「固めプリン」はなぜ再ブーム?昭和レトロ喫茶の魅力と"懐かしさ"の正体

SNSで「固めプリン」という言葉を目にすることが増えました。コンビニでも「昔ながらの固めプリン」という商品が並び、レトロ喫茶では「昭和のプリン」がメニューの目玉となっています。一体なぜ、トロトロで滑らかなプリンが主流だった時代から、わざわざ「かたい」プリンが再び注目されるようになったのでしょうか。

この小さな変化の背後には、現代人の心理に響く深い理由が隠れています。この記事では、その謎を解き明かしながら、おすすめの名店やご家庭で楽しめるレシピまでご紹介します。

なめらかから固めへ、プリンの逆転劇

プリンといえば、なめらかで柔らかい舌触りが世代問わず人気でした。しかし近年ブームになっているのは、なめらかな口溶けではなく、「固め」のプリンです。現在のプリンブームは確実に「固め」に向かっています。

2024年にファミリーマートが実施した「プリン究極の2択投票」では、かため派が62%で勝利という結果が出ました。この数字は、消費者の嗜好が明確に変化していることを物語っています。

固めプリンの特徴は、そのしっかりとした弾力性にあります。スプーンを入れても崩れない佇まいは、まるでケーキのようと評されるほどの食べごたえです。まさに「味わう」プリンなのです。

固めプリン vs なめらかプリン、何が違う?

そもそも「固め」と「なめらか」では、何が違うのでしょうか。その秘密は材料と製法にあります。

項目固めプリン(カスタードプディング)なめらかプリン(パステルなど)
主な材料卵(全卵)、牛乳、砂糖卵(卵黄)、生クリーム、牛乳、砂糖
製法比較的高めの温度でしっかり蒸し焼きにする低温の湯煎でじっくりと加熱する
食感弾力があり、つるんとしているとろけるようにクリーミーで滑らか
味わい卵の素朴な風味とコクが際立つミルキーで濃厚な味わい

このように、固めプリンは卵の力で固めた、素朴で懐かしい味わいが特徴です。

純喫茶という「タイムマシン」

固めプリンの再ブームを語る上で欠かせないのが、昭和レトロ喫茶の存在です。純喫茶の名店は若者や外国人観光客にも人気で、開店前から行列ができ、時間制を導入する店もあるほどです。

純喫茶とは、「純粋にコーヒーを楽しむお店」として昭和初期に誕生しました。お酒を提供する喫茶店との差別化を図るために「純」の字を冠したのが始まりです。現在では、重厚な内装、レトロな照明、そして昔ながらの固めプリンが供される空間として、多くの人を魅了しています。

絶品固めプリンに出会える、都内の名物純喫茶3選

ここでは、一度は訪れたい固めプリンが名物の純喫茶をいくつかご紹介します。

ヘッケルン(東京・虎ノ門)

「ジャンボプリン」が名物の老舗。マスターが目の前で型から抜いてくれるパフォーマンスも魅力です。銀の器に鎮座するプリンは、しっかりとした固さと卵の濃厚な味わい、そしてほろ苦いカラメルソースのバランスが絶妙です。

さぼうる(東京・神保町)

本の街・神保町の象徴的な存在。山小屋のような独特の雰囲気で味わうプリンは、やや小ぶりながらもむっちりとした固さが特徴。トッピングされた真っ赤なチェリーが、レトロ感を一層引き立てます。

喫茶YOU(東京・東銀座)

歌舞伎座のすぐそばにある有名店。オムライスが看板メニューですが、食後のプリンも隠れた人気者です。つるんとした見た目通り、しっかりとした食感で、どこか懐かしい王道の味わいを楽しむことができます。

コラム〜個性的すぎる昭和喫茶の世界

純喫茶の内装がなぜあれほど個性的なのか、建築学者によれば興味深い理由があります。高度経済成長期という時代背景もあり、コストや耐久性よりもオーナーの自己表現が優先されたのです。オーダーメイドで「自分の城」をつくる感覚で、照明器具や椅子といった什器の組み合わせにオーナーの好みが反映され、濃密な空間が形成されていきました。

懐かしさの心理学的メカニズム

では、なぜ現代の私たちは「懐かしさ」に惹かれるのでしょうか。ノスタルジア研究の第一人者であるサウサンプトン大学のコンスタンティン・セディキデス教授をはじめとする学者たちによると、懐かしさは単なる感傷ではなく、私たちの心理的健康に重要な役割を果たしています。

