タピオカの次は?「台湾スイーツ」が日本で流行し続ける「3つの理由」と構造分析

この記事でわかること

  • タピオカブームの"本当の正体":なぜあれほど熱狂したのか?「Q」という食感、SNS映え、行列心理という3つのシステムを解剖
  • 台湾スイーツが"繰り返し"流行る理由:豆花、芋圓、台湾カステラ…タピオカの後も台湾が選ばれ続ける「3つの土壌」とは
  • 「低ギルト」という魔法の免罪符:「ヘルシーだから」と心のブレーキを外させる、台湾スイーツ最大の構造的強み
  • 日本人が台湾に抱く"特別な感情":旅の記憶、文化的親近感、信頼…私たちを無意識に動かす「情緒のシステム」
  • ポスト・タピオカ時代の4つの進化:豆花、芋圓、台湾カステラ、伝統菓子が、それぞれどんなDNAを受け継ぎ、進化しているのか

ほんの数年前、街角で必ず見かけた光景を覚えていますか?

プラスチックカップを片手に、太いストローで何かを一生懸命吸い込む人々。そして、その店先に伸びる長い、長い行列。そう、「タピオカミルクティー」です¹。

あれほど熱狂した日々が嘘のように、気づけばあの行列は街から姿を消していました。

でも、ちょっと待ってください。少し周りを見渡してみましょう。

駅ナカには「台湾カステラ」の甘い香りが漂い、カフェのメニューには「豆花(トウファ)」の文字が並び、デパ地下では「芋圓(ユーユェン)」というカラフルな団子入りスイーツが人気を集めています。

タピオカは消えたかもしれません。でも、その「故郷」である台湾からやってきたスイーツたちは、まるで波のように、次から次へと私たちの日常に上陸し続けているのです。

これは、単なる偶然でしょうか?

この記事は、「次に流行るスイーツ」を予測するトレンドレポートではありません。

この記事で解き明かすのは、流行の"次"ではなく、流行が生まれる"構造"そのものです。

なぜ、私たちは「台湾」のスイーツにこれほどまでに惹きつけられるのか? なぜ、タピオカの次もまた、台湾だったのか?

この「小さな謎」を探求していくと、そこには私たちの五感、心理、そして日本と台湾の間に横たわる、温かくも複雑な「システム」が隠されていました。

私たちを熱狂させたもの —「タピオカ」という革命の解剖

未来を考える前に、まずは私たちが熱狂した「タピオカ・ブーム」という現象を解剖してみましょう。

日本における第3次タピオカブームは、単なる「飲み物」の流行ではありませんでした。それは、3つの強力な「システム」が完璧に組み合わさった、社会現象だったのです。

「Q」という衝撃

タピオカの成功は、「味」ではなく「食感」にありました。

台湾には、食べ物の食感を褒める独自の言葉があります。それが「Q(キュー)」。これは、日本語の「もちもち」や「弾力がある」といったニュアンスを持つ言葉で、台湾人にとっては美味しさの最上級の褒め言葉です。

由来は台湾語の「k'iu」という音から来ているとされ、英語の「Chewy(噛みごたえのある)」とは少しニュアンスが異なります。「Q」は、ただ硬いのではなく、弾力があり、跳ね返るような心地よい歯ごたえを指します。

台湾の人々はこの「Q」な食感をこよなく愛し、麺類、肉団子、そしてもちろんタピオカや芋圓のようなスイーツにも、この「Q」を求めます。

私たち日本人も「もち」を愛する文化を持っていますが、タピオカが革命的だったのは、その「Q」な食感を、「飲む」という行為と合体させた点にあります。

太いストローから飛び込んでくる、あの独特の弾力。それは「飲む」と「食べる」の境界線を曖昧にする、新しい「触覚体験」でした。

「私」化するドリンク

タピオカは、SNS時代の完璧な「小道具」でした。

Z世代を対象にしたある調査では、スイーツ選びで「見た目の可愛さ」を重視する人が7割を超えるという結果も出ています⁶。しかし、タピオカの強みはそれだけではありませんでした。

多くのスタンドが、「甘さ」「氷の量」「タピオカの大きさ」を選べるカスタマイズ性を提供していました。つまり、タピオカドリンクのカップは、単なる商品ではなく、「これが"私"の選んだ最強の組み合わせ」というアイデンティティを表現するための"キャンバス"だったのです。

