同じブドウなのに味がまるで違うワインの種類はどこで分かれているのか

「赤ワインと白ワインは使うブドウの品種が違う」と思っている人は少なくありません。ところが実際には、黒ブドウから白ワインに近い色合いのお酒を造ることもできますし、白ブドウからオレンジ色のワインが生まれることもあります。同じ果実からまったく違う飲み物ができあがる理由は、品種そのものよりも「果皮にどれだけ触れさせるか」「発酵をどこで止めるか」という工程の設計にあります。色も、甘さも、泡の有無も、突き詰めれば数少ない工程上の分岐点の組み合わせで決まっています。

スーパーやワインショップの棚には、産地も値段もばらばらな瓶が並んでいますが、その背後にある分類の軸そのものは意外とシンプルです。果皮との接触時間、発酵を止めるタイミング、ブランデーを加えるかどうか、そして育った土地と収穫年。この数本の軸を知っておくだけで、ラベルの読み方も、次にどの一本を選ぶかも、少し違って見えてくるはずです。その境界線を一つずつたどってみます。

赤ワインと白ワインを分けているのは果皮に触れる時間

同じブドウなのに味がまるで違うワインの種類はどこで分かれているのか

赤ワインは、黒ブドウを果皮ごと発酵させて造られます。果皮と種を果汁に浸したまま発酵させることで、皮に含まれるポリフェノールやタンニンが果汁に溶け出し、あの独特の渋みと深い色合いが生まれます。

一方の白ワインは、白ブドウを使う場合も、あるいは黒ブドウを使う場合も、果皮を早い段階で取り除いてから発酵させます。皮に触れる時間がほとんどないため、渋み成分がほぼ抽出されず、すっきりとした飲み口になります。つまり赤と白を分けているのは品種の色以上に、果皮と果汁が接触している時間の長さだと言えます。理屈のうえでは黒ブドウの果皮を早々に取り除いて発酵させれば、白ワインに近い透明感のある一本を造ることも可能です。

ロゼとオレンジワイン、同じ「皮との接触」から生まれる中間色

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赤と白の間に位置するロゼワインも、原理は同じ「果皮との接触時間」の調整で生まれます。代表的な製法はセニエ法で、黒ブドウを砕いて発酵タンクに入れ、数時間だけ果皮に触れさせたあと、うっすら色づいた果汁だけを引き抜いて発酵を続けます。もう一つのプレス法では、黒ブドウを最初からプレス機で搾り、果皮との接触をごく短時間にとどめることで淡い色合いに仕上げます。

反対に白ブドウを使いながら、赤ワインのように果皮や種と一緒に発酵させると、オレンジワインと呼ばれる琥珀色のワインになります。マセレーション(醸し)と呼ばれるこの工程を経ることで、白ブドウ由来なのに自然なタンニンを含んだ、香り豊かで奥行きのある味わいが生まれます。亜硫酸などの添加物を抑えたい造り手にとって、皮由来のタンニンが保存性を助けてくれる点も、この製法が自然派ワインの生産者に支持されている理由の一つです。

泡はどうやってワインの中に閉じ込められるのか

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スパークリングワインの泡は、二回目の発酵によって生まれます。まず通常のワインと同じように一次発酵を行い、そこに糖と酵母を加えてもう一度発酵させることで、発酵の過程で生じる二酸化炭素をワインの中に閉じ込めます。

この二次発酵をどこで行うかによって、造り方は大きく二つに分かれます。

製法 二次発酵の場所 特徴
トラディショナル方式(瓶内二次発酵) 一本ずつの瓶の中 きめ細かい泡になるが手間とコストがかかる
シャルマ方式(タンク方式) 大きなタンクの中 一度に大量生産でき、コストを抑えられる

フランスのシャンパーニュ地方で造られるシャンパンは、法律上シャルマ方式での醸造が認められておらず、必ずこのトラディショナル方式で造る必要があります。一本ずつ瓶の中で発酵させるからこそ、あの繊細な泡立ちが生まれているわけです。このほかにも、瓶内で二次発酵させたあとに一度大きなタンクへ移し替えてから瓶詰めし直す「トランスファー方式」という中間的な製法も存在し、瓶内発酵の風味を保ちながら澱抜きの手間を減らす工夫として使われています。

甘口と辛口を分けるのは糖度ではなく発酵を止めるタイミング

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ワインの甘辛は、ブドウそのものの糖度ではなく「発酵をどこまで進めたか」で決まります。酵母はブドウ果汁に含まれる糖分を分解し、アルコールと二酸化炭素に変えていきます。この分解が進みきって糖分のほとんどがアルコールに変わると、残る糖分(残糖度)が少ない辛口になります。反対に、糖分が残っている段階で意図的に発酵を止めれば、残糖度の高い甘口ワインになります。

