子供はいつまでで、大人はいつからか。法律と脳科学と文化でこんなに答えが違う
子供はいつまでで、大人はいつからなのでしょうか。この問いに対する答えは、聞く相手によって驚くほど違います。法律は18歳と言い、脳科学は25歳前後と言い、文化人類学はそもそも「境界」というものの作り方自体が社会ごとに違うと言います。どの基準も間違っていません。それぞれが違う物差しで「子供」と「大人」を測っているだけなのです。この記事で追うのは、法律、生物学、発達心理学、文化人類学という4つの分野が、同じ人間の成長過程に対してまったく噛み合わない線を引いてきた経緯です。
法律が引いた線は、1876年からほぼ動かず18歳に変わった

日本で「何歳から大人か」が初めて法律で定められたのは、1876年(明治9年)の太政官布告第41号でした。「自今満弐拾年ヲ以テ丁年ト相定候」という一文によって、満20歳が成年年齢と定められています。それ以前の日本には、全国共通の「大人の年齢」を定めた法律は存在せず、公家や武士の家系で行われていた元服のような通過儀礼が、地域や身分ごとに大人の目安をつくっていました。元服の年齢は時代や事情によってかなりばらつきがあり、奈良時代は数え11歳から16歳が主流だったものの、室町時代には5歳から20歳まで幅が広がり、戦国時代には戦乱の状況や家の都合が優先されました。織田信長は13歳頃、徳川家康は14歳頃、伊達政宗は11歳、武田信玄は16歳で元服したと伝えられており、同じ「元服」でも家によって3歳から5歳ほどの差があったことになります。明治9年の布告は、こうした曖昧でばらついていた基準に、初めて全国共通の一本の線を引いた出来事でした。明治のたった一行が、以後150年近い日本人の「大人」の基準になったわけです。
この明治9年の布告以来、日本の成年年齢は実に140年以上、20歳のまま変わりませんでした。それが動いたのは2022年4月1日のことです。民法が改正され、成年年齢が18歳に引き下げられました。改正時点で18歳・19歳だった人は2022年4月1日に一斉に成人となり、それ以降に18歳になる人は誕生日を迎えた時点で成人になるという扱いです。この変更に先立って、選挙権年齢はすでに2016年に18歳へ引き下げられており、法律上の「大人」は飲酒・喫煙・ギャンブルを除いた多くの場面で18歳という基準に統一されました。飲酒や喫煙の年齢制限だけが20歳のまま残されたのは、心身の発育への影響という健康上の理由が、契約や選挙権とは別の論点として扱われたためです。
世界を見ると、18歳はむしろ多数派に属する基準

成年年齢を18歳とする国は、日本だけではありません。ドイツ、フランス、オランダ、スイス、ノルウェー、イギリス、インド、中国、メキシコなど、世界の多くの国がすでに18歳を成人の基準としています。アメリカやカナダは州によって事情が異なりますが、多くの州がやはり18歳前後に線を引いています。一方で、韓国とアルジェリアは19歳、ニュージーランド、タイは20歳を基準にしており、必ずしも18歳が世界共通というわけでもありません。
飲酒年齢になると、国ごとの違いはさらに細かくなります。アイルランドやドイツ、オーストラリア、台湾、フィリピンなどは18歳で飲酒が認められますが、アメリカは21歳まで待たなければなりません。ドイツではビールとワインは16歳から、蒸留酒だけが18歳からと、酒の種類によって年齢の線が二段階に分かれているのも特徴的です。
選挙権の年齢はさらにばらけています。オーストリアは2007年に選挙権年齢を18歳から16歳へ引き下げ、ブラジルやアルゼンチン、エクアドル、マルタ、キューバなども16歳から投票を認めています。イギリスでもスコットランドやウェールズでは地方選挙に限って16歳から投票できます。18歳を基準に考えると、これらの国では「大人になる前に投票できる」という状態が成立していることになります。同じ「大人の仲間入り」という出来事の中でも、選挙に行ける年齢、結婚できる年齢、酒を飲める年齢が、国によってばらばらに設定されているのです。大人の定義は、一つではありません。
脳はまだ未成年、前頭前皮質が仕上がるのは25歳前後

