「ネオ居酒屋」はなぜZ世代を惹きつけるのか?"昭和レトロ"と"韓国風"が融合した新しい文化

夜の繁華街を歩いていると、ふと目に留まる不思議な光景があります。カラフルなネオンサインが輝く店内で、スマートフォンを片手に楽しそうに乾杯する若い女性たち。手には昭和の香りがするレトロなグラス、テーブルには見たこともないようなポップなカクテル。ここは「ネオ居酒屋」と呼ばれる新しいスタイルの酒場です。

Z世代と呼ばれる1990年代後半から2000年代にかけて生まれた若者の間で「ネオ居酒屋」が話題になっているという現象。昭和を経験していない世代が、なぜ昭和レトロに心を奪われるのでしょうか?そして、そこに韓国風の要素はどのように絡み合っているのでしょうか?今日はこの小さな謎を解き明してみましょう。

従来の居酒屋とは何が違うのか?

まず、私たちが慣れ親しんできた居酒屋と「ネオ居酒屋」の違いを整理してみましょう。

ネオ居酒屋とは「ネオ(neo)新しい」の意味通り、これまでにない新しいジャンルの居酒屋です。具体的には「レトロ」と「現代」が融合した居酒屋を指します。一般的な居酒屋が刺身や焼き鳥といった定番メニューを中心としているのに対し、ネオ居酒屋は、メニューも今の時代に合わせ、カクテルにパスタや餃子など、ジャンルを超えて様々なメニューが用意されています。

最も印象的な違いは、店内の雰囲気とお客さんの層です。中には全体の9割が女性客、そのうち7割ほどが2人組という店舗もあり、従来の「仕事帰りのサラリーマンが一杯引っかける場所」というイメージとは大きく異なります。ノンアルコールの注文の割合が4割ほどと居酒屋業態としては多いのも特徴で、10代の女性から「お酒を飲まなくても利用していいか」と問い合わせが来ることもあり、Z世代からの注目度の高さがうかがえます。

"昭和レトロ"と"韓国ニュートロ"の巧妙な融合

ネオ居酒屋の魅力を語る上で外せないのが、二つの異なる文化的潮流の融合です。ひとつは日本の「昭和レトロ」、もうひとつは韓国発の「ニュートロ」という概念です。

ニュートロ(Newtro)とは、NewとRetroをあわせた造語で、ひと昔前の流行や文化を若者なりの感性で再解釈し、新しく楽しむ現状を意味しています。この韓国発のトレンドが日本のZ世代にも大きな影響を与えています。

興味深いのは、ニュートロが「丁寧に洗練された懐かしさ」なら、平成レトロは「ちょっと派手でクセのある平成のテンションを、今の感性で楽しむカルチャー」だという点です。ネオ居酒屋では、この二つのアプローチが絶妙にブレンドされています。

「映えグラス」に秘められた深い意味

ネオ居酒屋の象徴的アイテムといえば、「映えグラス」です。中でもグラスに力を入れている居酒屋が多く、絵や文字などを入れている「映えグラス」はそのお店の象徴とも言えます。

また、一部のネオ居酒屋では、ECサイトで店内で使っているグラスやTシャツ、スマホケースなど食事以外の商品を販売しています。店外で自店舗のグッズを利用している人がいれば、広告効果は抜群…という戦略も展開されており、物理的なアイテムへの愛着がデジタルネイティブ世代にとって特別な意味を持っていることがわかります。

「ネオ系ドリンク」とは?定番から最新トレンドまで徹底解説

ネオ居酒屋の象徴である「映えグラス」。その魅力を最大限に引き立てているのが、見た目も味も新しい「ネオ系ドリンク」です。ここでは、定番から最新トレンドまで、ネオ居酒屋で楽しめる代表的なドリンクメニューをご紹介します。

  • カラフルクリームソーダサワー: 昭和の喫茶店の定番、クリームソーダがお酒になった一番人気のドリンク。推し活文化とも結びつき、好きなアイドルのメンバーカラー(推し色)で注文するのも楽しみ方の一つです。
  • フルーツ系映えサワー: いちごやパイナップルなどの冷凍フルーツがグラスに丸ごと入ったサワー。溶けていくフルーツで味の変化も楽しめ、写真映えも抜群です。
  • 韓国風ドリンク: ニュートロの文脈から、ヤカンで提供されるマッコリや、チャミスルなどのフルーツ焼酎も人気メニューとなっています。
  • 充実のノンアルコール: 喫茶店のような自家製レモンスカッシュや、オリジナルのモクテル(ノンアルコールカクテル)など、お酒が飲めない人でも楽しめるメニューが豊富なのもネオ居酒屋の特徴です。

なぜZ世代は昭和を「エモい」と感じるのか?

ここで重要な疑問が浮かびます。昭和時代を経験していないZ世代が、なぜこれほどまでに昭和レトロに魅力を感じるのでしょうか?

心理学的な観点から分析すると、複数の要因が重なっています。まず、Z世代は「デジタルネイティブな世代」だということ。幼少期からインターネットやスマートフォンが普及していて、情報やコンテンツが「無形」であることがスタンダードだったため、デジタルにはない「実体感」や「手触り感」が、新しい体験として感じられるのです。

さらに興味深いのは、SHIBUYA109 lab.の長田麻衣所長の指摘です。「Z世代の子たちに話を聞くと、良くも悪くもSNS上で人からの目を気にしているんですよね。…自分が憧れる時代のカルチャーを真似てSNSで発信することは、周囲に角を立てずに間接的に自分の好きなものや考えを共有できる手段のひとつなのかもしれません」というのです。

体験型消費の最前線

ネオ居酒屋が成功している理由は、単なる飲食の提供を超えた「体験デザイン」にあります。

ネオ居酒屋では、食事だけでなく利用客に「体験」を提供しています。例えば撮影ブースが設けられていたり、調理をしている様子が目の前でみることができるなど、五感で楽しめる空間となっているのです。

より大きなトレンドの中で見えてくるもの

ネオ居酒屋ブームは、実は現代社会のより大きな文化的変化の一部です。この現象は「モノからコトへ」という消費トレンドの典型例ですが、ネオ居酒屋ではさらに一歩進んで、「コトからココロへ」の変化が見て取れます。

また、インスタグラムで「#ネオ居酒屋」の投稿件数は、7,900件を超えており(2021年1月時点)、投稿のほとんどが女性によるものという統計からも、このトレンドがいかに女性主導で展開されているかがわかります。

おわりに

ネオ居酒屋現象を通じて見えてくるのは、文化の継承と革新が同時に起こる現代の面白さです。Z世代は決して過去を単純に模倣しているわけではありません。彼らは昭和レトロと韓国ニュートロという異なる文化的DNAを巧妙に組み合わせ、自分たちなりの新しい文化を創造しているのです。

次回あなたが街でネオ居酒屋の明かりを見かけたとき、それは単なる若者の流行として片付けるのではなく、文化の継承と革新が同時に起こっている興味深い現象の現場として眺めてみてください。

参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times