県境一覧、3歩で三県を制覇できる場所から店内を貫く境界線まで
県境はいつ、どうやって引かれたのか

普段何気なく地図で見ている県境ですが、その多くは江戸時代の藩の領地をそのまま受け継いだものではありません。1871年(明治4年)7月の廃藩置県によって、それまで全国各地にあった藩はいったん県として再編され、最初の段階では3府302県という非常に細かい区割りになりました。ところがこの数はあまりに実務的でなかったため、わずか4カ月後の同年10月から11月にかけて、隣り合う県同士を統合する「第一次府県統合」が行われ、3府72県まで一気に絞り込まれます。その後も1879年の沖縄県設置で1使3府36県、1886年の北海道庁設置を経て1888年には1道3府43県となり、ようやく現在に近い姿へと落ち着きました。
この過程で重視されたのが、境界を誰の目にも分かる明確な一本の線として示すことでした。旧来の藩境は集落や田畑の所有関係に沿って複雑に入り組んでいましたが、中央集権的な行政を敷くうえでは、そうした曖昧な境界は都合が悪かったのです。県境の確定作業は各府県同士の折衝を経て、最終的には明治政府が認可するという形で進められました。住民の意向がそのまま反映されたわけではなく、あくまで国の統治上の都合が優先された結果として、現在私たちが目にしている県境の直線的な部分の多くは、こうした近代国家建設の名残でもあるわけです。
実は、今の47都道府県という区割りも、あと一歩で違う姿になっていた可能性があります。1903年(明治36年)、当時の桂太郎内閣は「交通機関発達の今日、府県区域の拡張を計る」という理由のもと、岩手・山形・群馬・茨城・埼玉・山梨・富山・福井・岐阜・静岡・滋賀・奈良・和歌山・鳥取・山口・徳島・佐賀・大分・宮崎の19県を廃止し、全国を28の道府県に再編する法案を閣議決定しています。ところが、その2カ月後に日露戦争が始まって議会が解散し、この案は一度も国会に提出されないまま立ち消えになりました。もしこの「幻の28府県案」が実現していたら、私たちが今見ている県境の地図はまったく違うものになっていたはずです。
隣接する県の数がいちばん多い都道府県はどこか

県境をめぐるトリビアとして定番なのが、いくつの都道府県と接しているかというランキングです。内陸に位置し、山地を挟んで多方向に平野が広がる県ほど、隣接県の数が多くなる傾向があります。
| 順位 | 都道府県 | 隣接する都道府県の数 |
|---|---|---|
| 1位 | 長野県 | 8(群馬・埼玉・新潟・富山・山梨・岐阜・静岡・愛知) |
| 2位 | 埼玉県 | 7 |
| 2位 | 岐阜県 | 7 |
| 4位 | 福島県 | 6 |
| 4位 | 三重県 | 6(岐阜・愛知・滋賀・京都・奈良・和歌山) |
| 4位 | 京都府 | 6 |
長野県が8県という圧倒的な数で1位になっているのは、県の中央を険しい山脈が走り、そこから四方八方へ平野部が広がっているためです。一方の三重県は、中部地方と近畿地方をつなぐ結節点にあたる位置に細長く伸びているため、名古屋圏と大阪圏の両方に接する6県もの隣接県を抱えることになりました。反対に、海に囲まれた北海道と沖縄県は、陸続きの隣接県を一つも持ちません。同じ日本国内でありながら、県境の数だけを見ても地形の個性がくっきり表れてくるのは面白いところです。
三県が一点で交わる「三県境」という場所
二つの県が接する県境はいたるところにありますが、三つの県境がぴたりと一点に集まる場所は「三県境」と呼ばれ、全国でもかなり限られたスポットにしか存在しません。トリビア情報サイトの集計によれば、全国におよそ48カ所の三県境があるとされ、なかでも先ほど登場した三重県が関わる三県境が9カ所ともっとも多くなっています。中部と近畿の境目に位置し、6つもの県と隣接しているという地理条件が、そのまま三県境の多さにも直結しているわけです。
三県境の多くは、人が簡単に立ち入れない山の頂上や川の中央に位置しています。山にできる三県境には「三国山」「三国岳」といった、その成り立ちをそのまま表した名前が付けられている場所も少なくありません。旅行情報サイトの調査では、京都府だけでも府内に5カ所もの三府県境が存在するとされており、一つの都道府県がいくつもの三県境を抱えているケースも珍しくないようです。普段は意識しない県境ですが、三方向から異なる自治体の境界線が寄り集まる地点だと考えると、地図の上にしかない線が急に立体的な場所として感じられてきます。
なお、三県境とよく混同されるのが「飛び地」です。三県境が境界線同士の交わる一点を指すのに対し、飛び地は本来の県域から切り離されて別の県の中にぽつんと浮かんでいる区域のことを指します。どちらも県境が生み出した地図の不思議ですが、成り立ちの仕組みはまったく別物だという点は押さえておきたいところです。
徒歩3歩で三県を制覇できる関東の三県境

