ファンダムとは? 意味やK-POPで使われる理由、経済効果、問題点を徹底解説

この記事でわかること

  • ファンダムの正確な意味:「ファン」や「ファンクラブ」との決定的な違い、SNS時代になぜ注目されるのかがわかります。
  • K-POPとファンダムの密接な関係:センイル広告や「スミン」など、韓国でファンダム文化が特に活発な理由と具体的な活動内容がわかります。
  • 莫大な経済効果(ファンダム・エコノミー):アニメ市場の4兆円規模への到達や、BTSの事例など、ファンダムが動かす経済規模がデータでわかります。
  • ファンダムの「光と闇」:「推し疲れ」などの問題点や、コミュニティとの健全な付き合い方のヒントがわかります。

「ファンダム」という言葉を、K-POPやアニメ、スポーツ、さらには企業のマーケティング戦略において耳にする機会が急速に増えています。それは単なる「ファン」の集まりを指す言葉でしょうか?

本記事では、「ファンダム」の正確な意味から、K-POPで活発な理由、数兆円規模に達する「ファンダム・エコノミー」の光、そして「推し疲れ」に代表される闇まで、この現代の巨大な文化現象を、データと事例に基づき徹底的に解剖します。この記事を読めば、ファンダムが現代の経済と文化を動かす「エンジン」であることが理解できるはずです。

目次

ファンダムとは? 意味をわかりやすく解説

ファンダム(Fandom)とは、単なる「ファン(Fan)」の集団ではありません。

その核心は、特定のアイドル、コンテンツ(アニメ、漫画など)、スポーツチームといった対象に対し、熱心なファンが集団を形成し、「SNSや各種プラットフォームによって集団的に形成された文化・価値観や行動基準を有する」状態を指します。

つまり、ファンダムを定義づける重要な要素は以下の3点です。

  1. 集団であること:個々のファンの「点」ではなく、繋がった「集団」である。
  2. 共通の文化・規範を持つこと:その集団内だけで通じる独自のルールや共通言語、応援の仕方(行動基準)が存在する。
  3. プラットフォームで繋がっていること:SNSや専用アプリなどが、その繋がりと文化形成の基盤となっている。

インターネットが普及する以前の「ファンクラブ」が、アーティスト側からファン(会員)へ情報が提供される「1対N」のトップダウン型だったのに対し、現代のファンダムは、SNSなどを介してファン同士が繋がる「N対N(ピア・ツー・ピア)」の横の繋がりを強く持つことが特徴です。

このネットワークを通じて、ファンは単なる「消費者」ではなく、文化を能動的に形成・維持する「共同体」となります。現代におけるファンダムは、「デジタル・プラットフォームを介して相互に接続され、独自の文化を能動的に形成・維持するファンのネットワーク(または生態系)」と定義できるでしょう。

ファンダムの語源:「ファン(Fan)」と「領地(-dom)」

ファンダム(Fandom)という言葉は、その成り立ちに本質が隠されています。

この言葉は、「Fan」(熱狂的な愛好者、"Fanatic"に由来)と、「-dom」(状態、領域、領地を意味する接尾辞)という2つの単語が組み合わさってできています。「-dom」は、"Kingdom"(王国)や "Freedom"(自由)といった言葉にも使われています。

この「-dom」を単なる「状態」ではなく「領地(Territory)」や「王国(Kingdom)」と捉えると、ファンダムの理解はより深まります。

つまりファンダムとは、ファンが主体的にルールや文化を形成し、ある種の「主権」を持って活動するコミュニティ空間、すなわち「ファンの、ファンによる、ファンのための領地(王国)」という強いニュアンスを持つのです。そして、ファンはこの「領地」の維持と発展のために、後述する「スミン」のような能動的な行動を取るのです。

「ファン」や「ファンクラブ」との決定的な違いとは?

