「飛地」とは? なぜそこにある?日本の有名な飛地や誕生の歴史を徹底解説【地図上のミステリー】

地図アプリや大きな日本地図をぼんやり眺めているとき、「あれ? なんでこの町だけ、こんな離れた場所にポツンとあるの?」なんて、不思議な境界線に出くわしたことはないでしょうか。

周囲をぐるりと全く別の市や県に囲まれているのに、なぜか所属は遠く離れた自分の自治体……。そんな、まるで地図上のミステリーとも言える不思議な場所を「飛地(とびち)」と呼びます。

「どうしてそんな不便そうな場所にあるの?」

「住んでいる人は困らないの?」

そんな皆さんの頭に浮かぶ「なぜ?」にお答えすべく、この記事では飛地とは何かという基本から、誕生の歴史的背景、そして日本や世界に実在する面白くて有名な飛地スポットまで、とことん掘り下げて解説します。

読み終わる頃には、きっとあなたも身近な地図を開いて、自分だけの「飛地探し」を始めたくなるはずですよ。

目次

そもそも「飛地(とびち)」とは?

飛地とは、一言で言えば「自分が属している国や自治体(都道府県・市区町村)の本土から離れて、他の国や自治体の中にポツンと孤立して存在している土地」のことです。わかりやすく言うと「他の地域に囲まれて隔離された土地」。

本来、一つの国や市町村の土地というのは、ひとかたまりに繋がっているのが普通ですよね。ところが、飛地は何かしらの理由でその繋がりがプツリと途絶え、別のエリアに取り残されてしまっているのです。

広義の飛地と狭義の飛地(内飛地と外飛地)

飛地は、どちらの視点から見るかによって、2つの呼び名で区別されることがあります。

  • 外飛地(そととびち): 自分の自治体から見て、「外」の離れた場所にある自分の土地のこと。
  • 内飛地(うちとびち): 他の自治体から見て、自分の土地の中に「内包」してしまっている別の自治体の土地のこと。

たとえば、「A市」のエリアの中に、「B市」の土地がポツンとあったとします。この場合、B市から見ればその土地は「外飛地」ですが、A市から見れば「内飛地」となります。まさに表裏一体の関係ですね。

不動産用語としての「飛地」との違い

ちなみに、土地取引などの不動産の世界でも「飛び地」という言葉が使われることがあります。これは行政の境界線(県境や市境)とは関係なく、「今、家が建っている土地とは別に、道路や他人の敷地を挟んで飛び越えた場所に存在している自分の土地」を指します。田舎の物件などで、農地や山林が地続きではなく、分割されて点在しているケースなどがこれにあたります。

なぜ飛地は生まれるのか?主な3つの原因

普通なら、土地はひと続きにつながっていたほうが管理だって楽なはず。それなのに、なぜわざわざ飛地なんてものが生まれてしまったのでしょうか? 主な原因は以下の3つが挙げられます。

江戸時代の「藩領」や明治の「廃藩置県」の名残り

一番多いのが、歴史的な経緯によるものです。江戸時代、大名たちは自分のお城の周りだけでなく、遠く離れた場所にも「飛び地の領地」を持っていることが珍しくありませんでした。また、有力な寺や神社が、あちこちに飛び地の「寺社領」を持っていることもありました。

明治時代になって「廃藩置県」が行われた際、そうした昔の複雑な領地の境界線が、そのまま県境や市町村境として引き継がれてしまったため、現代の地図にも飛地として残っているのです。

「市町村合併」による飛び地の発生

昭和や平成の時代に行われた大規模な「市町村合併」も、新たな飛地を生む原因になりました。

周辺の町や村が次々と合併して大きな市になっていく中で、「ウチの村は歴史的にも独立を保つぞ!」「あっちの市とは合併したくない!」と、特定の地域だけが合併に参加しなかった結果、周囲をぐるりと取り囲まれて、ポツンと飛地になってしまうケースです。

