音楽家・常田大希に熱狂する男【前編】

Deep

バンドとして日本最速で5大ドームツアーを敢行した「King Gnu」、アメリカ、イギリスの大手レーベルと契約し、本格的な世界進出を果たした「MILLENNIUM PARADE」。この2つのバンドとプロジェクトを束ねるのが、音楽家・常田大希だ。ファッションに拡声器、歌詞や楽曲など、三度の飯より常田大希を愛するおかずが彼の魅力や偏愛ぶりを語る。

冷めたシティポップのおかげ

僕が初めて"常田大希"の存在を知ったのは、兄からLINEで送られてきたKing Gnuの「Tokyo Rendez-Vous」のMVがきっかけです。映像に映る不良のような悪さとかっこよさ、摩訶不思議なメロディ、赤くペイントされた拡声器、その全てに僕はくぎ付けになりました。

その当時流行りだしていたのが熱感のないクールなシティポップで、自分には全く刺さらなかったのもあって、King Gnuの悪いサウンドは強烈に突き刺さったのを覚えています。

ちなみに常田さんの第一印象は、ストリート系のイケメン兄ちゃん(笑)。その時に着ていたライダースジャケットも超かっこよくて、音楽とファッション両方で心奪われました。

まるでトイストーリー

King GnuやMILLENNIUM PARADEの楽曲は、全て常田さんが作詞・作曲を担当しているのですが、世間で知られる「白日」、「飛行艇」のようなヒット曲だけでなく、アルバム曲やカップリング曲など、世間的にはあまり知られていない曲にも根強いファンがいるというのがストロングポイントだと思います。スタジオアルバムはどれもベスト盤くらい内容が濃くて、例えるなら一曲一曲がスターウォーズとかトイストーリーのキャラクターみたいに魅力的なんです。

それは実際に常田さんの発言からも感じ取る事ができます。

-King Gnuがすげえなと思うのは、“白日”みたいないわゆるヒット曲とそれ以外の曲との客の温度感が同じなんだよね-(引用:有泉智子『MUSICA』2022年1月号 P25)

この本人の発言をどうにか立証してみたくなり、自分のインスタで人気曲の投票を行いランキングにまとめたことがあるんです。その結果がこちら!

2023年2月にインスタのコメント欄を利用して行なったアンケート

1. Vinyl  …152票

2. FAMILIA  …141票

3. Slumberland  …99票

4. Mcdonald Romance …89票

5. The hole  …88票

6. 壇上            …87票

7. 白日            …85票

8. 飛行艇          …78票

9. Sorrows          …70票

10. 一途            …66票

11. 泡              …65票

12. 逆夢            …63票

13. Teenager Forever …62票

13. Flash!!!        …62票

15. It's a small world…57票

15. 千両役者        …57票

17. 2992            …54票

18. カメレオン      …51票

19. Prayer X …50票

19. Tokyo Rendez-Vous …50票

21. FLY WITH ME      …49票

投票数は2322票。1,2位はシングル曲でもないのにこの投票数であったり、3位以下の票がきれいに分散していることで、それぞれの曲にファンがいて、まさに常田さんの発言の通りの結果になったと思います。

なんでも似合うファッショニスタ

常田さんはアディダスやサンローラン、カルティエなど世界の名だたるブランドから引っ張りだこで、ファッショニスタの一面もあるんです。ただボロいネルシャツやスウェットを着ているだけで、オシャレでかっこいい。「自分の好きな服」と「自分に似合う服」は必ずしもイコールでないと思うんですが、常田さんはこれを=にしてしまうセンスと魅力を兼ね備えているんだと思っています。

数字の入ったフットボールシャツも常田大希のファッションアイコンの一つ

昔から音楽とファッションは表裏一体の関係で、カートコバーンやOasis、Run-D.M.C.など音楽とファッションは世界の人々を魅了してきた歴史がありますよね。実際、ライブ会場に行っても常田さんのファッションを真似たファンの方がたくさんいますし、僕が住んでいる田舎でも見かけるようになりました。常田さんが着た数千円のウインドブレーカーが、30万円で売り切れてるのを見た時は本当に衝撃でした。音楽でも世界進出を果たした常田さんなので、前述のレジェンドアーティストのようなファッションアイコンになる未来も、そう遠くないんじゃないかと思っています。