数ある三県境の中でも観光名所として知られているのが、群馬県板倉町、栃木県栃木市、埼玉県加須市が接する三県境です。ほとんどの三県境が山頂や川の中に位置していて簡単には到達できないのに対し、ここは全国で唯一、平地にある三県境として知られています。
この場所はもともと旧渡良瀬川の流路の一部でしたが、河川改修工事によって流れが変わり、渡良瀬遊水地の造成にともなって周辺が埋め立てられたことで、現在のような平らな地面に変わりました。この渡良瀬遊水地は栃木・群馬・埼玉・茨城の4県にまたがる本州最大級の遊水地で、2012年にはラムサール条約の湿地としても登録されており、面積の9割ほどを栃木県側が占めています。三県境はその一角にひっそりと存在しているわけです。
結果として、訪れた人はものの数歩を歩くだけで群馬県、栃木県、埼玉県という三つの県を渡り歩くことができます。国境をまたぐには飛行機やパスポートが必要になることが多いのに対し、県境なら数歩の散歩で三つの自治体を制覇できてしまうというギャップが、この場所の人気の理由になっています。
川の蛇行がそのまま境界に残った県境

県境には、河川そのものを基準に引かれているものが数多くあります。ところが川というのは長い年月の間に少しずつ流路を変えていく性質があり、境界線を引いた当時の流れと、現在の実際の流れとがずれてしまうケースが各地で起きています。
東京都町田市と神奈川県相模原市の間を流れる境川はその代表例です。もともと蛇行していた境川は、たびたび氾濫を起こしていたため、東京都と神奈川県は改修工事によって流れを緩やかに整えました。ところが、行政上の境界線は改修前の川筋のまま残されたため、境川の南側に町田市の土地があったり、北側に相模原市の土地があったりと、複雑な飛び地状態が生まれてしまいました。この不便を解消するため、両市は2020年12月から段階的に行政境界の変更を進め、実際の川筋と行政区分をなるべく一致させる取り組みを続けています。
同じような問題は東京都と千葉県の間を流れる江戸川でも起きています。もともと江戸川の中央にあった境界線は、1919年に江戸川放水路が開削され、1943年に水門が完成して旧江戸川の流れが変わったことで、地図上の境界と実際の土地の形が食い違うようになりました。全国にはこうした境界未確定地が17カ所ほど残っているとされ、そのうち東京都が関わるものが3カ所ともっとも多いというのも、意外と知られていない事実です。県境というものが一度引かれたら未来永劫動かない絶対的な線ではなく、暮らしの実情に合わせて調整されていくものだと分かる好例です。
山頂や海底に引かれた、目に見えない県境

県境の中には、そもそも境界線そのものが確定していない場所も存在します。もっとも有名なのが富士山の山頂付近です。江戸時代の地誌にはすでに「八合目より頂上に至りては、両国の境なし」という記述が残されており、静岡県と山梨県のどちらに帰属するかが定まらないまま現在に至っています。明治時代に一度は境界調査が行われたものの、両県の主張が折り合わず、結論は棚上げにされてきました。2014年に富士山が世界文化遺産に登録された際にも県境問題が話題になりましたが、最終的に両県は「県境をあえて定めない」という形で合意しています。
一方、海の下に県境が引かれている場所もあります。本州の山口県下関市と九州の福岡県北九州市の間に横たわる関門海峡では、県境は海面ではなく海の中を通っています。1958年に開通した関門トンネルには、車道とは別に全長780メートルの歩行者専用の人道が設けられており、徒歩でおよそ15分かけて渡ることができます。ちょうどトンネルの中間あたりに山口県と福岡県の境目があり、海底を歩きながら本州と九州を渡り歩けるという、ほかにはない体験ができる場所です。
逆に、隣り合っているのに簡単には渡れない県境もあります。群馬県と福島県の間にはおよそ17キロメートルにわたって県境が続いていますが、その間を結ぶ自動車道路は一本も通っていません。境界の大部分が尾瀬ヶ原の湿原にかかっているため、車で群馬県側から福島県側へ抜けようとすると、大きく迂回するほかないのです。同じ県境でも、テーブルをまたぐだけで渡れる場所もあれば、車では一歩も踏み出せない場所もあるという振れ幅の大きさが、県境というものの奥深さを物語っています。山の上にも海の底にも、そして湿原の真ん中にも、目には見えない境界線が確かに存在しているのです。
建物や商店の中を通り抜けている県境

