後世に残したい“アーケード商店街”の魅力を語らせて【前編】

全国のおもしろおかしいスポットをめぐりながら、独自の視点でその魅力を発信しているあさみん。その中 でも、日本各地の商店街をまとめた本を出版するほど偏愛しているのが「アーケード商店街」である。前編 は、彼女が商店街に魅了されるきっかけとなった渋い雰囲気の商店街を紹介。

全国各地の商店街を回っている私がこの世界に取り憑かれたのは2014年、福岡県北九州市にある旦過市場を 訪れた時だ。戦後間もなくに建てられた商店街が今もなお現役で営業し、しかも活気に溢れている光景に衝 撃を受けたのがきっかけだった。「これはすごい!」「こんな場所が日本にあるなんて!」どこかほかにもないものかと探し始め、今に至る。
今回はアーケード商店街の魅力をお伝えしようということで、前編は私がアーケード商店街の虜になったきっかけでもある旦過市場のような、渋い雰囲気の商店街を紹介。その中でも見どころの多い、道全体をアーケードで覆う『全蓋式』と呼ばれるタイプの商店街に注目したい。
後編はリニューアルを繰り返し現在は比較的新しい現代風の商店街や、その他様々なタイプの商店街の見どころについて語りたいと思う。
アーケード商店街の見どころ

歴史あるレトロな商店街で一番心を掴まれるのが、路地裏的な雰囲気だ。脇道が多く入り組んだ道、その奥からは人々の話し声が聞こえてくる。店の前を通る時、思わず足音を立てず息を殺しながら通り過ぎる。見たことのない商品から旅情を感じ、地元住民になりきったような疑似体験をする。この好奇心と冒険心を掻き立てる光景は何度訪れてもドキドキするものだ。
アーケード

アーケードとひとくちで言ってもその形や素材、サイズはさまざま。特にお気に入りは木造のアーケード。
温かみのある質感と見た目がレトロなところがいい。中にはアーケードそのものにステンドグラスを施してあるものがある。時々見るのが星座のデザイン、またその土地の名所・名物が描かれていたりする。しかし通行人はみな下を向いて歩いており、これに気づいているのはもしかして私だけなのでは?とさえ思う。そうなると「みんな!上を見て!」と叫びたくなる。

さらに岐阜市にはアーケード全体をネオンが覆う、オーロラネオンが現存する。吊り看板もネオンでできており、店ごとにデザインが違うというこだわりだ。こんな素晴らしいアーケード、ほかで見たことがない。
現在はイベント時のみ光る状態であるが、以前のように毎晩光っているところが見たい。そのために私達ができることはなんなのか?
アーケードの維持費だけでも莫大な金額がかかり、その料金はそれぞれの商店が少しずつ出し合うことで賄われている。そのため近年ではアーケードが撤去される流れに。アーケードがなくなってしまうと、日差しや雨がよけられないのはもちろん、アーケードに取り付けられた吊り看板や照明、ファサードもろともなくなることになり、商店街の風景は一変する。とにかく撤去されないよう現存しているものを守っていくしかない。そのためには商店街を訪れ、店舗を利用し、商店街の良さを多くの人で共有し、発信していかなければならない。
ファサード
アーケードの入り口部分にあたるファサードは商店街の顔とも言える。ここもおそらく、いつも利用している人にとってはほぼ視界に入っていないだろう。しかし一度よく見てみてほしい。顔というだけあって、気合の入ったデザインを見ることができる。商店街の客層である奥様方に向けてエレガントなベルばら調、今もなお光り続けるネオン管で作られた文字、出雲市のアーケードは出雲大社を意識しているようだ。
特に道幅の広いアーケードは、かつて周りの街からも訪れる人が多かったことを物語っており、ファサードの壮大さからまちのパワーをひしひしと感じることができる。



また、ファサードに企業の文字や広告が載っているスポンサータイプも非常にいい。なぜならこれもまたその土地ならではの旅情を感じることができるからだ。銀行、名産、町中華…文字をじっくり読むだけで、この街の歴史や文化が見えてくるようだ。

中でも旅館、かまぼこ、温泉まんじゅうの名が並ぶ熱海駅前の商店街は、理想的すぎて泣けてくる。見慣れない看板が並ぶ光景は、訪れたものがここでなにを買い、なにを食べ、どう過ごすべきかを教えてくれる。
この非日常のまち並みは、随分遠くまで来たんだなあと旅情を強く感じさせてくれるのだ。
照明

アーケードからぶら下がる照明の多くは、老朽化から新しいものに変わっている場所が多い。その中で特に好きなものがシャンデリア。これも奥様方を意識してのデザインだと思うが、商店街を歩くだけで宮殿を歩いているような、贅沢で優雅な気分に浸ることができる。娯楽である買い物をより一層特別な時間へと演出するには、最高の装飾だ。
古い街灯のような照明は下町のような庶民的なまちによく合い、丸くて大きな照明は荘厳で美しく、背筋を伸ばして歩きたくなるような上品さを感じる。
看板

アーケードからぶら下がり、各店舗名が記されている吊り看板。そこには店名だけでなく、看板そのもののデザインが特別だったり、かわいい花や動物が描かれたり、どんな店なのか説明するキャッチコピーも添えられる。全店舗違う店なのだから、もちろん看板も全部違う。全部見たい。中にはすでに廃業していて店舗が変わってしまった場合でも、吊り看板は残されていることがある。当時の面影からどんな店だったのか推測するのも楽しい。
店舗や商店街に掲げられた看板も同様で、最近では見かけない字体や言い回し、最高・一番・日本一とハッキリ言い切る潔さ、逆におしゃれの店・味の店などぼんやりとした表現にも心惹かれる。

また商店街の看板には時々、そこでしかお目にかかれないキャラクターがいる。近年のゆるキャラとは違う、"リアル感"が愛おしい。グッズやカプセルトイへの商品化はまだだろうか。
商店街だけでなくレトロ文化に惹かれる理由は、合理的な今の時代では一見無駄のように思えるものにお金をかける昭和時代ならではの豊かさに、心を奪われているのだと思う。
商店街でいえば照明、ファサード、アーケードといった視線より高い位置にあるものに、豪華なシャンデリアやステンドグラス調のアーケードなど本来必要ないだろう。しかしその装飾に、今の時代では珍しいデザインとしてのおもしろさと、飾り付けることで訪れる者への過剰なもてなしが見えてきて楽しい。この先同じものを作ることはできないし、新たに作ろうとしてもそれはレプリカであって本物ではない。歴史を重ねてきたアンティークの質感はやはりどうしたって長い年月が必要である。
商店街で働く方や利用する方の中には、古いものはかっこ悪いという意識がある。それもあって良いものがなくなる速度を加速させている。私はまずその意識を変えたい。アーケード商店街に出会ったら上を向いて歩いてみてほしい。誰にも気づかれてこなかったかわいい文字やステキなデザインがひっそりと、街ゆく人々を楽しませているかもしれない。近所の商店街であれば、今まで見えなかった新しい発見が見つかるはずだ。
後世に残したいから、勝手にアーケード商店街の魅力を語らせて【後編】
前編では道全体をアーケードが覆っている「全蓋式」と呼ばれるタイプの商店街を紹介した。 私がアーケード商店街を好きになったきっかけである旦過市場は全蓋式の、しかも歴史を重ねたアーケード商店街だった。それに似た雰囲気の商店街 […]