爪を塗って10年 vol.2 〜爪を塗る環境が性に合いすぎた〜

爪作家・つめをぬるひと。その名の通り、爪を塗ってきた彼女だが、彼女が生み出す「爪」は、いわゆるネイルとはどこか違う。爪を塗る行為そのものに魅了され、気づけば活動10周年を目前に控える今、改めて「爪を塗ること」について考えてみる。第2回は10年続けてこられた理由の一つ「爪作り環境」のこと。
爪を塗って10年 vol.1 〜それしか出来ることがなかった〜
「爪」という小さなキャンバスで表現をし続ける、爪作家・つめをぬるひと。いわゆるネイルとはどこか違う、「爪」への偏愛論を語る連載企画。
「つめをぬるひと」という名前で活動して来年で10年になる。
これまで私が長く続けてきたことといえば、小さい頃に習っていたピアノ。たしか10年くらいだったと思う。学生時代も軽音サークルにいたので、趣味の範囲ではあるものの、人生の大半を占めるものは今後もずっと音楽だと思っていた。しかし最近は、音楽に触ってきた年数を、爪の活動年数が上回ろうとしている。音楽以上に爪のことを続けてきた自分。よくもまあ飽きずに続けてきたなと思う。
性分と爪の相性

私は絵の勉強をしてきたわけではないし、美術系の学校も出ていない。
丸や線を描くのでやっとだし、大きなキャンバスに絵を描くことは、自分には全くできる気がしない。
でも、爪という小さい枠の中だったら、なんだか描ける気がしてしまう。そして、爪は身体の一部でもある。前回の記事にも少し書いたけど、身体の一部に「思いつきで描いたり消したりできる場所」があって、なおかつそれが小さい枠であるということだけで、なんとなく「私に合っている」という気持ちが膨らんでしまう。

私は一人っ子なので、小さい頃から一人で遊ぶことに慣れていた。というよりは、むしろ一人のほうが好きで居心地がよかった。高校を卒業して一人暮らしを始めた時に、それまでの家庭環境がややハードだったこともあって、一人の居心地の良さを実感した。大学や、就職先の職場では人と接することも多く、会社に通勤する時期もまあまああったけど、会社を辞めて、爪のことを仕事にして、家で黙々と一人で制作するようになると、その快適さが身に沁みた。通勤という概念がない。宅配をいつでも受け取れる。お腹が痛くなったら人目を気にせずいつだってトイレに行ける。おかげで満員電車への耐性は弱くなってしまったけど、今の環境が「私に合っている」という確証は日に日に強くなる。

この2つの「私に合っている」という要素は、さらに爪への意欲を掻き立てた。自分の性分と、爪という物体やそれを作るための環境との相性があまりにも合いすぎている。そもそも爪との出会いがなかったら私は今の環境で仕事をしていなかったし、この環境に私を運んできたのは爪だった。そう考えると爪はすごい。飽きるどころか、何の疑いもなく爪にのめり込んでいける。
爪を作る第一段階

よく人から「爪のデザインはどこからインスピレーションを得ているのですか」と聞かれることがある。
でも、日常の中でいきなり「降りてきた!」なんてことは全くない。
そう言えたらかっこいいのかもしれないけど、実際は「ハイ今日はこれから新しいデザインを作りますよ」という時でないと出来ない。
テーブルに置いてあるネイルポリッシュの並びから配色を考えることもあれば、スマホの写真から配色を練ることもある。
試作用のつけ爪に何枚も描いて配置を入れ替えたり、もう一度配色を練り直したりしながら、デザインを確定していく。
確定したデザインで本番用のつけ爪を制作するのは、細かい作業の連続なので神経こそすり減るけど、まだ気持ちとしては楽なほうで、
新しいデザインを作る時は脳をフルにぶん回しているような感覚がある。

現在、私は夫と二人暮らしで、今住んでいる家には昨年引っ越してきたのだが、その前に住んでいた家では、リビングの一角に作業スペースがあった。例えば私が制作日で夫が休みという状況だと、リビングで夫がNetflixの「テテン」という音を鳴らしただけでもだいぶ制作は厳しいのだが、そもそも夫は休みなので、テテンだけで妻から嫌な顔をされてしまってはたまったもんじゃない。それはちょっとかわいそうなので、できるだけ休みは合わせているけど、今度は展示物や撮影道具の置き場所にも困るようになり、物理的にも手狭に。かなり前から家は探していたけど、コロナ禍で気軽に内見へ行けないようなご時世を挟み、紆余曲折を経てようやく昨年引っ越すことが出来たのである。

今では制作部屋ができたことで随分と制作がやりやすくなった。
メリハリもついてお互い過ごしやすくなったし、撮影道具も整理できた。
ただでさえ「爪」というものにたいして、おそらく人並み以上に魅力を受け取ってしまっているというのに、それを作る環境が自分に合っているとなると、より一層爪への愛が揺るぎないものになっていく。
これもまた、今後「飽きずに続けられる理由」の一つになるんじゃないかと思う。
ずっと一人で制作していると、孤独を感じることはないのかと思われるかもしれない。
次回は、10年続けてこられた最大の理由でもある「爪で出会った人」についての話。
爪を塗って10年 vol.3 〜爪は人に会わせてくれる〜
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