きのこ狩りシーズンに知っておきたい毒キノコ一覧、そっくりな食用きのことの見分け方
スーパーの棚に並ぶきのこはどれも安心して食べられるのに、山や公園に生えているきのこの多くは口にできません。同じ「きのこ」という生き物なのに、片方は食卓の定番で、片方は命を奪うほどの毒を持っているのはなぜでしょうか。9月から11月にかけては、日本各地でキノコ狩りによる食中毒のニュースが増える時期です。見た目がそっくりなのに毒の有無だけがまったく違うという、キノコの世界特有のややこしさを知っておくと、次に山や公園でキノコを見かけたときの見え方が少し変わってきます。
秋に集中する毒キノコ食中毒

キノコによる食中毒は、発生件数のほぼ9割が9月から11月の秋に集中しています。ちょうどキノコ狩りのハイシーズンと重なるためで、厚生労働省の統計によると2012年から2021年までの10年間で302件の食中毒事件が発生し、患者数は820人、死者は3人にのぼりました。月別に見ても、食中毒全体の発生件数がもっとも多いのは例年10月で、キノコ採りのピークとぴたり重なっています。件数や患者数自体は他の食中毒原因に比べて突出しているわけではないものの、致死性の高い種類が混じっているため、行政や自治体は毎年この時期になると注意喚起を繰り返しています。原因の多くは、自分自身や知人が山で採ってきたキノコを自宅で調理して食べたケースで、まれに販売されているキノコに毒キノコが紛れ込んでいた例も報告されています。
日本に生えるキノコの大半は正体不明

