男爵とメークインだけじゃない、ジャガイモの種類で味も食感も変わる理由

スーパーの野菜売り場には、いつも似たような顔をしたジャガイモが並んでいます。ですが、値札の隅に書かれた品種名に目をやると、男爵薯やメークインだけでなく、キタアカリやとうや、インカのめざめといった聞き慣れない名前が並んでいることに気づきます。ジャガイモは米や小麦、トウモロコシと並ぶ世界4大作物のひとつに数えられ、世界には2000種類、数え方によっては4000種類にのぼる品種が存在するといわれています。なぜこれほど多様な品種が生まれ、なぜ料理によって使い分ける必要があるのか。その背景には、南米の高地に始まる長い歴史と、でんぷんをめぐる化学が隠れています。

なぜ世界に2000種類以上ものジャガイモがあるのか

男爵とメークインだけじゃない、ジャガイモの種類で味も食感も変わる理由

ジャガイモの原産地は、南米ペルーからボリビアにかけてのアンデス山脈、標高3000メートルから4000メートルほどの高地です。この地域ではインカ帝国につながる古代文明が栄えており、寒暖差が激しく作物が育ちにくい環境の中で、人々は少しずつ性質の異なるジャガイモを選び出し、育て続けてきました。標高や気候が数キロ違うだけで土壌も日照も変わる高地では、一つの品種だけに頼るとその年の天候次第で収穫がまるごと失われてしまいます。リスクを分散するために、寒さに強いもの、乾燥に強いもの、味の濃いものといった具合に、多様な系統を並行して栽培する必要があったのです。

この積み重ねの結果、現在では世界に2000種類、数え方によっては4000種類にのぼるジャガイモの品種が存在するといわれています。日本国内でもおよそ20種類が実際に流通しており、スーパーで手に取る一個のジャガイモの背後には、何百年もかけて積み上げられた選抜の歴史が詰まっています。

「ジャガタライモ」がなまって生まれた日本語の名前

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ジャガイモという名前そのものにも、伝来の経路がそのまま刻まれています。江戸時代初期にあたる17世紀初頭、インドネシアのジャワ島にあった港町ジャガタラ(現在のジャカルタ)を拠点にしていたオランダ人が、貿易船を使ってこの芋を長崎に持ち込みました。当時の人々はこれを「ジャガタラから来た芋」という意味で「ジャガタライモ」と呼び、その呼び名が時間とともに縮まって「ジャガイモ」になったと伝えられています。

漢字で「馬鈴薯」と書く別名もよく見かけますが、これは中国から伝わった呼び方に由来するとされ、実った芋が馬の首にかける鈴に似た形をしていたことから名付けられたという説が知られています。同じ野菜に、伝来の経路を示す名前と、見た目の印象から生まれた名前という、由来のまったく異なる二つの呼び方が今も併存しているわけです。

男爵薯とメークインが料理で使い分けられる理由

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日本で最も広く知られている品種は、男爵薯とメークインです。この二つは見た目からして対照的で、男爵薯は表面がごつごつとした丸い形、メークインは表面がなめらかな細長い楕円形をしています。違いは形だけにとどまらず、加熱したときの食感がまったく異なります。男爵薯は加熱するとホクホクとした粉質の食感になり、コロッケやポテトサラダ、粉ふきいものように、いったん潰したり崩したりする料理に向いています。一方のメークインはしっとりとした粘質で、煮くずれしにくいため、肉じゃがやカレー、シチューなど、形を保ったまま煮込む料理に使われます。

この違いを生んでいるのは、細胞の中に蓄えられたでんぷんの量と、細胞同士を結びつける成分のバランスです。でんぷんを多く含む品種は加熱すると細胞と細胞の間がゆるみ、口に入れたときにほろりとほどけるような食感になります。逆にでんぷんが少なく水分保持力の高い品種は、細胞同士がしっかりとつながったまま柔らかくなるため、煮くずれしにくいしっとりとした仕上がりになるのです。品種を選ぶという行為は、実は仕上がりの化学的な性質を選んでいることにほかなりません。

代表的な品種と向いている料理の目安

品種名 食感の傾向 向いている料理
男爵薯 粉質でホクホク コロッケ、ポテトサラダ、粉ふきいも
メークイン 粘質でしっとり 肉じゃが、カレー、シチュー
キタアカリ 男爵薯よりさらに粉質 蒸しいも、サラダ、粉ふきいも
インカのめざめ 粘質できめ細かい 煮込み料理、そのままふかしいも
とうや なめらかで煮くずれしにくい 炒め物、煮物

キタアカリやインカのめざめ、紫色の品種まで広がる個性

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男爵薯とメークイン以外にも、家庭料理でよく見かける品種はいくつかあります。キタアカリは男爵薯と別の品種を交配して育成されたもので、果肉が濃い黄色をしており、男爵薯以上にホクホクとした粉質の食感と、栗のような風味を持っています。ビタミンCを比較的多く含むともいわれ、煮くずれしやすい性質から、サラダや粉ふきいも、蒸しいもに使うと持ち味が生きます。

