大人になるのはいつからなのか。国や時代で違う成人の境界線をたどる

「自分はいつから大人になったのだろう」と考えたことがある人は多いはずです。免許を取った日。一人暮らしを始めた日。あるいは、特に何も変わらなかった誕生日。感覚としての大人は曖昧です。ところが法律や文化は、この境界線をかなり具体的な数字で定めてきました。面白いのは、その数字が一つに決まっていないことです。国が変われば、時代が変われば、同じ国の中でも目的が変われば、「大人」の線は動きます。この境界線がどのように引かれ、どう動いてきたのかをたどってみます。

日本の中だけでも、「大人」の線は何本も引かれている

2022年4月、日本の成年年齢は20歳から18歳に引き下げられました。1876年の太政官布告以来、実に140年以上ぶりの変更です。18歳になれば親の同意なしにスマートフォンやクレジットカードの契約、賃貸契約、ローンを結べるようになり、契約の取り消しも原則できなくなりました。引き下げの背景には、国民投票の投票年齢を18歳とする国際標準に合わせ、憲法改正の国民投票などに若い世代の意見を反映させたいという狙いがあったとされています。同じ2022年の改正で、結婚できる年齢も変わりました。それまで男性18歳・女性16歳だった婚姻適齢は、男女ともに18歳へ統一されています。高校卒業程度の社会的・経済的な成熟が必要だという考え方が根拠でした。

お酒とタバコが解禁される年齢は、今も20歳のままです。健康への影響という別の基準が優先されたからです。働ける年齢にも線があります。労働基準法は、満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終わるまで、児童を働かせることを原則禁止しています。中学校を卒業するまでは、いくら体格が大人でも労働者として雇えないという線が引かれているわけです。運転免許はさらに細かく分かれています。原付や400ccまでの普通二輪免許は16歳から取れますが、普通自動車免許と大型二輪免許は18歳からです。2026年4月に施行された新制度では、仮免許試験が17歳6か月から受けられるようになりましたが、免許証そのものが交付されるのは18歳以上のままです。国会議員になれる年齢はもっと高く、衆議院議員は満25歳、参議院議員は満30歳からとされています。この差について公式に定まった理由はありませんが、選ぶ側より選ばれて実際に政治を担う側の方がより多くの知識と経験を必要とするという考え方に加え、参議院が戦前の貴族院にあった「30歳以上の学識経験者による良識の府」という理念を引き継いだとする説がしばしば語られます。明治期に欧米の制度を参考にして決めた基準が、形を変えながら令和の今も残っているわけです。

選挙権年齢が2016年に18歳へ下がったときも、線はすぐには揃いませんでした。裁判員に選ばれる年齢については「当分の間20歳以上」という例外の附則が設けられ、18歳・19歳は少年法の対象であるうちは量刑を決める立場にふさわしくないという意見から、しばらく20歳のまま残されたのです。この例外がようやく解消され、18歳以上であれば裁判員名簿に載るようになったのは2023年のことでした。選挙権という一つの制度の中でさえ、別の制度の年齢と揃うまでに7年の時間差があったことになります。18歳、20歳、25歳、30歳。一つの国の中にすでに、大人の線は何本も引かれています。

年齢ではなく「できること」や「通過した儀式」で測る時代もあった

現在のように誕生日という一点で大人を区切る発想は、歴史的に見ると意外に新しいものです。奈良時代以降の日本では、男子は11歳から17歳ごろに「元服」という儀式を行いました。髪型と服装を大人のものに改め、幼名から新しい名前に切り替えます。公家の女子は同じ年齢帯で「裳着」という儀式を行い、腰にまとう裳を身につけました。どちらも厳密な年齢で区切られてはおらず、体格や縁談の進み具合に応じて幅のある時期に行われています。

もう少し早い年齢で区切る風習も京都には残っています。平安時代、清和天皇が13歳のときに嵐山の法輪寺で成人の儀式を行ったという伝承にならい、数え年13歳で虚空蔵菩薩に知恵と福徳を祈る「十三参り」という行事が始まったとされています。13歳は干支が一周して初めて年男・年女になる年でもあります。女子にとっては、平安時代から続く「髪上げの儀式」によって大人の女性の仲間入りをする年齢でもありました。長らく関西地方だけの風習でしたが、近年は東京などでも行われるようになっています。

これらは貴族や公家の習わしです。庶民の間では、もっと実用的な基準が使われていました。江戸時代後期から昭和初期にかけて、村の若者たちは重さ20貫から30貫(75キロから113キロほど)の「力石」を持ち上げられるかどうかで一人前と認められています。米俵一俵を担げるかどうかが、そのまま大人として扱われるかどうかの境界線でした。年齢を数えるのではなく、何ができるかを確かめることで大人を測っていた時代があったことになります。