法律が18歳で線を引いたからといって、脳の発達がそこで完成するわけではありません。アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)の研究者だったジェイ・ギード氏らが主導した長期的なMRI追跡調査によって、脳の前頭前皮質が成熟するのは25歳前後であることが明らかになっています。前頭前皮質は、物事を順序立てて考える、先を見通す、感情やとっさの行動を抑制する、他者の立場に共感するといった働きを担う部位で、こうした機能は20代半ばになるまで発達が続くとされています。つまり、法律上は18歳で大人になっても、判断やリスク評価を司る脳の領域はまだ工事中ということになります。20代前半は、脳にとってはまだ発達の途中。
この年齢の区切りは、思いがけない場所にも顔を出します。日本の自動車保険の年齢条件では、「21歳以上」と「26歳以上」で保険料に差がつく仕組みが一般的に使われており、26歳以上の区分の方が保険料が安く設定されています。保険会社がこの区分を脳科学の知見に基づいて設計しているという明確な説明はありません。あくまで、若いドライバーほど事故率が高いという統計をそのまま料率に反映させた結果だと考えられます。それでも、脳の発達がまだ遅れている年代と、保険の設計上リスクが高いとされる年代が、偶然にも近い年齢帯で重なっているのは興味深い一致です。
「青年期」という考え方自体、まだ120年ほどの歴史しかない

子供と大人の間に「青年期」という中間の時期を置く発想は、実はそれほど古いものではありません。1904年、アメリカの心理学者G・スタンレー・ホールが『Adolescence』という2巻組の著作を発表し、児童期と成人期の間に独立した発達段階としての青年期があることを、心理学として初めて体系的に主張しました。それまでの社会では、子供時代が終わればすぐに成人としての役割を担うという、比較的単純な二分割の理解が一般的だったとされています。
ホールが青年期という概念を打ち出した背景には、近代化と学校教育の普及がありました。工業化が進み、教育を受ける期間が長期化するにつれて、子供でもなく一人前の大人でもない、準備期間としての時期が社会的に必要とされるようになったのです。質問紙調査という手法を大規模に用いた最初期の心理学者でもあったホールの研究は、その後の発達心理学全体に大きな影響を与え、「青年期」という時期区分は現代では当然の前提のように扱われていますが、歴史的に見ればごく最近つくられた枠組みだということになります。
エリクソンの心理学では、青年期そのものが「猶予期間」として設計されている

心理学者エリク・エリクソンは、人の生涯を8つの発達段階に分け、それぞれの段階に乗り越えるべき心理社会的な課題があると考えました。その中で青年期にあたる課題が「アイデンティティ(自我同一性)対アイデンティティの混乱」です。「自分は何者か」という問いに対して、肯定的で確信的な答えを見つけることが、この時期の課題とされています。
エリクソンはさらに、この課題に取り組む期間そのものに「心理社会的モラトリアム」という名前をつけました。モラトリアムとはもともと債務の支払い猶予を指す経済用語ですが、エリクソンはこれを転用し、青年期の人間には、本来大人が背負うべき社会的な義務や責任が一時的に免除されている猶予期間があると説明しました。進路や職業、恋愛関係といった選択を試行錯誤しながら、自分なりの答えにたどり着くための時間が、社会の側からあらかじめ用意されているという考え方です。
この猶予期間は、現代になってさらに長くなっているとする研究もあります。心理学者ジェフリー・アーネットは2000年、18歳から29歳ごろまでを指す「エマージング・アダルトフッド」という新しい発達段階を提唱しました。産業化が進んだ社会では、結婚や子育てを20代前半で済ませる生き方は、この半世紀でめずらしくなりました。その分、恋愛や仕事のさまざまな可能性を試しながら自分を探る期間が、以前より長く引き延ばされているというのがアーネットの主張です。アーネットはこの時期の特徴として、アイデンティティの探求、生活の不安定さ、自己中心性、「大人と子供のあいだ」にいる感覚、そして将来への可能性の感覚という5つを挙げています。脳の前頭前皮質が25歳前後まで発達を続けるという生物学の知見と、このおおよそ29歳までという心理学の区分が、近い年齢帯で重なっているのは、偶然とは言い切れない符合に見えます。
文化人類学が見つけた、通過儀礼という共通の型