もちろん僕も常田さんのファッションに魅了されている一人です。これまで常田さんの洋服など250種類以上のアイテムをSNSで紹介してきました。ブランドのロゴやアディダスみたいな3本線が入っているものだと誰でも簡単に見つけることができますが、逆にヴィンテージものの古着や、シンプルなハイブランドのアイテムは特定するのがかなり難しいんです。ボタンの数やステッチの色、襟の形状、ポケットの数、素材など細かいディテールを頭に入れたうえで、画像検索やありとあらゆる検索ワードかけて特定に近づけていきます。5秒で見つかるものもあれば、5年かかっても見つからないものもあるので、そのもどかしさもまた醍醐味なんです。だから特定に必要なのは執念だけなんです(笑)。

常田大希っぽい指輪を集めるのが趣味。

でも最近一番すごいなぁと思うのは、King Gnuのスタイリスト、Shohei Kashimaさん。名だたる芸能人のスタイリングを手掛けていらっしゃる方です。

常田さんを象徴するアイテムは穴が空いていたり、裾が破れていたりするいわゆるボロ服だと思うんですが、そういった個性的なファッションアイテムを提供して、それが常田さんにバチっとハマって今やアイコンにもなっている。こだわりの鬼に違いない常田さんのファッションを任されてらっしゃるKashimaさんは、本当にプロフェッショナルな方なんだなと思います。

僕は常田さんの洋服の着こなし方にも興味があるので、180cmのマネキンを買ってきて洋服を着せては日々研究をしているんです(笑)。

常田ファッションの研究用に買ったマネキン

アイコニックなアイテム

僕が常田さんに夢中になるきっかけの1つが間違いなくペイントされた拡声器です。それ以前は、hideや椎名林檎さんだった“拡声器といえばのイメージ”を払拭するくらいのインパクトでした。

「絶対に欲しい」と思った僕は、ある日自分で作ってみることにしたんです。情報収集した時間もいれたら100時間くらいはかかったと思います。まだ完成してませんが…。

製作するにあたり、まずはライブ映像を一時停止したりしながら画像を集めて、拡声器の機材を特定。結果TOAというブランドの「ER-332」というものと分かりすぐさまヤフオクで落札。

実際にTOA株式会社の広報担当の方に問い合わせてみたら「1990年台初頭に廃番になったモデル」と教えてくれました。僕はやると決めたらそういう情報とか歴史まで気になってしまうんです。ペイントされたデザインは、おそらくアクリル絵の具で塗られていると思ったので、発色や絵の具の定着も考えて下地に貼る紙シール(アメリカ郵便公社のラベルシール)も全く同じものを用意しました。デザインの配置や配色、描かれている文字も精密に再現しています。

常田大希の拡声器に貼られているであろう紙シール

他にもMacBookにマニキュアを塗ったパソコン、ライブで使われるギターアンプや椅子にまでアートが施されていて、常田さんのアイテムは厨二心をくすぐるものばかりなんです。最近はライブや自身のスタジオで使用されている白い椅子があるんですが、「Pointless Journey(無意味な旅)」という文字がスプレーで描かれていて、このワードはKing Gnuの「飛行艇」や「STARDOM」の歌詞にも出てきたりするので、常田さんのなかでどんな意味を持っているのかを考察したりするのも楽しいんです。

マニキュアで塗られた常田PCを模して製作

歌詞に込められた思い

さまざまなインタビューで語られているんですが、常田さんの歌詞はほとんどが実体験や自分の口から直接出てくるようなものなんだそうです。だから歌詞を読むことで、常田さんの制作当時の“精神性”だったり“想い”みたいなものまで見えてくるような気がするんです。例えば、歌詞の中で私、僕、君、あなたのような言葉が多く使われるんですが、“俺”という言葉はKing Gnuとmillennium paradeで配信された78曲中、たった2曲にしか出てきません。それがmillennium paradeの「FAMILIA」と King Gnuの「壇上」という曲。「FAMILIA」は「理に葬式で歌ってくれと頼んだ」というエピソードがあったり、「壇上」は白日の大ヒット以降、めまぐるしく変わる環境と忙殺されそうなスケジュールの中、ベッドから起き上がれなくなるような苦難を乗り越えて生み出された曲で、そんな背景もあり、この2曲には常田さん自身の“俺”という表現が歌詞にも素直に現れたのではないかと思います。あくまでも憶測に過ぎませんが、こういった考察をするだけでも楽曲の聴こえ方がガラッと変わる気がするんです。