日本には4000種から5000種ほどのキノコが自生しているといわれますが、このうち食べられると分かっているのはおよそ100種類にすぎません。一方で、食べると中毒を起こす、いわゆる毒キノコと確認されているものは200種類以上と、食用キノコの2倍以上にのぼります。さらに厄介なのは、残りの大部分のキノコについては、食べられるのか有毒なのか、そもそもまだ十分に調べられていないという点です。つまり山で出会うキノコのほとんどは、専門家でさえ即座に安全と判断できない未知の存在ということになります。見た目のかわいらしさや形の面白さとは裏腹に、キノコという生き物全体が、人間にとってはいまだ大部分が未解明のジャンルなのです。研究者の間でも新種の記載が続いており、毒性の有無すら分かっていない種が身近な雑木林にいくらでも潜んでいるというのが実情です。図鑑に載っている見慣れたキノコでさえ、実は複数の近縁種がひとくくりにされていただけで、遺伝子レベルの研究が進むとまったく別の種として分かれることも珍しくありません。私たちが「キノコ」とひとことで呼んでいる存在は、それだけ広くて奥行きのある世界だということです。
食中毒の主犯、ツキヨタケの厄介な擬態
数ある毒キノコの中でも、食中毒件数がもっとも多いのがツキヨタケです。2019年から2023年の5年間に全国で発生した毒キノコ食中毒のうち、半数以上がツキヨタケによるものでした。厄介なのは、ブナの枯れ木に重なるように生える姿が、食用のヒラタケやムキタケ、シイタケとよく似ていることです。ツキヨタケを縦に割ってみると、柄の付け根近くに黒いシミのような模様が現れるという見分けポイントが知られていますが、暗い森の中でとっさに判断するのは容易ではありません。食べると激しい嘔吐や下痢、腹痛に襲われ、まれに幻覚症状を伴うこともあります。名前の由来になった通り、暗闇でひだの部分がぼんやりと発光する性質を持っており、その神秘的な特徴も、正体を知ってから聞くと妙に怖さが増してきます。光る毒キノコというギャップこそが、ツキヨタケを長年にわたって毒キノコ食中毒の王者の座に押し上げてきた一因ともいえそうです。
名人泣かせと呼ばれるクサウラベニタケ
ツキヨタケに次いで中毒例が多いのがクサウラベニタケです。食用として人気の高いウラベニホテイシメジやホンシメジに酷似しており、キノコ採りのベテランでさえ見誤ることから「名人泣かせ」という異名がついています。見分け方としては、ウラベニホテイシメジは傘に指で押したような斑紋があり柄の中身がしっかり詰まっているのに対し、クサウラベニタケは柄の中身がスカスカしているという違いがあるとされます。食べると嘔吐や下痢に加えて、発汗が止まらなくなるといったムスカリン中毒特有の症状も現れます。似たもの同士が並んでいるからこそ生まれる混乱で、人間の目がいかに色や形の全体的な雰囲気だけで判断しがちかを教えてくれる存在です。
見分けにくい代表的な組み合わせを整理すると、次のようになります。
| 毒キノコ | そっくりな食用キノコ | 見分けにくいポイント |
|---|---|---|
| ツキヨタケ | ヒラタケ、ムキタケ、シイタケ | ブナの枯れ木に重なって生える姿がよく似る |
| クサウラベニタケ | ウラベニホテイシメジ、ホンシメジ | 傘や柄の見た目がほぼ同じ、柄の中身の詰まり方で判別 |
| カキシメジ | シイタケ、チャナメツムタケ | 傘の色や質感が食用種に近い |
こうして並べてみると、毒キノコの多くが単独で不気味な姿をしているわけではなく、むしろ食卓でおなじみの美味しいキノコにこっそり紛れ込む形で人間の前に現れていることが分かります。
触れるだけで炎症を起こすカエンタケ
真っ赤な炎が地面から突き出したような姿をしているのがカエンタケです。枯れた木の根元に群生し、その見た目のインパクトから一度見ると忘れられないキノコですが、危険度も飛び抜けています。致死量はわずか3グラム程度とされ、食べると発熱や嘔吐、下痢に続いて手足のしびれが起こり、数日後には運動障害など神経系の重い後遺症や死に至ることもある猛毒です。さらに特徴的なのは、食べていなくても素手で触れただけで皮膚が炎症を起こす場合があるという点です。近年は都市近郊の公園でも見つかることがあり、赤くて目立つ姿を見かけても絶対に手を触れないようにという注意喚起が各地の自治体から出されています。
一本で人を死に至らしめるドクツルタケとタマゴテングタケ
真っ白で清楚な姿をしているにもかかわらず、日本で確認されている毒キノコの中でも屈指の危険度を誇るのがドクツルタケです。英語圏では「殺しの天使」と呼ばれ、体重60キログラムの成人であればわずか1本、8グラム程度で致死量に達するとされています。恐ろしいのはその進行の仕方で、食べてから6時間から24時間ほどで腹痛や嘔吐、下痢が始まったあと、いったん症状が治まって体調が戻ったように感じる期間が数日続きます。ところがその間にも毒素は静かに肝臓や腎臓の組織を破壊し続けており、油断した頃に深刻な臓器不全に至ります。
同じ仲間で世界的にさらに悪名高いのがタマゴテングタケです。世界中で起きているキノコ中毒による死者の9割ほどがこの一種によるものといわれ、中国だけでもここ10年で3万8000人を超える食中毒と、800人近い死者が報告されています。毒の主成分であるアマトキシン類は加熱に強く、しっかり煮ても焼いても毒性がほとんど失われないうえ、有効な解毒剤も存在しません。症状が出たときにはすでに毒素の大部分が体内に吸収されてしまっているため、対処が非常に難しいとされています。半分ほど食べただけでも肝臓や腎臓に深刻なダメージが及ぶ可能性があり、姿の美しさとは裏腹に、人類がもっとも警戒してきたキノコの一つです。
この仲間の毒キノコは、歴史の表舞台にも顔を出しています。古代ローマの第4代皇帝クラウディウスは紀元54年に急死しており、伝統的な史料では妻アグリッピナが毒キノコを盛って暗殺したという説が語り継がれてきました。実際には誤ってテングタケの仲間を口にしただけという説や、単なる病死だったという見方もあり、真相は今も議論の的ですが、少なくとも古代の人々にとって毒キノコが暗殺の道具として現実味を持って語られていたこと自体は興味深い事実です。植物の毒や動物の毒と並んで、キノコの毒もまた、権力者たちの運命を左右しかねない存在として歴史に刻まれてきました。
長年愛されてきたのに突然牙をむいたスギヒラタケ
毒キノコと聞くと、最初から危険だと分かっているものを想像しがちですが、スギヒラタケはそうした常識をくつがえす存在です。真っ白で扇形の姿をしたこのキノコは、東北地方や北陸地方など日本海側を中心に昔から親しまれてきた食用キノコで、1990年に行われた即位関連の式典では秋田県からの献上品の一つに選ばれたほど、由緒正しい食材として扱われていました。ところが2004年の秋、新潟や山形、秋田などで、このキノコを食べた人が相次いで急性脳症を発症するという事態が起こります。同年だけで東北や北陸など9県で59人が発症し、17人が死亡する深刻な事態に発展しました。厚生労働省が研究班を立ち上げて原因を調べたものの、長らく明確な答えは見つからず、2006年にはいったん「原因不明」のまま研究班が解散するという異例の展開をたどります。長い空白の期間を経て、2023年になってようやく大学の研究グループが、キノコに含まれる複数の成分が複合的に作用して脳に障害を起こす仕組みを解明しました。何十年も安全に食べられてきたキノコが、ある日を境に牙をむき、その謎が解けるまでに約20年もの歳月がかかったという事実は、自然の未知の部分がいかに大きいかを物語っています。しかも発症した人の多くには腎臓の機能に何らかの問題があったとされる一方で、腎臓病の病歴がない人にも症例が確認されており、単純な体質の問題として片付けられない点も、この一件を長らく謎に包んできた理由のひとつでした。
中毒症状は大きく3つのタイプに分けられる

