なぜ「チェキ」はエモいのか?撮り直しできない不便さが愛される理由と、味のある撮り方

この記事でわかること

  • 「エモい」画質の正体:デジタルとは違う、化学反応が生み出す「天然の美肌フィルター」の仕組み
  • 不便さのメリット:撮り直しができないからこそ生まれる「一瞬の重み」と「失敗の価値」
  • 心理的な効果:なぜスマホの写真よりも、手元に残るチェキの方が愛おしく感じるのか
  • 味のある撮り方:フラッシュや多重露光を使って、誰でもプロっぽい写真を撮るコツ

今の時代、スマホがあれば4Kや8Kといった超高画質な写真が誰でも撮れますよね。AIが自動で補正してくれて、失敗したらすぐに削除して撮り直せる。そんな「完璧な写真」が当たり前の世の中で、なぜ今、アナログなインスタントカメラ「instax(チェキ)」が世界中で大人気なのでしょうか?

実は、チェキの売上は一度落ち込みましたが、そこから奇跡の「V字回復」を遂げ、今では過去最高の売上を記録しています。

私たちが完璧なデジタル画像にちょっと疲れてしまった今、チェキが持つ「不便さ」や「画質の粗さ」こそが、逆に心を揺さぶる「エモさ」として再評価されているのです。

この記事では、「なぜチェキはエモいのか?」という謎を、化学や心理学、そして哲学の視点から、わかりやすく解き明かしていきます。

「記録」する道具から「プレゼント」する道具へ

「シェア」の意味が変わった

かつてカメラは、旅行の思い出をきれいに「記録」してアルバムに残すためのものでした。でも今は、記録ならスマホで十分ですよね。

チェキが復活した最大の理由は、その役割が「記録」から「コミュニケーション」に変わったことにあります。

スマホで画像をSNSにアップするのも「シェア(共有)」ですが、チェキは撮ったその場でプリントが出てきます。世界に一枚しかないその写真を、目の前の友達に手渡す。「これあげる!」といってプレゼントする行為そのものが、デジタルにはない温かいコミュニケーションになっているのです。「Cheki(チェキ)」の名前の由来が、英語の「Check it(要チェック)」から来ているように、その場ですぐに確認して盛り上がれることが最大の魅力なんですね。

「エモい画質」の科学〜ふんわり映る化学の魔法〜

チェキの写真って、全体的にふんわりしていて、肌がきれいに見えたり、どこか懐かしい色合いだったりしますよね。実はこれ、ただの「画質の悪さ」ではなく、計算された化学反応の結果なんです。

「拡散」が生む天然の美肌フィルター

デジタルの写真は、小さな点の集まり(ピクセル)でできていて、境界線がくっきりしています。一方、チェキのようなインスタントフィルムは、「現像液」という化学薬品がフィルムの中でじわーっと広がることで色が生まれます。

この仕組みを「拡散転写法」と言います。

インクが紙に染み込むように、色がわずかに滲(にじ)みながら広がるため、境界線が自然にぼやけます。これが「天然のソフトフォーカス機能」として働き、肌の細かい凹凸や毛穴を隠して、ふんわりと美しく見せてくれるのです。いわば、化学反応が勝手に「美肌加工」をしてくれているようなものですね。

不規則な粒子が「深み」を作る

デジタルのノイズ(ザラザラ感)は不快に感じることが多いですが、フィルムの粒子(グレイン)は不思議と心地よく感じませんか?

これは、フィルムの色が「ダイ・クラウド(色素の雲)」という、不規則で有機的な形をしているからです。私たちの脳は、機械的な規則正しい並びよりも、自然界にあるようなランダムな並びの方を「温かみ」や「質感」としてポジティブに受け取る傾向があります。これが「エモさ」の正体の一つです。

失敗できないから尊い。「一回性」の哲学

「撮り直し不可」が生む集中力

スマホなら「とりあえず10枚撮って、後で選ぼう」となりますが、チェキは1枚撮るのにフィルム代(約70〜100円)がかかりますし、失敗しても消せません。

この「もったいない」「失敗できない」というプレッシャーが、実はとても重要なんです。

「この瞬間はフィルムに残す価値がある!」と決断してシャッターを切る。その真剣さが、写真に魂を吹き込みます。実存哲学や写真論の分野でも、「簡単には撮れない」という不便さ(希少性)こそが、写真の価値を高めると考えられています。

「偶然の失敗」が心を打つ(プンクトゥム)

フランスの哲学者ロラン・バルトは、写真には「ストゥディウム(一般的な関心)」と「プンクトゥム(心に刺さる偶然の要素)」の2つがあると言いました。

デジタル写真は加工して完璧な状態(ストゥディウム)を目指しますが、チェキは修正できません。だからこそ、ふとした表情の崩れや、予想外の光の入り込みといった「失敗」がそのまま残ります。

でも、その予期せぬ「失敗」こそが、後で見返した時に「あ、この時の空気感、懐かしいな」と心をチクッと刺激する「プンクトゥム」になるのです。完璧じゃないからこそ、リアルな思い出として記憶に残るんですね。

誰でも「味」が出せる!おすすめの撮影テクニック

チェキの特性を活かせば、誰でも簡単に「エモい」写真を撮ることができます。ここでは、少し知的なテクニックを紹介します。

暗闇でフラッシュ:「あなたと私」だけの世界を作る

暗い場所でチェキのフラッシュを使うと、背景が真っ暗になって、被写体だけが明るく浮き上がりますよね。

これは「トンネル効果」とも呼ばれ、物理的には光が距離の二乗に反比例して弱くなる現象を利用したものです。

背景の情報が消えることで、「広い世界の中で、今ここには私とあなたしかいない」というような、親密で秘密めいた雰囲気を演出できます。

多重露光:記憶を重ねるアート

一部の機種(instax mini 90など)には「多重露光モード」があります。これは1枚のフィルムに2回シャッターを切って、映像を重ねる機能です。

コツは「暗い部分(影)に、次の映像が重なる」という性質を利用すること。

例えば、1回目に逆光で友達の横顔(シルエット)を撮り、2回目に綺麗な花柄を撮ると、影になっていた友達の顔の中に花が咲いたような、幻想的な写真が撮れます12。まるで記憶と記憶が重なり合ったような、芸術的な1枚になりますよ。

「待つ時間」を楽しむ

撮影した後、写真が浮かび上がってくるまでの約90秒間。真っ白なフィルムを囲んで「ちゃんと撮れてるかな?」「あ、顔が出てきた!」とワクワクする時間も、チェキ体験の一部です。

待ち時間を排除しようとする現代において、この「待つことの豊かさ」はとても貴重なエンターテインメントになっています。

おわりに

なぜチェキはエモいのか。

それは、高画質なデジタルの世界が忘れてしまった「不完全さ」と「一度きり」という価値を思い出させてくれるからです。

  • 化学反応による「ゆらぎ」が、記憶のように曖昧で優しい画質を作る。
  • 撮り直しができないからこそ、その一瞬が宝物になる。
  • 物理的な「モノ」として手渡すことで、思い出の重みが伝わる。

私たちは、あまりにも鮮明すぎるデジタルの世界に少し疲れて、チェキの曖昧な写真の中に、自分たちの「記憶の居場所」を見つけているのかもしれません。

次にチェキのシャッターを押すときは、ぜひ「この失敗できない緊張感」と、じわじわと像が浮かび上がってくる「化学反応の不思議」を楽しんでみてください。きっと、世界がいつもより少しだけ愛おしく見えるはずです。

参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times