服を着替えることで大人になったとみなす発想は、海を越えた古代ローマにもありました。16歳から17歳になった少年は、子ども時代に身につけていた赤い縁取りの服「トガ・プラエテクスタ」と厄除けのお守り「ブッラ」を家の守り神に納め、真っ白な「トガ・ウィリリス」に着替えます。その後はユピテル神殿に参って供物を捧げ、正式な市民としてフルネームを氏族集団に登録されました。元服が髪型と服装を改める儀式だったのと同じように、ローマでも衣服の切り替えがそのまま大人になった証だったことになります。

埼玉県蕨町の青年祭から始まった、たった一度の催しが成人式を生んだ

今では当たり前の成人式も、起源をたどると一つの地域の思いつきに行き着きます。1946年11月、終戦からまだ1年余りの埼玉県北足立郡蕨町(現在の蕨市)で、当時の青年団長だった高橋庄次郎が「青年祭」を企画しました。蕨第一国民学校の校庭にテントを張り、3日間にわたって開かれたこの催しは、戦後の混乱の中で次の世代を励ます行事として評判を呼びます。

この成功を受けて国も動きました。1948年の祝日法で「成人の日」が国民の祝日として定められ、1949年から1月15日に制定されています。蕨市では今も「成年式」という名称が使われ、1979年には「成年式発祥の地」の記念碑が建てられました。全国どこでも同じように行われている成人式ですが、そのきっかけは一つの町の一度の催しだったことになります。

この行事は今も大きな経済活動を伴っています。2026年の調査では、成人式で振袖を着る女性の約8割がレンタルを選んでいます。法律上の年齢が引き下げられても、晴れ着姿で写真を残す習慣そのものは変わらず続いているわけです。

「戦えるなら投票できるはずだ」が、アメリカの年齢の線を動かした

アメリカでは、大人の線が政治の力でダイナミックに動いた歴史があります。ベトナム戦争で若者が徴兵される一方、投票権は21歳からという制度に対し、「戦えるのに投票できないのはおかしい」という合言葉が広がりました。このスローガン自体は、ジョージア州が第二次世界大戦中の1943年に、ケンタッキー州が1955年に投票年齢を18歳に下げた際から使われていたものです。ベトナム戦争期に全国的な運動として再燃し、1971年に憲法修正第26条が成立して投票年齢は21歳から18歳に下がりました。

投票年齢が動いたことで、多くの州は飲酒年齢も連動して18歳前後に引き下げています。ところが10代の飲酒運転事故が急増したことを受け、1984年にレーガン大統領が全米最低飲酒年齢法に署名しました。飲酒年齢を21歳にしない州には連邦の高速道路予算を削減するという、かなり強引な方法です。結果としてすべての州が21歳に統一されました。同じ世代が20年ほどの間に、「大人」の線を一度押し広げ、また押し戻されるという経験をしたことになります。

187の国と地域のうち141は18歳成人

法務省が2008年にまとめた調査では、世界で成人年齢のデータがある187の国と地域のうち、141の国と地域で成人年齢が18歳に設定されていました。ただし、成人年齢と飲酒や結婚ができる年齢が一致している国は多くありません。それぞれ別の基準で線が引かれているのが実情です。

韓国の成人年齢は19歳で、飲酒・喫煙年齢も同じく19歳に統一されています。ドイツでは成人年齢は18歳ですが、ビールやワインに限っては16歳から飲むことが認められており、蒸留酒だけ18歳からという独特な区分が存在します。アジアに目を向けると、中国と台湾は18歳、タイは20歳、インドネシアは21歳という基準で飲酒年齢が定められており、お隣の国同士でも線の位置は一律ではありません。

選挙権年齢に目を向けると、オーストリアは2007年の法改正で18歳から16歳に引き下げ、EU加盟国として初めて全国レベルで16歳投票権を導入した国になりました。導入後は16歳・17歳の投票率が、18歳から20歳の有権者より高いとする調査結果も報告されています。日本やアメリカのように契約や選挙の年齢と飲酒年齢がずれている国は、世界的に見ればむしろ多数派に近いということになります。