インカのめざめは、アンデスの在来品種をもとに日本の栽培環境向けに改良された品種です。実は小ぶりですが果肉は鮮やかな黄色で、栗やナッツを思わせる甘みと香りが特徴です。きめが細かく煮くずれしにくい一方で、収穫後に芽が出るのが早く、長期保存には向かないという弱点も持っています。北海道生まれのとうやは、名前の由来になった洞爺湖にちなんだ品種で、でんぷんの含有量が控えめなため、他の品種ほどホクホクとはせず、なめらかな食感に仕上がります。

さらに変わり種として、断面まで鮮やかな紫色をしたシャドークイーンという品種もあります。紫色の正体はアントシアニンという色素で、一般的な紫肉の品種と比べても濃い色合いを持ち、加熱しても色が落ちにくいのが特徴です。同じく皮が赤紫のまだら模様になったグランドペチカは、見た目のインパクトから「デストロイヤー」の通称でも知られています。こうして並べてみると、それぞれの品種が生まれた土地や交配の経緯が、そのまま食卓での役割分担や見た目の個性につながっていることが見えてきます。

世界各地で全く違う顔を見せる調理法

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ジャガイモの面白さは、品種の違いだけでなく、国や地域によって驚くほど違う姿に変わる点にもあります。イタリアでは茹でて潰したジャガイモに小麦粉や卵を加え、もちもちとした食感のニョッキという主食に仕立てます。フランスの郷土料理アリゴは、マッシュポテトにチーズを練り込んで、伸びる粘りが出るまで混ぜ合わせたもので、まるでチーズフォンデュのような食べ方をします。イギリスではひき肉の上にマッシュポテトをかぶせて焼くシェパーズパイが定番で、インドではスパイスで味付けしたポテトを生地で包んで揚げるサモサが、屋台の軽食として親しまれています。

日本でおなじみのコロッケも、もとをたどればオランダのクロケットという料理にたどり着くとされています。マッシュしたジャガイモにパン粉をまとわせて揚げるという基本の構造は同じでも、国によって味付けや具材がまったく異なるものに変化していきました。アメリカで広く使われるラセット・バーバンクという品種は、ベイクドポテトやマッシュポテト、そしてファストフード店のフライドポテトにも使われており、国ごとに好まれる品種と定番料理がセットになって根付いていることがうかがえます。一つの野菜が大陸を越えるたびに全く違う名前と姿の料理に化けていくところに、ジャガイモという食材の懐の深さが表れています。

ポテトチップスとフライドポテトを支える裏方品種

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家庭の食卓だけでなく、加工食品の世界でも品種選びは重要な意味を持っています。ポテトチップス用として広く使われているトヨシロという品種は、1960年に北海道農業試験場で誕生しました。収量が多く、果肉が白いことからこの名前が付けられたとされています。加熱しても色が変わりにくく、薄く切って揚げても均一に仕上がる性質を持つため、工場でのポテトチップス製造に適した品種として長年使われ続けています。

フライドポテトの食感も、でんぷん質の量と種類によって大きく左右されます。でんぷんを多く含み粉質の品種は、揚げたときに内部の水分が抜けやすく、外はかりっと中はほくほくとした仕上がりになります。同じ「フライドポテト」という料理でも、店や商品によって食感に差があるのは、使っている品種そのものが違うからです。普段何気なく食べているスナックや外食メニューの向こう側にも、目的に合わせて選び抜かれた品種があるということです。

冷蔵庫で保存すると甘くなるという不思議

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ジャガイモは冷暗所での保存が基本といわれますが、実は低い温度で貯蔵すると甘みが増すという性質も持っています。これはでんぷんが酵素の働きによって糖に分解される「低温糖化」と呼ばれる現象によるものです。貯蔵温度が低いほどこの糖化が進みやすく、生食用の品種では長期間の低温貯蔵によって甘みが10倍以上になるという報告もあります。

ただし、この変化には代償もあります。でんぷんが糖に変わるということは、裏を返せばホクホクとした食感のもとになるでんぷんそのものが減っていくということです。甘みが増した分だけ粘質寄りの食感に近づき、揚げ物にすると糖分が焦げやすくなるため、低温で甘みを引き出したジャガイモは、揚げ物よりも煮込み料理に向いているとされています。同じ一つのジャガイモでも、保存の仕方によって味わいの方向性が変わっていくというのは、野菜売り場ではなかなか気づきにくい一面です。

加熱してもビタミンCが壊れにくい理由

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野菜に含まれるビタミンCは水に溶けやすく熱にも弱いため、茹でたり炒めたりする過程で失われやすい栄養素として知られています。ところがジャガイモの場合は事情が少し違います。加熱によってでんぷんが糊状に変化する糊化という現象が起きる際、でんぷんの粒がビタミンCを包み込むような形になり、熱や水への流出から守る働きをするとされているのです。

