YouTubeに面白いアカウントが次々生まれる理由は、アルゴリズムが育てたロングテール?
深夜にYouTubeを開いたら、気づけば無言で泥から家を建てる男の動画を1時間見ていた、駅の発車メロディだけを紹介する人の動画を延々と再生していた、石鹸を薄く削り続ける音に妙に落ち着いてしまった、という経験をした人は少なくないはずです。狭いのです。テレビの企画会議なら即座に止められていたはずの狭さを持つチャンネルが、YouTubeには次々と生まれ、一定の支持を集めています。偶然ではありません。YouTubeという仕組みそのものが、こうした「おもしろいアカウント」を生み出す構造を内蔵しているからです。
2012年、YouTubeが再生数より視聴時間を選んだ日

YouTubeは創業から数年間、どれだけクリックされたかを示す再生数を主な評価指標にしていました。しかし再生数を稼ぐことが目的化すると、内容と関係のない煽り気味のタイトルや誤解を誘うサムネイルが増えていきます。これを見直すため、YouTubeは2012年、動画がどれだけ長く見られたかという視聴時間を重視する方針に転換しました。クリックされて数秒で離脱される動画より、短くても最後まで見てもらえる動画を優先する、という発想です。
この変更の影響は小さくありませんでした。ゲーム実況やビューティー系の動画、長尺のトーク番組のような、それまでテレビではニッチ扱いされていたジャンルが急速に育っていったのです。2010年にホラーゲームの実況動画でチャンネルを始めたピューディパイ氏が登録者100万人を超えたのは2012年8月、ちょうどこの転換期と重なっています。彼は翌年には登録者数で世界一の個人チャンネルに上り詰めました。評価の中心になった総視聴時間は、動画の長さと視聴維持率を掛け合わせて算出されます。再生数を増やすより、視聴者を途中で離脱させない内容を作るほうが評価につながる仕組みへと変わったわけです。視聴者を飽きさせない動画を作れば、ジャンルの大小に関係なく評価されます。この一点が、後に様々な専門チャンネルが生き残る土台になりました。
広告収入の入り方もこの転換と結びついています。YouTubeの広告収益は、表示された広告の数に応じて発生します。そのため、登録者が数十万人でも視聴者が最後まで見てくれるチャンネルは、登録者が数百万人いても離脱の早いチャンネルより広告が多く表示される場合があります。規模の大きさよりも、どれだけ深く見てもらえるかで収益が決まる仕組みは、特定の層にだけ刺さる専門チャンネルにとって不利にならない設計でした。さらに2021年には、コメント欄から直接投げ銭ができる「Super Thanks」が、月額の会員制度である「チャンネルメンバーシップ」とあわせて整い、広告の表示回数だけに頼らない収益の道も用意されていきます。登録者の絶対数が少なくても、熱量の高いファンが直接支える構造が重なったことで、ニッチなチャンネルはより長く活動を続けやすくなりました。
テレビが切り捨ててきた需要を拾う発想

YouTubeが誕生する2年前の2004年、雑誌「WIRED」の編集長だったクリス・アンダーソンは「ザ・ロングテール」という論考を発表しました。少数の大ヒット商品に売上が集中する一方で、売れ行きの悪い商品群を全部足し合わせると、ヒット商品の売上を上回ることがあります。売上をグラフにすると、ヒットの山の後ろに細く長い尾(テール)が伸びる形になるため、こう名付けられました。
アンダーソンが例に挙げたのはアマゾンでした。この論考によれば、当時の大手書店チェーンの平均的な店舗が並べる書籍はおよそ13万点が目安とされていましたが、アマゾンの書籍売上は、その13万位より下の本だけを合計しても、全体の売上の半分以上を占めていたといいます。1冊の売れ行きは小さくても、棚の数に制限がないオンライン書店では、無数の「売れない本」の合計がヒット作の売上を超えてしまいます。同じ構図は映像業界でも起きていました。レンタルビデオ店のブロックバスターは1店舗あたり平均3000本未満のDVDしか置けませんでしたが、郵送レンタルで棚の制約を持たなかったネットフリックスは、レンタルの5分の1がその上位3000本の外側から生まれていたといわれています。テレビは電波という限られた枠を大勢に届けるメディアなので、視聴率が取れない企画は組みにくい構造を持っています。対してYouTubeは、1本の動画を置いておくコストがほぼゼロに近く、視聴者が100人しかいなくても配信を続けられます。駅の発車メロディに興奮する100人も、泥で家を建てる過程に見入る数百万人も、同じプラットフォームの中で共存できます。アンダーソンが書籍販売で描いた理屈は、YouTubeという動画の場所で、もう一度そのままの形で動き出しました。
無言で石器時代の技術を再現する男に1000万人が集まった

