名前の由来を知るともっと味わい深くなるカクテル一覧

バーのメニューに並ぶカクテルの名前は、どれも意味ありげで少し謎めいています。マンハッタン、モスコー・ミュール、キューバ・リバー。土地の名前や人名がついているものもあれば、道具の名前がそのまま使われているものもあります。実はこうした名前の裏には、戦争や独立運動、王室の異名、船乗りの知恵、バーテンダーのちょっとした失敗談まで、思いがけない歴史のかけらが隠れています。今回は代表的なカクテルの名前の由来と、味わいを決める作り方の技法を一覧でたどっていきます。知っている一杯も、注文するときの気持ちが変わってくるかもしれません。

「尻尾のような枝」から生まれたカクテルという言葉

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カクテルという言葉自体の語源にも諸説ありますが、よく語られるのはメキシコのユカタン半島にある町の酒場が舞台になった話です。バーテンダーが雄鶏の尻尾のような形をした木の枝を使って混ぜ酒をかき混ぜていたところ、それを見たイギリス人がその枝の名前を尋ねました。バーテンダーは自分が問われたのは酒の名前だと勘違いし、枝を指して「コーラ・デ・カジョ(雄鶏の尻尾)」と答えたそうです。これが英語に訳されて「テイル・オブ・コック」となり、やがてカクテルという呼び名に転じたという説明です。真偽を確かめる術はありませんが、カクテルという言葉そのものに、名付けにまつわる勘違いや偶然が刻まれているのは興味深いところです。カクテルが飲み物として大きく花開いたのはアメリカで、19世紀後半にはマンハッタンやマティーニのような定番が次々と誕生しました。禁酒法時代にバーテンダーたちがヨーロッパへ渡ったことで、アメリカ式のバー文化が世界標準として広まっていったともいわれています。

ビルド、ステア、シェイク、フロート、技法で変わる仕上がり

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同じ材料を使っても、混ぜ方が違えば口当たりはまったく別のものになります。グラスに材料をそのまま注いで軽くかき混ぜる方法はビルドと呼ばれ、炭酸を使うロングカクテルによく使われます。炭酸を強く動かさずに済むため、泡立ちを保ったまま仕上げられるのが利点です。氷を入れたミキシンググラスの中でバースプーンを使って静かに回すのはステアという技法で、空気を含ませずに冷やすため、透明感のあるシャープな口当たりに仕上がります。マティーニのように濁りを嫌うカクテルはほとんどがこの方法で作られます。反対に、シェイカーに材料と氷を入れて激しく振るシェイクは、空気を含ませることでまろやかな舌触りを生み出す技法です。卵白や生クリームなど混ざりにくい材料を使うときにも欠かせません。さらに、比重の違いを利用して液体を層状に重ねるフロートという技法もあります。糖分を多く含む液体ほど比重が重くなる性質を利用し、下から順に静かに注ぐことで美しいグラデーションを作り出します。同じ材料でも技法が変わるだけで見た目も味わいも大きく変わってくる、これがカクテルの奥深さのひとつです。

グラスの形ではなく飲み干す時間で分かれるショートとロング

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カクテルはショートとロングという分類で呼ばれることもあります。この呼び分けは実はグラスの高さではなく、飲み干すまでにかかる時間を基準にしています。ショートカクテルは10分から20分ほどで飲み切ることを想定して作られており、氷を入れずに提供されるため、時間がたつと温度が上がってぬるくなってしまいます。マティーニやマンハッタンのように、脚付きのカクテルグラスに注がれてアルコール度数が高めのものが多いのはこのためです。一方のロングカクテルは、背の高いグラスにたっぷりの氷を満たし、ソーダやトニックウォーター、果汁で割って仕上げます。氷が溶けきるまで冷たさが保たれるため、時間をかけてゆっくり味わうのに向いており、アルコール度数も比較的控えめです。同じ材料の組み合わせでも、氷の量や割るものの量を変えるだけでショートにもロングにもなり得るという点も、カクテルという飲み物の面白いところです。

血の色をまとった女王の異名、ブラッディ・メアリー

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トマトジュースをベースにした赤いカクテル、ブラッディ・メアリーの名前は、16世紀のイングランド女王メアリー1世の異名に由来するといわれています。メアリー1世はカトリックを国教に戻そうとする過程で多くのプロテスタントを処刑したことから、後世「血まみれのメアリー」と呼ばれるようになりました。真っ赤なトマトジュースの見た目が血の色を連想させることから、この物々しい異名がそのままカクテルの名前として使われるようになったというわけです。飲みやすい味わいとは裏腹に、名前の由来をたどると宗教対立の歴史にたどり着く、そんなギャップもこのカクテルの面白さといえます。