それはSNSに投稿するのに、あまりにも都合の良い存在でした。

行列という広告

「あの店は、いつも並んでいる」。

人間は、「多くの人が選んでいるものは、良いものに違いない」と判断する心理的な傾向(社会的証明)を持っています。行列は、時に人を遠ざけますが、適度な行列は「それほどまでに価値があるものだ」という無言の広告塔として機能します。

タピオカの行列は、それ自体がマーケティングとなり、新たな客を呼び込むという強力な「行列システム」を構築していました。

タピオカが「一過性」のブームで終わったとすれば、それはこの3つのシステム(特に感覚の衝撃)に依存しすぎたからかもしれません。

では、タピオカの後に続く台湾スイーツたちは、このタピオカが切り開いた道を、どのように受け継ぎ、あるいはどう進化しているのでしょうか。

それを理解するには、まず「なぜ台湾なのか」という、より深い土壌を掘り下げる必要があります。

なぜ「台湾」なのか? — 流行が生まれる"豊かな土壌"

タピオカが耕した土地に、なぜまた台湾の作物が育つのか。それは、日本と台湾の間に、流行を生み出す「3つの豊かな土壌」が存在するからです。

心のブレーキを外す「低ギルト」という哲学

これが、台湾スイーツが持つ最大の構造的強みです。

バターと砂糖で構成される西洋菓子や、砂糖を多用する伝統的な和菓子と異なり、台湾スイーツの多くは「体を思いやる食文化」をベースにしています。

例えば、豆花(トウファ)は大豆(豆乳)から、芋圓(ユーユェン)はタロイモやサツマイモから作られています⁹。これらは素材の自然な甘さを活かし、健康的で、低カロリーなものが多いのです³。

これは、現代人にとって何を意味するでしょうか?

それは、「毎日食べても罪悪感が少ない」という、強力な心理的な免罪符です。

健康志向が高まる現代において、私たちは「甘いものが食べたい」という欲求と、「体に悪いことはしたくない」という理性の間で常に葛藤しています。台湾スイーツは、この葛藤を鮮やかに解決する「心理的な抜け道」を提供します。

「これはヘルシーだから」という大義名分のもと、私たちは心置きなく快楽に身を委ねることができるのです。

「Q」を愛する文化と、旅の記憶

台湾は、タピオカを生んだ「食感の王国」です。

「Q」という言葉に象徴されるように⁵、彼らは食感に対する探究心が非常に強い文化を持っています。だからこそ、芋圓⁴や豆花のふるふる感⁹など、私たち日本人にとっても新鮮な「五感をくすぐる」スイーツが次々と生まれるのです。

そして、その食感は、私たちの「原体験」と強く結びついています。

夜市で食べたマンゴーかき氷⁷。九份(きゅうふん)の茶屋で出会った芋圓⁴。台湾旅行のポジティブな記憶を持つ人にとって、日本で台湾スイーツを食べることは、あの楽しかった旅の記憶を「追体験」する行為でもあります。

それは、単なる「食」を超えた、ノスタルジックな体験なのです。

すべてを受け入れる「情緒的な親近感」

最後にして最強の土壌が、「好感度」です。

ある調査では、日本人の65%が台湾を「信頼できる」と回答しており、その最大の理由は「台湾が日本に友好的だから」というものでした。私たちは、台湾という存在に、無意識レベルでポジティブな感情を抱いています。

この情緒的な「信頼」と「親近感」は、文化的な防波堤を限りなく低くします。もし、これが「どこの国かわからないスイーツ」であれば、私たちはもっと警戒したかもしれません。しかし、それが「台湾から来た」と聞いた瞬間、私たちは「きっと美味しいに違いない」「体に良いものに違いない」と、無条件に受け入れてしまうのです。

この「低ギルト」「食感(Q)」「親近感」という3つの土壌が、台湾スイーツというカテゴリー全体を、一過性のブームではなく、私たちの食生活に根付く「定番」へと押し上げようとしています。

ポスト・タピオカ時代の「解」— 4つの進化

タピオカという「革命」と、台湾スイーツが育つ「土壌」がわかったところで、現在の「ポスト・タピオカ」候補たちを見ていきましょう。

重要なのは、「次の覇者は誰か?」という視点ではなく、「彼らはタピオカと台湾のDNAを、どのように"進化"させているのか?」という視点です。

現在の台湾スイーツたちは、それぞれ異なる戦略で私たちの心を掴もうとしていることがわかります。

スイーツ核となる食感主な価値継承したDNA
豆花(トウファ)ふるふるウェルネス低ギルト + カスタマイズ性
芋圓(ユーユェン)もちもち懐かしさ/旅行体験「Q」の食感 + 低ギルト
台湾カステラしゅわしゅわ再解釈五感への訴求
伝統菓子(芋頭酥など)ほろほろ/もっちり真正性/文化文化的親近性