ロングテールが実際にどう機能するかを示す例が、オーストラリアのジョン・プラント氏が運営する「Primitive Technology」です。2015年5月に始まったこのチャンネルで、彼は森に入り、道具も言葉も使わず、ただ土と木と火だけで住居や刃物を作っていく様子を撮影します。最初の投稿で見せたのは、石の手斧を作り、火を起こし、土器を焼いて水を運ぶ工程でした。その水で泥を練って壁を補強し、ベッドと囲炉裏付きの小屋を完成させるまでを映した映像です。ナレーションもテロップも一切ありません。2025年6月時点で登録者は1000万人を超え、累計再生回数は11億回を上回っています。投稿頻度は月1本程度という寡作ぶりです。
無言という制約は、翻訳が要らないという副産物を生みました。言葉が分からなくても、素材が道具に変わっていく過程はそのまま伝わります。プラント氏自身は、こうした活動に人が惹かれる理由について、狩猟採集の技術に無関心だった祖先は生き残りにくかったはずだと語っています。進化の過程で刻み込まれた好奇心に、現代のアルゴリズムがたまたま適合した一例です。
車の変な機能だけを延々と紹介する男も生き残った

視聴時間の仕組みに合うジャンルは、必ずしも静かなものばかりではありません。無言のプラント氏とは対照的な、よく喋る方法で成功したのが、アメリカのダグ・デムーロ氏です。彼の動画の型は毎回ほぼ同じです。中古車の内外装にある変わった仕様や使いにくい装備を「クワークス・アンド・フィーチャーズ(quirks and features、変な点と特徴)」として一つずつ紹介し、試乗の感想を述べたあと100点満点で採点して終わります。この型が固まったのは2016年9月、ポルシェ・カレラGTを撮影した動画がきっかけでした。
自動車レビューというジャンル自体は昔からありますが、性能や乗り心地よりも「隠しカップホルダーの位置」や「謎のスイッチの用途」のような細部だけを延々と語るという切り口は、1本の動画としての尺が長くテレビ的な企画にはなりにくいものです。試乗の感想を挟んだのち、最後に100点満点で採点して締める構成も毎回変わらず、視聴者は新しい情報だけでなく、型そのものの安定感を楽しみに戻ってきます。それでも同じ型を繰り返すことでファンが増え、登録者は現在500万人を超えるまで育っています。石器時代の技術を無言で再現する動画と、車の小さな欠点を喋り続ける動画は、見た目はまったく違いますが、どちらも「テレビなら編集で削られていたはずの細部」を主役にした点で同じ土台に立っています。
「ゾワゾワする感覚」に名前がついた日

