学校で叩き込まれた英語の過去完了進行形、実際の使う場面を辿る
学校の英語の授業で、動詞の活用表を延々とノートに書き写した経験がある人は多いと思います。黒板の端から端まで埋める12行の表を、シャープペンシルで同じ動詞を少しずつ変化させながら書き取り、定期試験の前には同じ表を何度も見返して暗記しました。現在形、過去形、未来形のそれぞれに単純形、進行形、完了形、完了進行形があり、組み合わせると12種類。その中でもひときわ扱いにくかったのが「had been ~ing」の形、つまり過去完了進行形です。試験のために意味も用法も覚えたはずなのに、学校を出た後にこの形を実際に使った、あるいは誰かが使っているのを聞いた、という記憶がある人は多くありません。あの文法は一体どこで使うために存在していたのか、学校教育の記録と英語コーパスの研究データをたどって確かめてみます。
「had been doing」という形が表しているもの

「had been +動詞のing形」という形を取るのが過去完了進行形で、過去のある時点まである動作が継続していたことを表します。たとえば「Mike wanted to sit down because he had been standing all day at work」であれば、「一日中立ち続けていたので、マイクは座りたかった」という意味になります。過去のどこかの地点を基準にして、そこに至るまでの継続を描く形だと考えると、現在完了進行形(have been ~ing)を過去にそのままスライドさせたイメージで理解しやすくなります。
よく似た過去完了形(had done)との違いは、動作の継続そのものを強調するかどうかにあります。「It had been raining so the ground was wet」のように、雨が降っていたという動作の継続と、その結果として地面が濡れていたという状況を結びつける場合に過去完了進行形が選ばれます。単に「すでに雨は止んでいた」という完了の事実だけを伝えるなら、過去完了形の単純な形で十分です。この使い分けの説明自体は英語教材のどこにでも載っていますが、ただ実際にこの使い分けを必要とする場面がどれだけあったかは、別問題です。
日本語にはない感覚をなぜ難しく感じるのか

日本語を母語とする学習者が、過去完了進行形を含む完了表現全般を苦手に感じやすいことには理由があります。これは日本語に完了を表す表現がまったく存在しないからではなく、日本語では「アスペクト(動作が継続中か完了済みかという区分)」と「テンス(いつの出来事かという時間の区分)」を別々に意識する機会がほとんどないためだと説明されています。英語は助動詞の変化でこの二つを同時かつ明示的に示す言語である一方、日本語は「ていた」「ていたところだった」のような言い方で済ませることが多く、どの時点を基準にした継続なのかを文法形式として厳密に区別する習慣がありません。難しく感じられたのは、単語や文法規則が複雑だったからというより、母語にはない区分の感覚を新しく作る必要があったからだと考えると、あの授業の苦労にも納得がいきます。
高校の授業で出会った記憶をたどる

日本の高校英語では、過去完了進行形が教わる文法項目として長く位置づけられてきました。現在完了形、過去完了形という順に完了の概念を学んだ後、それぞれに進行形を組み合わせる段階で登場する、学習の最終段階に近い項目です。12種類の時制を網羅的に教えるという組み立て自体は海外のESL教材にも共通して見られる枠組みですが、日本の学校教育ではこれを体系的な一覧表として提示し、試験で正確に識別させるところまで踏み込んで指導してきた点に特徴があります。
この「文法を体系として教え、訳読を通じて理解させる」という指導の骨格は、明治期に確立された文法訳読法に由来します。大正期に入ると、英国から招かれた言語学者ハロルド・パーマーが1922年に文部省の英語教授顧問として来日し、音声と会話を重視するオーラルメソッドを提唱して文法訳読法に異議を唱えました。パーマーは1923年に英語教授研究所を設立し、初代所長を務めています。しかし会話重視の指導法が普及した後も、文法を体系的に分類して試験で問うという骨格そのものは学校教育の中に根強く残り、過去完了進行形のような使用頻度の低い項目も含めて一覧で教えるスタイルが続いてきました。
2021年度の学習指導要領改訂でも生き残った

英語の指導内容は2021年度の学習指導要領改訂で大きく変わりました。それまで高校の内容だった現在完了進行形や仮定法の基本的な用法が中学校に前倒しされ、学習する単語数も1200語程度から1600から1800語程度に増えています。中学の英語教科書の難度が一段上がったという評価は、このときの改訂をきっかけに広く語られるようになりました。
この前倒しの対象に現在完了進行形は含まれましたが、過去完了進行形は依然として高校で学ぶ項目として残っています。現在完了進行形は日常会話での使用頻度がまだ見込めるのに対し、過去完了進行形は会話で使う場面がさらに限られるため、優先的に前倒しする対象からは外れたとみるのが自然です。結果として、過去完了進行形は今も「高校で初めて教わる、使用場面の説明に多くの紙面を割かれる文法項目」という位置づけを保っています。
入試での出題頻度を確認する