独立を祝う合言葉がそのまま名前になったキューバ・リバー

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ラムをコーラで割るだけのシンプルなキューバ・リバーは、名前そのものが歴史の合言葉です。19世紀末、スペインの支配下にあったキューバは独立戦争を起こし、アメリカがスペインに勝利したことで独立を果たしました。このとき掲げられていたスローガンが「自由なキューバ万歳」を意味する言葉で、その一部がそのままカクテルの名前になったといわれています。独立を喜んだ人々が、自国特産のラム酒をアメリカ特産のコーラで割って祝杯をあげたという逸話も伝えられており、ラムとコーラという組み合わせ自体に、当時の両国の関係性が映し出されているようにも見えます。

壊血病を防ぐための処方が定番になったギムレット

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ジンとライムジュースだけで作るシンプルなギムレットには、航海と健康にまつわる由来が伝えられています。19世紀の終わり、イギリス海軍の将校たちは夕食前に強いジンをそのまま飲む習慣がありましたが、空腹の状態で強い酒を飲むことを心配した軍医が、当時壊血病の予防に効果があるとされ艦船に積み込まれていたライムジュースでジンを割って飲むことを提案しました。この飲み方が広まり、提案した軍医の名前にちなんでギムレットと呼ばれるようになったという説です。もうひとつ、樽に穴を開ける錐のような工具の名前が由来になったという説もあり、鋭い酸味を工具の切れ味になぞらえた言葉遊びとも解釈されています。健康への配慮から生まれた一杯が、やがてハードボイルド小説の主人公が好む酒として定番化していったのも面白い流れです。

工具で混ぜたのがそのまま名前になったスクリュードライバー

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ウォッカとオレンジジュースを合わせるだけのスクリュードライバーは、名前の直訳がそのまま「ねじ回し」という道具の名前です。由来として語られるのは、油田で働くアメリカ人作業員たちの逸話です。喉の渇きを癒すためにウォッカとオレンジジュースを混ぜようとしたものの、手元にマドラーやバースプーンがなく、代わりに持っていたねじ回しでかき混ぜたことからこの名前がついたといわれています。イランの油田が舞台という説とテキサスの油田が舞台という説の両方が伝わっており、どちらが正しいかは定かではありませんが、道具さえあれば誰でも作れる気取らない一杯という性格を、名前がそのまま体現しているともいえそうです。

ロバの蹴りにたとえられたモスコー・ミュール

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銅製のマグカップで提供されることで知られるモスコー・ミュールは、1946年にハリウッドのバーテンダーが考案したと伝えられています。もともとは別のカクテル用に仕入れていたジンジャービアが大量に売れ残り、同じく売れずに困っていた友人の銅製マグカップとあわせて、ウォッカとジンジャービアを組み合わせたところ評判になったという成り立ちです。名前の「モスコー」はロシアの代表的な酒であるウォッカを使っていることにちなみ、「ミュール」は馬とロバの交雑種であるラバを意味します。ラバは後ろ足で強く蹴る習性があることから、パンチの効いた飲み口をその蹴りにたとえて名付けられました。在庫処分という地味な事情から生まれた一杯が、今では定番として世界中のバーに並んでいるのも興味深いところです。

常連客の好みから生まれたネグローニ

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ジン、ベルモット、カンパリを等量で混ぜる赤いネグローニは、実在した貴族の名前がそのままついたカクテルです。フィレンツェの老舗レストランに通っていたカミーロ・ネグローニ伯爵が、定番だったカクテルのソーダをジンに変えて注文したことがきっかけとされています。この常連客のオーダーを気に入った店のバーテンダーが、伯爵の名を冠してこのカクテルを世に広めたと伝えられています。苦味の強いカンパリが効いた大人の味わいは、美食家として知られた伯爵の好みそのものだったのかもしれません。

ひな菊という意味を持つマルガリータ

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テキーラベースの代表格であるマルガリータは、スペイン語で「ひな菊」を意味する言葉です。女性の名前としても一般的に使われる言葉でもあります。由来にはいくつもの説があり、禁酒法時代より前から存在していたデイジーというカクテルがテキーラの普及とともに姿を変え、デイジーのスペイン語訳であるマルガリータと呼ばれるようになったという説明がひとつ。もうひとつは、特定の人物がコンテストのために考案したという人名由来の説です。研究者の間でも決定的な証拠は見つかっておらず、いまだに「元祖」を名乗る逸話がいくつも並立しているのも、長く愛されてきたカクテルらしい話といえます。

大統領選のパーティーから生まれたマンハッタン

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ウイスキーとベルモットで作るマンハッタンは、カクテルの女王とも呼ばれる存在です。有力な説として語られるのは、19世紀後半のアメリカ大統領選のさなか、ニューヨークのマンハッタン・クラブで開かれた候補者を歓迎するパーティーで振る舞われたのが始まりというものです。会場の名前がそのままカクテルの名前になったとされています。カクテルの王様と呼ばれるマティーニと対にして語られることが多く、どちらも人気カクテルの代表格として今も多くのバーで注文され続けています。

