興味発達の4段階モデルでたどる、人が何かにハマるまでの心の変化

かつて夢中になったはずの趣味が、いつのまにか気づけば触れなくなっていた。そんな経験は誰にでもあるはずです。一方で、ふとした出会いから始まった興味が、何年も何十年も続く生涯の情熱に育つこともあります。この違いはどこで生まれるのでしょうか。

実は心理学の世界には、人が何かに興味を持ってから、それが本物の「好き」に育っていくまでの過程を4つの段階に整理したモデルがあります。教育心理学者のスザンヌ・ヒディとアン・レニンジャーが2006年に発表した「興味発達の4段階モデル」です。学習意欲の研究分野では、興味という現象の本質を説明する理論として、最も体系的で広く使われているものの一つとされています。

このモデルを知ると、推し活で「沼落ち」する瞬間や、子どもが何かに夢中になっていく過程、大人になってから始めた趣味が本業以上の情熱の対象になっていく理由が、驚くほどすっきりと説明できるようになります。

心理学が定義する「興味」は思ったよりも奥が深い概念

興味発達の4段階モデルでたどる、人が何かにハマるまでの心の変化

日常会話で「興味がある」という言葉を使うとき、私たちはそれを一つの状態として扱いがちです。しかし教育心理学の研究では、興味は大きく二種類に分けて考えられています。ひとつは「状況的興味」で、これはその場の刺激や環境によって一時的に高まる関心のことです。授業中に先生が見せた実験や、SNSでたまたま流れてきた動画に「おっ」となる感覚がこれにあたります。

もうひとつは「個人的興味」で、こちらは特定の対象に対して比較的安定して持ち続けている関心を指します。何年も続けている趣味や、聞かれなくても自分から調べてしまうジャンルへの関心がこちらです。

重要なのは、この二つが全く別物ではなく、地続きの関係にあるという点です。ヒディとレニンジャーのモデルは、状況的興味が段階を踏んで個人的興味へと育っていくプロセスを、四つのフェーズとして描き出しました。しかも、それぞれのフェーズには感情面の動きと知識面の蓄積の両方が関わっているとされ、単なる「好き嫌い」以上に複雑な現象として興味を捉え直している点が特徴です。

「好奇心」と「興味」は同じものなのかという長年の論争

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四段階モデルを理解するうえで、もう一つ押さえておきたいのが「好奇心」と「興味」の関係です。心理学の歴史を振り返ると、この二つの概念はしばしば重なり合うものとして語られながらも、別々の研究の流れの中でそれぞれ発展してきた経緯があります。好奇心の研究は、未知のものに触れたときに生じる一時的で瞬間的な反応に注目する傾向があり、これは四段階モデルでいう第一段階の性質に近いものです。一方で興味の研究は、その反応が時間をかけてどのように安定した心の傾向へと育っていくかに関心を寄せてきました。

つまり、好奇心が興味という長い旅の出発点だとすれば、四段階モデルはその旅の全行程を描いた地図のようなものだと考えることができます。「一瞬心を惹かれること」と「長く好きであり続けること」は、地続きでありながら別の現象として研究されてきたという歴史を知ると、身近な「ハマる」という体験の奥行きが少し違って見えてくるはずです。

興味が芽生える瞬間に反応する第一段階

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モデルの出発点にあるのが「トリガーされた状況的興味」と呼ばれる第一段階です。ここでは、周囲の環境にある何らかの要素が注意を引きつけ、一時的な関心が生まれます。テレビで偶然見かけた競技、友人にすすめられて開いた漫画の一巻、街で見かけた変わった建築物など、きっかけは無数に存在します。

この段階の特徴は、非常に状況に依存していて、儚いという点です。注意を引いた刺激がなくなれば、関心もすぐに薄れてしまいます。研究では、この第一段階を引き起こす要因として、意外性や新奇性、複雑さ、あるいは登場人物への感情移入のしやすさなどが挙げられています。裏を返せば、誰かに何かへ関心を持ってもらいたいとき、まず必要なのは「おや」と思わせる小さな驚きを用意することだと言えます。

一時的な興味が続くかどうかを分ける第二段階

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第一段階で生まれた関心がそのまま消えてしまうか、それとも続いていくかを左右するのが第二段階、「維持された状況的興味」です。ここでは、注意や集中がある程度の期間にわたって持続しますが、その持続を支えているのはまだ本人の内側からの動機ではなく、外側からの環境的なサポートであることが多いとされています。

具体的には、プロジェクト型の学習や、共同作業、一対一での丁寧な指導といった、理解を促す環境がこの段階を後押しします。学校教育の研究では、教師が「なんでだろうね」「不思議だね」と声をかけ、その内容が持つ価値を強調することで、生徒の関心が単発で終わらずに続きやすくなることが確認されています。趣味の世界に置き換えるなら、一緒に楽しんでくれる友人がいたり、続きが気になる仕掛けが用意されていたりすることが、この段階を支える力になります。

