【コーラ好き必見】氷点下体験、透明トレンド、台湾限定コーラまで。知られざるコーラの世界

この記事でわかること

  • 私たちの脳が持つ「思い込み」の力:なぜ「透明コーラ」は定番になれなかったのか?
  • 過冷却の科学 :「氷点下コーラ」はどうやって“凍る一歩手前”を保っているのか?
  • なぜ台湾には「サロンパスの味」と評される国民的炭酸飲料が存在するのか 。
  • 「黒いリンゴサイダー」:コーラとは逆に“透明なはず”の飲料に色を付ける文化。

炭酸飲料のタブを引く、あるいはキャップをひねる。あの「プシュッ」という音。それは、私たちと飲み物の間に交わされる「約束」の音です。私たちは、グラスに注がれる液体が期待通りの「黒い色」をしていること、鼻をくすぐる香りがまぎれもない「コーラ」であること、そして舌を刺す刺激と甘みが「期待通り」であることを、その音から瞬時に確信します。

しかし、もしその「お約束」が破られたとしたら?

もし、コーラの代名詞である「黒」が、まったくの「透明」だったとしたら?

もし、目の前にある液体が「氷点下」なのに凍らず、注いだ瞬間にシャーベットへと姿を変えたとしたら?

そしてもし、おなじみの味とは似ても似つかぬ、「サロンパスの味」が口いっぱいに広がったとしたら?

読み終えたとき、いつものコーラが、そしてあなたの世界が、昨日より少しだけ面白く、愛おしく見えるようになるはずです。

コーラの「色」の常識。「透明コーラ」トレンドの変遷と現在地

私たちの日常には、「コーラは黒い」という絶対的な常識が根付いています。まずは、この「当たり前」の正体から探っていきましょう。

なぜコーラは黒いのか?

そもそも、なぜコーラはあの独特の黒色をしているのでしょうか。コカ・コーラの公式サイトによれば、あの黒い色は「カラメル」の色であると説明されています。カラメルは糖類に水を加えて熱したもので、プリンやソース、クッキーなどにも広く使われている、非常にありふれた着色料です。

つまり、あの「黒」はコーラの風味を構成する本質的な要素というより、後から加えられた「属性」の一つに過ぎない、ということです。この事実は、「黒くないコーラ」というアイデアが生まれる土壌となりました。

「黒」への挑戦者と、その静かな敗北

「色」が後付けの属性であるならば、それを取り除くことも可能です。このアイデアを実行に移したのが、1990年代に一大ムーブメントを起こした「透明コーラ」でした。

1992年、ペプシコはカフェインフリーの無色透明なコーラ「クリスタルペプシ」をアメリカ市場に投入します。日本でもその後、「コカ・コーラ クリア」などが発売され、当時の健康志向や物珍しさを背景に、一時は大きな話題となりました。

しかし、そのブームは長く続きませんでした。「クリスタルペプシ」の評判は振るわず、わずか1年で販売中止に追い込まれてしまいます。なぜ、消費者は「透明なコーラ」を受け入れられなかったのでしょうか。

「スキーマ不一致」という心理学

その答えは、味覚そのものよりも、私たちの「脳」の仕組みに隠されています。

専門的な概念に「スキーマ」というものがあります。これは、私たちが過去の経験から構築してきた「知識の枠組み」や「思い込み」のことです。私たちは子どもの頃から「赤いパッケージ=辛い」「黄色い飲み物=レモン味」といった体験を繰り返し、色と味をセットで「学習」しています。

コーラの場合、「黒=コーラの刺激的な風味」というスキーマが、あまりにも強固に形成されていました。そこへ、純粋さやクリーンなイメージを持つ「透明」なコーラが現れた。消費者の脳は、この「刺激的なコーラ」と「純粋な透明」という、あまりにもかけ離れたイメージのミスマッチを受け入れられなかったのです。

ある分析によれば、消費者は新製品が既存の知識(スキーマ)と「極端に不一致」である場合、その違いを理解しようとする努力(情報処理)自体を諦めてしまうとされています。

つまり、「透明コーラ」の失敗は、単に味が悪かったからではなく、私たちの脳が「これは私の知っているコーラではない」と理解を拒否し、そもそも味わうというステップに進むことすらシャットダウンしてしまった結果なのです。