毒キノコと一口にいっても、体に起こる反応は種類によってかなり異なります。専門的には大きく胃腸障害型、コレラ様型、脳症型の3つに分類されます。ツキヨタケやクサウラベニタケなどによる胃腸障害型は、食べてから30分から2時間ほどで吐き気や嘔吐、腹痛、下痢が現れ、数時間でいったん治まって1日から2日ほどで回復に向かうタイプです。一方、ドクツルタケやタマゴテングタケが引き起こすコレラ様型は、摂食から6時間以上、平均で10時間ほど経ってから発症し、初期の激しい嘔吐や下痢が水のような下痢として続いたのち、脱水症状を経て肝障害へと進んでいく、もっとも警戒すべきタイプです。そしてベニテングタケやテングタケの仲間による脳症型は、食べてから15分から90分という短い時間でめまいや運動の異常が現れ、意識障害にまで進むことがあります。同じ「キノコを食べてお腹が痛くなる」という現象でも、体の中ではまったく違う仕組みの攻撃が進行しているというのは、知っておくと役立つ視点です。
童話やゲームに愛された個性派、ベニテングタケとオオワライタケ

毒キノコと聞くと恐ろしい話ばかりになりがちですが、中には物語の世界で愛されてきたキャラクター性の強い種類もあります。赤い傘に白い斑点というおなじみの姿のベニテングタケは、イボテン酸やムスカリンを含み、食べると嘔吐や幻覚を引き起こす毒キノコですが、その愛らしい見た目から欧米の絵本や童話にたびたび登場し、人気ゲームに出てくる大きくなるキノコのモデルではないかともささやかれてきました。任天堂が公式にモデルだと明言したことはなく、あくまで俗説の域を出ませんが、それだけ人々の記憶に残るビジュアルだということでしょう。もう一種、金色がかった姿のオオワライタケは、食べると中枢神経が刺激されて幻聴や、理由もなく笑い出したり泣き出したりする症状が数時間続くことで知られ、地方によっては「おどりたけ」や「おとこまいたけ」といった呼び名も残されています。毒の強さとは別に、人間の想像力を刺激してきたキノコたちです。
見分け方にまつわる俗説はほぼ嘘

