なぜ「メロンパン」はメロンの味がしないのか?名前の由来と網目模様の謎

パン屋さんに立ち寄った時、ふと手に取るメロンパン。あの特徴的な網目模様と、サクサクした表面の食感を思い浮かべただけで、思わず口元がほころんでしまう方も多いのではないでしょうか。
しかし、一口かじってみると…あれ?メロンの味がしない。甘くて美味しいけれど、確かにメロンの風味は感じられません。「メロンパン」という名前なのに、なぜメロンの味がしないのでしょうか?そして、あの美しい網目模様には、どのような意味が込められているのでしょうか?
実は、この身近すぎるパンには、日本人の創意工夫と時代背景が織り成す、意外に深い物語が隠されているのです。
本物のメロンと比べてみると見えてくるもの

まず、本物のメロンとメロンパンを比べてみましょう。
高級フルーツの代表格であるマスクメロンは、その美しい網目模様と芳醇な香り、そして口の中に広がる上品な甘さが特徴です。
一方、メロンパンは外側のビスケット生地がサクサクとした食感を生み出し、内側のパン生地はふんわりとした優しい甘さを持っています。
見た目こそ似ているものの、味わいは全く別物。これは一体なぜなのでしょうか?
謎に満ちた誕生の背景
メロンパンの名前の由来には、実は複数の説が存在しており、食文化研究者の間でも定説が確立されていません。パン研究家の調査によると、主に3つの有力な説が挙げられています。
説①:憧れのメロンに似せて
最も有力とされるのが、「見た目がマスクメロンに似ているから」という説です。
大正14年(1925年)、アールス種のマスクメロンがイギリスから日本に輸入され、温室栽培に成功しました。しかし、このメロンは当時の庶民にとっては高嶺の花。そんな高級フルーツへの憧れから、「メロンのようなパン」として親しまれるようになったのです。
昭和初期の日本では、まだ経済的に豊かでない時代。庶民が「せめてメロンの気分だけでも味わいたい」という切なる願いを込めて、このパンを愛したのかもしれません。
説②:「メレンゲパン」の変化
二つ目は、「メレンゲパン」という名前が訛って「メロンパン」になったという説です。
初期のメロンパンのビスケット生地には、卵白を泡立てたメレンゲが使われていました。そのため「メレンゲパン」と呼ばれていたものが、時代とともに発音が変化し、「メロンパン」へと変わったというのです。ただし、パン史研究家の澁川祐子氏は、この説の信憑性は薄いと指摘しています。
説③:調理器具からの命名
三つ目は、成型に使用していた調理器具に由来するという説です。
洋食店でライスを盛り付ける際に使用する「メロン型」という紡錘形の型を使って成型していたため、この名前がついたとされています。実際、広島県呉市には1936年創業の老舗パン屋「メロンパン」があり、ここがライス型を使った元祖だとも言われています。
あの美しい網目模様に込められた技術
メロンパンの象徴とも言える格子状の網目模様。これにも興味深い背景があります。
当初は、焼成時にビスケット生地が自然にひび割れることで生まれる偶然の産物でした。しかし、パン職人たちがこの美しいひび割れに注目し、意図的にマスクメロンの網目模様を再現するようになったと言われています。
パン生地の上にビスケット生地をかぶせ、ナイフで格子状に切り込みを入れる。この一手間が、メロンパンに高級感と視覚的な美しさをもたらしました。現在では、この網目模様こそがメロンパンのアイデンティティとなっています。
地域によって違う「メロンパン」の世界
実は、メロンパンは地域によって全く異なる姿を見せる、多面的なパンなのです。
関東地方で一般的なのは、私たちがよく知る丸型でビスケット生地に覆われたメロンパン。一方、関西地方では同じものを「サンライズ」と呼ぶことがあります。これは1930年代に神戸のパン屋「金生堂」が、軍艦旗を模した放射状の筋を入れたパンを「日の出」にちなんで命名したことに由来します。
さらに興味深いのは、広島や神戸では「メロンパン」といえば、ラグビーボール型で中に白あんやカスタードクリームが入ったパンを指すことです。呉市の名物として親しまれているこのメロンパンは、通常のメロンパンの2倍以上の重さがあり、ずっしりとした食べ応えが特徴です。
時代を超えて愛され続ける理由