多くの人が混同しがちな「ファン(個人)」「ファンクラブ(公式)」「ファンダム(共同体)」の違いを、以下の表にまとめます。

比較軸ファン(個人)ファンクラブ(公式)ファンダム(共同体)
主体個人企業・運営(公式)ファン集団(非公式・有機的)
関係性1対1(対象 ⇔ ファン)1対N(公式 ⇒ 全会員)N対N(ファン ⇔ ファン ⇔ 対象)
構造点(孤立)トップダウン(中央集権型)ネットワーク(分散・P2P型)
主な目的個人的な消費・応援特典の享受・公式情報の受領文化の共創・集団での応援・連帯
活動例CDを買う、ライブに行く会報を読む、限定グッズを買うセンイル広告、スミン、考察、UGC創出
キーワード好き(感情)会員(所属)領地・文化・連帯

この表から明らかなように、決定的な違いは「活動の主導権と方向性」にあります。

ファンクラブが「公式から提供されるもの」を受け取る受動的な側面が強い「縦の関係」であるのに対し、ファンダムは「ファン(N)」と「ファン(N)」が横に繋がり、そこからムーブメントが生まれる「横の関係」です。

ファンダムの本質は、「ファンが自ら企画し、実行する」能動的な「P2P(ピア・ツー・ピア)の文化共創」にあるのです。

なぜ今「ファンダム」が注目されるのか? SNS時代の「推し活」との関係

ファンダムという概念自体は新しいものではありませんが、現代において急速に注目を集めている背景には「SNS」と「推し活」の存在が不可欠です。

第一に、SNSによるファンの「可視化」と「組織化」です。現代のファンダムはSNSやプラットフォームを基盤としています。かつては家庭や職場といったクローズドな場でしか語られなかった個人の「好き」という感情が、X(旧Twitter)、Instagram、YouTubeなどによって可視化されました。

さらに、ハッシュタグ、コミュニティ機能、ダイレクトメッセージ(DM)は、ファンの「横の繋がり(P2P)」を爆発的に加速させ、組織的な活動(例:音楽チャートの順位を上げるためのストリーミング、応援広告のための資金集め)を極めて容易にしました。

第二に、「推し活」文化との関係です。「推し活」とは、特定の対象(推し)を応援する「行動」そのものを指します。対して「ファンダム」は、その推し活を効率的かつ大規模に行うための「コミュニティ・インフラ」と言えます。

現代の推し活、例えば「推しを音楽チャートで1位にする」といった目標は、個人の力だけでは到底達成できません。それを可能にするのがファンダムという「組織力」です。

つまり、SNSは単なる「場所」ではなく、ファンダムが機能するためのOS(オペレーティング・システム)です。情報共有、意思決定、共同作業といったファンダムの活動のすべてが、このOS上で実行されているのです。

なぜK-POPでよく使われる? ファンダム文化を牽引する韓国の事例

「ファンダム」という言葉を聞いて、多くの人が真っ先にK-POPを思い浮かべるのには明確な理由があります。K-POP産業は、その成立初期から「ファンダムの組織力」をビジネスモデルの核に据えてきたからです。

その最大の特徴は、「応援の成果が『数字』として明確に可視化される」システムにあります。

韓国には、週に複数回(週6回とも言われる)の音楽番組が存在します。そこでのランキング(1位獲得)は、CDの売上、音源ストリーミング(スミン)、視聴者投票、SNSの言及数など、複数の指標によって決定されます。

この「数字」を押し上げるために、ファンダムは組織的に活動します。このシステムが、ファンダムの競争心と団結力を強烈に刺激し、活動を加熱させるのです。

さらに、K-POP業界は非常に競争が激しく、「魔の7年」(多くのグループが契約満了を迎えるタイミング)のように、人気や「数字」がなければ解散や活動縮小も珍しくありません。ファンは「推しの運命が自分たちの手にかかっている」という強い当事者意識を持ちやすく、これが「これが最後かもしれない」という強迫観念を生む一方で、強力な活動の動機付けにもなっています。

K-POPファンダムの主な活動内容(センイル広告、音源ストリーミング等)

K-POPファンダムの組織力を象徴する具体的な活動は、他のジャンルでは見られないほど独特で体系化されています。

音源ストリーミング(スミン)

これは単なる音楽鑑賞ではありません。「スミン(스밍)」とは、ストリーミングの略で、「推しに音楽番組で一位を取らせたい」という明確な目的のために、ファンが組織的にストリーミング再生数を「回す」(繰り返し再生する)行為です。特に、新曲がリリースされるカムバ(컴백)期間中に集中的に行われます。