夕焼けをイメージして作られたシンガポール・スリング

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鮮やかなピンク色が特徴のシンガポール・スリングは、1915年にシンガポールのラッフルズホテルのバーテンダーが考案したと伝えられています。小説家サマセット・モームが称賛したというシンガポールの美しい夕焼けをイメージして作られたトロピカルカクテルの代表格です。ただし誕生してしばらくは甘すぎると敬遠され、1930年代後半には一度レシピごとメニューから姿を消してしまったという意外な過去もあります。現在ではホテルの名物として世界中から観光客が訪れるほどの人気を取り戻しており、一杯の陰にも浮き沈みの歴史があることを教えてくれます。

バイクの側車にちなんで名付けられたサイドカー

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ブランデーをベースにしたサイドカーは、名前の由来として第一次世界大戦中に活躍した側車付きのオートバイが挙げられることが多いカクテルです。このカクテルを愛飲していた客がいつもバイクの側車、つまりサイドカーに乗って店を訪れていたことから名付けられたという説が広く知られています。誕生の経緯や考案者についても複数の説が伝わっており、19世紀半ばのニューオーリンズで生まれたブランデーベースのカクテルが原型になったという見方もあります。乗り物の名前がそのまま酒の名前になるという発想自体が、当時の人々にとってオートバイがいかに新しく象徴的な存在だったかを物語っているようにも感じられます。

横浜のホテルから世界に広まったバンブー

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シェリー酒とベルモットを組み合わせたバンブーは、日本で生まれたカクテルとして紹介されることが多い一杯です。横浜グランドホテルの総支配人兼バーテンダーとして招かれていたドイツ出身のバーテンダーが考案したと伝えられ、横浜を訪れた客や太平洋航路の船旅を通じて世界に知られていったとされています。竹をイメージした名前は、日本らしさを打ち出すための命名だったとも考えられています。ただし近年の研究では、バンブーと同じ名前のカクテルが日本での誕生より前からニューヨークの酒場で飲まれていたという記録も見つかっており、必ずしも日本生まれと言い切れない面もあることが分かってきました。同じ人物が考案したとされるミリオンダラーというカクテルもあわせて、横浜発祥のカクテルとして語り継がれています。

海賊が伝えた飲み方が土台になったモヒート

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ラムにミントとライム、ソーダを合わせるモヒートの起源は、16世紀後半までさかのぼるといわれています。イギリスの海賊フランシス・ドレークの部下がキューバの人々に伝えたとされる「ドラケ」という飲み物が前身で、当時はラムの前身にあたる粗い蒸留酒に砂糖、ライム、ミントを混ぜたものでした。ハバナで疫病が流行した際には、この飲み物が木のスプーンとともに医療目的でもふるまわれていたという記録も残っています。19世紀後半になって、バカルディ社がこの蒸留酒を自社のホワイトラムに置き換えてモヒートと呼ぶようになり、現在の形に近づいていきました。名前の語源についても、軽い魔法をかけるという意味を持つ言葉が変化したという説や、カナリア諸島の調味料の名前に由来するという説があり、はっきりとは分かっていません。海賊の航海術と病を癒す知恵、その両方が一杯のグラスに溶け込んでいるとすれば、爽やかな味わいの奥に思いのほか重い歴史が横たわっていることになります。

地元ワインを救うために市長が考案したキール

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白ワインにカシスリキュールを少量合わせるキールは、フランスのディジョン市長を長く務めた人物が考案したという、由来がはっきりしている珍しいカクテルです。第二次世界大戦後、ブルゴーニュ地方の名産である白ワインの売れ行きが振るわず、地元経済にとって大きな痛手となっていました。この状況を打開しようと、当時の市長が地元産の辛口白ワインとカシスリキュールを組み合わせたカクテルを考案し、公式の会合を開くたびに食前酒としてふるまうようになります。地元の名産品を組み合わせただけのシンプルな一杯でしたが、市長自身の名前がそのままカクテルの名前として定着し、今では世界中のバーで親しまれる定番になりました。政治家が地域振興のために作った飲み物がここまで広まった例は、カクテルの歴史の中でも珍しい部類に入ります。

花言葉のようにカクテルにも意味を持たせるカクテル言葉

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花にそれぞれ花言葉があるように、カクテルにも一杯ごとに意味を持たせた「カクテル言葉」という文化があります。見た目の色や味わい、名前の由来になったエピソードにちなんで言葉が割り当てられており、20世紀初頭から少しずつ広まっていったとされています。花言葉よりは新しい文化ですが、バーで相手にカクテルを注文することで、直接口にしにくい気持ちを代わりに伝える手段として使われてきました。名前の由来を知ったうえでカクテル言葉まで重ねて考えると、一杯のグラスに込められた意味の層がさらに増えていきます。次にバーのカウンターに座ったときは、味わいだけでなく、名前にまつわる物語にも耳を傾けてみると、いつもの一杯がまた違った表情を見せてくれるはずです。

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参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times