世界が恋する「シティポップ」の正体とは?熱狂の理由と必聴の名曲6選

最近、SNSやテレビで「日本のシティポップが世界中でバズっている」というニュースを目にしませんか?

TikTokを開けば流れてくる、キラキラした都会的なサウンド。その正体は、実は40年以上も前の日本のポップスだったりします。「言葉も通じない海外の若者たちが、なぜ昭和の歌謡曲に?」と不思議に思うのも無理はありません。

この記事では、「名前は聞くけど、実はよく知らない」という方に向けて、シティポップの正体や歴史、そして世界を巻き込んだ熱狂の裏側を紐解きます。単なる懐メロではない、その洗練された魅力に迫りましょう。

そもそも「シティポップ(City Pop)」とは?

言葉の意味と定義

「シティポップ」に厳密な音楽的定義はありませんが、一般的には1970年代後半から80年代にかけて日本で流行した、都会的で洗練されたポップスのことを指します。

当時は「ニューミュージック」の一種として扱われたり、「シティ・ミュージック」と呼ばれたりしていました。「四畳半フォーク」のような土着的な生活感を排し、カーステレオやウォークマンから流れる「都市生活(シティ・ライフ)をおしゃれに彩るBGM」として進化した音楽です。

背景には、高度経済成長からバブル景気へと向かう時代の高揚感がありました。音楽が「部屋で座って聴くもの」から「街やリゾートへ連れ出すファッションの一部」へと変わった時代の象徴とも言えます。

音楽的な特徴〜ただの懐メロじゃない「圧倒的な完成度」〜

シティポップが今も古びない理由は、その音楽的なクオリティの高さにあります。

  • 洋楽(AOR・ファンク)の血脈:アメリカのAOR(Adult Oriented Rock)や、ファンク、ソウル、ディスコといったブラックミュージックのグルーヴを、日本の歌謡曲に見事に融合させています。
  • 職人技が光る贅沢なサウンド:当時のレコーディング現場には、日本屈指のスタジオ・ミュージシャンが集結していました。きらびやかなシンセサイザー、16ビートを刻む軽快なカッティング・ギター、うねるベースライン。今の時代では再現が難しいほど、贅沢な音作りがなされています。
  • 歌詞が描く「都市のムード」:テーマは高層ビルの夜景、雨の高速道路、夏のビーチリゾート、そして都会の孤独。現実の生活感よりも、誰もが憧れるライフスタイルや、少し切ない都市の情景(ムード)を描き出しているのが特徴です。

なぜ今、世界中で「シティポップ・ブーム」が起きているのか?

このブームは偶然ではなく、インターネット文化が生んだ必然でした。大きな理由は3つあります。

YouTubeのアルゴリズムと「プラスティック・ラブ」現象

すべてのきっかけは、YouTubeの「おすすめ機能」でした。

2010年代後半、竹内まりやの『Plastic Love』(1984年)が、世界中のユーザーのホーム画面に突如としてレコメンドされ始めたのです。

サムネイルに映る彼女の美しいポートレートと、イントロの完璧なグルーヴ。なんとなく再生した海外のリスナーたちは「80年代の日本にこんな名曲があったのか!」と衝撃を受けました。動画は数千万回再生され、コメント欄は多言語の称賛で溢れかえり、世界がシティポップを発掘する入り口となりました。

ヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)と「知らない過去への郷愁」

もう一つの要因は、2010年代初頭にネットで生まれた「ヴェイパーウェイヴ」「フューチャーファンク」というムーブメントです。

海外のクリエイターたちが、80年代の日本の商業音楽やアニメ映像をサンプリング(切り取って再構築)し、独特のノスタルジーを漂わせる新しい音楽として発信しました。

彼らにとってバブル期の日本の音楽は、体験したことのない「輝かしい未来への郷愁(Anemoia)」を感じさせる、とてつもなく魅力的な素材だったのです。

The Weekndら、世界的スターからのリスペクト

このネット上の熱狂は、現代のトップアーティストたちにも届きました。

世界的なスター、The Weeknd(ザ・ウィークエンド)は、亜蘭知子の『Midnight Pretenders』をサンプリングした楽曲を発表。人気ラッパーのTyler, the Creatorも山下達郎の楽曲を引用しています。

影響力のある彼らがリスペクトを表明したことで、シティポップは「マニアックなネット文化」から「世界基準のクールな音楽」へと評価を確立しました。

これだけは聴いておきたい!代表的アーティストと名曲

ここからは、絶対に外せない「レジェンド」たちと、その名曲をご紹介します。

山下達郎(Tatsuro Yamashita)

「職人技が生んだキング・オブ・シティポップ」

自身の作品はもちろん、数多のプロデュースワークでこのジャンルの音を決定づけた最重要人物です。

『SPARKLE』は、冒頭のギター・カッティングの鋭さと美しさは圧巻。世界中のファンがこのイントロに痺れています。

竹内まりや(Mariya Takeuchi)

「世界的な再評価のアイコン」

山下達郎のパートナーであり、普遍的なポップスを生み出し続けるシンガーソングライター。

『Plastic Love』は海外人気の火付け役。都会で遊ぶ女性の虚無感と孤独を描いた歌詞、そして洗練されたディスコ・サウンドが奇跡的なバランスで成立しています。

大瀧詠一(Eiichi Ohtaki)

「永遠のバカンスを描くナイアガラ・サウンド」

『君は天然色』は複数の楽器を重ねて音の壁を作る「ウォール・オブ・サウンド」の手法を用いた、分厚く煌びやかなサウンドが特徴です。

松原みき・杏里・大貫妙子

海外DJやストリーミングでの再評価が著しいアーティストたちも外せません。

松原みき『真夜中のドア〜Stay With Me』はデビュー曲にして最高傑作。TikTokでのバイラルヒットにより、世界中のチャートを席巻しました。

杏里『悲しみがとまらない』は角松敏生プロデュース。爽快でダンサブルな失恋ソングで、夏と海が似合うシティポップの王道です。

大貫妙子『4:00A.M.』はヨーロピアンな気品と、フュージョン色の強い先鋭的なサウンドが、海外の「通」な音楽ファン(ディガー)から熱烈に支持されています。

現代に受け継がれる「ネオ・シティポップ」

シティポップのリバイバルは、現代の音楽シーンにも多大な影響を与えています。

当時のサウンドを再解釈する若手たち

80年代のグルーヴを現代的なセンスで再構築した「ネオ・シティポップ」と呼ばれるバンドや楽曲が増えています。

Suchmos(サチモス)の『STAY TUNE』の大ヒットは、若者に「シティポップ的なサウンドのかっこよさ」を再認識させました。また、NulbarichやVaundy藤井風らの楽曲に見られる洗練されたコード進行やメロウな雰囲気にも、シティポップの遺伝子は確かに受け継がれています。

アジア圏への広がりとリエディット

ブームは韓国をはじめアジア全体へ。韓国のDJ/プロデューサー、Night Tempo(ナイト・テンポ)は、昭和ポップスをダンスミュージックにリエディットする「昭和グルーヴ」シリーズを展開。公式にリエディット作品をリリースするなど、ブームを牽引し続けています。

シティポップは色褪せない「日本の宝」

シティポップがこれほど長く愛される理由は、単なる懐古趣味だけではありません。バブル期の潤沢な予算と、ミュージシャンたちの妥協なき「職人魂」によって作られた楽曲そのものが、時代を超えて通用する圧倒的な強度を持っているからです。

「古くて新しい」日本の宝、シティポップ。ぜひサブスクリプションサービスでプレイリストを探して、その洗練された世界に浸ってみてください。

参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times