「透明コーラ」トレンドは、結果として定番化しませんでした。この事実は、マーケティングの失敗例として語られるだけでなく、「人間の脳が、いかに“お約束”を愛しているか」、そして「私たちがいかに“目”で味わっているか」を示す、非常に魅力的な事例として記憶されています。

究極の飲み体験!「氷点下コーラ」の魅力と作り方

色に続いて、次は「温度」の常識を揺さぶってみましょう。キンキンに冷えたコーラは格別ですが、その「完璧な冷たさ」を超えた体験が存在します。それが「氷点下コーラ」あるいは「フリージングコーラ」と呼ばれるものです。

魔法の正体、「過冷却」

これは、液体が凍るはずの温度(0℃以下)になってもなぜか液体のままで存在し、フタを開けたり、グラスに注いだりといった「衝撃」を与えた途端、目の前で一気に凍り始める現象を利用したものです。

この魔法のような現象は、「過冷却」と呼ばれています。最近では、一部のコンビニエンスストアや自動販売機で「氷点下の三ツ矢サイダー」といった商品名で専用の機器が設置されているのを見かけるようになりました。これは2023年頃から登場した比較的新しい技術で、お祭りなどの屋台で、瓶コーラを使ってこの現象を実演販売しているケースもあります。

「凍る」を妨害するシステムの科学

なぜ、そんな不思議なことが起きるのでしょうか。

水が氷になるには、単に温度が0℃になれば良いというわけではありません。水分子が氷に変わるための「最初のキッカケ」、すなわち「氷結晶核」と呼ばれる“芯”が必要なのです。

水分子は温度が下がると、互いに集まって小さな集団(クラスター)を作り始めます。そのクラスターが一定の大きさを超えると「氷結晶核」となり、それを中心にして周囲の水分子が一斉に凍り始めます。

「過冷却」状態とは、0℃以下になっても、この「氷結晶核」が形成されずに液体を保っている、非常に不安定な状態を指します。

では、あの専用自販機は、どうやってその不安定な状態を作り出しているのでしょうか。ただ冷やしているだけではありません。ある資料によれば、それらの機器は「ワイパーの原理を生かして飲料を一定のリズムで振る」ことで過冷却状態を作っているとされています。

ここに、このシステムの面白さがあります。激しく振れば、その衝撃がキッカケとなって凍ってしまいます。しかし、優しすぎるほど一定のリズムで振り続けることで、水分子が「氷結晶核」という“リーダー”を形成するのを意図的に妨害 しているのです。

あの自販機は、「冷却するシステム」と「凍るのを妨害するシステム」を同時に動かし、私たちがボタンを押す(=衝撃を与える)直前まで、エネルギー的に不安定な「液体の爆弾」のような状態を必死に維持しているのです。

コラム:自宅で「過冷却」を“目撃”する科学実験

ここでは美味しいフローズンドリンクを作る裏ワザとしてではなく、物質が劇的に姿を変える「相転移」の瞬間を“目撃”する実験の手順をご紹介します。

  1. 準備: 未開封の炭酸飲料(コーラやサイダーなど)を用意します。
  2. 冷却: 破裂の危険を避けるため、タオルなどで包み、冷凍庫に入れます。(ここが重要です)「〇時間」というレシピはありません。冷凍庫の性能や飲料の種類によって条件は変わります。数時間、凍る直前のギリギリのラインを観察しながら見極めます。
  3. 観測: 凍っていないことを確認し、ゆっくりと取り出します。グラスを用意し、そっと注ぎ込みます。液体がグラスに当たった衝撃、あるいはボトルの底を軽く叩いた衝撃で、目の前で液体が「シャリシャリ」と氷に変わっていく瞬間が観測できるはずです。
  • ※実験の注意点:長時間放置すると、内圧で容器が破裂する危険性があります。必ず自己責任のもと、安全に配慮して行ってください。また、成功は条件によって左右されます。

あなたが今目撃したのは、物質の「相転移」というダイナミックな物理現象です。不安定な液体が、あなたの与えた衝撃を「氷結晶核」というキッカケにして、安定した固体へと姿を変える瞬間。これこそが、日常に潜む「知的なエンターテイメント」です。

【台湾コーラ事情】「台湾限定コーラ」の正体と現地の飲料トレンド

最後に、私たちの「味覚」の常識を揺さぶる旅に出ましょう。舞台は、日本からも近い台湾です。

台湾の「コーラ」?「黒松沙士」との出会い

台湾のコンビニエンスストアやスーパーの飲料コーナーを訪れると、コカ・コーラやペプシといった見慣れたブランドの隣に、同じように「黒い」炭酸飲料が堂々と並んでいることに気づきます。