ちなみにEUの基準では、残糖度が1リットルあたり4グラム以下のものを辛口と定めています。現在は醸造技術が発達しているため、酵母の働きを熱で抑えたり遠心分離で酵母を取り除いたりすることで、同じブドウを使っていても甘辛の度合いをある程度コントロールできるようになっています。

ブランデーを加えて造る酒精強化ワインという別ジャンル

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ここまでの分類とは少し毛色が違うのが、酒精強化ワインと呼ばれるジャンルです。発酵の途中、あるいは発酵後にブランデーなどの蒸留酒を加えることでアルコール度数を高め、同時に保存性も高めた造り方で、スペインのシェリー、ポルトガルのポートワインとマデイラワインが代表格です。

種類 産地 蒸留酒を加えるタイミング
シェリー スペイン アルコール発酵が終わったあと
ポートワイン ポルトガル(ポルト) アルコール発酵の途中
マデイラワイン ポルトガル領マデイラ島 加熱熟成(エストファ)とあわせて発酵途中

ポートワインは、黒ブドウから造る「レッド・ポート」と白ブドウから造る「ホワイト・ポート」に分かれ、レッド・ポートはさらに短期熟成の「ルビータイプ」と長期樽熟成の「トゥニータイプ」に分かれます。マデイラワインにいたっては、樽ごと乾燥炉に入れて数カ月間加熱するという、他のワインにはない工程を経て独特の風味を作り出します。同じ「ワイン」という言葉でくくられていても、ここまで製法が違うのかと驚かされるジャンルです。

ワインの個性の大半はブドウ品種で決まっている

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製法の違いに加えて、使うブドウの品種もワインの個性を大きく左右します。赤ワイン用の代表品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンは、17世紀にフランス南西部でカベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランが自然に交配して生まれたとされ、世界で最も栽培面積が広い品種として知られています。濃厚でしっかりとした味わいが特徴です。同じ赤ワイン用でも栽培の難しいピノ・ノワールは、タンニンも酸味も控えめな繊細な仕上がりになります。

カベルネ・ソーヴィニヨンと並んで世界的に栽培面積の広いメルローは、プラムやブラックチェリーを思わせる甘い果実の香りと、やわらかなタンニンが特徴で、渋みが苦手な人でも飲みやすい品種として知られています。原産地であるボルドー地方では、カベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドされることが多く、その硬さを果実味で包み込んで飲みやすく仕上げる役割を担っています。

白ワイン用では、フランスを代表するシャルドネが、栽培する地域の気候によって表情を変えるのが面白いところです。涼しい産地では酸味の効いたすっきりとした味わいに、温暖な産地ではフルーティーな味わいになります。ソーヴィニヨン・ブランは新鮮な酸味が持ち味で、爽やかという言葉がよく似合う品種です。

日本固有の品種にも触れておきたいところです。山梨県を中心に栽培される甲州は、柑橘系の爽やかな香りと穏やかな酸味を持つ白ワイン用品種で、アルコール度数が控えめな軽やかな味わいに仕上がります。育種家の川上善兵衛が日本の気候に合わせて交配で生み出したマスカット・ベーリーAは、国内で甲州に次ぐ栽培量を誇る赤ワイン用品種で、フレッシュな果実味と軽やかなタンニンが特徴です。

テロワールと収穫年、同じ品種でも味が変わるもうひとつの理由

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製法とブドウ品種のほかに、ワインの味を左右する要素がもう一つあります。フランス語で「土地」を意味するテロワールという言葉で呼ばれる、気候や土壌、標高、日照量、風、湿度といった栽培地の自然条件全体のことです。

土壌の性質だけを見ても、粘土質の土壌では小粒で糖分をしっかり蓄えたブドウが育ちやすく、タンニン豊かでしっかりとしたワインになりやすい一方、石灰質の土壌ではミネラル感のある繊細な味わいになりやすいと言われています。気候も同様で、南フランスのように乾燥して日照量の多い産地では糖度が高くアルコール度数の強い果実味豊かなワインになりやすく、冷涼な産地では酸がしっかり残った引き締まった味わいになりやすい傾向があります。同じ品種のブドウを同じ手順で仕込んでも、育った土地が違えば別物のワインになるのはこのためです。

さらに、同じ畑の同じ品種であっても、収穫した年(ヴィンテージ)が違えば味わいは変わります。ブドウは農作物である以上、その年の天候の影響を毎年受けるからです。ちなみにヴィンテージ表記には産地ごとにルールがあり、フランスでは85%以上、アメリカのナパでは95%以上がその年に収穫されたブドウで造られている場合にのみ、ラベルに収穫年を記載できます。複数年のブドウを混ぜて造られたワインは「ノンヴィンテージ」と呼ばれ、これはこれで安定した味わいを毎年届けるための、もう一つの技術です。