このため、他の野菜であればゆでるだけで大きく目減りしてしまうビタミンCが、ジャガイモでは比較的高い割合で残ります。とはいえビタミンC自体が水に溶けやすい性質を持つことに変わりはないため、茹でるよりも蒸す、あるいは皮ごと加熱する方法を選ぶと、より効率よく栄養を残せるといわれています。ホクホクとした食感を生み出しているでんぷんが、同時に栄養素を守る役割まで担っているというのは、ジャガイモという野菜が持つもう一つの合理性だといえます。

北海道が生産量の8割を占める理由

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日本のジャガイモ生産は、極端なまでに北海道に集中しています。全国の収穫量のおよそ8割を北海道が占めており、2位以下の産地とは大きな差があります。この偏りの背景には、ジャガイモがもともと冷涼な高地で育まれてきた作物であるという原点が関係しています。夏でも比較的涼しく、昼夜の寒暖差が大きい北海道の気候は、でんぷんをしっかり蓄えた質の良いジャガイモを育てるのに適した条件がそろっているのです。

広大な畑を大型機械でまとめて管理できる土地条件も、大量生産を可能にしている要因の一つです。ポテトチップスやフライドポテトといった加工用の需要を安定して支えられるだけの量を確保できるのも、この土地の広さと気候の組み合わせがあってこそだといえます。アンデスの高地から始まった作物が、地球の反対側にある北海道という冷涼な土地で最大の産地を築いているという巡り合わせも、ジャガイモという野菜が持つ不思議な縁の一つです。

芽や緑色の皮に毒が生まれる仕組み

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ジャガイモにまつわる話でよく知られているのが、芽や緑色になった皮の部分に毒があるという注意です。これはソラニンやチャコニンと呼ばれる天然の毒素によるもので、多く摂取すると吐き気やおう吐、腹痛、めまいといった症状を引き起こすことがあります。

この毒素が生まれる仕組みは、光に当たったジャガイモの表面で起きる変化と関係しています。ジャガイモが日光や照明の光を浴びると、表皮の近くで光合成に関わる緑色の色素クロロフィルが作られると同時に、防御のためのアルカロイドであるソラニンやチャコニンも一緒に作られます。つまり皮が緑色になること自体が毒の色というわけではなく、緑色になるのと同じ光の刺激によって、たまたま毒素も増えているのです。芽の部分に毒が集中しやすいのも、そこが新しい株として成長しようとする、いわば生命活動が最も活発な場所だからだと考えられています。冷暗所で保存し、緑化した皮や芽をしっかり取り除いて食べるという昔ながらの知恵は、この仕組みを踏まえた合理的な対処法だといえます。

飢饉を乗り越えて世界の主食になった歴史

男爵とメークインだけじゃない、ジャガイモの種類で味も食感も変わる理由

ジャガイモが世界に広まった道のりも、平坦なものではありませんでした。16世紀末、インカ帝国への遠征に加わったスペイン人によってジャガイモはヨーロッパへ持ち帰られましたが、当初は食料としてではなく、観賞用の花としてフランスの宮殿などで栽培されていたといいます。持ち帰られた品種はえぐみが強く、当時の人々の口には合わなかったためです。品種改良と栽培技術の工夫によってこのえぐみが取り除かれ、実用的な作物として定着するまでには、300年以上の年月がかかりました。

ジャガイモの評価が一変したのは、18世紀にヨーロッパを襲った度重なる飢饉がきっかけでした。冷涼な気候でも育ち、単位面積あたりの収穫量が穀物より多いジャガイモは、飢えに苦しむ人々を救う作物として見直され、急速にヨーロッパ全土へ広がっていきました。

一方で、ジャガイモへの依存が極端に高まっていたアイルランドでは、1845年から数年にわたり深刻な事態が起こります。当時のアイルランドでは肥沃な農地の多くがイギリス向けの牧草地や穀物栽培に使われ、農民には痩せた土地しか残されていなかったため、主食のほとんどをジャガイモに頼っていました。その状況下でジャガイモの疫病が大流行し、収穫が壊滅的な打撃を受けます。この大飢饉によって100万人以上が命を落とし、さらに多くの人々がイギリスやアメリカ、カナダなどへ移住していきました。今日のアメリカにアイルランド系の人々が多いのは、この飢饉が一つの大きな契機になっています。一つの野菜の不作が、大陸をまたぐ人の移動にまでつながったという事実は、ジャガイモという作物の重みを物語っています。

こうして歴史をたどってみると、スーパーの棚に並ぶ何気ない一個のジャガイモにも、アンデスの高地で積み重ねられた選抜の知恵、伝来の記録が刻まれた名前、でんぷんが生む食感の科学、そして飢饉を乗り越えてきた歴史が幾重にも重なっていることがわかります。次に売り場でジャガイモを手に取るときは、袋に書かれた品種名にも少し目を向けてみると、いつもの料理選びが違って見えてくるかもしれません。

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参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
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