13歳のバル・ミツワー、15歳のキンセアニェーラ。宗教や文化が決める「大人」の年齢

法律だけが大人を決めるわけではありません。宗教や文化も、独自の「大人になる年齢」を持っています。ユダヤ教では男子が13歳で「バル・ミツワー」、女子が12歳で「バット・ミツワー」という儀式を行います。戒律を自分の意思で守れる年齢になったとみなされ、儀式では会衆の前でトーラーの一節を朗読し、その後に祝宴が開かれます。

ラテンアメリカを起源とする「キンセアニェーラ」は、15歳の誕生日を祝う盛大な儀式です。カトリック教会でのミサから始まり、家族や友人を招いたパーティーへと続きます。女性が少女から大人の女性へ移る節目として位置づけられてきました。法律上の成人年齢とは無関係に、13歳や15歳という年齢で「大人」を区切る文化が、現在も世界各地で続いています。

脳の司令塔「前頭前皮質」は、法律上の成人を過ぎてもまだ工事中

法律が18歳や20歳で大人を区切る一方、脳科学の視点では話が少し違います。意思決定や感情のコントロール、長期的な計画、衝動の抑制を担う前頭前皮質は、脳の中でも最も遅く成熟する部位です。複数の研究が、その発達が20代を通じて続くことを示しています。

ここでよく語られるのが「脳は25歳で完成する」という説です。アメリカの国立衛生研究所が資金を出し、9歳から10歳の子どもたち約1万2000人を10年以上にわたって追跡する「ABCD研究」など、前頭前皮質の成熟が25歳前後まで続くことを示す研究は確かに存在します。一方で、この「25歳」という数字がどこから来たのか改めて辿った研究者たちの中には、はっきりした根拠を見つけられないと指摘する声もあります。脳の発達が30代まで続くことを示す研究も出てきており、一つの年齢できっぱり切り分けるのは難しいというのが実際のところのようです。法律上は大人になった瞬間から、脳が完全に大人になるまでには、まだ時間差が残っています。

罪を問われる年齢も国によって違う

刑事責任を問われる年齢という切り口で見ても、大人の線は国ごとにばらつきがあります。日本では14歳未満の者は罰せられないと定められています。2000年の少年法改正で、刑事処分の対象となる下限年齢が16歳から14歳に引き下げられました。

一方、イギリス(イングランドおよびウェールズ)では刑事責任年齢が10歳に設定されています。10歳から14歳未満までは「児童」として扱われながらも刑務所に入る可能性があり、ヨーロッパの主要国の中でもかなり低い基準です。フランスは1912年の少年法で下限を13歳と定め、ドイツは14歳を下限としつつ少年法そのものは21歳未満まで適用されます。アメリカには全国共通の基準がなく、州ごとに制度が異なります。同じ「罪を犯した子ども」という状況でも、国によって大人として扱われ始める年齢がこれほど違います。何を大人の条件とするかという考え方そのものが、国によって異なっているからです。

法律が「大人」と認めても、本人の実感はついてこない

線が何本もあることは、本人の気持ちにも表れています。高卒で社会人になった人を対象にしたある調査では、「18歳を大人だと感じる」と答えた人は46.2%にとどまりました。感じない理由として最も多く挙げられたのは「精神的に自立できていないから」で、71.7%とほかの理由を大きく引き離しています。別の調査では、新成人の約8割が「自分を大人だと思わない」と回答したという結果も出ています。

大人になったと自分で自覚した年齢を尋ねた調査では、「20代」という回答が72.1%で最多でした。10代と答えた人は18.1%にとどまっています。きっかけとして挙げられるのは、初めて自分の給料を受け取った瞬間や、仕事の責任の重さを初めて感じた瞬間、一人で大きな買い物をした瞬間といった、制度の年齢とは関係のない個人的な体験です。法律が線を引いた場所と、本人が実感する場所は、同じ人の中でもずれていることになります。数字は動かせても、実感は後からゆっくりついてくるものなのかもしれません。

「大人になる日」は一つではない

ここまで見てきたように、大人になる年齢は契約、飲酒、結婚、選挙、被選挙権、刑事責任、宗教儀礼、そして脳の発達という、まったく別々の基準によって引かれた複数の線の集まりです。昔は米俵を担げるかどうかという一本の線で済んでいたものが、社会が複雑になるにつれて目的ごとに枝分かれしていきました。

免許を取った日。選挙権を得た誕生日。初めて自分の意思でお酒を飲んだ夜。どれを「大人になった日」として思い出すかが人によって違うのは、そもそも大人の定義そのものが一枚岩ではないからです。次に誰かと「何歳から大人だと思う?」という話になったら、法律の数字と自分の記憶のどちらを答えにするか、少し迷ってみるのも悪くありません。

参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
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偏愛のミカタ PinTo Times