後世に残したいから、勝手にアーケード商店街の魅力を語らせて【後編】

Timeless

前編では道全体をアーケードが覆っている「全蓋式」と呼ばれるタイプの商店街を紹介した。

私がアーケード商店街を好きになったきっかけである旦過市場は全蓋式の、しかも歴史を重ねたアーケード商店街だった。それに似た雰囲気の商店街を巡るにつれ、もっと良さを感じるべく他のタイプの商店街も巡るようになった。全蓋式でもリニューアルや店舗の新陳代謝が盛んな商店街や、歩道の上にのみアーケードが架かる「片側式」と呼ばれるタイプ、雪国で見られる店舗1階の庇を伸ばすことでアーケードの役割をしている「雁木」と呼ばれるタイプ、またアーケードの存在しない商店街の見どころも紹介したい。

岡山市表町商店街

「まちの中心がほぼすべてアーケードで覆われている街」

熊本市の上町・下町、鹿児島市の天文館、松山市の大街道、高松市の中央商店街など、とにかく道幅のあるアーケードの下には、衣料品店に飲食店、パチンコ屋に映画館など娯楽系を中心にありとあらゆる店舗が並び、ここに来ればなんでも揃う、まさに街の中心といった風情。思いつくナショナルチェーンはすべて網羅してるのでは?と、おなじみの有名店が軒を連ねる中にも、よく目を凝らしてみれば、ここにしかない個人商店や老舗も同居しており、それらを見つけるのが楽しい。アーケードの脇からは複数の路地も伸び、おしゃれなバーから老舗の居酒屋、郷土料理が食べられる観光客向けの店、即席で作られたような流行りの店など、とにかく無数に店があり、昼も夜も賑わっている。そしてまちの中心にはシンボルであるご当地百貨店が鎮座している。こういった街並みが商店街好きの理想であり、まちの中心のあるべき姿だと思う。

熊本市下通アーケード

一方それほど規模が大きくない商店街では、歴史ある老舗はもちろん、古い建物を活かした新しい店も全国的に増えてきている。新陳代謝ができていることから、どんな街になっていくのか楽しみだ。この動きがもっと全国各地で盛んになることを願っている。

京都府福知山市新町商店街

「片側式アーケード」

アーケードが歩道にのみ架かるタイプは特に雪の多い日本海側のまちに多い。片側式は全蓋式に比べ、ズラリ並ぶ吊り看板や大きな照明など見どころが少ないように思えるが、探すと案外見えてくる。まず見落としがちなのがアーケードの下からは見えない建物の2階や屋根の装飾、それからアーケードのデザイン、吊り看板や袖看板、足元には商店街を印象付けるタイルが敷かれる場合も。商店街を楽しむにはなかなか見る目が必要になってくるが、片側式を好むようになったらいっちょ前だ。

熊本県山鹿市東通町商店街

山梨県の富士吉田市には、テント型の片側式アーケードの先に、ドカンと富士山がそびえる光景に腰を抜かす。アーケード商店街と富士山を同時に楽しめるのは全国でもここだけだ。しかも商店街を歩いていると、富士山に向かってほんのり坂道になっていることに気づく。商店街がすでに富士山の一部なのだ。商店街を歩くついでに登山までしているなんて想定外すぎる。商店街とその周りの広い範囲で、古い建築や吊り看板、富士山をモチーフにしたアーチや街灯などとにかく見どころが多く、連泊してじっくり楽しみたい。

山梨県富士吉田市本町2丁目商店街

「雁木」

新潟県上越市周辺では「雁木」と呼ばれるアーケードが連なる光景が見られる。家の庇部分をのばし歩道の上にアーケードを作ることで、雪でも歩きやすいようにとの工夫だ。それぞれの家が歩行者へのやさしさとして庇を伸ばしているもののため、それぞれ高さや形が違うのが特徴。さらに雁木の上には雪下ろしのために屋根へと上れるハシゴが常設されているのを見ると、雪国に来たんだなと旅情を実感する。高田駅周辺には、雁木の連なる歓楽街もある。雁木の下に並ぶスナックの看板が灯るころには、無料案内所が開き、ホステスが客待ちをする。こんなに風情のある歓楽街がほかにあるだろうか。しかし庇を伸ばす分費用がかかることや、車社会で歩く人が少ないことから、新しい家は雁木を作らないことも多い。雁木の街並みもだんだん消えつつある光景のひとつだ。

新潟県上越市高田の雁木のある街並み

「街灯」

アーケードもアーチもない商店街で、注目したいのが街路灯。ただ単にあたりが暗くなれば道を明るくするだけではない。街並みに馴染むデザインの街路灯は、昼は商店街の美観に役立ち、時にはそのまちの名物名産名所を教えてくれる。つまり昼も夜もまちを明るく美しく彩る役割があるのだ。

大阪市城東区南しぎの商店街

「アーチ」

アーケードの代わりに、頭上をアーチや飾りが彩るタイプもある。例えば宮崎県延岡市にある太子通り商店街には、蝶のような装飾が美しいアーチが私たちを歓迎している。連なるアーチをくぐっているとまるで千本鳥居のように見えてきて、神聖な気持ちになる。飾りには塩化ビニール製の季節感がない花飾りや、万国旗のタイプもある。頭上にそれらが舞っていると、お祭りのようでテンションが上がり、財布の紐がゆるくなる作用があるのかもしれない。

宮崎県延岡市太子通り商店街

「商店街を探してみよう」

駅前、参道、団地の中など、よくまちを観察すると、今まで気づかなかっただけで商店街はいたるところに存在する。なにもないと思っていた平凡な街並みも、よく見たらおもしろい看板やおしゃれな街灯、珍しい店が並ぶ発見の連続だ。見つけたらすかさず写真に撮ってSNSにアップ。それを繰り返すことで、ほらもう商店街が好きになる。ふらり立ち寄ってみれば商店街ならではの、マイペースでゆるい時間が流れている。そこでしか出会えない味や、居心地のいい空気感、まだ見ぬワクワクを探しに商店街へ出かけよう。

愛知県春日井市藤山台団地商店街

あさみん

あさみん

Asamin

名古屋市生まれ。全国のおもしろおかしいスポットをめぐりながら、独自の視点でブログ「BQ B-spot Explorer」に紹介。2014年にはじめて訪れた北九州市の旦過市場で、レトロな商店街に魅了される。以降、全国の商店街を訪ね続け、現在までに300箇所以上に及ぶ。雑誌、web記事への寄稿、メディア出演のほか、2020年12月より文春オンラインにて、地方都市に潜む魅力的なスポットについて連載中。