河川の氾濫や流路変更による分断

昔はよく「川の流れ」を境界線にしていました。しかし、大雨による氾濫で川筋が変わったり、人間が水害を防ぐために大規模な工事を行って川を真っ直ぐに変えてしまったりすることで、トラブルが起きます。

「川の形は変わったのに、地図上の境界線は昔のまま」という状態になり、川の対岸に自分の町の土地が取り残されてしまう現象(「川向こう」の飛地)が、全国各地で発生したのです。

一度は訪れたい!日本の有名な「飛地」スポット5選

日本国内には、歴史や地形が生み出したユニークな飛地がたくさんあります。その中でも特に有名な5つのスポットをご紹介しましょう。

【和歌山県北山村】日本で唯一!村ごと全てが飛地

和歌山県にある「北山村」は、周囲を三重県と奈良県に完全に囲まれており、和歌山県でありながら和歌山県のどの市町村とも接していません。なんと日本で唯一、村全体がまるごと飛地になっているという、超レアな自治体なのです。

なぜこんなことになったのか。北山村は古くから、切り出した木材を川で運ぶ「筏流し(いかだながし)」が盛んで、川の下流にある和歌山県新宮市と経済的・文化的な結びつきが非常に強かったのです。そのため、廃藩置県の際に「どうしても新宮市と同じ和歌山県に入りたい!」と住民が強く希望した結果だと言われています。

現在では、この村でしか育たない幻の柑橘類「じゃばら」を特産品として大ヒットさせ、飛地であることを逆手に取った村おこしに成功しています。

【埼玉県新座市】東京都練馬区の中にある「西大泉町」の謎

都会の住宅街のど真ん中にも、ミクロな飛地が存在します。埼玉県の市街地に完全に囲まれているのに、数十平方メートルのわずかなエリアだけが「東京都練馬区西大泉町」となっている場所があるのです。

これは、昭和の高度経済成長期に、不動産開発業者が県境をあまり気にせず宅地開発を行ってしまった結果だと言われています。歩いて数秒で埼玉県に出てしまう、都会ならではの不思議なスポットです。

【群馬県・栃木県・埼玉県】県境が入り組む「三県境」近くの飛地群

群馬県・栃木県・埼玉県の境界が交わる渡良瀬遊水地の近くには、3県の境界線がまるでパズルのように複雑に入り組んだ飛地群があります。

これは明治時代、足尾鉱毒事件対策などで渡良瀬川の流路を変える大工事を行った際、川は真っ直ぐになったのに、境界線は「昔くねくね曲がっていた川の跡」のまま残されたためです。現在では、平らな田んぼの真ん中に「3歩で3県をまたげる」という珍しい三県境の観光スポットとして整備されています。

【兵庫県川西市】大阪府に囲まれたドラゴン型の飛地「満願寺町」

兵庫県川西市の「満願寺町」は、周囲を完全に宝塚市(兵庫県)に囲まれています。(※注:周囲はすべて兵庫県内ですが、川西市本体から離れているため飛地となります)。地図でこの飛地の形を見ると、なんとタツノオトシゴやドラゴンのような、非常に複雑で細長い形をしています。

これは、この地にある「満願寺」というお寺が、何百年もかけて少しずつ広げてきた「寺の領地」の形が、そのまま明治時代に行政の境界線として認められたからです。信仰の歴史が地図に刻まれた、ロマンあふれる飛地ですね。

【鹿児島県三島村・十島村】海を挟んだ飛地(離島との違い)

少し毛色は変わりますが、鹿児島県の離島にある「三島村」と「十島村」は、「村役場が飛地にある」という珍しいケースです。

島々が南北に広範囲に点在しているため、特定の島に役場を置くと、他の島の住民が行くのにフェリーを何日も乗り継がなければなりません。そこで、すべてのフェリーが集まる拠点である「本土の鹿児島市内」に、村の役場をドーンと構えているのです。行政の効率化を極めた、海を挟んだ「役場飛地」と言えるでしょう。