また、音楽番組の事前録画(サノク)に参加するための条件として、有料の音源ダウンロードを証明する「音源証明書」の提示が求められる場合もあり、スミンは「1位獲得」と「リアルイベントへの参加権」の両方に直結する重要な活動となっています。

センイル広告(誕生日広告)

「センイル」は韓国語で「誕生日」を意味します。ファンダムが自主的にクラウドファンディングなどで資金を集め、アイドルの誕生日に合わせて、地下鉄駅、バス停、ニューヨークのタイムズスクエアといった公共の場に巨大な応援広告を掲出する活動です。これはファンダムの「財力」「組織力」「愛情の深さ」を内外に示すデモンストレーションでもあります。

その他チャート反映のために大量のCDを購入する、アーティストの名前で慈善活動に寄付する、授賞式のために投票活動を行うなど、その活動は多岐にわたります。

アーティストとファンダムの「共創関係」

K-POPにおけるアーティストとファンダムの関係は、一方通行の「応援」ではなく、「共創」と呼ぶべき強力な相互依存関係にあります。

アーティストは、楽曲やパフォーマンスという「コンテンツ」を提供します。

それに対しファンダムは、スミンやCD購入といった「活動(労働)」を通じて、そのコンテンツを「音楽番組1位」という「地位」や「名誉」に押し上げます。

アーティストは1位獲得の際のスピーチなどで、ファン(ARMYなど)への感謝を「ファンがくれた賞だ」と公言します。ファンからの応援行為を「大きな贈り物」「大切なプレゼント」と表現し、その背景にあるファンの奮闘を「苦労(고생)」という言葉で労います。

この「苦労」という言葉は、ファンの活動を単なる「消費」ではなく、アーティストと「共に戦う」パートナーとしての「労働」と見なしている証左です。アーティストからの感謝がファンのモチベーションとなり、ファンはさらに応援する、という強力な好循環(または依存関係)が「共創関係」の核となっています。

ファンダム・ネームとは?(例:BTSの「ARMY」など)

BTSの「ARMY(アーミー)」、BLACKPINKの「BLINK(ブリンク)」、TWICEの「ONCE(ワンス)」のように、多くのK-POPグループは公式にファンダムの名前(Fandom Name)を定めています。

これは単なる愛称ではありません。不特定多数の「ファン」を、「我々は『ARMY』である」という強固な一つのアイデンティティ(共同体意識)を持つ「組織」に変える、極めて強力なブランディング手法です。

「名前」を与えられることで、ファンは「領地(-dom)」への所属意識を強め、ただの傍観者ではなく、そのグループの物語を共に紡ぐ「当事者」となります。このアイデンティティの付与こそが、後述する「連帯感」の源泉となります。

K-POPだけじゃない! 多様なファンダムの世界

これほど強力なK-POPの事例ですが、ファンダムという現象はあらゆるジャンルに存在します。

アニメ・漫画(例:聖地巡礼、考察コミュニティ)

アニメや漫画のファンダムは、作品の世界観を現実世界やデジタル空間で「拡張」する能動的な活動に特徴があります。

作品の舞台となった場所を実際に訪れる「聖地巡礼」は、ファンが作品世界を追体験する行為です。また、SNSやフォーラムで、作品の伏線や未回収の謎について深く議論する「考察コミュニティ」も活発です。これらは、公式から与えられる情報を待つだけでなく、ファン同士で「N対N」の議論を交わし、作品の楽しみ方を共創するファンダム活動の一形態です。

スポーツ(例:熱狂的なサポーター文化)

Jリーグのサポーターや、欧州サッカーの熱狂的なファン(「ウルトラス」と呼ばれる集団など)は、ファンダムの典型例です。

彼らは単なる「観客」ではありません。スタジアムで統一されたチャント(応援歌)を歌い、巨大な横断幕やコレオグラフィ(人文字や絵)を展開することで、「12人目の選手」として試合(コンテンツ)そのものに積極的に介入し、チームの勝利に貢献しようとします。そこには独自のルール(応援の仕方、ライバルチームとの関係性)という「規範」が存在します。

VTuber・配信者(例:独自のコミュニティ文化、投げ銭)

