飛行機や新幹線の座席がアルファベットなのはなぜか。Iが使われない理由から見える合理性

新幹線のチケットを受け取って「13番A席」と書かれているのを見るとき、あるいは飛行機の座席表で窓側を選ぼうとして「A席」や「K席」を探すとき、アルファベットの並びに少し引っかかりを覚える人がいるはずです。なぜ横の位置だけアルファベットなのか。なぜAの次がCだったりHだったりして、Iという文字をほとんど見かけないのか。普段は気にせず通り過ぎてしまうこの小さな記号の並びには、100年以上かけて積み重ねられた合理性が隠れています。窓側か通路側か、前の方か後ろの方かを一瞬で伝えるためだけに、人類はずいぶん長い時間をかけて文字と数字の組み合わせを磨いてきたことになります。

飛行機の座席表示が今の形になるまで

飛行機や新幹線の座席がアルファベットなのはなぜか、Iが使われない理由から見える合理性

乗客に座席番号を割り振るという発想自体は、航空史のかなり早い段階から存在していました。世界で最初に旅客機に座席番号を導入したのは、1919年にイギリスで始まった旅客輸送だったとされています。ただし、この時代の座席表示はまだ航空会社ごとにばらつきが大きく、数字だけで管理する会社もあれば、座席にまったく番号を振らない会社も珍しくありませんでした。

転機になったのは1950年代です。ジェット機の時代に入り、1956年にソ連のアエロフロートがジェット旅客機の運航を始めた頃から、横の位置をアルファベット、前後の位置を数字で表す「数字+アルファベット」方式が広がっていきました。3列シートなら左から順にA・B・C、5列シートならA・B・C・D・E、7列シートならA・B・C・D・E・F・Gというように、単純に左から文字を振っていくのが当初のやり方でした。

座席が増え、機体の幅が広がるにつれて、乗客が自分の席が窓側なのか通路側なのかをひと目で判断できるようにする工夫が求められるようになります。1970年にパンアメリカン航空が大西洋路線に投入したボーイング747のような大型機が登場すると、横一列に9席、10席という配置も当たり前になり、単純に左からABCと振っていくだけでは窓側か通路側かが席によって揃わないという問題が出てきました。そこで航空会社各社が独自に編み出したのが、窓側と通路側で使うアルファベットの範囲をあらかじめ決めてしまうという方法でした。

「I」が消えた理由と、現場のための合理性

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多くの旅客機の座席表を見ると、HやKの並びにIが入っていないことに気づきます。これは単なる見落としではありません。意図して外された欠番です。アルファベットの「I」は、手書きのメモや読み上げの場面で数字の「1」と見分けにくいという実務上の理由から、座席表示には使われない慣習が国際的な業界標準として定着しました。同じ理由で「O」も数字の「0」と混同しやすいため避けられる傾向があります。

この配慮は、乗客の便利さのためだけではありません。座席の確認は、搭乗手続きをするグランドスタッフや、機内で乗客に声をかける客室乗務員にとっても日常的な作業です。読み違いが起きやすい文字をあらかじめ排除しておくことで、案内のミスを減らし、緊急時に乗客の位置を素早く特定できるようにする、という現場目線の設計がそこにはあります。トラブルが起きたときに「13A」を一瞬で正確に伝えられるかどうかは、些細な話に見えて実は重要な安全上の要素です。

スタッフ同士の会話では、さらに一歩進んだ工夫も使われています。客室乗務員やグランドスタッフは、座席のアルファベットを伝えるとき、Aをアルファ、Bをブラボー、Cをチャーリー、Dをデルタと言い換える「フォネティックコード」を使うことがあります。もともとは無線通信で聞き間違いを防ぐために軍で生まれた仕組みですが、航空業界ではパイロットや管制官だけでなく、機内サービスの現場にも浸透しています。「24ブラボーのお客さまにお茶をお願いします」というように、アルファベット一文字をわざわざ単語に置き換えてまで、聞き間違いを徹底的に潰そうとしているわけです。

なぜ機体によって「B」や「E」も抜けるのか

飛行機や新幹線の座席がアルファベットなのはなぜか、Iが使われない理由から見える合理性

国際線でさまざまな機体に乗った経験がある人は、Iだけでなく「B」や「E」が抜けている座席表に出会ったことがあるかもしれません。機体が変わっても窓側と通路側の意味だけはずらしたくない、という航空会社側の工夫です。

たとえば日本の航空会社では、2000年代半ば以降、機種が変わっても乗客が迷わないように、窓側の席には「A」と「K」を、通路側の席には「C」や「H」を割り当てるという社内ルールを採用しています。通路が2本ある大型機の場合は「D」や「G」も通路側になります。日本の大手2社では、一部のプロペラ機を除いて、機体の右端の窓側席には必ず「K」が振られるという取り決めまであります。乗客からすれば、搭乗する機体が変わっても「Aなら窓側」「Cなら通路側」という感覚を保てるため、座席選びのたびにいちいち配置図を確認する手間が減ります。航空会社にとっても、案内のたびに機種ごとの説明を変える必要がなくなるという利点があります。