ボトルとグラスの形にも製法の歴史が刻まれている

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ワイン売り場に並ぶボトルの形が産地によって違うことに気づいたことがある人もいるはずです。ボルドー地方のボトルは肩の部分が張り出した「いかり肩」の形をしています。ボルドーの赤ワインはタンニンが多く長期熟成に向くぶん澱が多く出るため、グラスに注ぐ際に澱が流れ込まないよう、肩の張り出しで澱をせき止める工夫がされているのです。

一方、ブルゴーニュ地方のボトルは肩がなだらかな「なで肩」です。ブルゴーニュワインは瓶詰め前に澱を取り除く工程を経るため、ボルドーほど澱を気にする必要がありません。加えて、なで肩の形はボトルを上下逆に交互に並べることができるため、保管スペースを効率よく使えるという実用上の利点もあったと言われています。

グラスの形にも同じような理屈があります。ボウルが大きく膨らんだグラスは、ワインが空気に触れる面積を広げて香りを引き立て、口がすぼまったリムが香りをボウルの中に閉じ込めて滞留させます。老舗グラスブランドのリーデルがブドウ品種ごとに専用グラスを作り分けているのも、この香りの設計を突き詰めた結果です。

温度ひとつで渋みも甘みも感じ方が変わる

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同じ一本のワインでも、飲む温度によって印象がまるで変わります。ワインは冷やすほど渋みと酸味が強く感じられ、逆に香りや甘みは感じにくくなる傾向があります。そのため、タンニンが少なく軽やかな赤ワインはやや低めの温度で、タンニンの多いフルボディの赤ワインは渋みが立ちすぎないよう、少し高めの温度で飲むのが向いています。

甘口ワインの場合はやや事情が異なり、温度を下げるほど甘さがべたつかずすっきりと感じられます。デザートワインをよく冷やして出す店が多いのは、この感じ方の変化を利用しているからです。

長期熟成させた赤ワインをデキャンタと呼ばれる別の容器にわざわざ移し替える人がいるのも、温度と同じく「感じ方」を調整するための工夫です。デキャンタージュには大きく二つの目的があり、一つは長期熟成でポリフェノールやタンニンが結晶化してできた澱を取り除くこと、もう一つは空気に触れさせることでワインの香りを開かせ、味をまろやかにすることです。同じ一本のワインでも、注ぐ器と手順ひとつでずいぶん印象が変わってきます。

料理との相性を決めているのは酸と脂の化学反応

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「魚には白ワイン、肉には赤ワイン」という組み合わせは、長らく「赤ワインのタンニンと魚を合わせると金属のような生臭さが出るから」と説明されてきました。ところが近年の研究で、タンニンの量と生臭さの強さは比例しないことが科学的に示されています。実際に生臭さを引き起こしているのは、魚に含まれる不飽和脂肪酸がワイン中の鉄イオンと結びついて酸化することで生じる過酸化脂質だと分かってきました。

白ワインが魚に合いやすいのは、その酸味が魚介の生臭さの原因であるアミン系のにおい成分(アルカリ性)を中和してくれるためです。赤ワインについても、タンニンが控えめでライトな味わいのピノ・ノワールやガメイのような品種であれば、魚料理と組み合わせても違和感なく楽しめます。肉と赤ワインの相性がよいのは、タンニンが肉の脂と結びつき、口当たりをまろやかにしてくれるからです。組み合わせのルールは絶対のものではなく、酸とタンニンと脂の化学反応から導かれた、あくまで傾向にすぎません。

ラベル表記の思想差とワインの起源

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ワインのラベルを見比べると、産地による考え方の違いに気づきます。フランスなどの旧世界のラベルは、ブドウ品種よりも産地名を前面に出す傾向があります。ワインの品質は土地の個性によって決まるという考え方が根底にあるためです。一方、アメリカやオーストラリアなどの新世界のラベルは、収穫年や産地に加えてブドウ品種までわかりやすく明記されていることが多く、初心者でも選びやすいデザインになっています。

このワインという飲み物自体の歴史をさかのぼると、最古の痕跡は現在のジョージアにたどり着きます。紀元前6000年ごろ、今から8000年ほど前の遺跡から、ブドウの種や果皮、ワイン醸造の痕跡が残る土器が発見されています。ジョージアには、クヴェヴリと呼ばれる素焼きの壺を地中に埋め、皮や種ごとブドウを漬け込んで発酵させる伝統技法が今も受け継がれており、2013年にはユネスコの無形文化遺産にも登録されました。近年の国際研究チームの調査では、ブドウの栽培化そのものは約11000年前に中東とコーカサス地方でほぼ同時に始まり、そこからヨーロッパやアジアへ広がっていったとする説も発表されています。数千年かけて広がったブドウの栽培と醸造の知恵が、果皮に触れさせる時間や発酵を止めるタイミングという細かな工夫の積み重ねとなって、今のワインの種類の豊かさにつながっているのです。

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参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times