近年、急速に市場を拡大しているVTuber(バーチャル・ユーチューバー)の分野も、強力なファンダムによって支えられています。矢野経済研究所の調査では、VTuber市場は2025年度に1,260億円規模へ達すると予測されています 。2023年度の800億円から急成長を続けており 、最もダイナミックなファンダム市場の一つです。

この市場の核にあるのが、「投げ銭(Nagesen)」に代表される独自のコミュニティ文化です 。

VTuberのファンダムは、配信者とファンがYouTube Liveなどのプラットフォーム上で、「リアルタイムの双方向コミュニケーション」(コメントや投げ銭)を通じて、その場のコンテンツ(配信)を「ライブで共創」していく点に特異性があります。

投げ銭はファンが「直接応援や感謝の気持ちを形にできる」手段であり、配信者にとっては活動資金の確保や「ファンとの絆強化」に繋がります。このリアルタイムの共創プロセスへの「参加費」であり「賛辞」こそが、投げ銭であり、それがファンダムの熱量を維持・強化する装置として機能しています。

俳優・アイドル(日本)

日本の俳優やアイドルの世界にも、独自のファンダム文化が根付いています。例えば、宝塚歌劇団の私設ファンクラブ(会)は、統制の取れた「入待ち・出待ち」の光景に象徴されるように、非常に厳格なルール(規範)を持つことで知られています。

また、2.5次元ミュージカルのファンダムは、原作(アニメ・漫画)へのリスペクトと俳優への応援が両立する独特の文化を形成しています。これらもまた、K-POPとは異なる文脈で発展した「領地(-dom)」と言えます。

お笑い芸人(例:ラジオ、劇場文化)

一見、エンタメの主流とは異なるように見えるお笑いの世界にも、熱狂的なファンダムが存在します。特定の芸人のラジオ番組の熱心なリスナー(「ハガキ職人」や特定の愛称で呼ばれるファン)や、よしもとなどの劇場に足繁く通うファンがそれにあたります。

彼らは、テレビでは見せない芸人の側面や、リスナー同士でしか通じない「内輪のノリ」「共通言語」を非常に重視します。この「内輪感」こそが「領地」の純粋性を守る壁として機能しており、これもファンダムの強固な形態の一つです。

ファンダムが持つ「光」〜データで見る影響力と莫大な経済効果〜

ファンダムが注目される最大の理由。それは、「好き」という感情を原動力に、現代の経済を動かすほどの莫大な影響力、すなわち「ファンダム・エコノミー」を生み出している点にあります。

巨大化する「ファンダム・エコノミー(経済圏)」

日本国内だけでも、ファンダムが関わる市場は驚異的な規模に成長しています。

「推し活」市場:1兆円超え(2024年予測 / 矢野経済研究所)

「推し活」は日本の消費活動を支える重要な文化となっており、関連する「広義のオタク市場」全体では、その規模は約9,423億円に達するという推計もあります。1兆円規模に迫る、あるいは超えると目されるこの巨大市場の本質は、消費の動機が「価格」や「機能」ではなく、「“感情”と“関係性”が消費の起点」となっている点です。

アニメ産業市場:4兆円規模に到達(2024年 / 日本動画協会)

日本のアニメ産業は、ファンダム・エコノミーの筆頭格です。日本動画協会が発表した最新の速報値(「アニメ産業レポート2025」に基づく)によれば、2024年の広義のアニメ産業市場(エンドユーザー売上を含む)は、3兆8,407億円(前年比114.8%)に達し、過去最高を更新しました。これは構成案の「4兆円規模」という記述を正確に裏付けるものです(2023年時点でも3兆3,465億円)。

このデータをさらに深掘りすると、ファンダム・エコノミーの新たな側面が見えてきます。この3.8兆円のうち、市場成長を牽引しているのは国内市場(1兆6,705億円、前年比102.8%)ではなく、海外市場(2兆1,702億円、前年比126.0%)なのです。

日本のアニメ産業は、もはや国内のファンだけではなく、「グローバルなファンダム」によって支えられています。ファンダム・エコノミーは、日本のコンテンツ産業における最大の「外貨獲得(輸出)エンジン」へと変貌しているのです。