子供から大人への移行を、儀式という形で扱ってきたのは人類学の領域です。フランスの民族学者アルノルト・ファン・ヘネップは1909年に『通過儀礼』を出版しました。世界各地の儀礼を観察した結果わかったのは、ほとんどの通過儀礼に「分離」「移行」「統合」という共通の三段階構造があるという事実です。それまでの日常の立場から一度離れ、どちらの身分にも属さない中間の状態を経て、新しい立場として社会に迎え入れられるという構造です。
この型は、文化が違っても驚くほど繰り返されています。日本の場合、節目は一度きりで終わらず、年齢を追うごとに段階的に積み重ねられてきました。平安時代にはすでに、3歳で初めて髪を伸ばし始める「髪置き」、5歳で初めて正装の袴を身につける「袴着」、7歳で幼児用の付け紐をやめて本仕立ての帯を結ぶ「帯解き」という3つの儀礼があり、これが現在の七五三の起源になっています。当時は乳幼児の死亡率が高く、無事に育ったことを節目ごとに祝う意味合いが強かったとされています。七五三という呼び方が全国的に定着し、11月15日に盛大に行われるようになったのは、江戸時代の行事だと思われがちですが、実際には第二次大戦後、高度経済成長期の1960年代に入ってからのことです。
さらに13歳前後では、公家や武士の男子が元服、女子が裳着という儀礼を行い、地域によっては数え13歳で知恵と幸運を授かるとされる十三参りに参拝する習慣もあります。そして戦後は、1946年に埼玉県蕨町(現・蕨市)の青年団が企画した「成年式」が全国に広がり、1948年に国民の祝日として成人の日が制定されました。敗戦直後の虚脱感の中で、次の時代を担う若者を励まそうという趣旨から始まったこの催しが、現在まで続く成人式の起源とされています。3歳、5歳、7歳、13歳、そして18歳という具合に、日本の社会は何段ものはしごを使って、子供を段階的に大人へ近づけてきたことになります。
海外にも同様の節目は数多くあります。ユダヤ教では、男子が13歳で行うバル・ミツワー、女子が12歳で行うバト・ミツワー(いずれも「戒律の子」という意味)という儀式があり、戒律を守る責任を持つ一人前の信徒として扱われるようになります。中南米にはキンセアニェーラという15歳の少女を祝う行事があり、もともとは年上の女性から料理や手仕事、出産についての知識を学び終える年齢として位置づけられていました。13歳、15歳、18歳、20歳と、文化によって区切りの年齢は違います。ですが「あるときを境に子供から大人の扱いに切り替える」という発想そのものは、人類にほぼ普遍的に見られる仕組みのようです。
そもそも人間の子供時代は、生物として異常に長い