高校の文法解説サイトや予備校の教材でも、過去完了進行形は「出題頻度は高くないが、理解はしておく必要がある」という扱いを受けている項目です。未来完了進行形と並んで、12種類の時制の中でも出題頻度が低いグループに位置づけられています。入試で問われる可能性がゼロではないために教科書や文法参考書には必ず収録されますが、頻出文法として繰り返し演習させられる現在完了形や過去完了形とは扱いの重みが異なります。つまり学校教育の内部でも、この文法項目が「一応教えるが、重点的に使う機会は少ない」ことは暗黙の了解になっていたことになります。
コーパスで見るネイティブの実際の使用頻度

学校での扱いが控えめだったことは、実際の英語使用の実態とも符合します。英語のコーパスを用いた研究では、単純過去形は小説の中で過去完了形の3倍ほど多く使われているという結果が報告されています。過去完了形ですらこの程度の少なさなので、そこに進行の意味を重ねた過去完了進行形はさらに出現数が絞られることになります。
register別の傾向も参考になります。過去完了形は学術的な文章で最も多く使われ、新聞、小説、雑誌と続き、会話では最も使用率が低いという分布が報告されています。この中でも過去完了進行形はさらに書き言葉に偏ったレアケースの位置づけで、日常会話の中で耳にする機会はかなり限られます。「always」や「never」のような頻度を表す副詞と組み合わせて使われることも少なく、完了進行形という形自体が英語の時制体系の中で稀少な存在であることが、コーパスの集計からも裏付けられています。
もっとも、12種類の時制の中で過去完了進行形だけが特別に不運なわけではありません。未来の一点までの継続を表す未来完了進行形(will have been ~ing)は、過去完了進行形よりもさらに出番が限られる時制として並べて扱われることが多く、出題頻度が低いグループとしてひとまとめにされる常連です。過去の出来事を物語として振り返る過去完了進行形は、未来のある時点を仮定して継続を語る未来完了進行形に比べればまだ現実の文章に現れる機会がある、という位置関係になります。
それでも実際に使われている場面

出現頻度が低いといっても、過去完了進行形が完全に使われない文法というわけではありません。典型的に現れるのは、過去のある出来事を描写しながら、その背景として続いていた動作を同時に説明する場面です。「James had been cooking breakfast before we got up」のように、ある時点(起きたとき)を基準にして、それ以前からの継続を描く小説の地の文はその代表例です。
同様に、「I had been playing basketball for two hours when it started to rain」のように、ある出来事(雨が降り始めた)が起きた背景を説明する構文としても使われます。雨が降っていたから地面が濡れていた、長時間立っていたから座りたかった、というように、結果の原因を過去の継続から説明する場面に自然とこの形が現れます。会話よりも、状況を丁寧に書き分ける書き言葉、とくに物語や説明的な文章の中でこの形が生き残っていることが、実例からもうかがえます。
共通しているのは、どの例文も「ある基準点までの継続」と「その継続が生んだ結果や状況」をワンセットで説明しているという構造です。単純過去形だけで二つの出来事を並べても意味は伝わりますが、どちらが先に始まってどちらが結果なのかという前後関係を文法の形自体で明示したいときに、この継続と基準点を結びつける形が選ばれます。会話では前後関係を文脈や相づちで補えてしまうため出番が少なく、書き言葉では読み手に文脈の補いを期待できないため、形そのもので関係を示す必要が生じる。この書き言葉と話し言葉の要求の違いが、過去完了進行形の生き残り方を決めているとも言えます。
ネイティブは名前を知らずに使っている

ここで興味深いのは、英語を母語とする人たちがこの形を使うとき、「これは過去完了進行形だ」という文法用語を意識しているわけではないことです。英語学習コンテンツの中でもしばしば指摘されているように、ネイティブスピーカーは現在完了形についても、複数ある用法を文法的に区別して使い分けるというよりは、継続や影響の名残りといった一つの大まかな感覚で使い分けています。同じことは過去完了進行形にも当てはまり、基準となる過去の一点までの継続という感覚さえつかめていれば、用語を知らなくても自然に使えてしまいます。
日本の学校教育では「過去完了進行形」という名前を先に教え、そこに当てはまる例文を後から対応させるという順序を取ります。英語を母語として育つ場合、この順序は逆です。感覚としての継続表現を先に身につけ、文法用語はずっと後になって、必要であれば学ぶという順序になります。この順序の違いが、日本の学習者が「名前は知っているが使う場面が湧いてこない」という感覚を持ちやすい一因になっていると考えられます。
文法を体系化したがる日本の英語教育の背景