VTuber市場:2025年度に1,260億円規模へ(2025年度予測 / 矢野経済研究所)

フロンティア市場として最も高い成長率を見せているのがVTuber市場です。およびは、矢野経済研究所の調査に基づき、2025年度のVTuber市場が1,260億円に達すると予測していることを明確に示しています。大手企業が市場を牽引しつつ、新興企業の参入も多いダイナミックな市場です 。

K-POPの事例〜国家を動かす「BTS経済効果」〜

ファンダム・エコノミーが持つ「火力」を最も象徴する事例が、BTS(防弾少年団)とそのファンダム「ARMY」が生み出す経済効果です。

年間数兆ウォン(数千億円規模)の経済波及効果(出典:韓国現代経済研究院など)

韓国・現代経済研究院(Hyundai Research Institute)は、BTSが(ビルボード1位を獲得した2018年の時点で)、韓国国内に与える経済波及効果は年平均約4兆1400億ウォン(約4,300億円超)、付加価値誘発効果は年平均1兆4200億ウォン(約1,480億円超)に達すると試算しています 。これは、韓国の国家経済に直接的な影響を与える規模です。

コンサート1回(3日間)で1000億円超の経済効果が試算された事例も

ファンダム・エコノミーの恐ろしさは、その「集中力」にあります。は、ポストコロナ下でのコンサート経済効果の試算に言及しています。

それによれば、6万5千席規模の会場で3日間の公演を行い、仮に外国人観覧客の割合が50%に達した場合、その経済効果は1兆2,207億ウォン(当時のレートで約1,200億円超)に達すると試算されました 。

年間の経済効果が約4.14兆ウォン であるのに対し、たった1回(3日間)のイベントでその約3割に匹敵する経済効果(1.22兆ウォン)が生み出される可能性があるのです。これは、ファンダム・エコノミーが日常的に薄く広く消費されるのではなく、「イベント(コンサートや新譜発売)」という「祭り」の瞬間に、莫大なエネルギー(資金、労力、熱量)が一点集中する「スパイク型」の経済であることを示しています。

SNSでの圧倒的な拡散力(UGCの創出)

ファンダムの「光」は、直接的な経済効果(カネ)だけではありません。現代のマーケティングにおいて最も価値のある「注目(アテンション)」、すなわち情報拡散力です。

ファンダムは、UGC(User-Generated Content / ユーザー生成コンテンツ)の強力な生成エンジンとして機能します。

ファンの拡散力は、「体験直後の熱量(感動)」を、即座にUGC(マーケティング資産)に変換する仕組みによって最大化されます。の分析によれば、ファンが持つ「行った記念を残したい」「見てほしい」という欲求に対し、例えばイベント会場内にフォトスポットを設け、SNS投稿へのインセンティブ(非売品グッズの抽選など)を用意するなど、「体験」と「拡散」を「地続きでつなげる導線設計」を行うことが極めて有効です。

ファンは感動をシェアしたいという欲求から自発的にUGCを創出し、「共感の連鎖」を生み出します。結果として、企業(公式)が広告費をかけずとも、絶大な拡散力と継続力を発揮するのです。

コミュニティとしての「居場所」と「連帯感」

これら経済活動や拡散活動の根底にあるのは、ポジティブな心理的・社会的「光」です。

ファンダムは、学校や職場とは異なる、共通の「好き」を持つ仲間と繋がれる「居場所(サードプレイス)」として機能します。

「ARMY」のようなファンダム・ネームに象徴されるように、「推しのために戦う」という共通の目的を持つことで、強力な「連帯感(Solidarity)」が生まれます。これが、時に困難な応援活動(スミンなど)を支えるモチベーションとなり、ファン個人の人生をも豊かにする側面があります。

ファンダムが抱える「闇」〜知っておくべき問題点と危険性〜

しかし、「光」が強ければ「闇」もまた濃くなります。ファンダムの持つ熱狂、団結力、排他性は、諸刃の剣として数多くの問題点を抱えています。

ファン同士の対立・攻撃(アンチ活動)

「連帯感」の裏返しとして、強い「排他性」が生まれることがあります。

自分たちのファンダム(領地)こそが「正しい」と信じるあまり、ライバルグループのファンダムをSNS上で組織的に攻撃したり、チャートの順位をめぐって「ファン・ウォー(Fan War)」と呼ばれる争いを繰り広げたりします。