人間の子供時代が長いことには、進化上の理由があります。人類は直立二足歩行を採用した結果、骨盤の幅に制約が生まれ、産道のサイズが限られることになりました。一方で、人類の脳は進化の過程で大きくなり続けたため、胎児が完全に発達してから生まれようとすると、頭が産道を通れなくなってしまいます。このジレンマを解決するために、人間の赤ちゃんは、他の霊長類に比べてかなり未成熟な状態で生まれてくるようになったと考えられています。いわば、進化が選んだ妥協です。生理的早産と呼ばれるこの仕組みのもとで、出生時に約400グラムだった脳は、1歳になる頃には約1000グラムまで急速に成長します。
未成熟な状態で生まれてくることは、単なる弱さではありません。脳がまだ出来上がっていない期間が長いということは、生まれた後の環境から学習し、脳の回路を柔軟につくり変えていく時間が長いということでもあります。人間が言語や社会的なルールといった複雑な仕組みを身につけられるのは、この長い未完成期間があるからこそだと説明されています。子供時代の長さは、人間という種が選んだ、学習のための時間への投資だったとも言えるのです。
ずれた境界線のまま、社会はそれなりにうまく回っている
ここまで見てきたように、子供と大人の境界線は、法律では18歳、脳の発達とエマージング・アダルトフッドの考え方では20代後半、文化の儀礼では3歳から20歳まで、分野ごとにまったく違う位置に引かれています。さらに現代社会では、経済的に自立して家庭を持つ年齢そのものが後ろにずれてきています。働く女性を対象にしたある調査では、20代と30代の4割以上が実家暮らしを続けており、理由の多くは「自立できるお金がないから」や「貯金をしたいから」といった金銭的な事情でした。法律上は18歳で大人であっても、社会的な自立という意味ではもっと先に別の節目があるという感覚を持つ人も少なくないのです。
この噛み合わなさは、どの基準が正しくてどの基準が間違っているという話ではありません。優劣の問題ではないのです。選挙や契約といった社会的な制度を動かすためには、法律はどこかで明確な一本の線を引く必要がありますし、脳の発達という生物学的な事実は、制度の都合に合わせて進んだりはしません。文化の通過儀礼は、共同体がその成員を受け入れるタイミングを示すものであり、また別の種類の線です。それぞれの分野が、それぞれの目的のために、同じ人間の成長という連続した過程に、違う場所で印をつけているだけなのです。子供がいつまでで大人がいつからなのかという問いに、たった一つの正解がないことを知ると、18歳の誕生日を迎えた瞬間に自分が何も変わっていないように感じることも、25歳を過ぎてから急に落ち着いてきたと感じることも、どちらも不思議なことではないとわかってきます。自分の中にある「子供っぽさ」と「大人っぽさ」も、どこか一点で切り替わるものではないのでしょう。法律と脳と文化と経済、それぞれの線が少しずつずれた位置を通り過ぎていった結果として、今の自分があるだけなのです。

参考
- 18歳から"大人"に!成年年齢引下げで変わること、変わらないこと。
- 18歳成人、22年4月から 改正民法が成立
- 民法の成年年齢が20歳と定められた理由等
- 法律の中での"大人"は何歳?|参議院法制局
- 武家の男子の成人式「元服」。その作法、年齢は?
- 元服とは?江戸時代の武士は何歳で大人になった?
- 資料4 国名 司法上の成年年齢
- 20歳未満でも飲酒・喫煙・カジノが出来る国があるってホント⁉各国の年齢制限
- 16歳に選挙権「若者も社会も変わる」オーストリアの決断
- 脳の成熟は25歳?「前頭前野」の発達から見る、思考特性が確立する理由
- 20代前半(21歳~25歳)の自動車保険の保険料相場
- 自動車保険の年代別保険料相場(平均)はどれくらい?
- スタンレー・ホールと「青年期」|カウンセリングしらいし
- エリクソンの発達段階とは?幼児期から心理社会的発達理論も解説
- エリクソンのアイデンティティ理論と心理社会的モラトリアム
- Emerging Adulthood
- Emerging Adulthood: Arnett's 5 Features Explained
- コラム 七五三|本の万華鏡 第31回 成人の儀式―古代から近世まで―
- 七五三の3歳・5歳・7歳に分かれた理由|11月15日と千歳飴、数え年と満年齢の違い
- 成人式発祥の地のまち蕨|蕨市公式ウェブサイト
- 第12話 ― 通過儀礼の文化人類学 ― ファン・ヘネップから
- ユダヤ人の成人式、バーミツバ(Bar Mitzvah)に参列
- キンセアニェーラとは - わかりやすく解説
- なぜ人は「圧倒的に無力」な状態で生まれるのか? 進化のために受け入れた途方もないトレードオフ
- なぜ人間の赤ちゃんだけ"無力"なのか?――進化が選んだ不思議な戦略「生理的早産」
- 働く女性の3人に1人が「実家暮らし」と判明、6割が今後も出る予定なし
- 台湾、民法の成人年齢を18歳に引き下げへ 23年元日から施行
- The Moroccan Family Code (Moudawana) 2004, Article 209
- 元服とは|ホームメイト
- No.7 ~ バル・ミツバ(成人式) ~