新しい趣味が長続きしない理由もこの段階にある

新しく始めたことが数日で止まってしまう経験は珍しくありません。この現象も、四段階モデルに照らすと説明がつきやすくなります。第一段階の刺激だけで終わり、第二段階を支える環境的なサポートが用意されないまま放置されると、関心はそこで途切れてしまうのです。裏を返せば、続けたいと思っている物事があるなら、一緒に取り組む仲間を見つけたり、次の一歩が見えるような小さな目標を設けたりすることが、途切れやすい関心をつなぎとめる助けになるということでもあります。

「好き」が自分の内側に根を張り始める第三段階

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外からの後押しに頼っていた関心が、次第に自分自身のものになっていく転換点が第三段階、「芽生えつつある個人的興味」です。この段階に入ると、その対象に繰り返し関わりたいという、比較的長続きする傾向が本人の中に形成され始めます。

特徴的なのは、その対象について前向きな感情を抱くようになるだけでなく、知識そのものが蓄積されていくことです。加えて、その対象に関わる機会そのものに価値を見出すようになります。つまり、誰かに勧められなくても、自分から情報を探しにいったり、関連するものに手を伸ばしたりするようになる段階です。ここまで来ると、その興味はもう単なる一時的な流行ではなく、その人らしさの一部になり始めていると言えます。

誰に言われなくても没頭し続けられる第四段階

興味発達の4段階モデルでたどる、人が何かにハマるまでの心の変化

最終段階である「十分に発達した個人的興味」に至ると、その対象への関わりは非常に安定したものになります。豊富な知識と、その対象に対する高い価値づけ、そして自分で自分の学びや取り組みをコントロールする力に支えられ、長期にわたって主体的に関わり続けることができるようになります。

この段階の大きな特徴は、独立性の高さです。周囲からの支援がなくても自分の力で関わりを続けられるだけでなく、困難や障害にぶつかっても、その興味自体が揺らぐことは少なくなります。長年にわたって特定の分野を追いかけ続けている愛好家や、いわゆる「その道のプロ」と呼ばれる人たちの多くは、まさにこの段階にある関心を土台にしていると考えられます。

以下は四つの段階の特徴を整理した表です。

段階 主な特徴 何に支えられているか
第一段階 トリガーされた状況的興味 一時的で状況に依存し、消えやすい 外的な刺激や意外性
第二段階 維持された状況的興味 一定期間、注意や集中が持続する 環境からのサポート、他者との関わり
第三段階 芽生えつつある個人的興味 繰り返し関わりたいという傾向が生まれる 蓄積される知識と前向きな感情
第四段階 十分に発達した個人的興味 独立して主体的に関わり続けられる 本人の知識、価値づけ、自己調整力

状況的興味と個人的興味を分けて測定する理由

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研究者たちがこの二種類の興味をわざわざ分けて考えるのには理由があります。個人的興味は、ある時点でその教科や活動全体に対してどれだけ面白さを感じているかを尋ねることで測定されます。一方の状況的興味は、ある説明文を読んでいる最中や、ある授業を受けた直後といった、その場その場での面白さを尋ねることで測定されます。

つまり片方は比較的安定した性質を、もう片方はその瞬間ごとに変動する性質を持っているということです。この区別があるおかげで、研究者は「なぜこの生徒はこの単元にだけ興味を示したのか」といった一時的な反応と、「なぜこの生徒はそもそもこの教科が好きなのか」という長期的な傾向を、別の現象として分析できるようになりました。

研究者は「今どの段階にいるか」をどうやって測るのか

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四段階モデルは提唱されてから長い年月が経っていますが、それを実際に測定するための質問票が体系化されたのは比較的最近のことです。ノルウェーのトロムソ大学で開発された「トロムソ興味質問紙」は、この四段階モデルに基づいて興味の状態を捉えるために作られた、最初の本格的な自己報告式の尺度とされています。

この質問紙は、対象への関心の強さそのものだけでなく、その関心がどれだけ状況に左右されやすいか、対象に触れたときにどれだけ前向きな感情が湧くか、自分がその対象についてどれだけ得意だと感じているか、今後どこまで上達したいと思っているか、その対象に取り組むことにどれだけ意味を感じているか、そして自分の学びや取り組み方をどれだけ自分でコントロールできているかといった、複数の側面から一つの関心を多角的に測ろうとする設計になっています。スキーや野鳥観察のような趣味全般にも応用できる汎用性の高さも特徴で、興味という捉えどころのない心の動きを、できる限り客観的に扱おうとする研究者たちの試みがうかがえます。

「なぜだろう」という問いかけが興味の火種になる仕組み

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日本の教育心理学の研究でも、興味が生まれるメカニズムについての検討が重ねられてきました。ある研究では、新しい対象に興味を抱くきっかけとして、二つの異なる経路が存在する可能性が提唱されています。一つは対象そのものが持つ意外性や新しさに反応する経路、もう一つはすでに自分が持っている興味や知識と結びつくことで関心が生まれる経路です。