また、ファンダム内部でも、その「規範」から外れたと見なされたファン(例:応援が足りない、マナーが悪い)が、他のファンから厳しく糾弾される(いわゆる「ファン警察」)問題も常態化しています。

アーティストへの過度な干渉・プライバシー侵害(「サセン」など)

アーティストを「推す」気持ちが歪んだ形で暴走すると、深刻な権利侵害、ひいては犯罪行為につながります。

その代表例が「サセン(私生活ファン)」です。これは韓国語の「私生活(サセンファル)」の略で、アイドルの私生活を執拗に追いかけ、電話番号やフライト情報を不正に入手したり、自宅に侵入したりするストーカー行為を指します。

これはもはや「ファン」ではなく「犯罪者」ですが、ファンダム文化の過熱が生み出した最も暗い側面の一つであることは間違いありません。

高額消費の強要と疲弊(「推し疲れ」)

ファンダム・エコノミーを支える「熱狂」は、ファン自身を疲弊させる危険性を孕んでいます。推しを応援することに疲れてしまう「推し疲れ」の存在を指摘し、その原因として「お金事情」と「人間関係」を挙げています。

この「推し疲れ」の構造は、ファンダムの「光」と表裏一体です。疲弊の背景には複数の要因があります。

  1. 「他人軸」による消費:ファン仲間(ファンダム)が行くから自分も行く、みんなが買うから買わなければならない、という「同調圧力」による消費です。
  2. 「強迫観念」による消費:K-POP業界の不安定さから、「これが最後かもしれない」という強迫観念に駆られ、自分の経済力を超えた「背伸び消費」をしてしまいます。
  3. 「成果主義」による消費:ファンは「数字でアーティストの活動を支えよう」と、大量のCD購入や「スミン」に走ります。

ファンダムの「闇」である「推し疲れ」は、ファンダムの「光」である「強力な経済効果」や「チャート1位獲得」と地続きです。K-POPの「数字」至上主義と、ファンダム内の「同調圧力」が、ファンに「推しの運命が自分たちの手にかかっている」という過度な責任感を負わせ、結果として経済的・精神的に疲弊(Burnout)させるという構造的な問題を抱えているのです。

企業も注目する「ファンダム・マーケティング」とは?

このファンダムが持つ莫大な「熱量」「組織力」「経済力」を、自社のマーケティングに活用しようという考え方が「ファンダム・マーケティング」です。

なぜ今、ファンダム・マーケティングが重要なのか?

従来の企業から消費者への一方通行な広告(マス・マーケティング)が効力を失いつつある現代において、ファンダム・マーケティングは「切り札」と見なされています。

その理由は、現代の消費が「価格」や「機能」ではなく、「“感情”と“関係性”が消費の起点」となっているからです。ファンダムは、この「感情」と「関係性」の最強の共同体です。

企業が広告を打つ(トップダウン)よりも、熱量を持つファンダムが自らUGCを創出し、「共感が連鎖」する方が、はるかに強力な「拡散力と継続力」を持ちます。

また、シェア志向やコミュニティを重視するZ世代へのマーケティングにおいて、ファンダムの導入は「必然」であるとも言われています。

成功の鍵は「ファンを理解し、尊重すること」

ただし、ファンダム・マーケティングは「炎上」のリスクと隣り合わせです。ファンダムは企業が「作る」ものではなく、ファンが長年かけて育んできた「領地(-dom)」です。

企業が土足で踏み込んだり、「売りたい」という姿勢を露骨に見せたりすると、ファンダムは即座に「推しが利用された」と反発し、激しい炎上を引き起こします。

成功の鍵は、「売りたい」ではなく「(ファンと)一緒に応援したい」という視点です。企業は「支配者」ではなく、ファンダム・コミュニティの「よき理解者」「よきサポーター」にならなければなりません。企業がファンに「推しを応援できる体験」を提供することが、結果としてファンの企業への親近感と信頼(ロイヤリティ)向上につながると指摘しています。