座席のアルファベットをやめた航空会社の顛末

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この仕組みがどれほど当たり前のものになっているかは、逆に「やめてみた会社」の話からよく見えてきます。アメリカのサウスウエスト航空は長年、座席にアルファベットも番号も割り振らない「オープンシート」という珍しい制度を採用していました。搭乗の順番だけを管理し、機内に入った乗客が好きな席に座っていく方式です。空席をできるだけ作らずに素早く乗客を機内に詰め込めるため、航空会社にとっては効率の良い仕組みで、同じ飛行機で1日に飛ばせる便数を増やすことにもつながっていました。

ところが2026年1月27日、サウスウエスト航空はこの半世紀近く続けてきたオープンシートを取りやめ、一般的な指定席制に切り替えています。株主からの収益改善の要求もありましたが、決め手になったのは利用者調査でした。多くの旅行者が、空港に着く前の段階で自分の座席がどこなのかを知りたがっているという結果が出たのです。効率だけを追いかけるなら座席の記号は不要かもしれませんが、乗客が安心して移動の計画を立てるためには、結局はアルファベットと数字で示される一つの場所が必要になる、ということを裏付けた出来事でした。

新幹線がアルファベットを採用した経緯

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日本の新幹線が最初に走ったのは1964年10月1日、東海道新幹線の開業時です。このとき、座席の横位置を示す記号として、すでに世界の航空業界で定着していたアルファベット表示がそのまま持ち込まれました。新幹線という新しい乗り物を設計するにあたり、乗客にとって馴染みのある飛行機の座席の考え方を流用したと考えられています。

普通車の標準的な座席配置は、3人掛けと2人掛けが通路を挟んで並ぶ「3列+2列」です。窓側がA席とE席、真ん中がB席、通路側がC席とD席。横幅という一つの軸の上で、窓から通路に向かって単純にアルファベットが振られているわけです。どの新幹線に乗っても、この並び方自体は変わりません。

一方、グリーン車は2人掛けが向かい合う「2列+2列」のため、そもそもE席という席自体が存在しません。窓側はA席とD席、通路側はB席とC席になります。普通車に慣れた乗客が「グリーン車にもE席があるはず」と思い込んでしまうのは、座席配置そのものが違うことに起因する、よくある誤解です。東北新幹線などの最上級車両グランクラスになると、1人掛けと2人掛けを合わせた「1列+2列」で横3席しかないため、使われるアルファベットはA、B、Cの3つだけになります。車両のクラスが上がるほど座席は減っていき、それに合わせて使うアルファベットの範囲も自然と狭くなっていくわけです。

現場のJR職員や旅行会社の間では、座席のアルファベットを聞き間違えないように、Aをアメリカ、Bをボストン、Cをチャイナ、Dをデンマーク、Eをイングランドというように、国名や地名の頭文字と結びつけて呼ぶ符号のような言い方が使われることがあるといわれています。実際、富士山が見える席を案内する際に「イングランドの席をお取りしましょう」という言い回しが旅行業界の隠語として使われていたという話も伝わっています。正式な案内放送で使われる言葉ではありません。あくまで現場発の、符号のような覚え方です。それでもこうした言い回しが語り継がれてきたこと自体が、アルファベット一文字の聞き間違いがいかに避けたいトラブルだったかを物語っています。

高速バスにも流れ込んだ同じ発想

飛行機や新幹線の座席がアルファベットなのはなぜか、Iが使われない理由から見える合理性

このルールは飛行機と鉄道だけの話ではありません。高速バスの座席表にも、同じ発想のアルファベットが使われています。多くの高速バスは2列と2列が通路を挟む「2+2」の配置で、左側の窓側と通路側を「A」「B」、右側の通路側と窓側を「C」「D」として、「5列目のA席」なら「5A」というように表記します。運転席の横に大きな座席配置図が貼られていたり、予約サイトで座席を選ぶときに目にするあの図は、飛行機や新幹線と根っこの考え方を共有しているわけです。

乗り物によって座席の列数や配置はまったく違うのに、「数字で前後、アルファベットで左右」という骨格だけは共通して使われ続けています。誰かが業界を横断して一括で決めたルールがあるわけではありません。乗客にもスタッフにもわかりやすい方法を、業界ごとに別々の時代に、それぞれ試行錯誤しながら選び取った結果が、偶然のように重なっているということです。

アルファベットが指す「軸」は乗り物と建物で違う

飛行機や新幹線の座席がアルファベットなのはなぜか、Iが使われない理由から見える合理性

ここまで見てきた飛行機、新幹線、高速バスのアルファベットは、どれも座席の横方向の位置、つまり窓側か通路側かを示す記号でした。ところが、劇場やコンサートホール、野球場やドーム球場のような施設に目を向けると、アルファベットが示している軸がまったく違うことに気づきます。