この考え方は、ヒディとレニンジャーのモデルとも重なる部分があります。第一段階で刺激に反応するのは前者の経路に近く、第三段階以降で自分の中の知識や価値観と結びついていくのは後者の経路に近いと捉えることができます。授業や日常のちょっとした場面で、大人が「なんでだろうね」と問いを投げかける行為は、まさにこの二つの経路をつなぐ橋渡しの役割を果たしていると言えそうです。

推し活の沼落ちに重ねると見えてくること

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このモデルは、いわゆる「推し活」の世界で語られる「沼落ち」のプロセスとも驚くほど重なります。推し活に関する調査や解説記事では、誰かを応援する行為が自己肯定感や所属感を満たし、同じ対象を応援する仲間とのつながりが継続の力になっていくことが指摘されています。

これを四段階モデルに当てはめると、最初にその人やコンテンツを知って「気になる」と思う瞬間が第一段階、SNSで関連情報を追いかけたり友人と話題にしたりするうちに関心が途切れなくなっていくのが第二段階、グッズを集めたり関連作品を掘り下げたりすること自体に喜びを感じ始めるのが第三段階、そして誰に勧められなくても自分から現場に足を運び、知識と愛着が積み重なっていくのが第四段階に相当すると考えられます。「沼」という表現は俗っぽく聞こえますが、その裏側には興味が段階的に深まっていく、心理学的にも裏付けのあるプロセスが存在しているわけです。

認知科学の分野からも、推し活という行為そのものへの関心が高まっています。研究者による解説では、「推し」や「推し活」という言葉はすっかり定着している一方で、その対象も行動の中身も幅広く、はっきりとした一つの定義が存在するわけではないことが指摘されています。対象や関わり方があいまいで幅広いからこそ、人によって全く違うきっかけで第一段階のスイッチが入り、それぞれ異なる速度で第四段階まで育っていくのだと考えると、推し活という現象の多様さにも納得がいきます。

身近な趣味に置き換えて追ってみると

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もう少し具体的な場面に当てはめてみます。例えば、友人に誘われて初めてキャンプに行ったとします。焚き火のはぜる音や、夜の静けさの中で見上げた星空に心を動かされたなら、それが第一段階です。この時点では、キャンプ自体への関心というより、その日の体験そのものへの反応に近いものです。

帰ってきたあとも、道具を見るたびにあの夜のことを思い出し、友人に誘われるたびについていくうちに、関心が途切れずに続いていくとしたら、それは第二段階に入っています。まだ道具を自分で選ぶほどではなく、誘ってくれる友人の存在に支えられている状態です。

やがて、誘われなくても自分からキャンプ場を検索したり、焚き火の起こし方や道具の手入れについて調べたりするようになれば、それは第三段階です。知識が少しずつ蓄積され、キャンプに関わること自体に価値を感じ始めています。そして最終的に、天候や道具の不調といったトラブルに見舞われても動じず、自分なりのスタイルを確立して長年キャンプを続けているとしたら、それはもう第四段階、十分に発達した個人的興味だと言えるでしょう。料理や園芸、鉄道めぐりなど、どんな趣味に置き換えても、同じ四つの段階をたどっていることに気づくはずです。

子どもの好奇心から大人の専門性まで興味の育ち方は変わらない

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このモデルのもう一つの興味深い点は、対象年齢を選ばないことです。幼い子どもが虫や電車に夢中になっていく過程も、大人になってから始めた資格の勉強や新しい趣味が本業以上の情熱の対象になっていく過程も、根本的には同じ四段階を経ていると考えることができます。

違うのは、その人を取り巻く環境がどれだけ第一段階や第二段階を後押ししてくれるかという点です。学校であれば教師の働きかけ、家庭であれば身近な大人の関わり方、社会人であればコミュニティやSNSでのつながりが、一時的な関心を長続きさせる土台になります。逆に言えば、どれだけ才能や適性があっても、きっかけとなる環境に出会えなければ、その興味は第一段階のまま終わってしまう可能性もあるということです。

社会人になってから始める学び直しについても、同じことが言えます。新しい分野の勉強を始めたばかりの時期は、まだ外部の刺激やその場の面白さに頼っている第一段階、第二段階であることがほとんどです。この時期に無理に一人で抱え込まず、勉強会やコミュニティに参加して環境からの支えを得ることができれば、関心は自分の内側に根を張る第三段階、第四段階へと育っていきやすくなります。

普段何気なく使っている「ハマる」という言葉の裏には、こうした段階的な心の動きが隠れています。次に何かに心を動かされる瞬間があったら、それが四段階のうちのどのあたりにいるのかを意識してみると、自分自身の「好き」がどのように育っていくのかを、少し違った視点から眺められるかもしれません。

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参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times