多くの人が経験していても言葉がなかった感覚に、名前が与えられると新しいジャンルが生まれます。2010年2月、ニューヨーク在住のジェニファー・アレン氏は、人がくすぐったいような心地よさを覚える感覚について、それまで「脳の電気」や「頭のオーガズム」といった曖昧な呼び方しかなかったことに注目しました。彼女はFacebook上に「Autonomous Sensory Meridian Response Group」というグループを作り、ASMRという頭字語を提案します。それまでは、同じ感覚を持っていても検索の手がかりすらなく、自分だけの奇妙な体質だと思っていた人が少なくなかったはずです。この名前がついたことで、同じ感覚を持つ人たちが検索し、集まり、動画を作る土台ができました。
名前が生まれる前からYouTubeで同じ感覚を扱っていた人もいます。ロシア出身のマリア氏が「GentleWhispering」の名で囁き声の動画を投稿し始めたのは2011年2月のことで、彼女はASMR系YouTuberとして初めて登録者100万人と再生回数2億回を超えました。現在も240万人超の登録者を抱える、この分野の最初期から活動を続ける一人です。
2016年前後には、石鹸を薄く削る音や、スライムを押す音を撮った「オドリー・サティスファイング」と呼ばれる動画群が急速に広がりました。同じ時期に火が付いた例として、フィンランドの工場経営者ラウリ・ヴオヘンシルタ氏が2015年10月に始めた「Hydraulic Press Channel」があります。最初の動画は、紙は7回より多く折れないという俗説を油圧プレス機で検証しようとして失敗する内容でした。2016年3月にRedditで紹介されると1週間で登録者が17万5000人増え、現在は1000万人超のチャンネルに育っています。押す、潰す、削るという単純な動作を淡々と見せるだけの動画が国境を越えて量産されたのも、この時期の特徴でした。興味深いのは、日本でもほぼ同じ時期、ニコニコ動画を中心に耳かきの音を収録する「音フェチ」動画の文化が独自に育っていたことです。言葉も発信者もつながりがないまま、似た感覚を求める文化が複数の国で同時多発的に形になっていたわけです。
顔も声も出さずに実況者になれた日本独自の進化

日本には、こうしたニッチジャンルの中でも独自色の強い系譜があります。「ゆっくり実況」です。元ネタは東方Projectの二次創作で生まれたキャラクター、博麗霊夢と霧雨魔理沙をモチーフにした「ゆっくり」というアスキーアートで、イラストレーターのまそ氏によって絵として定着しました。声の部分を担ったのは、プログラマーのcncc氏が2006年に公開したテキスト読み上げソフト「SofTalk」です。このソフトに搭載された合成音声エンジンが、格闘ゲームの対戦動画「MUGEN」の実況で使われたことをきっかけに「ゆっくりの声」として広まり、独特の間延びしたイントネーションが一つのキャラクターの個性として定着しました。
顔も声も出さずに動画を作れるという特性は、匿名文化が根強かった当時のネット環境に合っていました。ゲーム実況から始まった使い方は、やがて歴史や事件、科学を解説する「ゆっくり解説」にまで広がっていきます。2022年には「ゆっくり茶番劇」という言葉の商標登録をめぐる騒動が起きたほか、合成音声エンジンの提供元とのライセンス交渉がまとまらず、SofTalk自体がゆっくりボイスへの対応を終了する出来事もありました。一つの合成音声ソフトの事情が、文化全体の形を左右してしまうほど、ゆっくり系はこのソフトに依存して育っていたわけです。顔出しが前提だった海外のYouTuber文化とは、まったく別の方向に進化した日本発のフォーマットです。
バーチャルな存在が自らYouTuberと名乗った日

2016年12月1日、1本の自己紹介動画がYouTubeに投稿されました。アニメ風の姿をしたキズナアイが「バーチャルYouTuber」と自称したこの動画が、後に業界そのものの名前になります。彼女自身が名乗った略称がそのままジャンル名として定着し、「VTuber元年」と呼ばれる2016年末から、ホロライブやにじさんじといった事務所が次々と生まれていきました。2026年10月時点の集計では、ホロライブ所属タレントの登録者数を合計すると約1億1000万人、にじさんじも約9950万人に達しており、どちらも英語圏向けの海外グループを抱えるまでに規模を広げています。
アニメや声優文化を土台に持つ日本だからこそ育った土壌はありますが、きっかけになったのはあくまで一人の個人が投稿した1本の動画です。企画会議も予算承認も経ていません。テレビ局の企画会議を経ずに、新しい表現形式がそのまま世界に届いてしまいます。これもYouTubeという配信の仕組みならではの出来事でした。
おすすめ欄が示す次の動画という仕組みの裏側