メロンパンが長年愛され続ける背景には、日本人の美意識と創意工夫があります。
高級品だったメロンを身近なパンで表現するという発想は、限られた材料の中で最大限の満足を追求する日本人らしい知恵の結晶です。見た目の美しさで心を満たし、手頃な価格で特別感を演出する—これこそが、メロンパンが持つ独特の魅力なのかもしれません。
食品メーカー各社の調査によると、メロンパンの人気は世代を超えて安定しており、2000年代以降も専門店が続々とオープンするなど、その人気は衰えることを知りません。近年では、「メロンパンの皮だけ」を商品化した山崎製パンの『メロンパンの皮焼いちゃいました』が話題になるなど、新たな楽しみ方も生まれています。
進化するメロンパン!最新トレンドと世界の仲間たち
メロンパンの世界は、その伝統を守りながらも、日々進化を続けています。ここでは、最近話題の新しいメロンパンや、国境を越えて愛される世界の仲間たちをご紹介します。あなたの知らない、新たなメロンパンの魅力に出会えるかもしれません。
最新トレンド「生メロンパン」
ビスケット生地はサクサク、しかし中のパン生地は生クリームなどを練り込むことで驚くほどしっとり、ふわふわに仕上げた新食感のメロンパンが人気を博しています。
香港の「菠蘿油(ポーローヤウ)」
見た目は日本のメロンパンそっくりですが、香港では「菠蘿包(パイナップルパン)」と呼ばれます。このパンに厚切りの冷たいバターを挟んだ「菠蘿油」は、甘さとしょっぱさ、熱さと冷たさが絶妙にマッチした現地の定番おやつです。
韓国の「ソボロパン」
クッキー生地が日本のものよりゴツゴツとしており、ピーナッツの風味が付いているのが特徴です。名前の「ソボロ」は日本語の「そぼろ」に由来すると言われ、ポロポロとしたトッピングの食感が楽しめます。
このように、メロンパンは日本独自のパンでありながら、世界にも似た発想のパンが存在し、互いに影響を与えながら新たな魅力を生み出しているのです。
おわりに
メロンパンがメロンの味がしない理由。それは、このパンが「味」ではなく「憧れ」や「見た目の楽しさ」を重視して生まれたからでした。
戦前から現代まで、時代が変わってもメロンパンが愛され続けているのは、単なる美味しさを超えた「心の満足」を提供してくれるからなのかもしれません。高級フルーツへの憧れを込めた網目模様、サクサクとした食感が生み出す小さな贅沢感—これらすべてが、私たちの日常に彩りを添えてくれているのです。
次にメロンパンを手に取る時は、ぜひその美しい網目模様をじっくり眺めてみてください。そこには、時代を超えて受け継がれてきた職人の技術と、私たち日本人の豊かな想像力が込められているのですから。そして、一口かじった瞬間に広がるあの懐かしい甘さの中に、きっと新しい発見があることでしょう。
参考
- メロンパンの由来とは?いつ、どこで誕生したのか調査しました|Pokke「ポッケ」
- メロンパンの由来や名前の意味とは?歴史や地域ごとの呼び名も徹底紹介|食べたいタイム
- メロンパンは、なぜ「メロン」?名前・ネーミング由来・諸説紹介|オレンジページ
- メロン味じゃないのになぜ「メロンパン」と言うの?ネーミングの秘密や歴史、込められた思いを紹介|和樂web
- 5分でわかる メロンパン ~歴史・起源・雑学~|ベイクポート
- 日本発祥の菓子パン【高級メロンパン13選】歴史や名前の由来から、有名専門店やお取り寄せ・通販できるハイレベルなメロンパンまで|Precious
- メロンパンの「メロン」って?名前の由来には3つの説があった!|macaroni
- メロンパンの秘密知ってますか?│発祥・名前の由来・カロリー・レシピなど|松本市浅間温泉の直売所わいわい広場
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