その名は「黒松沙士(ヘイソンサースー)」。これは、台湾で70年以上の歴史を持つ、非常に有名な炭酸飲料です 12

サロンパスか、ルートビアか

では、この「台湾のコーラ」は、一体どんな味がするのでしょうか。

この問いに、多くの日本人旅行者は、強烈な体験としてこう答えます。「サロンパス(湿布)の味だ」と 1

一方で、アメリカ人などからは「ルートビア」や「サルサパリラ」の仲間として認識されています 。ルートビアとは、北米で愛される炭酸飲料で、その名の通り「根(ルート)」やハーブを使った飲み物です。

しかし、「黒松沙士」は、一般的なルートビアともまた一線を画します。伝統的に、サルサパリラ(黒松沙士の原料の一つ)はルートビアよりも苦味が強いとされています 。また、現代のアメリカのルートビアの主な風味は「バニラ」と「ウィンターグリーン」ですが 、「黒松沙士」はそれらに加え、独特の「ミント感」 や、あるテイスティングでは「バブルガムのような風味」 とも評され、その強烈な個性で欧米人のテイスターを戸惑わせることもあるようです。

なぜ台湾で愛され続けるのか

「サロンパスの味」とまで言われる飲み物が、なぜ70年以上も国民的な飲み物として愛され続けているのでしょうか。

ここで「文化人類学」のメガネをかけてみましょう。その答えは、驚くべきことに「“サロンパスの味”だから」なのです。

「黒松沙士」は、台湾でお茶飲料が普及する1990年代以前、人々が最も一般的に消費していた飲み物でした。そして何より、かつては「塩入りの沙士を飲むと風邪が治る」と信じられていたのです。

もうお分かりでしょう。私たちが「薬臭い(=まずい)」と感じるあの独特の風味こそが、台湾の人々にとっては「体に良いもの」「健康の証」として、幼い頃からの記憶に深くインプットされているのです。

これは、本記事の冒頭で触れた「スキーマ(思い込み)」が、視覚(色)だけでなく、「味覚」と「文化」によっても形成されることを示しています。「黒松沙士」のあの味は、台湾の人々にとっての「おふくろの味」ならぬ「国民の記憶」なのです。その違いを否定するのではなく、「なるほど、そういうことか」と楽しむ。それこそが、当メディアの提供する「温かい眼差し」です。

もう一つの「国民的飲料」と色のアイロニー

台湾の飲料トレンドは奥深く、もう一つの「国民的炭酸飲料」として「蘋果西打(アップルサイダー)」の存在も欠かせません 。

これは台湾産のリンゴ果汁を使った、自然な風味が特徴の微炭酸飲料です。日本のサイダーよりも甘さが控えめで、炭酸も弱めと評されています。

しかし、その原材料をよく見てみましょう。そこには「糖類、りんご果汁、炭酸水…」そして、「カラメル色素」の文字があります 。

これは、実に面白い「色の逆転現象」です。

私たちは「透明コーラ」の章で、「黒いはず」のコーラを「透明」にしたことで、脳が混乱し、失敗した歴史を見ました。

ところが台湾では、「透明(あるいは薄い黄色)なはず」のアップルサイダーに、わざわざ「カラメル色素」で色を付けて、それが国民的な定番商品として愛されているのです。

私たちがいかに「色」というスキーマに縛られ、同時にそれを楽しんでいるか。このアイロニーこそ、飲料の世界の奥深さを示しています。

ボトルの中に、世界が見える

「透明コーラ」は、私たちの“味覚”がいかに“視覚”という思い込みに支えられているかを教えてくれた。

「氷点下コーラ」は、日常に隠れた物質のエネルギーと変化のドラマを可視化してくれた。

「台湾コーラ」は、“まずい”と“懐かしい”が文化によって共存する、味覚の文化人類学を教えてくれた。

コーラが黒いことにも、一瞬で凍ることにも、そしてサロンパスの味がすることにも、すべてに愛すべき「理由」があります。

「知的なメガネ」をかければ、あなたの日常に潜む「当たり前」は、すべてが「なるほど!」という知的エンターテイメントに変わります。

さあ、次は何を飲みますか? その一口が、昨日とは少し違って見えるかもしれません。

参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times