※King Gnuの「BEDTOWN」には“俺たち”という言葉が出てきますが、“俺”1人ではないので割愛しています

音楽と映像の融合

僕が好きなアーティストの共通点は、映像、音楽、アートワーク(観てよし聴いてよし飾って良し)の3つに力を注いでいるところなんです。この三位一体の一つでも欠けていると全く魅力的に映らなくて、熱を帯びるほどハマることはないんです。日本のメジャーシーンにおいて「音楽はかっこいいけどジャケットが…、映像が…」みたいなアーティストはすごく多いと感じていて、常田さんはこの三位一体が完璧に揃った数少ないアーティストの1人だと思います。アート全般、自身の作品に関わるすべてに責任を持っていて、「1ミリの狂いも許さない箪笥職人」のような精密さ、完璧主義なマインドを感じられるんです。常田さんは「ヒプノシス」というイギリスのアート集団がお好きだそうで、僕もヒプノシスがデザインを手掛けているバンド、THE ALAN PARSONS PROJECTやPINK FLOYD、KING CRIMSONなどが大好きで、「好きな人の好きなものは共通するんだ」と嬉しかったのを覚えています。

特に常田さんの音楽と映像の融合が素晴らしくてKing Gnuの「prayer x」の中毒性やメッセージ性は凄まじいです。こちらはアニメーターの山田遼志さんが手掛けているんですが、こんなコメントをされているんです。

-本作では拝む人々が象徴的かな。頭の大きな彼らには耳がない。聴いてもいない音楽を拝める異常さを表現しています。-(引用:MAKO MATSUOKA 『GINZA』2020年8月号 P48)

音楽家の苦悩を表現された曲だそうですが、映像と相まって強烈な印象が残ります。

今回はどんなクリエイターと手掛けたんだろうとクレジットを観るのも楽しみの一つ。常田さんの自身の音楽に合うクリエイターを選ぶ‟選球眼”も超一流なんだと思います。

以前、椎名林檎さんが音楽番組の関ジャムで「常田氏は総合芸術家」と称されていて、これ以上的確な喩えはないなと思いました。

自身が研究資料と呼ぶ、60冊を超える常田大希関連の雑誌

世間とのギャップ

常田さんの人間性が分かるSNSのチェックも日々欠かせません。常田さんの人間性は音楽と同じくらいとても魅力的で、特に世間のイメージと現実のギャップが凄いんです。

常田さんが以前「生活能力を作品制作に全振りしているので狂気的なほどポンコツです」とストーリーズにあげていたのを見て、最初は「そうは言いながら寡黙に何でもこなしそう」って思ってたんですが、それから水道や電気が止まったという投稿を見て「ほんとなんだ」と(笑)。

またドッグランに行くほど無類の犬好きであることはファンの中では知られた話なんですが、小学生の頃の自由研究は、「保健所について(犬猫の殺処分0)」というテーマだったそうです。心優しい少年だったんだなぁと容易に想像がつきます。

常田さんの人間性が特に現れているなぁと思う瞬間は、大きなライブやツアーが終わると「一人でできることなんてたかが知れていて最高の仲間達のお陰で最高の作品作り続けていられる」、「仲間たちが自分の財産」、「大きいステージに連れてってくれてありがとう」など自身のメンバーやチームへの感謝を口にされるんです。SNS上でこういうストレートな気持ちを素直に伝えてくれるのもかっこいいなぁと。

ただ悲しいことにフェスにでれば「斜に構えている」とか「生意気そう」という勝手なバンドイメージで叩かれることもあるそうですが、世間の思うカリスマのイメージと乖離した、優しくて仲間やファン思いでただただ音楽にひたむきな人であることは間違いないと思います。

僕は偶然にもご本人にばったりお会いしたことがあるんですが、神対応過ぎて思い出しただけで泣きそうになるんですよ。「こんな凄い人なのになんて優しんだろう」って。あの経験から僕は「常田さんの音楽と人間性を発信していこう」と決めたんです。漫画みたいに大口開けて笑っていたり、おじいちゃんのように優しく微笑んでる姿も彼の人間性が表れているようで大好きです。

底なしの才能と豊かな人間力があったら「なにか世界を変えてくれるかもしれない」と思いませんか?

だから僕は常田大希に熱狂し続けているんだと思います。

後編は、常田大希の音楽に焦点を当てて語っていきます。

おかず

おかず

okazu

雑誌やWEB媒体を扱う広告代理店に10年間勤務。編集者として培った経験を活かしてSNSを中心に常田大希の情報を発信中。将来の夢は常田大希図鑑を作り上げること。