事例紹介〜ファンダムを味方につけた企業戦略〜

エンタメ業界以外でファンダム・マーケティングに成功した代表例として、クラフトビール「よなよなエール」を製造するヤッホーブルーイングが挙げられます。

彼らはアイドルやアニメのような明確な「推し(偶像)」を持っていません。しかし、彼らは単にビール(製品)を売るのではなく、「日本のビール市場を盛り上げたい」という「企業理念(ミッション)」をファンと共有しました。

  • 施策1:ファンイベント「超宴」によれば、当初500人規模だったイベントが、参加したファンが次のファンを呼ぶ(N対N)形で、5,000人規模にまで拡大しました。これは、ファン同士がリアルで繋がる「領地」を提供したことを意味します。
  • 施策2:「定時退社協会」「早く帰ってビールを飲もう」というユーモラスな社会課題への取り組みを通じて、ビールの機能的価値(味)だけでなく、「情緒的価値(ライフスタイル、ミッション)」をファンと共有しました。

ヤッホーブルーイングは、「顧客(Customer)」を、ミッションを共有する「ファンダム(共同体)」へと昇華させ、「企業(ブランド)自体を推し(応援対象)」にすることに成功したのです。これは、ファンダム・マーケティングがあらゆる業種に応用可能であることを示す最良の事例です。

ファンダムの「入り方」と健全な「楽しみ方」のヒント

この記事を読んでファンダムの世界に興味を持った方へ、基本的な「入り方」と、「闇」に陥らず健全に楽しむためのヒントを紹介します。

ステップ1:公式SNS・YouTubeをフォローする

まずは「公式」の情報源から。アーティスト、作品、企業が発信する一次情報に触れ、その世界観の基本を学びましょう。

ステップ2:SNSで情報収集し、仲間を見つける

X(旧Twitter)などで、対象の名前や関連ハッシュタグを検索します。すると、熱心なファンアカウント、情報を翻訳・解説してくれるアカウント、考察アカウントなど、その「ファンダム(領地)」のインフラとなっている情報源が見つかります。まずはフォローして、その「領地」の文化や規範を学びます。

ステップ3:コミュニティやイベントに参加してみる

SNSで「いいね」やリプライ(返信)をしてみる、オンラインのイベント(例えばK-POPの「スミン」など)にタグを使って参加してみる、勇気を出してオフラインのコンサートや、「超宴」のようなファンミーティングに足を運んでみましょう。

ファンダムと上手に付き合うための3つの心構え

ファンダム活動は熱中するあまり、「闇」の側面である「推し疲れ」に陥りがちです。健全に楽しむために、以下の3つの心構えが重要です。

  1. 「自分軸」を持つ(他人軸で消費しない):「みんなが買うから買わきゃ」という「他人軸」の消費は、疲弊の元です。自分の予算、時間、熱量は有限です。「自分は自分」と割り切り、自分のペースを守る勇気が、健全な推し活の第一歩です。
  2. 「推し」を「仕事」にしない(強迫観念の回避):「これが最後かもしれない」という「強迫観念」や「苦労」は、熱意の証ですが、度が過ぎれば義務感となり「推し疲れ」につながります。応援は「義務」ではなく「権利」です。楽しむことを最優先し、疲れたら休むことが何よりも重要です。
  3. 「尊重(リスペクト)」を忘れない(加害者にならない):アーティストのプライバシー(「サセン」問題)を尊重すること。他のファンダムや、自分と考えの違うファンを安易に攻撃しないこと。「領地(-dom)」は、他者への「尊重」の上にのみ、健全に成り立ちます。

ファンダムは「好き」を共有する現代の文化

ファンダムとは、単なるファンの集まりではなく、SNS時代に生まれた「『好き』を原動力とする、能動的なネットワーク共同体」です。

それはK-POP、アニメ、VTuberといったエンタメ分野で、時に国家経済をも動かす数兆円規模の経済圏(ファンダム・エコノミー)を生み出す「光」の側面を持ちます。

同時に、その熱狂は「推し疲れ」やファン同士の対立といった「闇」も抱えています。

企業も、これから参加するファンも、この巨大な文化であり経済エンジンであるファンダムの「光」と「闇」の構造を正しく理解し、「尊重」の心を持って向き合うことが、この新しい時代を生き抜く鍵となるでしょう。

参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times