進化1:正統後継者 —「豆花(トウファ)」

豆花は、「低ギルト」を最も色濃く受け継ぐ存在です。

豆乳を固めただけのシンプルなベースは、低カロリーでヘルシーそのもの。その真の強みは、タピオカが持っていた「カスタマイズ性」をも受け継いでいる点にあります。小豆やタピオカ、フルーツなど、無数のトッピングを組み合わせることで、「自分だけの一杯」を作ることができます。

さらに、ゴンチャ(Gong cha)が「豆花ミルクティー」を発売したように、豆花は「ミルクティーに"潜む"」という、驚くべき進化(=ブリッジ戦略)も見せています。これは、新しい味に慎重な層をも取り込む、非常にクレバーな戦略です。

進化2:「Q」の真なる継承者 —「芋圓(ユーユェン)」

芋圓は、タピオカの「Q」の食感を、より自然な形で受け継ぐ「テクスチャーの王様」です。

タロイモやサツマイモから作られる、あの独特の「もちもち」感は、タピオカの衝撃を体験した私たちにとって、抗いがたい魅力を持っています。

芋圓の強みは、九份(きゅうふん)という「旅の記憶」と強く結びついている点です。日本で芋圓を食べることは、あのノスタルジックな風景を「追体験」する行為そのもの。さらに「無添加・手作り」¹⁹や「低カロリー」といった、「低ギルト」の側面も併せ持つ、強力な候補です。

進化3:「懐かしさ」の再解釈 —「台湾カステラ」

台湾カステラは、少し異なる進化の道をたどっています。

これは「新しい食材」ではなく、「新しい感覚」の提案です。台湾で「古早味蛋糕(昔ながらのケーキ)」と呼ばれるスポンジケーキが、日本のカステラとは似て非なる「しゅわしゅわ」「ふわふわ」な食感として再解釈されました。

これは、iモードが現代のSNS文化の「原点」として再評価されるように、「カステラ」という私たちが知っているものの「もう一つの可能性」を見せてくれる面白さです。

進化4:「通」の領域 —「伝統菓子」

最後は、パイナップルケーキ(台湾土産の王者)から一歩進んだ、「通」の領域です。

タロイモ餡を渦巻き状の生地で包んだ「芋頭酥(タロイモまんじゅう)」や、口の中でほろほろと溶ける「緑豆糕(緑豆の落雁)」といった、より深く、本格的な伝統菓子です。

これは、日本人の台湾への理解が、「観光(Tourist)」→「流行(Trend-Seeker)」→「体験(Experiencer)」→「鑑賞(Connoisseur)」へと成熟している証拠と言えるでしょう。

おわりに

さて、「タピオカの次は何?」という最初の問いに戻りましょう。

ここまで「知的なメガネ」を通して構造を解剖してきた皆さんなら、もうお分かりのはずです。

「次の勝者」は、一つの商品ではありません。「豆花」も「芋圓」も「カステラ」も、すべてが「解」なのです。

私たちが目の当たりにしているのは、一つのブームが次のブームに取って代わられる「椅子取りゲーム」ではありません。タピオカが強引にこじ開けた「台湾スイーツ」という扉から、多様な価値観を持った「本物」たちが、続々と私たちの日常に入り込んできている…それが、今、起きていることの正体です。

台湾では、これらのスイーツは一過性の流行ではなく、昔から日常に寄り添い、愛されてきた「定番」です⁹。日本でも、「台湾料理」がブームから定番へと移行しつつあるように、台湾スイーツという「カテゴリー」そのものが、私たちの生活に根付こうとしています。

私たちが台湾スイーツの行列に(また)並んでしまうのは、単にミーハーだからではありません。その行動の裏には、

  • 「Q」という、抗いがたい*感覚的な快楽」
  • 「ヘルシーだから」という、魔法の「心理的な許し」
  • 「台湾」という、温かい「情緒的な繋がり」

これら3つを同時に満たしたい、という非常に人間的で、愛おしい欲求が隠れているのです。

次に街で新しい台湾スイーツのお店を見つけたら、「また流行りものか」と見過ごすのは、少しもったいないかもしれません。

その店が「食感」で勝負しているのか、「低ギルト」で心を許そうとしているのか、それとも「旅の記憶」に訴えかけているのか。

そんな視点から眺めてみれば、昨日までと同じ風景が、少しだけ面白く、そして愛おしく見えてくるはずです。

参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times