研究によれば、ノスタルジアは幸福感を高め、孤独感を和らげ、人生の意味を見出す手助けをします。また、楽しかった記憶と、もう戻れないという切なさが入り混じった複雑な感情であることから、心理学ではしばしば「ビタースイート」(bittersweet)と表現されます。

若い世代が見つけた「新しい懐かしさ」

特に注目すべきは、昭和を知らない若い世代が純喫茶や固めプリンに惹かれている現象です。これは心理学で言う「歴史的ノスタルジア」にあたります。自分自身が直接経験していない「古き良き時代」の文化への感情移入によって生じる現象です。

SNSの瞬間的なコミュニケーションとは対極にある、ゆったりとした時間の流れ。そこには、効率性とは正反対の価値観が息づいています。

デジタル疲れが生んだアナログ回帰

固めプリンブームの背景には、現代社会特有のストレスもあります。デジタル化が進む現代において、物理的な「かたさ」を持つプリンは、確かな存在感を与えてくれます。スマートフォンの画面をスワイプするのとは対照的に、スプーンで切り分ける固めプリンは、食べることの実感を伴います。

ノスタルジー(懐かしさ)は、幸福感を高めるだけでなく、ストレス軽減にも役立つという研究結果もあり、現代人の心に安らぎを与えていると考えられます。

おうちで再現!昔ながらの固めプリン 基本のレシピ

喫茶店の味をおうちで楽しみたい方のために、基本的なレシピをご紹介します。

  • 材料(プリンカップ3〜4個分)
    • [カラメルソース]
      • グラニュー糖:大さじ4
      • 水:大さじ1
      • 熱湯:大さじ2
    • [プリン液]
      • 卵(M〜Lサイズ):2個
      • 牛乳:250ml
      • グラニュー糖:大さじ4
  • 作り方
    1. カラメル作り: 小鍋にグラニュー糖と水を入れ中火にかける。茶色く色づいてきたら火を止め、熱湯を(はねるので注意しながら)加えて混ぜる。熱いうちにプリンカップに均等に流し入れる。
    2. プリン液作り: ボウルに卵を割り入れ、泡立てないように静かに溶きほぐす。
    3. 鍋に牛乳とグラニュー糖を入れ、火にかけて砂糖を溶かす(沸騰させない)。
    4. 溶き卵のボウルに、温めた牛乳を少しずつ加えながら混ぜ合わせる。
    5. プリン液を一度ザルなどで濾すと、なめらかな仕上がりに。
    6. 蒸し焼き: プリンカップに液を静かに注ぎ、アルミホイルで蓋をする。フライパンにカップの半分くらいの高さまでお湯を張り、カップを並べる。蓋をして弱火で10〜15分加熱し、火を止めて10分ほど蒸らす。
    7. 粗熱が取れたら冷蔵庫でしっかり冷やし、お皿に移して完成。

プリンが映し出す時代の心理

固めプリンの再ブームは、単なる食べ物の流行ではありません。それは現代人が求める「確かさ」「実感」「つながり」への欲求の表れです。トロトロのプリンが技術の進歩と効率性を象 '象するなら、固めプリンは手作りの温もりと時間をかけた丁寧さを表現しています。

昭和レトロ喫茶で味わう固めプリンは、私たちに「ゆっくり過ごす贅沢」を思い出させてくれます。カラメルソースのほろ苦さと卵の素朴な甘み、そしてスプーンに感じる確かな抵抗感。これらすべてが、忙しい現代を生きる私たちの心に、静かな安らぎをもたらしてくれるのです。次に固めプリンを目にしたとき、それがただのスイーツではなく、私たちの心が求める「確かなもの」への憧れの象徴であることを、少し思い出してみてください。

参考

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-偏愛が気づかせる、私たちの見えていなかった世界-

なぜだか目が離せない。
偏った愛とその持ち主は、不思議な引力を持つものです。
“偏”に対して真っ直ぐに、“愛”を注ぐからこそ持ち得た独自の眼差し。
そんな偏愛者の主観に満ちたピントから覗かれる世界には、
ウィットに富んだ思いがけない驚きが広がります。
なんだかわからず面白い。「そういうことか」とピンとくる。

偏愛のミカタ PinTo Times