ダムカードとは? マニアが熱狂する「インフラのトレカ」の謎と魅力
この記事でわかること
- なぜ「タダ」で配られるカードに、数万円の価値がつくことがあるのか?
- カードに書かれた謎のアルファベット「FNAWIP」が示す意味とは?
- ダムに行かないと手に入らない「不便さ」が、逆に人を惹きつける理由
- マンホールや歴史遺産にも波及する「公共配布カード」の広がり
私たちの生活を支える巨大なダム。何百万トンものコンクリートでできたこの巨大な建造物が、実は「小さなカード」になって熱狂的に集められていることを知っていますか?
それが「ダムカード」です。見た目はアニメやゲームのトレーディングカードにそっくりですが、描かれているのはキャラクターではなく、重厚な土木構造物。国土交通省や自治体が発行するこのカードは、単なる記念品を超えて、多くの人を山奥のダムへと突き動かす不思議な魅力を持っています。
なぜ私たちは、この無機質なカードにこれほど惹かれるのでしょうか?
「行かなければもらえない」という鉄の掟
そもそも、なぜダムカードは生まれたのでしょうか? 実はこれ、最初から国の一大プロジェクトだったわけではありません。ある「偶然」と「大人の事情」から生まれたものでした。
本のオマケになるはずが…?
きっかけは、あるダム関連の本を作る時のことでした。制作スタッフが「本にダムのトレーディングカードを付録につけたら、マニア以外の人も興味を持つのでは?」と考えたのです。
しかし、このアイデアは国土交通省の担当者に断られてしまいます。その理由は非常にシンプルで、かつ重要なものでした。
「ダムカードは、わざわざダムまで足を運んでくれた人に、無料で手渡すからこそ意味があるんです」
もし本につけてしまったら、本屋さんで買うだけで手に入ってしまいますよね。それでは「現地に行った証明」にはなりません。この「現地に行かなければ絶対に手に入らない」という不便なルールこそが、結果的にダムカードを特別な「宝物」に変えることになったのです。
温泉クーポンが教えてくれたこと
本の付録案はなくなりましたが、代わりに「現地の温泉割引クーポン」をつけることになりました。すると、本を読んだ人が実際にダムへ行き、温泉に入るという流れが生まれました。「写真で見るよりも、実物の迫力はすごい!」と感動する人が増え、これが今の「ダムカードを集める旅」の原点になったと言われています。
カードの見方と謎のアルファベット「FNAWIP」の意味
ダムカードを手に入れたら、まず右上のアルファベットに注目してください。「F」や「N」、「W」といった文字が書かれています。
これはただの飾りではありません。そのダムがどんな仕事をしているかを表す「ステータス画面」のようなものです。
| 記号 | 意味 | 解説 |
| F | Flood Control (洪水調節) | 大雨の時に水をためて、下流の洪水を防ぐ「守りの盾」。 |
| N | Normal Water (河川維持) | 川の水が枯れないように水を流し、魚や自然を守る機能。 |
| A | Agriculture (農業用水) | 田んぼや畑に水を送る役割。 |
| W | Water Supply (水道用水) | 私たちが家で使う飲み水を供給する役割。 |
| I | Industrial Water (工業用水) | 工場で製品を作るための水を供給する役割。 |
| P | Power Generation (発電) | 水の力で電気を作る発電所としての役割。 |
例えば「FNW」と書かれていたら、「洪水を防ぎ(F)、川を守り(N)、飲み水を作る(W)」という3つの技を持ったダムだということが一目でわかります。この記号の意味を知っているだけで、ただのコンクリートの壁が「私たちの暮らしを守る頼もしい存在」に見えてきませんか?
なぜ無料なのに高値で売れる?「入手困難」が生む価値
ダムカードは、現地の管理所に行けば無料でもらえます。それなのに、ネットオークションでは数百円、時には数万円で取引されることがあります。なぜ「タダ」のものにお金を出してまで欲しがる人がいるのでしょうか?
「遠さ」がお金に変わる
理由は単純です。ダムの多くは人里離れた山奥にあります。そこへ行くためのガソリン代、高速代、そして何より移動にかかる「時間と労力」が、カードの価値に変わっているのです。
「そこに行った人しか持っていない」という事実は、コレクターにとって何よりの勲章です。
幻の「レアカード」たち
さらに、カードには「バージョン」があります。ダムが工事中だった頃の写真を使った「Ver.1.0」などは、工事が終わると新しい写真に切り替わってしまい、二度と手に入らなくなります。
例えば、沖縄県の「億首(おくくび)ダム」の完成記念カードなどは、地理的な遠さと、その時しか配られなかった希少性から、オークションで約2万円近い値段がついたこともあります。無料の紙切れが、時間の経過とともに「お宝」に化ける。これもダムカード収集の面白いところです。
現地でしか味わえない「音」と「静寂」の感動

カードを集めること自体も楽しいですが、本当の醍醐味はやはり「現地体験」にあります。
ダムに行くと、2つの対照的な世界を同時に体験できます。
- 下流側の「動」: 放流が行われている時の「ザザザザザーッ!」という轟音と、地面が震えるような振動。これは写真やカードからは伝わってきません。
- 上流側の「静」: ダムによってできた湖(ダム湖)は、鏡のように静かで、鳥のさえずりが聞こえる穏やかな世界です。
この「ものすごいエネルギー」と「静けさ」を体で感じた後に手に入れるカードは、単なる紙ではなく、その時の感動を閉じ込めた「記憶のスイッチ」になります。家に帰ってカードを見るたびに、あの轟音や風の匂いが蘇るのです。
マンホールカードへも波及!広がる「公共配布カード」の世界
ダムカードの成功は、他のインフラにも飛び火しました。「地味だけど大事なもの」をカードにして配る動きが全国で広がっています。
- マンホールカード: ご当地のマンホール蓋をカード化。函館市のイカのデザインなど、地域色が豊かで大人気です。
- 歴史・偉人カード: 函館市では、幕末の志士「坂本龍馬」や、ソーセージ作りの職人などをカードにして、ゆかりの場所で配っています。
これらはすべて、「特定の場所に行かないともらえない」という共通のルールを持っています。このルールのおかげで、私たちは普段行かないような場所へ足を運び、地域の歴史や文化に触れるきっかけをもらっているのです。
おわりに
ダムカードは、ただのコレクションアイテムではありません。
それは、普段なにげなく見過ごしている「インフラ」という巨大なシステムを理解するための入り口であり、見知らぬ土地へ旅に出るための「チケット」でもあります。
- FNAWIPでダムの役割を知る(知的な発見)
- 現地までの道のりを楽しむ(旅の楽しみ)
- 圧倒的なスケールを体感する(五感の体験)
今度のお休みは、近くのダムを検索してみませんか? 管理所のインターホンを押して「ダムカードください」と言うほんの少しの勇気が、あなたの世界を少しだけ広く、面白くしてくれるはずです。