県境は自然の地形だけでなく、人間が建てた建物の中まで平然と貫いていることがあります。もっともよく知られているのが、京都府木津川市と奈良県奈良市にまたがる「イオンモール高の原」です。建物の北側およそ6割が京都府、南側およそ4割が奈良県に属しており、全国にあるイオンモールの中でも県境をまたいでいるのはこの店舗だけとされています。店内のフロアには県境を示すラインがはっきりと描かれ、その上にテーブルが設置されているため、買い物客は知らないうちに府県境をまたいで食事をしていることになります。
見た目には一つの建物でも、行政上は別々の自治体として扱われるため、事業税は木津川市と奈良市のそれぞれに納められ、ごみの分別ルールも境界を挟んで異なるといいます。停電の範囲や事故が起きた際の管轄がどちらになるのかといった素朴な疑問が生まれるのも、県境が買い物という日常のすぐそばを通っているからこそです。
先ほど紹介した町田市と相模原市の境界付近でも、似たような光景が見られます。大型量販店の建物のほとんどが神奈川県相模原市に位置していながら、建物の角や駐車場の一部だけが東京都町田市にまたがっているという状態が実際に確認されており、この種の「店内県境」を訪ね歩くこと自体をテーマにした記事がインターネット上には数多く存在します。地図の上では細い線一本でしかない県境が、実際にはレジの前やフードコートのテーブルの真ん中を横切っているというギャップに、多くの人が驚かされています。
秘境駅のホームに立つ三県境の標識

鉄道ファンの間で知られる「秘境駅」の代表格、JR飯田線の小和田駅も、県境が生んだ名所のひとつです。駅は静岡県浜松市天竜区に位置しますが、天竜川を挟んだ対岸は愛知県豊根村、上流側は長野県天龍村と接しており、実際の三県境は駅のすぐそばを流れる天竜川の中にあります。
周辺の集落の多くはダム建設にともなってできた佐久間湖に沈み、駅へ通じていた道路も失われたため、現在は列車以外での訪問がほぼ不可能な陸の孤島となっています。それでもホームには三県境をアピールする標識が設置されており、秘境駅ブームの火付け役となった書籍で全国3位に選ばれるなど、県境という切り口が観光資源になっている珍しい例です。
本来、駅というのは人の暮らしのすぐそばにあって当たり前の施設です。ところが小和田駅の場合は、周りに暮らす人がほとんどいなくなってもなお、三県境という地理的な特異点であることだけを理由に、鉄道ファンや旅好きが列車を乗り継いでわざわざ足を運び続けています。人里離れた場所にあるからこそ、県境という目に見えない線の存在感がかえって際立っている好例です。
隣接する県がひとつもない都道府県

最後に、県境そのものを持たない都道府県にも触れておきます。北海道と沖縄県は、どちらも海に囲まれているため、陸続きで接する都道府県が一つもありません。本州から離れた場所にあるという地理的な条件が、そのまま県境の有無という形で表れているわけです。北海道の場合は本州との間に津軽海峡が、沖縄県の場合は九州との間に広い海域が横たわっており、県境をめぐる調整や折衝そのものが生じない、ある意味では例外的な立場にあります。
長野県のように8つもの県と隣接する場所がある一方で、まったく隣接県を持たない場所もある。同じ日本国内の都道府県でありながら、県境の数だけでこれほど極端な違いが生まれるのは、地形と歴史が積み重なってできた面白さだと言えます。
普段の生活ではまたぐことも意識しない県境ですが、少し掘り下げてみると、明治政府による中央集権化の都合から川の蛇行、ショッピングモールの間取りに至るまで、実にさまざまな理由が絡み合ってできていることが見えてきます。数歩で三県を制覇できる場所があれば、隣り合っているのに車では一歩も踏み出せない場所もあり、店内のテーブルの上を境界線が横切っている場所もある。一本の線の裏側には、それぞれまったく異なる背景が隠れています。次に地図を眺めるときは、県境の線がどんな経緯でそこに引かれたのか、少し想像してみると新しい発見があるかもしれません。
参考
- 三県境|3歩で三県を制覇!全国で唯一平地にある県境で北関東の三県を秒で回ろう
- 平地の三県境 | とちぎ旅ネット
- 「三県境(さんけんきょう)」3つの都府県境が一点に集まる箇所を地図で見る
- 隣接都道府県/隣接県《三重県》
- 京都にある全5カ所の3府県境を探索!境界には何がある?
- なぜ富士山頂に境界がないのか?
- 行政境界の変更|相模原市
- 東京にも領土問題 千葉・埼玉との境界が未確定
- 道がないんです1本も 日本で唯一「車で移動できない県境」とは?
- 関門トンネル人道
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- 【一覧・表付き】隣接都道府県ランキング!1位は長野県で8都道府県と隣接
- JR飯田線・小和田駅で静岡県と愛知県と長野県の県境標識を眺めてきた
- 不思議な県境には廃藩置県の歴史的な経緯あり
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