世界に目を向けるとさらにすごい!有名な国際飛地

国と国の境界線(国境)が飛地になっている「国際飛地」となると、そのスケールも影響力もケタ違いになります。

【カリーニングラード】ロシアの本土から離れた軍事要衝

現在、国際情勢で最も注目されている飛地が、ロシアの「カリーニングラード」です。ロシア本土から遠く離れ、NATO加盟国であるポーランドとリトアニアに挟まれたバルト海沿岸に位置しています。

ここはかつてドイツの「ケーニヒスベルク」という美しい都市でしたが、第二次世界大戦後にソ連領になり、ソ連崩壊によって周囲の国が独立したことで巨大な飛地になりました。現在はミサイルが配備されるなど、欧州におけるロシアの最重要かつ緊張感の高い軍事拠点となっています。

【アラスカ】世界最大の飛地(アメリカ合衆国)

実は、アメリカの「アラスカ州」も巨大な飛地です。アメリカ本土とアラスカの間には、カナダという広大な国が横たわっていますよね。

19世紀にアメリカがロシアから格安で買い取ったこの土地は、今や豊富な地下資源だけでなく、北極海の航路や覇権を握るための超重要な拠点となっています。

【バールレ】オランダとベルギーが複雑怪奇に入り組む町

平和でちょっと笑える飛地が、オランダとベルギーの国境にある「バールレ」という町です。

中世の貴族たちの複雑な土地の貸し借りの歴史が、そのまま国境になってしまったため、町中に20個以上の飛地が存在し、国境線が家やカフェの中を真っ二つに横切っています。

「玄関のドアがある国の法律が適用される」というユニークなルールの下、税金が安い方の国に玄関を移動させるといった、したたかでユーモアあふれる住民の暮らしぶりが観光の目玉になっています。

飛地に住むとどうなる?住民のメリット・デメリット

「実際に飛地に住むと不便じゃないの?」と疑問に思いますよね。そこには飛地ならではのリアルな事情があります。

行政サービスや学校、ゴミ収集はどうなる?

電気や水道などのインフラ維持やゴミ収集のために、わざわざ遠く離れた自分の自治体から車を走らせてくるのは非効率です。そのため、多くの飛地では「周辺の自治体にお金を払って、サービスを委託する」という形で生活を維持しています。

しかし、学校については「自分の自治体の学校に通わなければならない」という規定があることも多く、すぐ近所に別の市の学校があるのに、わざわざ遠くまで通学しなければならないケースもあります。

郵便や救急搬送の課題

救急車や消防車の出動も、本来の管轄から来ていては間に合わないため、一番近くにある別の自治体の消防署が対応する協定が結ばれていることがほとんどです。

また、郵便物や宅配便の配達員さんが、「住所はA市なのに、場所はB市の中にある」という事態に最初は戸惑ってしまうのも、飛地あるあるですね。

飛地ならではの観光資源化(ふるさと納税など)

一見デメリットばかりに見えますが、「飛地であること」そのものが強力なブランドになるメリットもあります。

先ほど紹介した北山村のように「日本唯一の飛び地の村」というキャッチコピーは、特産品のPRや観光、さらには「ふるさと納税」を集める上で絶大なインパクトを持っています。マイノリティであることを逆手に取り、地域おこしの武器にしているのです。

おわりに

一見すると不自然に見える地図上のバグのような「飛地」。ですが、その背景を紐解くと、何百年も前の領主たちの思惑や、大自然がもたらした地形の変化、そしてそこに住み続けた人々の強いこだわりが詰まっていることがわかります。単なる地図上のエラーではなく、「歴史のロマン」と「人々の暮らし」が交差する生きた証なのです。

今度地図アプリを開く機会があれば、ぜひご自身の住んでいる町や近所の境界線をズームして眺めてみてください。「こんなところに!」という、あなただけの飛地が見つかるかもしれませんよ。

参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times