キノコ狩りの世界には昔から語り継がれてきた見分け方の言い伝えがいくつもありますが、そのほとんどが科学的根拠のない俗説です。「縦にきれいに裂けるキノコは食べられる」という言い伝えは特に有名ですが、実際にはほとんどのキノコが毒の有無に関係なく縦に裂くことができ、猛毒のドクツルタケやツキヨタケも例外なく縦に裂けます。ほかにも「ナスと一緒に煮込むと毒が消える」「塩漬けにすれば安全になる」「かじって苦くなければ大丈夫」「虫やナメクジが食べているキノコは安全」「派手な色は毒だが地味な色のキノコは食べられる」といった話が広く信じられていますが、これらもすべて誤りです。色や形、味見といった感覚的な判断だけで安全性を見極める方法は存在しないというのが、専門家たちの一致した見解です。
キノコが毒を持つ本当の理由

そもそもキノコはなぜ毒を持つように進化したのでしょうか。有力な説の一つは、キノコバエの幼虫のような、じっくり時間をかけてキノコを食べ進める昆虫への対抗策だったというものです。人間のようにすぐ体調を崩すわけではなくても、数日かけて効いてくる毒であれば、幼虫が食べ尽くす前に相手を弱らせることができます。さらに、動物を弱らせたり死に至らしめたりすることで、その死骸が分解される過程でキノコ自身の栄養源や繁殖の場が広がるという説もあります。人間を狙って毒を持ったわけではなく、あくまで昆虫や微生物との長い攻防の副産物として、たまたま人間にとっても危険な成分になっているというのが実情に近いようです。
安全に秋の恵みを楽しむための鉄則

キノコバエとの攻防の歴史や、スギヒラタケのように何十年もかけて謎が明らかになった事例を知ってしまうと、山に転がる小さなキノコの一本一本に、目には見えない長い物語が詰まっていることに気づかされます。だからこそ、キノコ狩りを楽しむときは、確実に食用だと判断できない野生のキノコは採らない、食べない、売らない、人にあげないという原則を徹底することが何より大切です。地域によっては専門の指導員が同行するキノコ狩りツアーや観察会も開かれており、確実な知識を持つ人と一緒に歩けば、危険を避けながら秋の里山の雰囲気を存分に味わえます。見分け方は専門家に任せ、自分の目は「知らない世界を観察する楽しみ」のために使うくらいが、ちょうどよい距離感なのかもしれません。落ち葉を踏みしめながら色とりどりのキノコを探す時間そのものは、危険な種類も含めて秋という季節が用意してくれた贅沢な楽しみです。正しい知識を持って一定の距離を保ちさえすれば、毒キノコもまた、森の奥深さを教えてくれる案内役になってくれるはずです。
参考
- 食中毒予防:毒キノコに要注意!
ちょっと待って!それ毒キノコかも - 毒きのこによる食中毒の発生状況:農林水産省
- 毒キノコにご用心:この10年間に食中毒患者820人、死者3人 | nippon.com
- ツキヨタケ(毒)キシメジ科|「食品衛生の窓」東京都保健医療局
- クサウラベニタケとウラベニホテイシメジの見分け方/鳥取県公式サイト
- 猛毒のキノコ「カエンタケ」にご注意ください/町田市ホームページ
- 『殺しの天使』ドクツルタケの正体 | BE-PAL
- コカデミア カガクノ英語 第14回 猛毒キノコのdeath cap
- きのこ中毒に注意 | 公益財団法人 日本中毒情報センター
- マリオに出てくる赤白きのこは実在する。ベニテングタケを探しに行ってきた! | きのこびと
- オオワライタケ(大笑茸)Gymnopilus spectabilis | きのこびと
- スギヒラタケは食べないで!:農林水産省
- スギヒラタケ食用後に急性脳症で17人死亡した事件、発症原因を解明-静岡大 | QLifePro
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