YouTubeは公式には正確な利用者数を公表していませんが、第三者の調査では月間の利用者数が25億人を超えると推定されています。この規模があるからこそ、全体の中では小さな割合に過ぎない「石鹸削り好き」や「変な機能好き」が、絶対数としては立派なファン層になります。ここまで見てきた現象には、共通する仕組みがあります。視聴時間を軸にしたおすすめ機能が、似た感覚を持つ視聴者同士を動画でつなぎ、そこに専門チャンネルが育つ土壌ができる、という流れです。ただし同じ仕組みは、別の方向にも働きます。YouTubeのレコメンドアルゴリズム開発に関わっていたギヨーム・シャスロ氏は、Google退社後にAlgoTransparencyという団体を立ち上げ、YouTubeのおすすめが実際にどの動画を広めているかを外部から追跡する仕組みを作りました。その調査を踏まえ、視聴時間を最大化する設計が陰謀論的なコンテンツを優先的に表示しやすいと指摘しています。視聴者を画面の前に長く留まらせたいという目的そのものが、珍しい技術系チャンネルを育てる力にも、人を好ましくない方向へ誘導する力にもなります。
こうした指摘を受けて、YouTubeは2019年1月、根拠のない難病治療法や地球平面説のような陰謀論を「次の動画」に表示しにくくする方針を発表しました。発表した年のうちに、アメリカ国内でこの種の動画がおすすめ経由で再生された総時間は、登録者向けのおすすめを除いて70%減ったと報告されています。仕組み自体に良し悪しがあるわけではなく、同じエンジンが何を運ぶかによって結果が変わる、という点が肝心です。石鹸を削る動画も、陰謀論の動画も、視聴者を長く引き留めるという同じ尺度で測られて育ってきました。
石鹸を削る人、泥で家を建てる人、車の変な機能を数え上げる人、ゆっくり声で歴史を語る人、バーチャルな姿で自己紹介をした人。フィンランドの工場で物を潰す人も、ロシア出身の女性が囁く声も、同じ場所に生まれました。ジャンルも国も言葉も違う彼らが生まれた場所に共通するのは、テレビなら企画書の段階で止められていたはずの狭さが、視聴時間という一つの指標のもとでは不利にならないという事実です。25億人規模の利用者がいる場所では、1パーセントに満たないファン層でも、絶対数としては十分な大きさになります。次に深夜の画面に誰が現れるかは分かりません。駅の発車メロディを熱心に解説する人が現れても、誰も驚かなくなる日が来るかもしれません。それを呼び込む仕組みの方は、もう十年以上かけて育てられてきました。

参考
- YouTube Primitive Technology shows John Plant living in the Stone Age
- This YouTuber Amassed Millions of Fans Building Huts by Hand
- ロングテール理論(ろんぐてーるりろん):情報マネジメント用語辞典
- ロングテール戦略とは? Amazonが売上げをアップしている方法
- YouTubeアルゴリズムの変遷 おすすめに表示されるために重要なポイント
- It's Official: PewDiePie Becomes #1 Most Subscribed Channel On YouTube
- Doug DeMuro Reveals All The Quirks And Features Of How His Empire Started
- Who Coined ASMR? Jennifer Allen Named Autonomous Sensory Meridian Response in 2010
- Gentle Whispering ASMR: Why Millions of People Watch This Woman Whisper on YouTube
- Have you heard of soap cutting yet? This soothing technique could help you relax
- YouTube's Hydraulic Press Channel Takes Off
- 音声読み上げソフト「SofTalk」が“ゆっくりボイス”への対応を終了
- 商標登録で話題の「ゆっくり」ってそもそも何? 浸透の経緯をゆっくり振り返る
- キズナアイのYouTubeチャンネルが開設7周年 VTuberの歴史も8年目に突入
- ホロライブプロダクション(全世界) カバー株式会社 バーチャルYouTuber一覧(ファン数順)
- にじさんじプロジェクト(全世界) ANYCOLOR株式会社 バーチャルYouTuber一覧
- Chris Anderson, "The Long Tail," Wired Issue 12.10 (October 2004)
- Doug DeMuro's YouTube Stats: Subscribers, Views & Earnings
- 'YouTube recommendations are toxic,' says dev who worked on the algorithm
- YouTube、「次の動画」で陰謀論などの問題動画を勧めない改善に着手
- How Many People Use YouTube in 2026? (New Data)