劇場やスタジアムの座席表では、アルファベットは前から数えた「列」を示すために使われます。最前列がA列、その後ろがB列、さらに後ろがC列というように、舞台やフィールドから見て奥行き方向に進むにつれて文字が進んでいく仕組みです。横方向の席の位置は、このアルファベットの列の中で数字によって示されます。東京ドームや福岡のドーム球場のアリーナ席でも、ステージから遠ざかる方向にA、B、C…とブロックが振られ、そのブロックの中を横方向の数字で区切るという表記が使われています。

つまり、飛行機や新幹線、高速バスでは横方向がアルファベット・前後方向が数字だったのに対し、劇場やドームでは前後方向がアルファベット・横方向が数字という、軸がちょうど入れ替わった関係になっているのです。興味深いことに、劇場の座席表でも「I」を欠番にする慣習は広く見られます。これも案内係や窓口のスタッフが数字の1と見間違えないようにするための工夫で、場合によっては「O」や「Q」も避けられることがあります。示している軸はまったく違うのに、読み間違いを防ぐという発想だけは業界を越えて共通して受け継がれてきたということになります。

もう一つ面白いのは、26文字しかないアルファベットでは席数や列数をすべて表しきれない大きな劇場で起きる現象です。ニューヨークのブロードウェイでは、通常のA列、B列よりも舞台側に追加の席を設ける際、後ろに新しい文字を足すのではなく、AA列、BB列という二重のアルファベットを舞台側の最前列に割り当てている劇場があります。本来なら後方に増やしてもよさそうなものですが、わざわざ最前列側に二重文字の列を置くという選択が、既存の座席の呼び方を変えないための工夫として続いています。限られた26文字をどう使い切るかという悩みは、飛行機の座席表が「I」や「O」を削って凌いできた悩みと、根は同じところにあります。

アルファベットと数字が「迷子防止」にならない場所もある

飛行機や新幹線の座席がアルファベットなのはなぜか、Iが使われない理由から見える合理性

ここまで取り上げてきた飛行機、新幹線、高速バス、劇場、スタジアムには、国際的、あるいは業界的に共有されたルールがありました。これに対して、ショッピングモールなどの立体駐車場のアルファベットと数字の組み合わせには、そうした統一ルールがありません。「3のAゾーン」のような表示自体は飛行機の座席と似た見た目をしていますが、ゾーンの区切り方も、アルファベットと数字のどちらを先に書くかも、施設によってまちまちです。

立体駐車場では金属製のスロープや柱が視界を塞ぎ、平面の駐車場よりも距離感がつかみにくくなるため、停めた場所を忘れて探し回るという経験をした人は少なくないはずです。航空業界が1世紀近くかけて「乗客もスタッフも迷わない表記」を作り上げてきたのに対して、駐車場の表記は施設ごとに独自のルールのままという対比は、アルファベットと数字の組み合わせがどんな場所でも自動的に迷子を防いでくれるわけではないことを教えてくれます。表記そのものよりも、それを統一しようとする仕組みがあるかどうかが、実は本質的な部分なのかもしれません。

指定席を選ぶときに目が向く場所

飛行機や新幹線の座席がアルファベットなのはなぜか、Iが使われない理由から見える合理性

飛行機のAという文字と、新幹線のAという文字、高速バスのAという文字は、たどってきた歴史も具体的な意味も少しずつ違います。それでも根っこにある発想は同じで、限られた記号を使って、乗客にもスタッフにも伝わりやすい座席の呼び方を作ろうとした結果が、今のアルファベットの並びになっています。1919年のイギリスから始まり、1956年のジェット機時代を経て、1964年の新幹線開業で日本にも定着したこの記号は、半世紀以上の試行錯誤を経て今の形に落ち着きました。

同じA席という記号でも、乗り物が変われば窓側になったり通路側寄りになったりするのは、こうした別々の積み重ねが一つの文字に同居しているからだと考えると腑に落ちます。座席の好み自体にも、お国柄が表れます。2018年にエクスペディアが行った国際比較調査では、日本人の53%が通路側の席を好むと回答し、調査対象国の中で通路側派が過半数を占めたのは日本だけでした。隣で眠っている人を起こしたくないという気遣いが、最も強く表れた結果だとされています。一方で近年の国内調査では窓側を選ぶ人の方が多いという結果も出ており、フライトが長くなるほど通路側を選ぶ人が増える傾向も見えています。どちらの調査が正しいというより、窓側か通路側かという一文字の違いの裏に、眺めを楽しみたいのか、身動きしやすさを優先したいのかという、人それぞれの小さな判断が積み重なっていると考えた方がよさそうです。

次に座席を選ぶとき、何気なく選んでいたA席やC席の一文字に、意外と長い積み重ねがあることを思い出してみると、いつもの移動がちょっとだけ違って見えるかもしれません。

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参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

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