なぜ日本の学校教育は、使用頻度の低い文法項目まで含めて体系的に教え、試験で識別させる方式を取り続けてきたのでしょうか。一つの背景として、客観的な採点のしやすさが挙げられます。会話の自然さや語感といった感覚的な基準は統一した採点が難しいのに対し、時制の識別や活用形の正誤は明確な正解を一つに定めやすく、大人数を対象にした入試という仕組みの中で扱いやすい評価対象になります。
明治期に確立した文法訳読法は、英語を母語としない指導者が教科書の文章を日本語に訳しながら文法規則を体系的に説明するという指導法でした。パーマーのオーラルメソッド以降、会話力を重視する流れが何度も試みられてきましたが、戦後に高度経済成長とともに学歴が社会的地位と強く結びつき、大学入試が全国規模で一律に実施される選抜制度として整備されていく過程で、客観的に採点しやすい文法知識の体系的な指導は、形を変えながらも根強く残り続けてきました。偏差値という指標が受験の「ものさし」として定着していったのも同じ時期です。採点者の裁量が入りにくい文法問題は、大勢の受験生を一つの基準で序列化する必要がある制度にとって扱いやすい評価対象だったことになります。
ただし、文法問題をどこまで重視するかは大学によっても差があります。国公立大学の入試で独立した英文法の問題が出題されるのは実はそれほど多くなく、東京大学がその数少ない例外として知られています。東京大学の英語入試は要約や英作文、リスニングなど多様な構成を取りながら、その中にあえて文法問題を含めており、受験生の間でも対策のしにくさで知られる一方、問われる内容自体は基礎的な文法知識の理解を確認するものが多いとされています。難しい文法を追加で覚えさせることよりも、基礎を取り落としなく理解しているかを確かめることに主眼があるという見方です。教科書にこの使用頻度の低い項目、たとえば過去完了進行形が残っているのも、派手な出題のためというより、体系の抜け漏れをなくすという教育側の発想の名残りだと考えられます。
学校文法と実用英語の間にある距離

ここまで見てきた一連の事実を並べてみると、学校で教わる文法の網羅性と、実際の英語使用における頻度との間には、はっきりとした距離があることが見えてきます。12種類の時制をすべて教えるという枠組み自体は海外のESL教材にも共通するものですが、日本の学校教育はその枠組みを試験で識別させるところまで徹底して運用してきました。その結果、会話ではほとんど出番がない文法項目についても、多くの人が一度はノートに活用表を書き、問題集で例文を解いた経験を共有しています。
2021年度の改訂で現在完了進行形や仮定法が中学に前倒しされた一方、過去完了進行形が高校の内容として残ったという事実は、使用頻度の低さが教育側にも認識されていたことの裏返しでもあります。使う場面がほとんどないまま覚えた文法用語が、何十年も記憶の片隅に残り続ける。多くの日本人にとって英語学習が持つ奇妙な手触りの正体は、こうした体系と実用の間のずれに由来しているのかもしれません。
とはいえ、その体系が完全に無駄だったとも言い切れません。この名前と形を一度覚えておいたおかげで、海外の小説や記事の中で「had been ~ing」という表現に出会ったとき、基準点までの継続を描いているのだとすぐに読み取れるという効果は確かにあります。会話で自分から使う機会は少なくても、書き言葉を読み取るための備えとしては機能していたことになります。あの活用表を書き続けた時間は、話すための練習というより、読むための地図を先に手に入れておく作業だったと捉え直すと、教室で過ごした記憶の意味合いも少し変わってくるかもしれません。
参考
- 英語の過去完了進行形とは?過去完了形・現在完了進行形との違い、基本の英文法、疑問文・否定文の作り方を例文付きで解説
- 英語の「過去完了形」ってどう使う?「現在完了形」や「現在完了進行形」との違いも解説
- 【時制】過去完了形とは?過去形との違いや使い方を例文を用いて解説
- 【2021年】中学の学習指導要領が変わる! 英語・数学の変更点を解説
- 【2021年度】中学生新英語教科書で変わること~仮定法など高校の内容が増え、単語量は約2倍!?~
- 第6回 英語の指導法にも新たな考え方が… 明治~昭和中期の英語教授法
- 英語教育を徹底解剖! ~オーラルメソッド~
- University of Central Florida STARS: A Corpus-Based Analysis of English Tense Usage
- Grammar Tense Review - The 12 Tenses in English
- 「多少の英文法ミスがあってもいいのでは?」は東大には通用しない。東大入試がいまだに“細かい英文法”の問題を出し続ける理由
- 日本の英語教育の問題点7つ|文法訳読式の限界と解決策





