リッツ・カールトン。高級ブランドの名前には共通してラ行の音が含まれており、その滑らかな響きが上質さや洗練された印象を伝えると説明されています。

ブランドの設計理論では、「い」の音が小ささの印象を作るという考え方自体が、商品名を決める際の実務的な指針として使われています。コンパクトさを売りにする商品には「い」を含む名前、迫力や量を売りにする商品には「あ」や「お」を含む名前というように、サイズ象徴がマーケティングの現場に直接応用されているわけです。

一方、日本のお菓子の世界では、擬音語そのものを商品名に取り込む手法が定着しています。「サクサクパンダ」のように食感を表すオノマトペを前面に出した名前は数多く、パッケージに書かれた言葉を読むだけで、食べる前から歯ごたえが伝わってきます。氷菓「ガリガリ君」の「ガリ」も、硬いものを噛み砕いたときの歯ごたえをそのまま音にした例です。商品の持つ属性と結びつきやすい音を名前に含めることで、消費者からの好感度が上がるという報告もあります。サウンドロゴやCMのメロディにまで音の印象を設計する企業があるのも、音が意味を運ぶという同じ原理の延長線上の話です。ネーミング担当者が音韻論の論文を読んでいるとは限りませんが、長年の経験の積み重ねが、研究者の見つけた法則と同じ結論にたどり着いているのは面白いところです。

音と形の結びつきはどこから来るのか、AIにも同じ癖があった

ここまで見てきた現象には、まだ結論が出ていない部分も残っています。近年の研究では、ブーバ/キキ効果の原因を文字の形に求める立場も出てきました。曲線の多いアルファベットの字形と丸い図形、角のある字形と尖った図形がもともと結びついているだけで、読み書きを学んだ経験こそが効果の正体だという見方です。これに対しては、文字を読めない年齢の幼児や、言葉を持たないヒヨコでも似た反応が見られたという報告が反証として挙げられており、両方の説明が併存している状態です。

さらに興味深いのは、人間に最も近い種であるボノボを対象にした実験です。言語訓練を受けたボノボは、絵と単語の対応づけを覚えました。ところが、ブーバ・キキのような音と形の対応づけは自発的には示しませんでした。ヒヨコでは見られた反応が、ボノボでは見られない。言葉を持たないだけでは足りない。何らかの認知的な条件が必要らしい。

2023年には、思いがけない方向からの検証結果も発表されました。画像生成AIの「Stable Diffusion」や、画像と言葉を結びつけるAIモデル「CLIP」を対象にした研究で、これらのAIに「キキ」という言葉を与えると尖った図形を、「ブーバ」という言葉を与えると丸い図形を生成しやすいという傾向が確認されたのです。AIは人間のように喉や舌を持たず、音を発したこともありません。それでも、人間が書いた文章や画像の説明文を学習データとして大量に取り込んでいます。そのなかで、人間が無意識に残してきた音と形の結びつきの痕跡まで一緒に吸い上げてしまったと見られています。身体を持たないAIにまで同じ癖が現れたという事実は、文字の形だけが原因だという説明では説明しきれない範囲の広さを感じさせます。

振り返ってみると、最初のブーバとキキの問いに戻ってきます。丸い図形と尖った図形、どちらがどちらに見えるか。その感じ方の奥には、ケーラーの実験から100年近い研究の積み重ねと、ポケモンの濁点、お菓子の擬音語、ブランド名のラ行、そして学習したばかりのAIまでをつなぐ、同じ一本の線が通っています。音と形がなぜ結びつくのか、そしてその結びつきがどこまで身体的な経験に依存するのかという問いは、言語の起源そのものを考える手がかりとして、今も研究が続いている領域です。

参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times