なぜビリヤニは日本でブーム?カレーライスとの違いから歴史、東京のおすすめ名店3選まで徹底解説

この記事でわかること

  • カレーライスとビリヤニの決定的な違い:「上にかける」vs「一緒に炊く」という構造の違いから見える、料理に込められた異なる哲学
  • ビリヤニが「タピオカブーム」と違う理由:一過性で終わらず、日本の食文化に定着しつつある3つの要因
  • ムガル帝国から始まる壮大な歴史:16世紀の宮廷料理が、なぜ今、東京で行列を作るまでになったのか
  • 日本人の「炊き込みご飯DNA」との意外な共鳴:エキゾチックなのに懐かしい、ビリヤニが受け入れられた本当の理由
  • 2018年の大阪スパイスカレーブームとの関係:日本人の味覚がどう「教育」され、次のステージへ進んだのか
  • 東京の3大名店が示す進化の段階:「導入」「翻訳」「昇華」という外国文化の受容プロセス
  • 日本の「薬味文化」vs「スパイス文化」:引き算と足し算、2つの哲学が出会った歴史的瞬間

レストランのメニューやフードデリバリーのアプリで、「ビリヤニ」という文字を見かけたことはありませんか?写真を見ると、カレーのようでもあり、炒飯のようでもある。でも、どちらとも違う独特の存在感があります。

「これって、いったい何なんだろう?」

この素朴な疑問こそが、面白い発見への入り口です。

実は、あなたの「最近よく見かける」という感覚は正しいんです。外食ビッグデータによれば、ビリヤニの人気は明確に上昇中。特に30代男性を中心に支持を集めています。さらに、日本エスニック協会が発表した2024年の「この夏絶対流行する!エスニック食ランキング」では、なんと第1位を獲得。これで4回目の受賞です。

今回は、この静かなブームの正体に迫ります。私たちが慣れ親しんだ「カレーライス」との違いを解き明かすことで、料理に込められた面白い発想の違いが見えてきます。


カレーライスと何が違うの? 構造から見る面白さ

「上にかける」vs「一緒に炊く」の決定的な違い

多くの日本人がビリヤニを前にして抱く最初の疑問は、「カレーライスと何が違うの?」でしょう。実は、この二つの料理は根本的な考え方が違うんです。

日本のカレーライスは、別々に作ったカレーソースを、炊き上がった白米の「上」にかけます。つまり、ソースとご飯が、お皿の上で初めて出会うわけです。

一方、ビリヤニはインド風の「炊き込みご飯」。米、肉、スパイスが密閉された鍋の中で「一緒に」調理されます。風味は後から加えるものではなく、米そのものに染み込んでいるんです。

「グラデーション」が生み出す不思議な美味しさ

ビリヤニの面白いところは、わざと「味のムラ」を作っているところ。半茹での米とスパイスたっぷりのソースを層状に重ねて蒸すことで、一口ごとに違う表情が生まれます。

グレイビーに直接触れた米粒は濃厚な旨味とスパイスをまとい、蒸気だけで炊き上げられた米粒はふんわりと香り高い。この「どこを食べても違う味」という体験は、均一な味付けを目指す料理とは真逆の発想です。

米の選択も重要なポイント

ビリヤニには、「バスマティライス」という細長い米が使われます。粘り気が少なく、パラパラしていて、風味を吸収してもベチャッとしない。これは、モチモチして箸でまとまりやすい日本の米とは、まったく違う性質です。

つまり、カレーライスが「安心感と調和、予測できる美味しさ」を提供するのに対し、ビリヤニは「複雑さと変化、発見の喜び」を詰め込んでいるんです。これは単なるレシピの違いではなく、料理に対する哲学の違いとも言えます。

帝国が育てた一皿の物語

宮廷料理としてのルーツ

ビリヤニの起源は16世紀、ペルシャからムガル帝国へと伝わったとされています。この料理は、華やかな宮廷で贅沢なご馳走として洗練されました。結婚式などの祝祭で振る舞われる特別な料理だったんです。

その後、インド各地へ広がり、それぞれの地域で独自の進化を遂げました。南インドのハイデラバード式、北インドのラクナウ式など、今も生きた食文化として発展し続けています。

日本人とスパイスの意外な関係

実は、日本にも古くからスパイスとの関わりがあります。8世紀の正倉院には、胡椒やシナモンが納められていました。ただし、これらは「薬」として扱われていたんです。

日本の食文化で発展したのが「薬味」という考え方。わさび、生姜、紫蘇などは、素材の味を消すためではなく、むしろ引き立てるために使われます。

近年のスパイスカレーやビリヤニのブームは、この日本の「引き算の薬味文化」に対し、「足し算のスパイス文化」が紹介された出来事とも言えます。

なぜ「今」、日本で人気なの?

スパイスカレーが作った土台

ビリヤニブームを語る上で欠かせないのが、2018年頃からの「大阪スパイスカレー」ブーム。この流行が、日本人の舌をスパイスの世界へと誘いました。

ホールスパイスを使った複雑な香りと味わいに魅了された人々は、さらに新しいスパイス体験を求めるように。ビリヤニは、まさにその「次のステージ」として登場したんです。

SNS、おひとり様、パンデミックの三つ巴

ビリヤニが広まった背景には、現代ならではの三つの要因があります。

まず、「インスタグラム効果」。色鮮やかな米、ゴロゴロとした肉、散りばめられたハーブ。その美しい見た目は、まさに写真映えする料理でした。

次に、「おひとり様文化」。本来、ビリヤニは大勢で囲む祝祭の料理。でも、一人前から注文できるお店や冷凍商品が増え、個人の日常に浸透しました。

そして三つ目が、意外な親しみやすさです。

日本人の「炊き込みご飯DNA」

ビリヤニが日本人の心を掴んだ理由は、その異国感だけではありません。実は、日本人が昔から愛してきた食文化との共鳴があったんです。

子どもの頃の混ぜご飯、季節の炊き込みご飯、お祝いのちらし寿司。日本人は、米を単なる主食だけでなく、それ自体が風味を持つご馳走として楽しんできました。

ビリヤニは、スパイス使いこそエキゾチックですが、「米と具材の旨味が一体となったご馳走」という構造では、不思議なほど親しみやすい存在だったのです。

タピオカとは何が違う?

新しい食のトレンドと聞くと、かつてのタピオカブームを思い出すかもしれません。でも、ビリヤニのブームは構造が根本的に違います。

タピオカは、行列に並ぶパフォーマンスやSNS投稿など、食体験の「外側」の要素に支えられていました。一方、ビリヤニを支えているのは、料理そのものの豊かさ。数世紀の歴史、複雑な調理法、食事としての満足感。より幅広い世代に訴えかける、食文化的な深みがあるんです。

ビリヤニは、ラーメンや餃子がそうであったように、時間をかけて日本の食文化の中に根を下ろし、新たな定番となるポテンシャルを秘めています。

三つの名店、三つの哲学

ビリヤニブームが単なる流行で終わらないことを示すのが、東京に存在する個性豊かな名店たち。それぞれが異なる哲学を追求しています。

カーン・ケバブ・ビリヤニ

ぐるなびより引用

銀座に店を構える「カーン・ケバブ・ビリヤニ」は、本格ビリヤニの基準点。30種類以上のスパイスを駆使し、伝統的な手法で丁寧に蒸し上げます。一口ごとに表情を変える味のグラデーションが真骨頂です。

エリックサウス

南インド料理の名店「エリックサウス」の巧みさは、2種類のビリヤニを提供している点。まず、炊き込みご飯に近い「オリジナル」で親しみやすい入り口を提供し、次に古典的な製法の「ハイデラバードクラシック」へと導きます。料理を売るだけでなく、理解するための道筋もデザインしているんです。

ビリヤニ大澤

神田の地下、完全予約制の「ビリヤニ大澤」。メニューは日替わりのビリヤニ一品のみ。「炊きたてにあらずんばビリヤニにあらず」という店主の言葉通り、すべてのシステムが最高の瞬間に提供するために設計されています。

この三つの店は、外国の食文化が日本で受容されるプロセスを見事に描き出しています。本物の導入、巧みな翻訳と大衆化、そして職人的な探求。ビリヤニが一過性のブームではなく、深く根付いた文化となりつつあることを物語っています。

おわりに

カレーライスとビリヤニの違いは、調理法以上に、歴史、哲学、文化的な旅路の違いでした。料理が帝国の物語を運び、国民の味覚が育まれ、社会のトレンドが複雑な要因から生まれる様を見てきました。

次に新しい食のトレンドに出会ったとき、こう自問してみてください。

「このブームを動かしているのは、料理の中身の力?それとも周りの雰囲気?」 「この料理の構造には、どんな考え方が込められているんだろう?」

日本におけるビリヤニの物語は、私たちの世界が静かに豊かになっている証です。ありふれた一皿の「なぜ?」を深く掘り下げることで、世界はほんの少しだけ複雑で、面白く、そして愛おしいものに見えてきます。

参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times